ストレスが去れば症状も去る―「時間経過」で見抜く適応障害
第109回医師国家試験 I問題 第3問
国試問題にチャレンジ
ストレスが発症の原因となり,それが消失すると一定期間内に症状が消失するのはどれか。
- a.適応障害
- b.心気障害
- c.パニック障害
- d.社交不安障害
- e.心的外傷後ストレス障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
適応障害は、同定可能なストレス因に反応して抑うつ気分や不安などが生じ、ストレス因やその影響がなくなれば通常6か月以内に症状がおさまる疾患で、発症はストレス因からDSM-5で3か月以内、ICD-10で通常1か月以内とされます。心的外傷後ストレス障害は症状が1か月を超えて持続し、パニック障害、社交不安障害、心気障害もストレスが誘因になることはあっても、いったん形成された症状が自己維持的に慢性化しやすい点で異なります。治療の基本はストレス因の除去・環境調整と支持的精神療法で、症状が長引く場合はうつ病などへの移行を考えて診断を見直します。「ストレスがきっかけか」ではなく「ストレスが去った後にどう経過するか」に注目する視点は、ストレス関連疾患を整理し、適切な支援につなげるうえで役立ちます。
解答・解説
正解はaです
本問は、精神疾患のうち「ストレス因が明確で、その除去によって一定期間内に症状がおさまる」という経過上の特徴をもつものを選ぶ問題である。
考え方
ストレスが発症に関与する精神疾患は多いが、大きく二つに分けて考えると整理しやすい。 (1) ストレス因と症状が時間的に密接に結びつき、ストレス因(またはその影響)がなくなれば比較的短期間で軽快するもの:適応障害がその代表である。 (2) ストレスが発症のきっかけ(誘因)にはなるが、いったん症状が形成されると、ストレスがなくなった後も症状が独立して持続しやすいもの:不安症群(パニック症、社交不安症など)、身体症状に関連する障害(心気症など)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など。 適応障害の診断基準には、「同定可能なストレス因に反応して一定期間内に症状が出現すること」と「ストレス因やその結果が終結した後、一定期間(6か月)を超えて症状が持続しないこと」が組み込まれている。すなわち、設問の「ストレスが原因となり、それが消失すると一定期間内に症状が消失する」という記述は、適応障害の定義そのものである。 一方、他の選択肢はいずれも、症状の持続や反復が診断の要件に含まれており、ストレス因の消失によって一定期間内に症状が消えることは前提とされていない。
選択肢考察
- ○a. 適応障害
適応障害は、はっきりと特定できる生活上のストレス因(失職、離婚、転居、職場や学校での人間関係の問題、身体疾患の診断など)に反応して、抑うつ気分、不安、焦燥、行為の問題などが生じ、社会生活や職業生活に支障をきたす状態である。症状の出現時期はDSM-5(米国精神医学会の診断統計マニュアル第5版)ではストレス因の発生から3か月以内、ICD-10(WHOの国際疾病分類第10版)では通常1か月以内とされる。そして、ストレス因やその影響がなくなれば、通常6か月以内に症状はおさまる。ストレス因との因果関係が明瞭で、その除去により一定期間内に軽快することが診断の前提であるため、設問の記述に最もよく合致する。治療の基本もストレス因の除去・軽減や環境調整、ストレスへの対処能力を高める支持的精神療法である。
- ×b. 心気障害
心気障害(心気症)は、医学的検査で異常がないと繰り返し説明されても、自分が重大な病気(がんなど)にかかっている、あるいはかかりつつあるという考えにとらわれ続ける状態である。些細な身体感覚を病気の徴候と解釈し、ドクターショッピングや過剰な受診・検査を繰り返すことが多い。DSM-5では病気不安症や身体症状症に相当し、とらわれが6か月以上持続することが診断の目安とされる。特定のストレス因の消失によって一定期間内に症状が消えるという性質のものではなく、慢性に経過しやすいため誤りである。
- ×c. パニック障害
パニック障害(パニック症)は、動悸、息苦しさ、発汗、ふるえ、胸部不快感、めまい、「死ぬのではないか」「気が狂うのではないか」という恐怖などを伴うパニック発作が、予期しない状況で繰り返し起こる疾患である。発作を一度経験すると「また起こるのではないか」という予期不安が生じ、発作が起きたときに逃げられない場所(電車、人混みなど)を避ける広場恐怖を伴うこともある。DSM-5では、発作後に予期不安や回避行動が1か月以上続くことが要件とされる。過労やストレスが誘因になることはあるが、発作は特定のストレス因と無関係に出現し、予期不安と発作の悪循環で症状が持続するため、ストレス因がなくなれば一定期間内に消失するという記述には当てはまらない。
- ×d. 社交不安障害
社交不安障害(社交不安症)は、人前で話す、注目を浴びる、人と会食するなど、他者から見られたり評価されたりする社会的状況に対して強い不安や恐怖を感じ、赤面、発汗、ふるえ、動悸などの身体症状を伴い、その状況を回避するようになる疾患である。DSM-5では症状が典型的には6か月以上続くことが要件とされる。思春期ごろに発症し慢性に経過することが多く、特定のストレス因の消失によって一定期間内に軽快するものではないため誤りである。
- ×e. 心的外傷後ストレス障害
心的外傷後ストレス障害(PTSD:post-traumatic stress disorder)は、生命の危険を感じるような出来事(災害、事故、暴力、性被害、戦闘など)を体験または目撃した後に、侵入症状(フラッシュバックや悪夢による再体験)、回避、認知と気分の陰性の変化、過覚醒(不眠、易刺激性、過度の警戒心、驚愕反応)が生じる疾患である。DSM-5では、これらの症状が1か月を超えて持続することが診断の要件であり、出来事から数か月以上たってから症状が出現する場合(遅延顕症型)もある。心的外傷体験という強いストレスが原因ではあるが、その出来事が過去のものとなった後も症状が長期間持続する点が特徴であり、ストレスの消失とともに一定期間内に症状が消えるという記述には合致しない。
適応障害の診断要件の整理
・同定可能なストレス因に反応して情緒面または行動面の症状が出現する(DSM-5:ストレス因の始まりから3か月以内、ICD-10:通常1か月以内)。 ・症状はストレス因の強さに釣り合わないほど強い苦痛をもたらすか、社会的・職業的機能を障害する。 ・他の精神疾患(うつ病、不安症、PTSDなど)の基準を満たさない。正常な死別反応でもない。 ・ストレス因またはその結果が終結すると、症状はその後6か月を超えて持続しない。 ・ICD-10では、ストレス状況への長期の曝露に対する反応として、2年を超えない「遷延性抑うつ反応」という下位分類も設けられている。
ストレス関連障害の時間経過による比較
・急性ストレス障害(DSM-5):心的外傷体験後3日〜1か月の間に症状がみられる。ICD-10の急性ストレス反応は数時間〜数日で軽快するもの。 ・心的外傷後ストレス障害:症状が1か月を超えて持続する。 ・適応障害:ストレス因の消失後、6か月以内に軽快する。 このように、原因となる出来事の強さ(生命を脅かすほどの外傷体験か、日常的な生活上の変化か)と症状の持続期間が鑑別の手がかりとなる。
神経症性の障害とストレス
不安症群や身体症状に関連する障害は、本人の性格傾向や素因を背景に、ストレスが発症の引き金となることが多い。しかし、いったん症状が形成されると、予期不安や回避行動、身体感覚への注意の集中などによって症状が自己維持的に続き、きっかけとなったストレスが解消しても自然には消えにくい。これに対し適応障害は、症状がストレス因に依存して存在しているという点で性質が異なる。
適応障害の治療
ストレス因の除去・軽減(休職、配置転換、環境調整など)が第一であり、並行して支持的精神療法や問題解決療法、認知行動療法などで対処能力を高める。薬物療法は不眠や不安などに対する対症的なものにとどめる。なお、経過中にうつ病など他の精神疾患へ移行することもあるため、症状が長引く場合は診断を見直す必要がある。
POINT
・適応障害:明確なストレス因に反応して発症し、ストレス因(またはその影響)がなくなると6か月以内に症状が消える。 ・発症時期の目安はストレス因からDSM-5で3か月以内、ICD-10で1か月以内。 ・PTSDは症状が1か月を超えて持続し、原因となった出来事が過ぎ去った後も長く続く。 ・パニック障害、社交不安障害、心気障害は、ストレスが誘因になることはあっても、症状が持続・慢性化しやすい。 ・治療の基本は、ストレス因の除去・環境調整と支持的精神療法である。
