StudyMed医師国家試験

「ストレスで落ち込んだ」はすべて適応障害?―分類の箱で見分けるストレス関連障害

第108回医師国家試験 D問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第9問

適応障害に含まれるのはどれか。

  1. a.気分変調症
  2. b.短期抑うつ反応
  3. c.うつ病エピソード
  4. d.急性ストレス障害
  5. e.外傷後ストレス障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、適応障害が診断分類の中でどこに置かれ、どんな下位分類をもつかを問う知識問題だ。ポイントは「同じストレス関連の仲間」と「適応障害そのものの中身」をきちんと区別できるかどうか。まず、適応障害とはどんな状態か説明できるかな。
医学生医学生
はっきりしたストレスがきっかけで、落ち込みや不安が出て生活に支障が出る状態、ですよね。精神科の臨床実習で、異動をきっかけに眠れなくなった会社員の方を担当しました。
ドクタードクター
いい例だね。転居や異動、失恋、離婚、病気の告知など、日常生活の範囲で起こりうるストレス因でかまわない。命に関わるような破局的な体験である必要はないんだ。そして大事な前提が、うつ病など他の精神疾患の診断基準を満たさないこと。
医学生医学生
ストレスが原因なら、急性ストレス障害やPTSDも適応障害の一種だと思っていました。
ドクタードクター
そこが今回いちばんの落とし穴だ。ICD-10では、神経症性障害やストレス関連障害の大きなグループの中に「重度ストレスへの反応および適応障害」という群があって、そこに急性ストレス反応、外傷後ストレス障害、適応障害の3つが並んでいる。つまり兄弟関係であって、親子関係ではないんだ。
医学生医学生
なるほど、同じ棚には並んでいるけれど、適応障害の箱の中には入っていないということですね。
ドクタードクター
その通り。では適応障害の箱の中身は何か。ICD-10では、優勢な症状と持続期間で病型を細かく分けている。1か月以内の一過性の軽い抑うつ状態が短期抑うつ反応、2年以内まで長引く抑うつが遷延性抑うつ反応、不安と抑うつが混在すれば混合性不安抑うつ反応、といった具合だ。
医学生医学生
ということは、正解は短期抑うつ反応ですね。名前に「反応」とついているのが、ストレス因への反応という意味なんですね。
ドクタードクター
そう捉えると覚えやすいね。ほかの選択肢も確認しておこう。急性ストレス障害とPTSDの違いは言えるかな。
医学生医学生
どちらも事故や災害、暴力のような強烈な体験の後に起こって、フラッシュバックや回避、過覚醒が出ます。1か月以内に収まるのが急性ストレス障害で、1か月以上続くのがPTSD、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
正確だね。ちなみにICD-10での正式名は「急性ストレス反応」で、「急性ストレス障害」はDSMの用語だ。どちらにしても、外傷体験の重さが適応障害とは違うし、適応障害の下位分類ではない。では気分変調症はどうだろう。
医学生医学生
軽い抑うつが長く続く病気で、気分障害の仲間だったと思います。
ドクタードクター
うん。うつ病の基準を満たすほど重くない抑うつが、成人では2年以上続く。ICD-10では気分(感情)障害の持続性気分障害、DSM-5では持続性抑うつ障害にあたる。特定のストレス因に反応して一定期間内に生じる適応障害とは別物だ。
医学生医学生
うつ病エピソードも気分障害ですよね。でも、ストレスがきっかけで発症するうつ病もあるので、そこは迷いそうです。
ドクタードクター
大事な疑問だね。きっかけにストレスがあっても、抑うつ気分や興味・喜びの喪失などが2週間以上続いてうつ病エピソードの基準を満たすなら、診断はうつ病になる。適応障害は他の疾患の基準を満たさないことが前提だから、うつ病が優先されるんだ。
医学生医学生
ストレス因の有無ではなく、症状の重さと基準で決めるということですね。
ドクタードクター
その通り。時間的な基準も押さえておこう。ICD-10ではストレス因から通常1か月以内に発症し、症状は原則6か月を超えない。DSM-5ではストレス因から3か月以内に発症し、ストレス因が終わってから6か月以上は続かないとされる。なお、ICD-11ではこうした下位分類は廃止されているので、出典の版を意識しておくといい。
医学生医学生
治療は抗うつ薬が中心になるんでしょうか。
ドクタードクター
基本はストレス因の除去・軽減や環境調整、そして支持的精神療法や認知行動療法だ。薬は不眠や不安に対して補助的に使う程度。ストレス因が取り除かれると改善することが多いのが特徴だね。ただ、経過中にうつ病の基準を満たすようになることもあるから、診断を固定せずに見直していく姿勢が臨床では大切だよ。

まとめ

適応障害は、日常生活の範囲で起こりうる特定のストレス因に反応して抑うつ・不安・行動の問題などが生じ、他の精神疾患の診断基準を満たさない状態です。ICD-10では急性ストレス反応、外傷後ストレス障害と並んで「重度ストレスへの反応および適応障害」に分類され、適応障害の中には短期抑うつ反応、遷延性抑うつ反応、混合性不安抑うつ反応などの下位分類があります。急性ストレス障害やPTSDは破局的な外傷体験後に生じる別の診断であり、気分変調症やうつ病エピソードは気分障害に属し、うつ病の基準を満たせばストレス因があってもうつ病と診断します。治療の基本は環境調整と精神療法で、薬物は補助的です。分類上の「兄弟」と「中身」を区別して整理することが、ストレス関連障害を正しく理解し、診断を見直す臨床姿勢につながります。

解答・解説

正解はbです

本問は、国際的な診断分類のなかで適応障害がどう位置づけられ、どのような下位分類をもつかを問う知識問題である。 適応障害とは、はっきりと特定できる心理社会的ストレス因(転居、転職・異動、失恋、離婚、病気の診断、家族との死別など)に反応して、抑うつ気分・不安・怒り・行動の問題などが生じ、日常生活や社会的機能に支障をきたす状態をいう。ストレス因は日常生活の範囲内で起こりうるものであり、生命を脅かすような破局的体験である必要はない。また、症状はストレス因がなければ生じなかったと考えられること、うつ病など他の精神疾患の診断基準を満たさないことが前提となる。 WHOの国際疾病分類第10版(ICD-10)では、F4「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」の中にF43「重度ストレスへの反応および適応障害」が置かれ、その中に急性ストレス反応(F43.0)、外傷後ストレス障害(F43.1)、適応障害(F43.2)が並列に分類されている。適応障害はさらに、優勢な症状と持続期間によって、短期抑うつ反応、遷延性抑うつ反応、混合性不安抑うつ反応などの病型に細分される。 したがって、選択肢のうち「適応障害の中に含まれる」のは短期抑うつ反応であり、急性ストレス障害や外傷後ストレス障害は適応障害と同じストレス関連障害の仲間ではあるが、適応障害とは別の独立した診断カテゴリーである点を区別する必要がある。気分変調症やうつ病エピソードは気分(感情)障害に属する。

選択肢考察

  1. ×a.  気分変調症

    気分変調症は、うつ病の診断基準を満たすほど重くはない慢性的な抑うつ状態が、少なくとも2年以上(小児・青年では1年以上)続く疾患である。ICD-10では気分(感情)障害(F3)のうち持続性気分(感情)障害に、DSM-5では抑うつ障害群の持続性抑うつ障害に分類される。特定のストレス因への反応として一定期間内に生じる適応障害とは別の疾患である。

  2. ○b.  短期抑うつ反応

    ICD-10の適応障害(F43.2)の下位分類の一つ(F43.20)である。ストレス因に反応して生じる一過性の軽い抑うつ状態で、持続は1か月以内のものを指す。同じ適応障害の下位分類には、2年以内の長引く抑うつ状態である遷延性抑うつ反応(F43.21)や、混合性不安抑うつ反応(F43.22)などがある。

  3. ×c.  うつ病エピソード

    うつ病エピソードは、抑うつ気分、興味・喜びの喪失、易疲労性などが2週間以上続く状態で、ICD-10では気分(感情)障害(F32)に分類される。ストレス因がきっかけで発症することもあるが、うつ病エピソードの基準を満たす場合は適応障害ではなくうつ病と診断する。適応障害は他の精神疾患の基準を満たさないことが前提である。

  4. ×d.  急性ストレス障害

    急性ストレス障害(ICD-10では急性ストレス反応)は、生命を脅かすような事故・災害・暴力などの強烈な出来事の直後に、侵入症状(フラッシュバック)、解離、回避、過覚醒などが生じる状態である。DSM-5では外傷体験後3日~1か月の間に症状が続くものと定義される。ICD-10では適応障害と同じF43群に含まれるが、適応障害とは別の診断カテゴリーであり、適応障害の下位分類ではない。

  5. ×e.  外傷後ストレス障害

    外傷後ストレス障害(PTSD:posttraumatic stress disorder)は、死や重傷、性暴力などの心的外傷体験の後に、再体験(フラッシュバック・悪夢)、回避、認知と気分の否定的変化、過覚醒などが1か月以上持続するものである。適応障害と同じくストレス関連障害に属するが、独立した診断カテゴリーであり、適応障害には含まれない。

ICD-10におけるF43「重度ストレスへの反応および適応障害」

・F43.0 急性ストレス反応 ・F43.1 外傷後ストレス障害 ・F43.2 適応障害  F43.20 短期抑うつ反応(1か月以内)  F43.21 遷延性抑うつ反応(2年以内)  F43.22 混合性不安抑うつ反応  F43.23 主として他の情緒の障害を伴うもの  F43.24 主として行為の障害を伴うもの  F43.25 情緒および行為の混合性の障害を伴うもの  F43.28 他の特定の症状が優勢なもの

適応障害の時間的基準

ICD-10では、ストレス因の発生から通常1か月以内に発症し、症状は原則として6か月を超えない(遷延性抑うつ反応を除く)。DSM-5では、ストレス因の始まりから3か月以内に発症し、ストレス因やその結果が終結してから6か月以上は持続しないとされる。

DSM-5での位置づけ

DSM-5では「心的外傷およびストレス因関連障害群」の中に、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、適応障害、反応性アタッチメント障害などがまとめられている。適応障害は抑うつ気分を伴うもの、不安を伴うもの、不安と抑うつ気分の混合を伴うもの、素行の障害を伴うもの、などの特定用語で分類される。

ストレス関連障害の比較

・適応障害:日常的な範囲のストレス因でも生じる。他の精神疾患の診断基準を満たさない。 ・急性ストレス障害:破局的な外傷体験の直後に生じ、1か月以内に収まる。 ・PTSD:破局的な外傷体験の後、症状が1か月以上持続する。

治療

適応障害の治療の基本は、ストレス因の除去・軽減や環境調整と、支持的精神療法・認知行動療法などである。薬物療法は不眠や不安などの症状に対して補助的に用いる。ストレス因が取り除かれると改善することが多い。

POINT

・適応障害は、特定できるストレス因に反応して生じ、他の精神疾患の診断基準を満たさない情緒・行動の障害である。 ・ICD-10の適応障害の下位分類に、短期抑うつ反応、遷延性抑うつ反応、混合性不安抑うつ反応などがある。 ・急性ストレス障害(反応)とPTSDは同じストレス関連障害の群に属するが、適応障害とは別の診断である。 ・気分変調症、うつ病エピソードは気分(感情)障害に分類される。 ・うつ病の基準を満たせば、ストレス因があってもうつ病と診断する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。