病床は多く、医師は少なく、入院は長い―国際比較で見える日本の医療のかたち
第109回医師国家試験 H問題 第2問
国試問題にチャレンジ
日本,アメリカ,ドイツ及びフランスの比較で,日本について正しいのはどれか。
- a.高齢化率が最も低い。
- b.平均在院日数が最も長い。
- c.人口千人当たりの医師数が最も多い。
- d.人口千人当たりの病床数が最も少ない。
- e.国内総生産〈GDP〉に対する国民医療費の割合が最も高い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本の医療提供体制を主要先進国と比べると、高齢化率が最も高く、人口当たりの病床数が最も多く、平均在院日数が最も長い一方で、人口当たりの医師数は少ないという特徴があります。医療費の対GDP比が突出して高いのはアメリカで、日本は高齢化の進行の割に極端に高くはなく、ドイツ・フランスと同程度かそれ以下の水準です。背景には、日本の病院が急性期治療に加えて慢性期の療養や介護的な機能まで担い、機能分化や退院後の受け皿整備が遅れてきた歴史があります。なお平均在院日数や医療費は指標の定義によって数値が変わるため、比較の際には注意が必要です。こうした国際比較の視点は、病床機能の分化や地域包括ケアシステムといった現在の医療政策の意図を理解するうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
本問は、日本の医療提供体制の特徴を、アメリカ・ドイツ・フランスという主要先進国と比べて理解しているかを問う公衆衛生の頻出テーマである。 日本の医療の特徴は、次のようにまとめられる。 ・人口の高齢化が世界で最も進んでいる。 ・人口当たりの病床数が非常に多い。 ・その一方で、人口当たりの医師数は少ない。 ・結果として、1床当たりの医師・看護師数が少なく、入院期間(平均在院日数)が長い。 ・医療費の対GDP比は、高齢化が進んでいる割には極端に高くはなく、アメリカよりはかなり低い。 歴史的に、欧米の病院は急性期の治療を集中的に行う場であるのに対し、日本の病院は急性期の治療に加え、慢性期の療養や介護に近い機能まで担ってきた。病院の機能分化が不十分であったことが、「病床が多い」「入院が長い」「病床当たりのスタッフが少ない」という特徴につながっている。近年は機能分化や在院日数の短縮が進められているが、国際比較での位置づけ(病床数は最多、平均在院日数は最長)は変わっていない。 「病床が多く入院が長いが、医師は少ない」という組み合わせを覚えておけば、各選択肢の正誤は容易に判断できる。
選択肢考察
- ×a. 高齢化率が最も低い。
誤り。高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は、日本が4か国中で最も高い。2010年時点で日本は約23%であり、ドイツ約21%、フランス約17%、アメリカ約13%を上回っていた。その後も上昇を続け、現在は約29%に達しており、日本は世界で最も高齢化の進んだ国である。
- ○b. 平均在院日数が最も長い。
正しい。日本の平均在院日数は4か国中で突出して長い。OECDの2010年前後のデータでは、アメリカ約6日、ドイツ約10日、フランス約13日に対し、日本は国内統計(病院報告)で全病床平均約32日と、数倍の長さであった。比較の際は病床の定義に注意が必要で、急性期病床に限って比べても日本は欧米より長い。背景には、病院が慢性期の療養や介護的な役割まで担ってきたこと、病院の機能分化が不十分であること、退院後の受け皿(在宅医療・介護施設)の整備が遅れたことなどがある。近年は短縮傾向にあるが、依然として先進国で最も長い水準である。
- ×c. 人口千人当たりの医師数が最も多い。
誤り。人口千人当たりの医師数は、日本が4か国中で最も少ない。2010年頃のOECDデータでは、ドイツ約3.7人、フランス約3.3人、アメリカ約2.4人に対し、日本は約2.2人であった。OECD加盟国の平均(約3人強)と比べても少ない。病床数が多いのに医師数が少ないため、1床当たりの医師数は特に少なくなる。
- ×d. 人口千人当たりの病床数が最も少ない。
誤り。人口千人当たりの病床数は、日本が4か国中で最も多い。2010年頃のOECDデータでは、日本約13.6床、ドイツ約8.3床、フランス約6.4床、アメリカ約3.1床であり、日本はアメリカの4倍以上であった。日本の病床数はOECD加盟国の中でもトップクラスである。多くの病床を少ない医師で支えているという日本の医療提供体制の特徴が、選択肢cとあわせて読み取れる。
- ×e. 国内総生産〈GDP〉に対する国民医療費の割合が最も高い。
誤り。GDPに対する医療費の割合が最も高いのはアメリカである。2010年頃のOECDデータでは、アメリカ約17.6%、ドイツ・フランスともに約11.6%に対し、日本は約9.5%で4か国中最も低かった。その後、OECDの医療費の集計基準の変更や高齢化の進行により日本の比率は11%前後まで上昇し、ドイツ・フランスと同程度の水準となっているが、アメリカ(約17%)を大きく下回る点は変わらない。日本では医療費の総額の大きさ(年間40兆円超)が問題となっているが、経済規模に対する比率でみると諸外国と比べて特別に高いわけではない。
日本の医療提供体制の国際比較(主要先進国との比較のイメージ)
・高齢化率:日本が最も高い(現在約29%) ・人口当たり病床数:日本が最も多い(OECD加盟国中でもトップクラス) ・平均在院日数:日本が最も長い ・人口当たり医師数:日本は少ない(OECD平均を下回る) ・病床当たりの医師数・看護職員数:日本は少ない ・人口当たりのCT・MRI台数:日本が非常に多い(OECD加盟国中で最多クラス) ・医療費の対GDP比:アメリカが突出して高く、日本はドイツ・フランスと同程度かそれ以下 ・外来受診回数(1人当たり年間):日本は多い
医療保障制度の違い
・日本:国民皆保険(社会保険方式)、フリーアクセス ・ドイツ・フランス:社会保険方式 ・イギリス:税方式の国営医療(NHS)、かかりつけ医(GP)制度 ・アメリカ:民間保険中心。公的制度は高齢者・障害者向けのメディケアと低所得者向けのメディケイドが中心 アメリカの医療費が高い背景には、医療サービスの価格の高さや民間保険中心の制度などがある。
用語
・国民医療費:日本国内で1年間に保険診療の対象となる傷病の治療に要した費用の推計。正常分娩、健康診断、予防接種などは含まれない。国際比較では、これより範囲の広いOECDの基準(保健医療支出)が用いられる。 ・平均在院日数:一定期間内の在院患者延数を、新たに入院した患者数と退院した患者数の平均で割って求める指標。
POINT
・日本は「高齢化率が最も高い」「病床数が最も多い」「平均在院日数が最も長い」。 ・日本は「人口当たり医師数が少ない」。病床が多いのに医師が少ないため、1床当たりの医療スタッフが少ない。 ・医療費の対GDP比が最も高いのはアメリカ。日本は高齢化の割に高くない。 ・背景として、日本の病院は機能分化が不十分で、慢性期の療養・介護的な機能まで担ってきたことを押さえる。
