「誰が答えるか」で見分ける―質問紙法と面接評価尺度の境界線
第109回医師国家試験 G問題 第37問
国試問題にチャレンジ
質問紙法による検査はどれか。2つ選べ。
- a.Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
- b.ベック〈Beck〉のうつ病自己評価尺度
- c.前頭葉機能検査[Frontal Assessment Battery〈FAB〉]
- d.簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]
- e.Hamiltonうつ病評価尺度〈Hamilton Rating Scale for Depression〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
精神科の評価法は「誰が回答・評価するか」で分類すると整理しやすく、被検者本人が質問項目を読んで自分で回答する自己記入式の検査を質問紙法と呼びます。MMPIやBeckのうつ病自己評価尺度、Y-G性格検査、SDS、STAI、CMIなどがその代表です。一方、Hamiltonうつ病評価尺度やBPRS、PANSSは医師が面接・観察して評定する観察者評価尺度で、FABやMMSE、HDS-Rは検者が課題を与えて採点する神経心理検査です。P-FスタディやSCTは用紙に記入しますが投影法に分類される点も押さえておきましょう。それぞれの検査の性質と長所・短所を理解しておくことは、患者の主観と客観的な重症度を両面から捉える臨床評価の基礎になります。
解答・解説
正解はa, bです
精神科で用いる評価法・心理検査は、「誰が回答(評価)するのか」と「どのような形式で行うのか」によって分類すると整理しやすい。 【質問紙法】あらかじめ質問項目が印刷された用紙を被検者本人に渡し、本人が自分で読んで回答する(自己記入式・自己評定式)。検査者の技量に左右されにくく、多人数に同時に実施でき、点数化・統計処理が容易である。一方で、被検者が質問の意図を推測して回答を意図的に操作しうること、文字を読んで理解する能力が必要であることが欠点となる。 【面接法(観察者評価尺度)】検査者(医師など)が被検者と面接し、話の内容や表情・行動を観察したうえで、検査者が項目ごとに重症度を判定する。 【課題遂行型の検査(神経心理検査など)】検査者が課題を与え、その遂行結果を基準に従って採点する。 【投影法】あいまいな刺激に対する反応から、本人が意識しにくい人格の側面を推測する。 本問では、被検者が自分で記入して回答する検査を選べばよい。選択肢のうち、本人が質問項目に自己回答する形式はMMPIとBeckのうつ病自己評価尺度の2つであり、FABは検者が課題を課して採点する検査、BPRSとHamiltonうつ病評価尺度は医師が面接・観察に基づいて評価する尺度である。
選択肢考察
- ○a. Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は、多数の質問文(原版で550項目)に対して被検者自身が「当てはまる」「当てはまらない」で答える自己記入式の人格検査であり、代表的な質問紙法である。心気症、抑うつ、ヒステリー、統合失調症などに対応する10の臨床尺度に加えて、回答の歪み(嘘をつく傾向や自分をよく見せようとする構え、でたらめな回答など)を検出する妥当性尺度を備えている点が特徴で、質問紙法の弱点である回答操作をある程度見抜けるよう工夫されている。
- ○b. ベック〈Beck〉のうつ病自己評価尺度
Beck Depression Inventory(BDI、現在は改訂版のBDI-IIが用いられる)は、抑うつ気分、悲観、自責感、睡眠や食欲の変化などについての21項目を、被検者本人がそれぞれ0〜3点の選択肢から選んで回答する自己評価式の尺度である。合計点(0〜63点)が高いほど抑うつ症状が重いと判断する。名称どおり「自己評価」尺度であり、質問紙法に該当する。
- ×c. 前頭葉機能検査[Frontal Assessment Battery〈FAB〉]
FABは前頭葉機能を簡便に評価する神経心理検査で、類似性の理解(概念化)、語の流暢性、運動系列(Luriaの拳・刀・掌)、葛藤指示、Go/No-Go課題、把握行動の6つの下位検査からなる(各0〜3点、合計18点満点)。検者が被検者に口頭指示や動作による課題を与え、その遂行状況を検者が採点する形式であり、本人が質問紙に記入する検査ではない。
- ×d. 簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]
BPRSは主に統合失調症などの精神病症状の重症度を評価するための尺度で、心気的訴え、不安、概念の解体、幻覚、猜疑心、情動の平板化などの18項目からなる。医師が面接を行い、患者の話の内容や面接中の行動・表情を観察して、各項目を7段階(症状なし〜最重度)で評定する観察者評価尺度であり、質問紙法ではない。
- ×e. Hamiltonうつ病評価尺度〈Hamilton Rating Scale for Depression〉
Hamiltonうつ病評価尺度(HAM-DまたはHRSD)は、うつ病の重症度評価に広く用いられる尺度で、17項目版がよく使われる。抑うつ気分、罪責感、自殺念慮、不眠、精神運動制止、不安、身体症状などについて、医師が定められた質問を用いて面接し、患者の観察所見も加えて項目ごとに点数をつける。評価者が医師である観察者評価尺度であり、質問紙法には該当しない。抗うつ薬の臨床試験で効果判定の標準的尺度として用いられてきた。
主な精神科評価尺度・心理検査の分類
質問紙法(自己記入式) ・MMPI(Minnesota多面人格検査):人格検査。妥当性尺度を持つ。 ・Y-G性格検査(矢田部・ギルフォード性格検査):性格特性を12尺度で評価する。 ・BDI(Beckうつ病自己評価尺度)、SDS(Zung自己評価式抑うつ尺度):抑うつの自己評価。 ・STAI(状態・特性不安検査)、MAS(顕在性不安尺度):不安の評価。 ・CMI(Cornell Medical Index):心身両面の自覚症状を調べる。 ・GHQ(精神健康調査票)、AUDIT(アルコール使用障害同定テスト)など。 面接法・観察者評価尺度(医師などが評価) ・HAM-D(Hamiltonうつ病評価尺度)、MADRS(Montgomery-Åsbergうつ病評価尺度) ・BPRS(簡易精神症状評価尺度)、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度) ・Y-BOCS(Yale-Brown強迫尺度)など 投影法 ・Rorschachテスト(インクのしみ)、TAT(主題統覚検査)、バウムテスト(樹木画)、P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)、SCT(文章完成法テスト) ・P-FスタディやSCTは用紙に記入させる形式をとるが、刺激があいまいで回答の意図が被検者に読まれにくいことから、質問紙法ではなく投影法に分類される。 作業検査法 ・内田クレペリン精神作業検査:単純な加算作業の経過から性格・作業特性をみる。 認知機能・神経心理検査(検者が課題を与えて採点) ・MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、FAB、WAIS(成人用知能検査)、WCST(Wisconsinカード分類検査)など
面接法の細分類
質問項目と手順がどこまで決められているかにより、構造化面接(手順が厳密に定められる)、半構造化面接(基本の質問は決まっているが追加質問が可能)、非構造化面接(自由に行う)に分けられる。
POINT
・質問紙法=被検者本人が質問項目に自分で回答する自己記入式の検査。代表はMMPI、Y-G性格検査、BDI、SDS、STAI、CMI。 ・HAM-D、BPRS、PANSSなどは医師が面接・観察して評価する尺度であり、質問紙法ではない。 ・FAB、MMSE、HDS-Rは検者が課題を与えて採点する認知機能検査。 ・名称に「自己評価(self-rating)」「inventory」とあれば自己記入式であることが多い。 ・P-FスタディとSCTは用紙を使うが投影法に分類される点に注意。
