「飲み込み」は動きで見る―嚥下内視鏡と嚥下造影、2本柱の嚥下機能評価
第109回医師国家試験 G問題 第36問
国試問題にチャレンジ
嚥下機能評価において標準的に用いられるのはどれか。2つ選べ。
- a.CT
- b.MRI
- c.超音波検査
- d.内視鏡検査
- e.バリウム造影検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
嚥下は口腔期・咽頭期・食道期からなる約1秒の協調運動であり、その機能評価には実際に飲み込ませて動きを観察する動的検査が必要です。標準的に用いられるのは嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(VF)で、VEは被曝がなくベッドサイドや在宅で実施できる一方、嚥下の瞬間はホワイトアウトで観察できず、VFは口腔期から食道期までの全過程と嚥下中の誤嚥・不顕性誤嚥を捉えられるゴールドスタンダードですが被曝を伴います。CT・MRIは腫瘍や脳血管障害など原因病変の検索には有用でも嚥下運動の評価には適さず、超音波検査も補助的な位置づけにとどまります。実臨床では反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテストなどのスクリーニングで異常を拾い、VE・VFで精査して食形態や姿勢を決めるという流れを理解しておくことが、誤嚥性肺炎の予防につながります。
解答・解説
正解はd, eです
嚥下(飲み込み)は、食物を口の中で噛み砕いて咽頭へ送り込む口腔期、嚥下反射によって食塊を咽頭から食道へ送る咽頭期、食道の蠕動で胃へ運ぶ食道期という一連の運動であり、わずか1秒程度の間に舌・軟口蓋・喉頭・咽頭収縮筋などが協調して動く。したがって嚥下機能を評価するには、臓器の形(器質的異常)を見るだけでは不十分で、実際に物を飲み込ませたときに各器官がどう動き、食塊がどこを通過し、どこに残るか、気道に入るか(誤嚥)を動的に観察できる検査が必要である。 この目的で標準的に用いられるのが、嚥下内視鏡検査(VE:videoendoscopic examination of swallowing)と嚥下造影検査(VF:videofluoroscopic examination of swallowing)の2つである。両者は日本摂食嚥下リハビリテーション学会が検査手順をまとめている代表的な検査で、互いの短所を補い合う。一方、CT・MRIは静止した断面の画像で形態を評価する検査であり、嚥下障害の原因となる腫瘍や脳血管障害などの検索には有用でも、嚥下運動そのものの評価には適さない。 なお、検査機器を使わないベッドサイドのスクリーニングとして、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)、フードテストなどがあり、これらで異常が疑われた場合にVE・VFで精査する流れが一般的である。
選択肢考察
- ×a. CT
CTはX線で断層像を得る検査で、頭頸部腫瘍、頸椎の骨棘、縦隔病変など嚥下障害の原因となる器質的病変の検索や、誤嚥性肺炎の評価には役立つ。しかし通常のCTは静止画であり、嚥下時の各器官の動きや食塊の通過を連続的に観察することはできないため、嚥下機能評価の標準的検査ではない。
- ×b. MRI
MRIは軟部組織や脳の描出に優れ、嚥下障害の原因となる脳梗塞、脳幹病変、腫瘍などの診断には用いられる。しかし撮像に時間がかかり、嚥下運動を実時間で観察することはできない。臥位で撮像するため実際の摂食姿勢での評価もできず、嚥下機能評価の標準的検査には含まれない。
- ×c. 超音波検査
超音波検査は非侵襲的に舌の動きや舌骨の運動などを観察できるため、研究的・補助的に用いられることはある。しかし咽頭・喉頭の内腔や気道への流入を描出することは困難で、誤嚥の有無や口腔から食道までの食塊の流れを全体として評価できない。嚥下機能評価の標準的検査とはされていない。
- ○d. 内視鏡検査
嚥下内視鏡検査(VE)として標準的に用いられる。鼻腔から細い軟性ファイバースコープを挿入して咽頭・喉頭を上方から観察し、着色水や検査食を嚥下させて、嚥下反射が起こる前の咽頭への早期流入、嚥下反射惹起のタイミング、喉頭蓋谷や梨状陥凹への咽頭残留、喉頭侵入・誤嚥の有無を評価する。放射線被曝がなく、機器を持ち運べるためベッドサイドや在宅でも実施でき、実際の食事を用いた評価や繰り返しの検査が可能である。咽頭・喉頭の器質的病変や声帯麻痺などの所見も直接確認できる。一方、嚥下反射の瞬間は咽頭が収縮して視野が遮られる(ホワイトアウト)ため、嚥下中の誤嚥そのものは観察できず、口腔期や食道期の評価もできない。
- ○e. バリウム造影検査
嚥下造影検査(VF)として標準的に用いられ、嚥下機能評価のゴールドスタンダードとされる。造影剤(硫酸バリウム)を含む液体や検査食を嚥下させ、X線透視下で側面・正面から動画として記録する。口腔期・咽頭期・食道期のすべてを通して観察でき、舌による送り込み、喉頭挙上、喉頭蓋の反転、食道入口部の開大、咽頭残留、そして嚥下中の誤嚥やむせのない誤嚥(不顕性誤嚥)を捉えることができる。姿勢や食形態を変えて誤嚥を防げる条件を探すことにも用いられる。短所は放射線被曝があること、透視装置のある場所でしか実施できないこと、造影剤入りの検査食を用いることである。なお誤嚥の危険があるため、高浸透圧のヨード造影剤(ガストログラフィンなど)は誤嚥すると肺水腫を起こしうるので使用しない。
嚥下の3期(5期モデル)
嚥下運動は口腔期・咽頭期・食道期の3期に分けられる。摂食全体としては、食物を認識する先行期(認知期)、咀嚼して食塊を作る準備期を加えた5期で捉えることもある。咽頭期は嚥下反射による不随意運動で、軟口蓋の挙上による鼻咽腔閉鎖、喉頭挙上と喉頭蓋の反転による気道閉鎖、食道入口部(輪状咽頭筋)の弛緩が同時に起こる。
VEとVFの比較
・嚥下内視鏡検査(VE):被曝なし、ベッドサイド・在宅で実施可能、実際の食物で評価できる、咽頭・喉頭の粘膜や器質的病変を直接見られる。一方、嚥下の瞬間はホワイトアウトで見えず、口腔期・食道期は評価できない。 ・嚥下造影検査(VF):口腔期から食道期まで全過程を動的に評価できる、嚥下中の誤嚥も捉えられる。一方、被曝があり、透視室への移動が必要である。
ベッドサイドのスクリーニング検査
・反復唾液嚥下テスト(RSST):30秒間に空嚥下を何回できるかを数え、3回未満を異常とする。 ・改訂水飲みテスト(MWST):冷水3mLを嚥下させ、むせや呼吸の変化を評価する。 ・フードテスト:茶さじ1杯程度のプリンなどを食べさせ、口腔内残留なども含めて評価する。 ・頸部聴診法:嚥下音や呼吸音を聴診する。
嚥下障害の主な原因
脳血管障害(特に延髄外側症候群や偽性球麻痺)、Parkinson病・筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患、頭頸部腫瘍とその治療後、加齢による機能低下(サルコペニア)など。不顕性誤嚥は誤嚥性肺炎の重要な原因である。
POINT
・嚥下機能評価の標準的検査は、嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(VF)の2つ。 ・VFは口腔期〜食道期の全過程と嚥下中の誤嚥を評価でき、ゴールドスタンダード。被曝あり。 ・VEは被曝がなくベッドサイドで実施できるが、嚥下の瞬間はホワイトアウトで観察できない。 ・CT・MRIは形態(器質的病変)の評価には有用だが、嚥下運動の動的評価には適さない。 ・スクリーニングはRSST・改訂水飲みテスト・フードテストなど。
