糖尿病が忍び寄るのは「肝・膵・大腸」―日本人データで覚える糖尿病関連癌
第109回医師国家試験 G問題 第35問
国試問題にチャレンジ
日本人において糖尿病で発症リスクが高まるとされる癌はどれか。2つ選べ。
- a.肝癌
- b.肺癌
- c.胃癌
- d.大腸癌
- e.前立腺癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会報告(2013年)では、日本人の統合解析で糖尿病は全癌の発症リスクを約1.2倍に高め、部位別では肝癌(約2倍)、膵癌(約1.9倍)、大腸癌(約1.4倍)で有意な上昇が示されました。肝臓は門脈経由で高インスリン血症の影響を強く受け、脂肪性肝疾患から肝細胞癌に進展しうること、大腸癌は肥満・運動不足・食生活など2型糖尿病と危険因子を共有し、インスリンやIGF-1が上皮増殖を促すことが関連の背景と考えられています。一方、胃癌・肺癌・前立腺癌・乳癌では日本人データで明らかな関連は示されていません。糖尿病患者の死因で悪性新生物が最多であることを踏まえ、血糖管理に加えて年齢・性別に応じた癌検診や生活習慣の改善を勧めることが、日常診療での重要な視点になります。
解答・解説
正解はa, dです
糖尿病は心血管疾患や細小血管合併症(網膜症・腎症・神経障害)だけでなく、癌の発症リスクも高めることが知られている。日本では日本糖尿病学会と日本癌学会が合同で「糖尿病と癌に関する委員会」を設け、2013年に報告をまとめた。そこでは国内の大規模コホート研究のデータを統合して解析した結果、糖尿病のある人は全癌の発症リスクが約1.2倍に高まり、部位別では肝癌(約1.97倍)、膵癌(約1.85倍)、大腸癌(約1.40倍)のリスクが有意に高いと示された。一方、乳癌や前立腺癌などでは明らかな関連は認められなかった。 したがって本問は、この報告で関連が示された「肝・膵・大腸」の3部位を覚えていれば、選択肢中の肝癌と大腸癌を選ぶことができる。肝臓・膵臓はインスリンの産生と作用に直接かかわる臓器であり、大腸癌は肥満・運動不足・食生活など2型糖尿病と共通する危険因子をもつ、と関連づけると記憶しやすい。
選択肢考察
- ○a. 肝癌
日本人の統合解析で糖尿病との関連が最も強く、発症リスクは約2倍(約1.97倍)と報告されている。膵臓から分泌されたインスリンは門脈を通ってまず肝臓に届くため、2型糖尿病に伴う高インスリン血症の影響を肝臓は強く受ける。加えて、糖尿病では非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や脂肪肝炎(NASH)を合併しやすく、これが肝線維化・肝硬変を経て肝細胞癌に進展しうる。なお慢性C型肝炎など肝疾患自体が耐糖能異常を起こすため、因果の方向に一部逆の関係が含まれる可能性も指摘されている。
- ×b. 肺癌
肺癌の最大の危険因子は喫煙であり、日本人を対象とした統合解析では糖尿病による肺癌の有意なリスク上昇は示されていない。糖尿病で発症リスクが高まる癌としては扱われない。
- ×c. 胃癌
同じ消化器癌でも、胃癌の主な危険因子はHelicobacter pylori感染、喫煙、高塩分食などであり、日本人の統合解析では糖尿病との有意な関連は認められていない。大腸癌とは区別して覚える必要がある。
- ○d. 大腸癌
日本人の統合解析で糖尿病により発症リスクが約1.4倍に高まると報告されている。大腸癌と2型糖尿病は、肥満(特に内臓脂肪型)、身体活動の不足、高脂肪・低繊維食などの危険因子を共有している。さらに高インスリン血症やインスリン様成長因子(IGF-1)の作用亢進が大腸上皮細胞の増殖を促すことが、発癌の機序の一つと考えられている。
- ×e. 前立腺癌
日本人の統合解析では糖尿病と前立腺癌の発症に関連は認められていない。欧米の研究ではむしろ糖尿病患者で前立腺癌のリスクがやや低いとする報告もあり、その理由として糖尿病に伴うテストステロン低下などが推測されている。いずれにせよ、糖尿病でリスクが高まる癌には含まれない。
糖尿病と癌に関する委員会報告(日本糖尿病学会・日本癌学会、2013年)の要点
・糖尿病(主に2型)は全癌の発症リスク上昇と関連する(約1.2倍)。 ・部位別に有意なリスク上昇が示されたのは肝癌(約1.97倍)、膵癌(約1.85倍)、大腸癌(約1.40倍)。 ・乳癌・前立腺癌などでは明らかな関連は示されなかった。 ・欧米の研究でも、肝癌・膵癌・大腸癌に加え、子宮内膜癌、膀胱癌などとの関連が報告されている。
糖尿病で発癌リスクが高まる推定機序
・高インスリン血症:インスリンやIGF-1が細胞増殖を促し、アポトーシスを抑える。 ・高血糖:癌細胞のエネルギー供給源となるほか、酸化ストレスを増やす。 ・慢性炎症:肥満に伴う脂肪組織の炎症性サイトカインが発癌に関与する。 ・共通の危険因子:加齢、肥満、身体活動の不足、不適切な食事、過剰な飲酒、喫煙など。
臨床上の留意点
・委員会報告では、糖尿病患者に対して性別・年齢に応じた癌検診を受けるよう勧めること、食事療法・運動療法・禁煙・節酒によって糖尿病と癌の両方のリスクを下げられる可能性があることが述べられている。 ・2型糖尿病と癌の死亡は日本人の死因として重要であり、糖尿病患者の死因では悪性新生物が最多である。
POINT
・日本人では糖尿病で肝癌・膵癌・大腸癌の発症リスクが有意に高まる(肝約2倍、膵約1.9倍、大腸約1.4倍)。 ・全癌リスクは約1.2倍。 ・乳癌・前立腺癌では関連は示されていない。胃癌・肺癌も糖尿病関連癌として扱わない。 ・糖尿病患者には年齢・性別に応じた癌検診の受診を勧める。
