脳の血流が速くなる理由―MCA血流速度で見抜く胎児貧血
第109回医師国家試験 G問題 第14問
国試問題にチャレンジ
胎児の貧血を診断できるのはどれか。
- a.絨毛検査
- b.羊水マイクロバブルテスト
- c.無侵襲的出生前遺伝学的検査
- d.胎児中大脳動脈血流速度計測
- e.母体血清α-フェトプロテイン〈AFP〉値測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
胎児貧血の非侵襲的な診断には、超音波ドプラ法による胎児中大脳動脈の収縮期最高血流速度(MCA-PSV)の計測を用います。貧血では血液粘稠度の低下と心拍出量の増加・脳血流の優先的維持により血流速度が上昇し、妊娠週数別中央値の1.5倍(1.5 MoM)を超えると中等度以上の貧血が強く疑われ、確定診断と治療は臍帯穿刺・胎児輸血で行います。絨毛検査とNIPTは染色体の検査、羊水マイクロバブルテストは肺成熟度の評価、母体血清AFPは神経管閉鎖障害などのスクリーニングであり、胎児貧血は診断できません。原因として血液型不適合妊娠、パルボウイルスB19感染、胎児母体間輸血症候群を押さえ、出生前検査を目的別に整理しておくことが、周産期診療の理解につながります。
解答・解説
正解はdです
出生前に胎児を評価する検査には、目的ごとに大きく分けて次のようなものがある。 ・染色体・遺伝子を調べる検査:絨毛検査、羊水検査(侵襲的・確定的検査)、無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)、母体血清マーカー検査(非侵襲的・非確定的検査) ・胎児の成熟度を調べる検査:羊水マイクロバブルテスト、L/S比(レシチン/スフィンゴミエリン比)など ・胎児の状態(well-being)や循環動態を調べる検査:超音波断層法、超音波パルスドプラ法による血流計測、ノンストレステスト(NST)など 胎児貧血の評価に用いられるのは、このうち超音波ドプラ法による胎児中大脳動脈(MCA: middle cerebral artery)の収縮期最高血流速度(PSV: peak systolic velocity)の計測である。
なぜMCA血流速度で貧血がわかるのか
胎児が貧血になると、①血液の粘稠度が低下して血液が流れやすくなること、②酸素運搬能の低下を補うために心拍出量が増加し、脳への血流が優先的に保たれることにより、中大脳動脈の血流速度が上昇する。MCAは超音波ビームと平行に近い角度で描出しやすく再現性の高い計測ができるため、胎児貧血の非侵襲的な診断法として標準的に用いられている。妊娠週数ごとの中央値の1.5倍(1.5 MoM)を超える場合、中等度以上の胎児貧血が強く疑われる。 胎児貧血の確定診断は臍帯穿刺による胎児血のヘモグロビン測定であるが、侵襲的で胎児死亡などのリスクを伴うため、まずMCA-PSVで評価し、高値の場合に臍帯穿刺と胎児輸血を同時に検討するのが一般的な流れである。
選択肢考察
- ×a. 絨毛検査
絨毛検査は妊娠10〜14週ごろに経腹または経腟的に胎盤の絨毛組織を採取し、胎児の染色体や遺伝子を調べる侵襲的(確定的)な出生前診断法である。胎盤組織は胎児と同じ受精卵に由来するため核型分析や遺伝子解析に用いられるが、胎児の血液を調べる検査ではなく、胎児貧血は診断できない。流産のリスクを伴う。
- ×b. 羊水マイクロバブルテスト
羊水を採取してピペットで泡立て、生じる微小な気泡(マイクロバブル)の数を顕微鏡で数える検査である。肺サーファクタントが十分にあると小さな安定した気泡が多数残るため、胎児の肺成熟度を推定でき、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)のリスク評価に用いられる。胎児貧血の評価には使われない。
- ×c. 無侵襲的出生前遺伝学的検査
NIPT(non-invasive prenatal genetic testing)は、母体血中に存在する胎児(胎盤)由来の細胞外DNA断片を解析し、21トリソミー・18トリソミー・13トリソミーなどの染色体の数的異常の可能性を調べる検査である。母体採血のみで行えるが、陽性の場合は羊水検査などによる確定が必要な非確定的検査であり、胎児貧血を診断する検査ではない。
- ○d. 胎児中大脳動脈血流速度計測
胎児貧血では血液粘稠度の低下と心拍出量の増加(および脳血流の優先的維持)により、中大脳動脈の収縮期最高血流速度(MCA-PSV)が上昇する。超音波パルスドプラ法で非侵襲的に繰り返し計測でき、妊娠週数別中央値の1.5倍(1.5 MoM)を超えると中等度以上の貧血が強く疑われる。血液型不適合妊娠(抗D抗体などによる胎児溶血)、ヒトパルボウイルスB19感染(胎児赤芽球系の造血抑制)、胎児母体間輸血症候群などで胎児貧血が疑われる際の標準的な評価法であり、胎児輸血の適応判断にも用いられる。
- ×e. 母体血清α-フェトプロテイン〈AFP〉値測定
AFPは胎児の肝臓や卵黄嚢で産生されるタンパクで、その一部が母体血中に移行する。母体血清AFPの測定は、開放性神経管閉鎖障害(無脳症、開放性二分脊椎など)や腹壁破裂では高値、21トリソミーでは低値となる傾向を利用した確率的なスクリーニング検査(母体血清マーカー検査の一項目)である。胎児母体間輸血症候群では胎児血が母体へ流入するため母体AFPが上昇することがあり、胎児貧血を疑う手がかりにはなりうるが、貧血の有無や程度を診断できる検査ではない。胎児母体間輸血の証明には、母体血中の胎児ヘモグロビン(HbF)含有赤血球を調べるKleihauer-Betke法などが用いられる。
胎児貧血の主な原因
・血液型不適合妊娠(Rh〈D〉不適合など):母体の抗赤血球抗体(IgG)が胎盤を通過して胎児赤血球を破壊する(胎児溶血性疾患)。抗体価の推移とMCA-PSVで経過を追う。 ・ヒトパルボウイルスB19感染(伝染性紅斑):赤芽球前駆細胞に感染して造血を抑制し、重症では胎児水腫をきたす。 ・胎児母体間輸血症候群:胎児血が胎盤を介して母体循環に大量に流入する。胎動減少、サイヌソイダルパターン(正弦波様の胎児心拍数波形)などが手がかりとなる。 ・双胎間輸血症候群(一絨毛膜双胎の供血児)、α-サラセミアなど
胎児貧血の評価と治療の流れ
①原因疾患の存在(抗体陽性、感染、胎動減少など)から胎児貧血を疑う ②超音波で胎児水腫(皮下浮腫、胸水、腹水、心嚢液など)の有無を確認し、MCA-PSVを計測する ③MCA-PSVが1.5 MoMを超えるなど高度の貧血が疑われれば、臍帯穿刺で胎児ヘモグロビン値を確認し、必要に応じて胎児輸血(臍帯静脈内輸血)を行う。週数によっては娩出を検討する。
出生前検査の整理
・非確定的検査:NIPT、母体血清マーカー検査(クアトロテストなど)、超音波によるソフトマーカー(NT〈項部透明帯〉など) ・確定的検査:絨毛検査(妊娠10〜14週ごろ)、羊水検査(妊娠15〜18週ごろ) ・肺成熟度の評価:羊水マイクロバブルテスト、L/S比
POINT
・胎児貧血の非侵襲的診断には、超音波ドプラ法による胎児中大脳動脈収縮期最高血流速度(MCA-PSV)の計測を用いる。貧血では上昇し、1.5 MoM超で中等度以上の貧血を疑う。 ・確定診断は臍帯穿刺による胎児血ヘモグロビン測定で、胎児輸血の際に同時に行う。 ・胎児貧血の原因として血液型不適合妊娠、パルボウイルスB19感染、胎児母体間輸血症候群を押さえる。 ・絨毛検査・NIPTは染色体検査、羊水マイクロバブルテストは肺成熟度、母体血清AFPは神経管閉鎖障害などのスクリーニングである。
