StudyMed医師国家試験

産後の「心」が揺らぐとき―産褥期に好発するうつ病を見逃さない

第109回医師国家試験 G問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第13問

女性において産褥期が好発時期である疾患はどれか。

  1. a.うつ病
  2. b.悪性腫瘍
  3. c.尿路結石
  4. d.気管支喘息
  5. e.急性虫垂炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、産褥期という時期にどんな疾患が起こりやすいかを問う問題だ。分娩後の母体に何が起きているのか、体と心の両面から考えるのがポイントになる。まず、産褥期とはいつからいつまでを指すか覚えているかな。
医学生医学生
分娩が終わってから、子宮などが妊娠前の状態に戻るまでの期間ですよね。たしか6〜8週間くらいだったと思います。
ドクタードクター
その通り。では、その間に母体にはどんな変化が重なると思う?
医学生医学生
子宮復古とか悪露とか、体の変化が中心のイメージです。産婦人科の実習でも、褥婦さんの子宮底の高さを毎日確認していました。
ドクタードクター
体の回復は大事な観察ポイントだね。でも同時に、胎盤が娩出されるとエストロゲンやプロゲステロンが急激に低下する。さらに分娩の疲労、授乳や夜泣きによる睡眠不足、母親としての役割の変化や育児への不安も一気にのしかかる。内分泌・身体・心理社会的な負担がすべて重なる時期なんだ。
医学生医学生
それだけ重なると、精神的に不安定になりやすそうです。だから正解はうつ病ですか。
ドクタードクター
正解。産褥期は女性にとって精神疾患、とくにうつ病の好発時期として知られている。産後うつ病は褥婦のおよそ10%前後にみられるとされ、決してまれな病気ではないんだ。
医学生医学生
10人に1人くらいですか。思ったより多いですね。マタニティーブルーズとは違うんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。ここは3つを時期・頻度・重症度で区別しておこう。マタニティーブルーズは産後3〜5日ごろに涙もろさや軽い抑うつが出る一過性のもので、約30%前後と頻度が高いが、多くは2週間以内に自然に軽快する。産後うつ病は産後数週から数か月以内に発症し、抑うつ気分や興味の喪失、不眠、自責感、育児への自信喪失などが2週間以上続く。そして産褥精神病は産後早期に幻覚・妄想・錯乱が急激に現れるもので、頻度は約0.1%と低いが入院加療を要する緊急性の高い病態だ。
医学生医学生
精神科の講義で、双極性障害の既往がある人は産褥精神病に注意と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。双極性障害の既往や家族歴は重要な危険因子だ。では、ほかの選択肢も見ておこう。悪性腫瘍はどうかな。
医学生医学生
乳癌や子宮頸癌は若い女性にもありますが、産後に急に増えるというわけではなさそうです。
ドクタードクター
そう。妊娠中や授乳期に見つかることはあるけれど、産褥期に発症が集中するわけではない。むしろ授乳期は乳房が生理的に張っているので、しこりが見逃されて診断が遅れやすい点に注意が必要だ。
医学生医学生
尿路結石は、妊娠中に水腎症になりやすいと聞いたので少し迷いました。
ドクタードクター
妊娠中は増大した子宮による尿管の圧迫やプロゲステロンによる平滑筋の弛緩で生理的な水腎症が起こりやすい。でも結石の発症が産褥期に増えるわけではなく、分娩後は尿路の拡張も徐々に戻っていく。気管支喘息も、妊娠中は改善・悪化・不変がおよそ3分の1ずつで、産後は多くが妊娠前の状態に戻る。急性虫垂炎は妊娠中に手術を要する非産科疾患として代表的だけど、頻度自体は非妊娠女性と大差なく、問題は子宮で虫垂が押し上げられて圧痛点がずれ、診断が難しくなることなんだ。
医学生医学生
妊娠中に注意が必要な病気と、産褥期に好発する病気を混同しないことが大事なんですね。
ドクタードクター
その整理が大切だ。最後に臨床での注意点。産後うつ病は自殺や乳児虐待・ネグレクトにつながることがあるから、早期発見が何より重要になる。スクリーニングにはエジンバラ産後うつ病質問票、いわゆるEPDSを使い、わが国では9点以上を要注意の目安とすることが多い。
医学生医学生
産後健診や新生児訪問で使われている質問票ですね。治療はどうするんですか。
ドクタードクター
まずは家族や行政の支援体制を整え、精神療法を行い、必要に応じて抗うつ薬を使う。授乳との両立も一緒に検討する。それから、産褥期に関連して起こる身体疾患として、産褥熱、乳腺炎、静脈血栓塞栓症、産後甲状腺炎、Sheehan症候群もあわせて押さえておくといい。とくに産後甲状腺炎は抑うつと紛らわしいことがあるから、甲状腺機能のチェックも頭の片隅に置いておこう。
医学生医学生
赤ちゃんだけでなく、お母さんの心にも目を向けることが産後ケアの大事な一部なんですね。

まとめ

産褥期(分娩後おおむね6〜8週)は、急激なホルモン低下、睡眠不足、育児負担や役割の変化が重なり、女性にとってうつ病の好発時期となります。産後の精神障害は、産後3〜5日ごろの一過性のマタニティーブルーズ(約30%)、数週〜数か月以内に発症し2週間以上続く産後うつ病(約10%)、産後早期に急激に発症する産褥精神病(約0.1%、緊急対応が必要)の3つを時期・頻度・重症度で区別することが重要です。悪性腫瘍、尿路結石、気管支喘息、急性虫垂炎は妊娠中に診断や経過で注意すべき点はあるものの、産褥期に好発する疾患ではありません。産後うつ病は自殺や虐待につながりうるため、EPDSによるスクリーニングと早期の支援が欠かせず、母親の心身の健康を守る視点は産科診療の基本となります。

解答・解説

正解はaです

産褥期とは、分娩が終わってから妊娠・分娩に伴う母体の変化(子宮や全身の状態)が妊娠前の状態に戻るまでの期間で、おおむね分娩後6〜8週間を指す。 この時期の母体には、次のような心身の大きな変化が重なる。 ・胎盤娩出に伴うエストロゲン・プロゲステロンの急激な低下などの内分泌変化 ・分娩による疲労、授乳や夜間の育児による睡眠不足 ・母親としての役割の獲得、育児への不安、家庭内の環境変化 これらを背景に、産褥期は精神的な不調が生じやすく、マタニティーブルーズ、産後うつ病、産褥精神病といった精神疾患の好発時期として知られている。 一方、悪性腫瘍、尿路結石、気管支喘息、急性虫垂炎は、妊娠中に診断や経過で注意すべき点はあるものの、産褥期に発症が集中する疾患ではない。したがって、産褥期が好発時期である疾患としてはうつ病を選ぶ。

選択肢考察

  1. ○a.  うつ病

    産後うつ病は分娩後数週から数か月以内(多くは産後1か月前後まで)に発症するうつ病で、わが国では褥婦の約10%前後にみられるとされる、頻度の高い疾患である。急激なホルモン変化、睡眠不足、育児負担や不安、社会的支援の乏しさ、うつ病の既往などが発症に関与する。抑うつ気分、興味・喜びの喪失、不眠、自責感、育児への自信喪失などを示し、重症例では自殺や乳児虐待・ネグレクトにつながりうるため、早期発見が重要である。産褥期は女性にとってうつ病の好発時期といえる。

  2. ×b.  悪性腫瘍

    乳癌や子宮頸癌などは生殖年齢の女性にも発生するため、妊娠中や授乳期に見つかること(妊娠関連乳癌など)はあるが、産褥期という時期に発症が集中するわけではない。むしろ授乳期は乳房の生理的変化のためにしこりが見逃されやすく、診断が遅れやすい点に注意が必要である。

  3. ×c.  尿路結石

    妊娠中は増大した子宮による尿管の圧迫やプロゲステロンによる尿管平滑筋の弛緩のため、生理的な水腎症が起こりやすい。しかし尿路結石の発症頻度が産褥期に高まるわけではなく、分娩後は尿路の拡張も徐々に改善する。尿路結石は一般に男性に多く、好発時期として産褥期は挙げられない。

  4. ×d.  気管支喘息

    妊娠中の喘息は、改善する例・悪化する例・不変の例がそれぞれおよそ3分の1ずつとされ、経過は人によって異なる。分娩後は多くが妊娠前の状態に戻り、産褥期に新たに発症しやすいという疾患ではない。

  5. ×e.  急性虫垂炎

    急性虫垂炎は妊娠中に手術を要する産科以外の疾患として最も多いものの一つだが、発生頻度自体は非妊娠女性と大きく変わらない。妊娠中は子宮の増大で虫垂が上方へ移動し、圧痛点がずれるため診断が難しくなる点が問題となる。産褥期に好発する疾患ではない。

産褥期の主な精神障害

・マタニティーブルーズ:産後3〜5日ごろに生じる一過性の情緒不安定(涙もろさ、軽い抑うつ、不安、集中力低下など)。褥婦の約30%前後と頻度が高い。多くは2週間以内に自然に軽快し、治療は傾聴や支援で足りることが多い。ただし一部は産後うつ病に移行する。 ・産後うつ病:産後数週〜数か月以内に発症し、2週間以上持続する抑うつ状態。褥婦の約10%前後。スクリーニングにはエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS: Edinburgh Postnatal Depression Scale)が用いられ、わが国では9点以上を要注意(陽性)の目安とすることが多い。治療は支援体制の整備、精神療法、必要に応じた抗うつ薬で、授乳との両立も検討する。 ・産褥精神病:産後数日〜2週間以内に急激に発症する幻覚・妄想・錯乱などの精神病状態。頻度は約0.1%(1,000人に1〜2人)と低いが、自殺や子殺しの危険があり、精神科での入院加療を要する緊急性の高い病態である。双極性障害の既往・家族歴が危険因子となる。

産褥期に起こりやすい身体的疾患(参考)

産褥熱(子宮内膜炎など)、乳腺炎、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症)、産後甲状腺炎、シーハン症候群(分娩時大量出血による下垂体壊死)などは、産褥期に関連して起こる代表的な疾患である。

POINT

・産褥期(分娩後6〜8週)は女性の精神疾患、とくにうつ病の好発時期である。 ・マタニティーブルーズ(産後3〜5日、一過性、約30%)、産後うつ病(数週〜数か月、約10%)、産褥精神病(産後早期、約0.1%、緊急)の3つを時期・頻度・重症度で区別する。 ・産後うつ病のスクリーニングにはEPDSを用い、自殺や虐待を防ぐため早期発見と支援が重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。