StudyMed医師国家試験

「治らない陰部の湿疹」に潜む癌―脱色素斑とPaget細胞が教える乳房外Paget病

第109回医師国家試験 D問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第24問

67歳の男性。陰部の痒みを主訴に来院した。3年前から右陰嚢に痒みを伴う皮疹が出現し,市販の外用薬で治療していたが,次第に拡大してきたため受診した。陰嚢と陰茎の写真(A)と生検組織のH-E染色標本(B)とを別に示す。  診断はどれか。

第109回 D問題 第24問の問題画像
  1. a.血管肉腫
  2. b.Bowen病
  3. c.基底細胞癌
  4. d.悪性黒色腫
  5. e.乳房外Paget病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の外陰部にできた痒い皮疹の正体を見抜く問題だ。注目したいのは「何年も続いて、市販薬で治らず、じわじわ広がっている」という経過と、臨床写真での皮疹の色合い、そして生検で表皮の中にどんな細胞がいるか、の3点だよ。
医学生医学生
陰部の痒い赤みというと、最初は湿疹か股部白癬を考えてしまいます。
ドクタードクター
それが自然な発想だし、実際の外来でもまずそう考える。ただ、3年も外用薬で改善せずに拡大し続けているなら、「本当に湿疹でいいのか」と立ち止まる必要がある。写真では陰嚢から陰茎の付け根にかけて境界の比較的はっきりした紅斑局面が広がり、表面はやや湿っぽく、その中や周りに白く色の抜けた脱色素斑が混じっている。硬い結節や潰瘍、黒い色素斑は目立たない。
医学生医学生
赤い中に白く抜けた部分がある、というのは湿疹らしくない所見なんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。紅斑に脱色素斑が混在する湿疹様病変は、乳房外Paget病に典型的な臨床像なんだ。そして決め手は組織だ。H-E染色では、表皮の中に周囲の角化細胞より明らかに大きく、淡く明るい豊富な細胞質と大型の核をもつ異型細胞が、ひとつずつ、あるいは小さな胞巣をつくって散らばっている。これがPaget細胞だ。
医学生医学生
病理学の講義で、表皮内に明るい大型細胞がポツポツいる写真を見た記憶があります。それなら乳房外Paget病ですね。
ドクタードクター
正解。乳房外Paget病はアポクリン汗腺の多い部位、つまり外陰部・肛門周囲・腋窩に生じる表皮内腺癌で、高齢者に多い。では他の選択肢も整理しよう。まずBowen病はどうかな。
医学生医学生
Bowen病も表皮内癌で、境界明瞭な紅色局面になると習いました。正直、写真だけだと迷いそうです。
ドクタードクター
その通りで、陰部に出るとBowen病と臨床的に見分けにくいことがある。だからこそ組織が重要なんだ。Bowen病は表皮内の有棘細胞癌で、異型角化細胞が表皮全層にわたって配列を乱して増殖し、個細胞角化や多核のclumping cellがみられる。今回のように、正常な角化細胞の間に明るい大型細胞が散在する像とは違うよ。
医学生医学生
基底細胞癌は、皮膚科の臨床実習で鼻の横にできた黒い結節を見せてもらいました。
ドクタードクター
典型例だね。基底細胞癌は皮膚悪性腫瘍で最も多く、顔面の正中部に好発する。黒色で蝋様光沢のある小結節が集まり、組織では基底細胞様の小型細胞が真皮内で胞巣をつくり、辺縁で核が柵状に並ぶ。部位も臨床像も組織も合わない。
医学生医学生
悪性黒色腫も表皮内を上に向かって広がることがあるって聞いた気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。悪性黒色腫でも異型メラノサイトがパジェット様に表皮内を進展することがあり、組織での鑑別が問題になることはある。ただ今回は黒色の色素病変ではなく、紅斑と脱色素斑からなる病変だから臨床的に否定的だ。組織で迷うときは免疫染色が役立つ。Paget細胞はCK7やCEAが陽性、悪性黒色腫はS-100蛋白、HMB-45、Melan-Aが陽性になる。
医学生医学生
血管肉腫は高齢者の頭部にできる、あざみたいな病変でしたよね。
ドクタードクター
そう。打撲後の紫斑のような暗赤色斑で始まり、結節や潰瘍をつくって出血しやすく、極めて予後不良だ。乳癌術後のリンパ浮腫に生じるStewart-Treves症候群も有名だね。今回の部位や組織像とは一致しない。
医学生医学生
まとめると、高齢者の陰部の治らない痒い紅斑に脱色素斑が混じっていて、表皮内に明るい大型細胞がいれば乳房外Paget病、ということですね。
ドクタードクター
その理解でばっちりだ。臨床での注意点も押さえておこう。この病気は湿疹や白癬、カンジダ症として長く治療されがちで、診断が遅れやすい。外陰部の難治性湿疹様病変を診たら、まずKOH直接鏡検で真菌を除外し、外用治療で良くならなければ積極的に生検する。それが早期発見につながるんだ。
医学生医学生
表皮内にとどまっているうちなら、切除で治るんでしょうか。
ドクタードクター
表皮内の段階なら、十分な余裕をもった外科的切除で根治が期待できる。ただ病変の境界が臨床的に分かりにくい部分があるので、周囲の複数箇所を生検して切除範囲を決めるmapping biopsyを行うことがある。真皮に浸潤して鼠径リンパ節や遠隔転移をきたすと予後不良だ。また、肛門周囲や尿道口周囲の病変では、直腸・肛門管癌や尿路上皮癌が皮膚に進展した続発性Paget病の可能性があるから、内臓悪性腫瘍の検索も忘れないこと。
医学生医学生
乳房のPaget病とは別物なんですか。
ドクタードクター
乳房Paget病は乳頭・乳輪部の湿疹様病変で、ほとんどが乳管内の乳癌が表皮に進展したものだ。組織像が似ているから、乳房以外に生じたものを乳房外Paget病と呼んでいるんだよ。「乳頭の治らない湿疹」も「陰部の治らない湿疹」も、癌を疑う視点が大切だね。

まとめ

高齢者の外陰部に痒みを伴う湿疹様紅斑が長期間続き、外用治療に反応せず拡大し、紅斑に脱色素斑が混在する場合は乳房外Paget病を疑います。組織では表皮内に淡明で豊富な細胞質をもつ大型異型細胞(Paget細胞)が単独または胞巣状に増殖し、CK7・CEA陽性、PAS染色陽性となる点が特徴です。Bowen病は表皮全層の異型角化細胞と個細胞角化、基底細胞癌は顔面正中部の黒色結節と柵状配列、悪性黒色腫は不整な黒色病変とメラノサイトマーカー陽性、血管肉腫は高齢者頭部の紫斑様病変として鑑別します。湿疹や白癬と誤診されやすいため、真菌検査で除外したうえで難治例は生検すること、肛門・尿道口周囲では続発性Paget病として内臓癌を検索することが重要です。「治らない湿疹は生検する」という姿勢は、皮膚悪性腫瘍の見逃しを防ぐ臨床の基本になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・67歳の男性。高齢者である ・3年前から右陰嚢に痒みを伴う皮疹があり、市販の外用薬(湿疹や白癬を想定したステロイド・抗真菌薬などと考えられる)で改善せず、ゆっくり拡大している ・写真(A):右陰嚢から陰茎の付け根、恥骨部にかけて、比較的境界明瞭な紅斑局面が広がっている。表面はやや湿潤しており、紅斑の中や周囲に白く色が抜けた部分(脱色素斑)が混在している。硬い結節や潰瘍、黒色の色素斑は目立たない ・生検(B):表皮内に、周囲の角化細胞(表皮を構成する扁平上皮細胞)より大型で、淡明〜淡染性の豊富な細胞質と大型の核をもつ異型細胞が、単独あるいは小さな胞巣を作って散在・増殖している。これらはPaget細胞に相当する

診断へのプロセス

高齢者の外陰部に、痒みを伴う湿疹様の紅斑が長期間続き、外用治療に反応せず拡大している。紅斑に脱色素斑が混じる臨床像は乳房外Paget病に典型的である。組織では表皮内に明るい細胞質をもつ大型の異型細胞(Paget細胞)が増殖しており、乳房外Paget病と診断できる。 臨床上は、外陰部湿疹、慢性単純性苔癬(ビダール苔癬)、股部白癬、カンジダ症などと見誤られやすく、本症例のように市販薬で様子をみられて診断が遅れることが多い。高齢者の外陰部の難治性の湿疹様病変では、真菌検査(KOH直接鏡検)で白癬やカンジダを除外したうえで、積極的に皮膚生検を行うことが重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  血管肉腫

    血管肉腫(皮膚血管肉腫)は血管内皮細胞に由来する悪性腫瘍で、高齢者の頭部・顔面に好発する。打撲後のあざのような紫紅色〜暗赤色の斑(紫斑様の紅斑)で始まり、進行すると結節や潰瘍を形成して出血しやすくなる。乳癌術後のリンパ浮腫を背景に生じるもの(Stewart-Treves症候群)もある。組織では異型内皮細胞が不規則な血管腔を形成して真皮内に浸潤する。極めて予後不良で、肺転移や血胸をきたしやすい。本症例の部位、臨床像、組織像のいずれとも一致しない。

  2. ×b.  Bowen病

    Bowen病は表皮内にとどまる有棘細胞癌(表皮内扁平上皮癌)で、境界明瞭な紅褐色の角化性局面を呈する。高齢者の体幹や四肢に好発し、ヒ素の摂取や紫外線、陰部ではヒトパピローマウイルス(HPV)感染との関連が知られる。外陰部に生じると乳房外Paget病と臨床的に区別しにくいことがあるが、組織では異型角化細胞が表皮全層にわたって配列の乱れを伴って増殖し、個細胞角化(一つひとつの細胞が角化する像)や多核の異型細胞(clumping cell)がみられる。本症例のように、正常の角化細胞の間に明るい細胞質をもつ大型細胞が散在する像とは異なる。

  3. ×c.  基底細胞癌

    基底細胞癌は皮膚悪性腫瘍の中で最も頻度が高く、高齢者の顔面(特に鼻、眼瞼周囲など顔の正中部)に好発する。紫外線曝露が主な危険因子である。黒色〜黒褐色で蝋様の光沢をもつ小結節が集まり、進行すると中央が潰瘍化し、周囲を黒色の結節が堤防状に囲む。組織では基底細胞に似た小型の細胞が真皮内で胞巣を作り、胞巣の辺縁で核が柵状に並ぶ(柵状配列)のが特徴である。転移はまれである。陰部の湿疹様紅斑という臨床像、表皮内の大型淡明細胞という組織像のいずれも合わない。

  4. ×d.  悪性黒色腫

    悪性黒色腫はメラノサイト(色素細胞)由来の悪性腫瘍で、形が左右非対称、境界が不整で不明瞭、色の濃淡が不均一で周囲へ色素が染み出す黒色〜黒褐色の斑や結節を特徴とする。日本人では足底や爪部に生じる末端黒子型が最も多い。組織では異型メラノサイトが表皮内を上方に向かって散らばるように進展する像(パジェット様進展)を示すことがあり、乳房外Paget病との鑑別が問題になることもある。しかし本症例は黒色の色素病変ではなく、紅斑と脱色素斑からなる病変であり、臨床的に否定的である。組織学的鑑別には免疫染色(悪性黒色腫はS-100蛋白、HMB-45、Melan-A陽性、Paget細胞はCK7、CEA陽性)が有用である。

  5. ○e.  乳房外Paget病

    乳房外Paget病は、アポクリン汗腺が豊富な部位(外陰部が最多で、ほかに肛門周囲、腋窩など)に生じる表皮内腺癌である。高齢者に多く、痒みを伴う湿疹様の境界明瞭な紅斑として始まり、びらんや痂皮、脱色素斑を伴いながらゆっくり拡大する。湿疹や白癬として治療されて診断が遅れることが多い。組織では、明るく豊富な細胞質をもつ大型の異型細胞(Paget細胞)が、表皮内に単独あるいは胞巣状に増殖する。Paget細胞はPAS染色やアルシアンブルー染色で細胞質内の粘液が染まり、免疫染色ではCEA、サイトケラチン7(CK7)、GCDFP-15などが陽性となる。本症例は高齢男性の陰嚢から陰茎にかけての、脱色素斑を伴う難治性の痒い紅斑と、表皮内のPaget細胞の増殖を示す組織像から、乳房外Paget病と診断できる。

乳房外Paget病の概要

・好発:高齢者(60〜80歳代)。本邦では男性にやや多い。外陰部(陰嚢、陰茎、大陰唇など)が大部分を占め、肛門周囲、腋窩にも生じる。まれに外陰部と両側腋窩など複数部位に同時に生じることがある。 ・臨床像:痒みを伴う境界明瞭な紅斑。湿潤、びらん、痂皮、脱色素斑、色素沈着などが混在する。浸潤が進むと結節や潰瘍を形成する。 ・病理:表皮内にPaget細胞が増殖する表皮内癌として始まり、進行すると真皮に浸潤し、所属リンパ節(鼠径リンパ節)や遠隔臓器へ転移する。 ・続発性(二次性)乳房外Paget病:直腸・肛門管癌や膀胱・尿道などの尿路上皮癌が皮膚に進展して同様の像を呈することがある。肛門周囲や尿道口周囲に病変がある場合は、内臓悪性腫瘍の検索が必要である。 ・診断:皮膚生検。病変の境界が臨床的に不明瞭な部分があるため、切除範囲を決めるために病変周囲の複数箇所を生検する方法(mapping biopsy)が行われる。 ・治療:表皮内にとどまる段階では、十分な余裕をもった外科的切除で根治が期待できる。手術が困難な場合は放射線療法やイミキモド外用などが検討される。リンパ節転移や遠隔転移を伴う進行例は予後不良で、化学療法などが行われる。

乳房Paget病との関係

乳房Paget病は乳頭・乳輪部に湿疹様病変を呈し、ほとんどが乳管内の乳癌が表皮内に進展したものである。乳房外Paget病は、組織像が似ていることからこの名称で呼ばれる。

外陰部の湿疹様病変の鑑別

外陰部湿疹、慢性単純性苔癬(ビダール苔癬)、接触皮膚炎、股部白癬、皮膚カンジダ症、乾癬、硬化性苔癬、尋常性白斑、Bowen病、乳房外Paget病。まずKOH直接鏡検で真菌を除外し、外用治療に反応しないときは生検を行う。

POINT

・高齢者の外陰部に痒みを伴う難治性の湿疹様紅斑があり、脱色素斑が混在していれば乳房外Paget病を疑う。 ・組織では表皮内に淡明で豊富な細胞質をもつ大型の異型細胞(Paget細胞)が増殖する。PAS染色陽性、CEA・CK7陽性。 ・湿疹や白癬と誤診されやすいため、外用治療で改善しない外陰部病変は生検する。 ・肛門周囲・尿道口周囲の病変では、直腸癌や尿路上皮癌による続発性Paget病を考え、内臓悪性腫瘍を検索する。 ・他の皮膚悪性腫瘍の好発部位:基底細胞癌は顔面の正中部、血管肉腫は高齢者の頭部・顔面、Bowen病は体幹・四肢、悪性黒色腫(日本人)は足底・爪部。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。