まぶたの裏の「石垣」を見逃すな―痒がる男児の春季カタルと点眼治療の選び方
第109回医師国家試験 D問題 第25問
国試問題にチャレンジ
6歳の男児。両眼の痒みを主訴に母親に連れられて来院した。2週前から両眼の痒みと眼球結膜の充血とが生じ,改善しないため受診した。矯正視力は右1.2,左1.2。左眼の上眼瞼を翻転した写真を別に示す。 点眼薬として有効なのはどれか。

- a.抗菌薬
- b.抗真菌薬
- c.人工涙液
- d.抗アレルギー薬
- e.プロスタグランディン関連薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
学童期の男児が両眼の強い痒みと充血を訴え、上眼瞼結膜に石垣状の巨大乳頭を認めれば、アレルギー性結膜疾患の重症型である春季カタルと診断できます。病態はI型アレルギーを基盤とし、Th2リンパ球や好酸球による遅発相の炎症が加わった慢性炎症なので、治療の第一選択は抗アレルギー点眼薬(メディエーター遊離抑制薬や抗ヒスタミン薬)です。効果不十分なら免疫抑制薬点眼(シクロスポリン、タクロリムス)、重症例ではステロイド点眼を追加しますが、ステロイド使用時は眼圧上昇や感染に注意します。抗菌薬・抗真菌薬は病因に作用せず、人工涙液は抗原を洗い流す補助にとどまり、プロスタグランジン関連薬は緑内障治療薬で適応外です。「痒みが主役の両眼性結膜炎はアレルギー」と病態から考えることが、正しい点眼薬選択とシールド潰瘍など角膜合併症の予防につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・6歳の男児という学童期の小児 ・両眼性の強い痒みと眼球結膜の充血が2週間持続 ・矯正視力は両眼1.2で保たれている(角膜病変による視力低下はまだ生じていない) ・上眼瞼を翻転した写真で、上眼瞼結膜に大小の隆起が敷石を並べたように密集する所見(石垣状乳頭、巨大乳頭)を認める
診断へのプロセス
両眼性で「痒み」が前面に出る結膜炎は、まずアレルギー性結膜疾患を考える。感染性結膜炎では眼脂や異物感が主体となり、痒みが主症状になることは少ない。さらに学童期の男児で、上眼瞼結膜に直径1mm以上の巨大乳頭が石垣状に増殖していることから、アレルギー性結膜疾患の中でも重症型である春季カタル(vernal keratoconjunctivitis:VKC)と診断できる。視力が良好であることから、現時点では角膜の重篤な合併症(シールド潰瘍など)は生じていないと推測される。なお、上眼瞼結膜の隆起性病変では結膜腫瘍などとの鑑別を要することもあるが、本例は年齢・両眼性・痒みという臨床像がそろっており、典型的なVKCである。
設問の考え方
春季カタルはI型(即時型)アレルギー反応を基盤に、Th2リンパ球や好酸球が関与する遅発相の炎症が加わった慢性炎症性疾患である。したがって治療の第一段階は、アレルギー反応を抑える点眼薬(抗アレルギー薬)である。病態に作用しない抗微生物薬や、眼圧下降薬は効果がない。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌薬点眼は細菌性結膜炎や細菌性角膜炎に用いる薬剤である。春季カタルはアレルギー性炎症であり細菌は病因に関与しないため、効果は期待できない。シールド潰瘍などに二次的な細菌感染が合併した場合に限って併用が検討されるにとどまる。
- ×b. 抗真菌薬
抗真菌薬点眼は真菌性角膜炎などに用いる。本例に真菌感染を示唆する所見はなく、アレルギー機序の春季カタルには無効である。むしろステロイド点眼を長期使用した際に真菌感染が起こりうる点に注意が必要という位置づけである。
- ×c. 人工涙液
人工涙液は主にドライアイで涙液を補う目的で用いる。アレルギー性結膜疾患では結膜嚢内の抗原(花粉など)を洗い流す補助的な効果はあるものの、アレルギー炎症そのものを抑える作用はなく、巨大乳頭を伴う春季カタルの痒みや炎症を改善させる治療薬とはならない。
- ○d. 抗アレルギー薬
春季カタルはI型アレルギーを基盤とする疾患であり、抗アレルギー点眼薬が治療の基本(第一選択)となる。抗アレルギー点眼薬には、肥満細胞からのヒスタミンなどの化学伝達物質の放出を抑えるメディエーター遊離抑制薬(クロモグリク酸ナトリウムなど)と、痒みの主因であるヒスタミンのH1受容体を遮断する抗ヒスタミン薬(オロパタジン、エピナスチンなど)がある。これで効果不十分な場合は、免疫抑制薬点眼(シクロスポリン、タクロリムス)やステロイド点眼を追加する。
- ×e. プロスタグランディン関連薬
プロスタグランジン関連薬(ラタノプロストなど)はぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進して眼圧を下げる薬剤で、緑内障治療の第一選択薬である。アレルギー炎症を抑える作用はなく、本例には適応がない。なお春季カタルでステロイド点眼を長期使用するとステロイド緑内障を来すことがあり、その際に眼圧下降薬が必要となることはある。
アレルギー性結膜疾患の分類
・アレルギー性結膜炎:増殖性変化を伴わないもの。季節性(花粉症など)と通年性(ハウスダスト、ダニなど)がある。 ・アトピー性角結膜炎:アトピー性皮膚炎に合併する慢性の角結膜炎。 ・春季カタル:結膜の増殖性変化(巨大乳頭や輪部の隆起)を伴う重症型。 ・巨大乳頭結膜炎:コンタクトレンズや義眼、縫合糸などの機械的刺激が関与し、上眼瞼結膜に巨大乳頭を生じる。
春季カタルの特徴
・学童期の男児に多く、思春期以降に自然軽快することが多い。アトピー素因を伴うことが多い。 ・季節の変わり目(春〜夏)に増悪しやすい。 ・病型:上眼瞼結膜に石垣状乳頭(巨大乳頭)を形成する眼瞼型と、角膜輪部に堤防状の隆起やトランタス斑(好酸球の集簇による白色点状病変)を形成する輪部型、両者の混合型がある。 ・症状:強い痒み、充血、粘稠な糸状の眼脂、異物感。 ・角膜合併症:点状表層角膜炎、落屑様角膜上皮障害、さらにシールド潰瘍(楕円形の遷延性角膜上皮欠損とその上に沈着するプラーク)を生じると視力障害を来す。 ・検査:結膜擦過物中の好酸球の証明、涙液総IgE検査が診断の補助となる。
治療の段階
1.抗アレルギー点眼薬(メディエーター遊離抑制薬、抗ヒスタミン薬) 2.免疫抑制薬点眼(シクロスポリン、タクロリムス)の追加。春季カタルに保険適用がある。 3.重症例ではステロイド点眼の併用。ただし眼圧上昇(ステロイド緑内障)、白内障、感染症に注意し、特に小児では眼圧を定期的に確認する。 4.巨大乳頭の外科的切除やシールド潰瘍の掻爬を行うこともある。
POINT
・学童期男児、両眼の強い痒み、上眼瞼結膜の石垣状巨大乳頭 → 春季カタル ・春季カタルはI型アレルギーを基盤とする、アレルギー性結膜疾患の重症型である ・治療の第一選択は抗アレルギー点眼薬、難治例には免疫抑制薬点眼(シクロスポリン、タクロリムス)やステロイド点眼を追加する ・ステロイド点眼使用時は眼圧上昇に注意する ・プロスタグランジン関連薬は緑内障治療薬であり、アレルギーには無効である
