StudyMed医師国家試験

「飲み続けられる薬」の条件―アドヒアランスを左右するもの、しないもの

第109回医師国家試験 C問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第109回 C問題 第13問

服薬アドヒアランスに及ぼす影響が最も小さいのはどれか。

  1. a.薬剤の費用
  2. b.薬剤の形状
  3. c.薬剤の色調
  4. d.薬剤に関する医師の説明
  5. e.薬剤に対する患者の認識

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、服薬アドヒアランスに影響する因子を問う問題だ。着眼点は「患者さんが薬を飲み続けるかどうかを、実際に左右するのは何か」。まずは言葉の意味から確認しよう。アドヒアランスとコンプライアンスの違いは説明できるかな。
医学生医学生
コンプライアンスは「医師の指示を守ること」で、アドヒアランスはそれを言い換えた新しい言葉、という理解でした。
ドクタードクター
半分正解かな。コンプライアンスは医療者の指示に患者がどれだけ従うかという、医療者側から見た一方向の概念だ。飲まないのは患者の問題、と捉えられやすい。一方、アドヒアランスは患者が治療方針の決定に主体的に関わり、納得したうえで治療を続けることを重視する。だから飲めない理由を、患者だけでなく医療者や治療内容、社会的背景も含めて考えるんだ。
医学生医学生
医療面接の講義で習った、患者中心の医療という考え方につながりますね。
ドクタードクター
その通り。WHOはアドヒアランスに影響する要因を、社会・経済的要因、医療チーム・医療システムの要因、疾患に関する要因、治療に関する要因、患者に関する要因の5つに整理している。これを物差しにして選択肢を見ていこう。まず薬剤の費用はどうだろう。
医学生医学生
経済的な理由で薬を減らす人はいそうです。でも日本は保険があるので、そこまで影響しないのでは、とも思いました。
ドクタードクター
そこは油断しやすいところだね。保険があっても自己負担はあるし、慢性疾患の薬は何年も飲み続けるから負担は積み重なる。自己判断で量や回数を減らしたり、処方を受け取らなかったりすることは実際にある。後発医薬品への切り替えが役立つ場面もあるんだ。次は薬剤の形状、つまり剤形だ。
医学生医学生
小児科の実習で、粉薬を嫌がる子にお母さんが苦労している話を聞きました。剤形は飲みやすさに直結しますね。
ドクタードクター
いい経験だね。高齢者や嚥下障害のある人では大きな錠剤が飲み込めないこともある。口腔内崩壊錠、小さな錠剤、シロップ剤、貼付剤への変更や、服用回数を減らす徐放性製剤、錠剤数を減らす配合剤は、アドヒアランス改善の代表的な工夫だ。では医師の説明は?
医学生医学生
何のための薬か分からないと、症状が良くなった時点でやめてしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそう。目的や必要性、期待される効果、起こりうる副作用と対処、やめた場合のリスクを分かりやすく伝えることで、納得が生まれる。説明不足だと不安から自己中断しやすいし、医療者との信頼関係そのものも重要な因子だ。そして患者の認識は、最も強くアドヒアランスを規定する因子の一つといっていい。
医学生医学生
「副作用が怖い」「一度飲んだらやめられなくなる」と思っていたら、飲みたくなくなりますよね。
ドクタードクター
そう。特に高血圧症や脂質異常症のように自覚症状が乏しい病気では、「症状がないから飲まなくていい」「効いている実感がない」と感じて中断しやすい。だから患者さんがどう受け止めているかを確かめて、誤解を解くことが大事なんだ。
医学生医学生
そうすると、残る薬剤の色調が一番影響が小さい、ということになりますね。
ドクタードクター
正解。色は薬の識別や取り違え防止には役立つけれど、飲み込みやすさ、費用、効果への納得、副作用への不安といった継続を左右する要素とはほとんど関係しない。色が理由で服薬をやめる、というのは通常考えにくいよね。
医学生医学生
内科の実習で、薬剤師さんが一包化やお薬カレンダーを提案していたのも、アドヒアランス対策だったんですね。
ドクタードクター
その通り。一包化やお薬カレンダーは飲み忘れ対策として有効で、認知機能が低下した高齢者では家族の支援も大きい。発展として、医療者と患者が対等に話し合って合意のうえで治療を決める「コンコーダンス」という考え方も知っておくといい。臨床では、検査値が改善しないときに薬を増やす前に、まず「きちんと飲めているか」を確認する習慣をつけてほしい。
医学生医学生
効かないと思ったら、実は飲めていなかった、というケースもあるということですね。
ドクタードクター
そう。それを責めるのではなく、飲めない理由を一緒に探すのがアドヒアランスの考え方なんだ。

まとめ

服薬アドヒアランスとは、患者が治療方針の決定に主体的に参加し、合意した治療を続けることを重視する概念で、医療者の指示への遵守を表すコンプライアンスに代わって用いられています。WHOは影響因子を社会・経済的要因、医療チーム・医療システムの要因、疾患に関する要因、治療に関する要因、患者に関する要因の5つに整理しており、費用、剤形や服用回数、医師の説明や信頼関係、患者の薬に対する認識はいずれも服薬継続を大きく左右します。一方、薬剤の色調は識別や取り違え防止には役立つものの、継続の意思や飲みやすさへの影響は小さいと考えられます。改善策としては、服用回数や錠剤数の削減、飲みやすい剤形への変更、一包化、後発医薬品の利用、十分な説明と懸念の傾聴などがあります。治療効果が不十分なときに「飲めているか」を確認し、その理由を患者とともに考える姿勢は、あらゆる診療科で求められる基本です。

解答・解説

正解はcです

服薬アドヒアランス(adherence:固守、忠実に守ること)とは、患者が治療方針の決定に主体的に関わり、自らも納得したうえで、その方針どおりに薬を服用し続けることを指す。医療者の指示に患者が従う程度を表す「コンプライアンス」に代わって用いられるようになった概念であり、患者と医療者の合意形成を重視する点が特徴である。 WHO(世界保健機関)はアドヒアランスに影響する要因を、社会・経済的要因(費用など)、医療チーム・医療システムの要因(説明や信頼関係など)、疾患に関する要因、治療に関する要因(剤形、服用回数、副作用など)、患者に関する要因(知識・信念・認識など)の5つに整理している。 本問では、これらのどれにも実質的に関わらない、つまり「飲み続けられるかどうか」を左右しにくい因子を選ぶ。費用・剤形・医師の説明・患者の認識はいずれも服薬行動を大きく変えうるが、薬剤の色調は服用のしやすさや継続の意思にほとんど影響しない。

選択肢考察

  1. ×a.  薬剤の費用

    費用は社会・経済的要因として、アドヒアランスに大きく影響する。高額な薬剤では、医療費を抑えようとして患者が自己判断で服用量や回数を減らしたり、処方自体を受け取らなかったりすることがある。長期間の服用が必要な慢性疾患の薬では特に問題になる。このため、同等の効果をもつ後発医薬品(ジェネリック医薬品)への切り替えなど、費用負担を減らす工夫が有効な場合がある。

  2. ×b.  薬剤の形状

    剤形(錠剤、カプセル、散剤、液剤、貼付剤など)や錠剤の大きさは、飲みやすさに直結する。高齢者や嚥下障害のある患者では大きな錠剤が飲み込めず、小児では散剤や苦味のある薬を嫌がることが多い。口腔内崩壊錠(OD錠)、小型の錠剤、シロップ剤、貼付剤への変更や、1日の服用回数を減らす徐放性製剤・配合剤の利用はアドヒアランス改善に役立つ。したがって影響は小さくない。

  3. ○c.  薬剤の色調

    薬剤の色は、薬の識別や取り違え防止には役立つものの、飲み込みやすさ、費用、効果への納得、副作用への不安といった服薬継続を左右する要素にはほとんど関係しない。色が理由で服薬をやめるということは通常考えにくく、選択肢の中でアドヒアランスへの影響は最も小さい。よってこれが正解である。

  4. ×d.  薬剤に関する医師の説明

    薬の目的・必要性、期待される効果、起こりうる副作用とその対処、服用を中断した場合のリスクなどを医師がわかりやすく説明することは、患者の理解と納得を生み、アドヒアランスを高める。反対に説明が不十分だと、患者は不安や疑問を抱いて服薬を自己中断しやすい。医療者と患者の信頼関係も重要な因子であり、影響は大きい。

  5. ×e.  薬剤に対する患者の認識

    患者が薬をどう捉えているかはアドヒアランスを最も強く規定する因子の一つである。「副作用が怖い」「一度飲み始めたらやめられなくなる」といった懸念や、「症状がないから飲まなくてよい」「効いている実感がない」といった認識があると服薬は続きにくい。特に高血圧症や脂質異常症のように自覚症状が乏しい疾患ではこの傾向が強い。患者の認識を確認し、誤解を解くことが重要である。

コンプライアンスとアドヒアランス

・コンプライアンス(compliance:遵守):医療者の指示に患者がどれだけ従うかという、医療者側からみた一方向の概念である。服薬しないことは患者側の問題とされやすい。 ・アドヒアランス(adherence):患者が治療方針の決定に参加し、合意した治療を主体的に続けることを重視する概念である。服薬が守られない原因を患者だけでなく、医療者や治療内容、社会的背景も含めて検討する。 ・近年は、医療者と患者が合意のうえで治療を決める「コンコーダンス(concordance)」という考え方も用いられる。

アドヒアランスに影響する要因(WHOの5分類)

1. 社会・経済的要因:費用、経済状況、家族の支援、生活環境 2. 医療チーム・医療システムの要因:医師や薬剤師の説明、医療者との信頼関係、受診のしやすさ 3. 疾患に関する要因:症状の有無や強さ、疾患の重症度、うつ病や認知機能低下の合併 4. 治療に関する要因:服用回数、剤形、錠剤数、治療期間、副作用、効果の実感 5. 患者に関する要因:疾患や薬に関する知識、信念・認識、治療への意欲、記憶力

アドヒアランス向上の工夫

・服用回数を減らす(1日1回製剤、徐放性製剤)、配合剤で錠剤数を減らす ・一包化、お薬カレンダーの利用 ・飲みやすい剤形(OD錠、貼付剤など)への変更 ・十分な説明と患者の懸念の傾聴、薬剤師による服薬指導 ・後発医薬品の利用による費用負担の軽減

POINT

・アドヒアランスは、患者が治療方針に主体的に参加し、合意した治療を続けることを重視する概念である(コンプライアンスは医療者の指示への遵守)。 ・影響因子として、費用、剤形、服用回数、副作用、医療者の説明・信頼関係、患者の知識・認識などが重要である。 ・薬剤の色調がアドヒアランスに与える影響は小さい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。