StudyMed医師国家試験

赤い・腫れる・熱い・痛い―紫斑はなぜ「関節炎のサイン」に入らないのか

第109回医師国家試験 C問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第109回 C問題 第12問

関節炎を示唆しない症候はどれか。

  1. a.紫斑
  2. b.腫脹
  3. c.疼痛
  4. d.熱感
  5. e.発赤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、関節炎を示唆する症候を見分ける問題だ。カギは「炎症とは体の中で何が起きている状態か」を思い出すこと。そこから、炎症で説明できる症候とそうでない症候を分けていこう。
医学生医学生
基礎の病理学総論で「炎症の4徴」を習いました。たしか発赤、腫脹、熱感、疼痛です。
ドクタードクター
その通り。ケルススが挙げた発赤(rubor)、腫脹(tumor)、熱感(calor)、疼痛(dolor)が炎症の4徴で、機能障害(functio laesa)を加えると5徴になる。では、なぜ炎症でこの4つが起きるのか、仕組みから説明できるかな。
医学生医学生
血管が広がって血流が増えるので、赤くなって熱くなる……というところまでは分かります。
ドクタードクター
いいね。炎症局所では細動脈が拡張して充血するから、皮膚が赤くなり、触ると温かい。さらに血管透過性が高まって血漿成分や白血球が組織に漏れ出すと、腫れが生じる。関節炎なら滑膜が肥厚し、関節液が増えて関節水腫になる。そしてプロスタグランジンやブラジキニンが痛覚神経を刺激・感作し、関節包の伸展も加わって痛みが出るんだ。
医学生医学生
そうすると、選択肢のうち腫脹・疼痛・熱感・発赤の4つは全部4徴そのものですね。残る紫斑が答えでしょうか。
ドクタードクター
正解。紫斑は関節炎を示唆しない症候だ。では、紫斑とはそもそも何かを説明できる?
医学生医学生
皮膚の中の出血、ですよね。でも赤っぽい色なので、発赤とどう違うのか正直あいまいです。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだね。発赤は血管が拡張して血液が増えている状態だから、ガラス板で押すと血液が押し出されて色が消える。一方、紫斑は赤血球が血管の外に漏れ出て組織にたまった状態なので、押しても色が消えない。これを硝子圧法といって、紅斑と紫斑の鑑別に使うんだ。
医学生医学生
OSCEの皮膚の診察で、圧迫して退色するか確かめる練習をしました。あれは紅斑か紫斑かを見ていたんですね。
ドクタードクター
まさにそう。紫斑の原因は、血小板の減少や機能異常、凝固因子の異常、そして血管壁の脆弱化や血管炎などで、炎症の局所反応とは別の「出血」という機序で起こる。だから関節炎の徴候には入らないんだ。
医学生医学生
でも、紫斑と関節の症状が一緒に出る病気もありませんでしたか。小児科の講義で聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。IgA血管炎、旧称Henoch-Schönlein紫斑病では、下肢の触知できる紫斑に関節痛・関節炎や腹痛を伴うことが多い。ただし、この場合も紫斑は小血管炎による所見で、関節炎そのものを表しているわけではない。また血友病では関節内出血が起こるけれど、これも出血であって炎症の徴候とは別物だ。
医学生医学生
同じ病気の中に出てくる所見でも、どの病態を反映しているかを分けて考える必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ臨床で大切なのが、「関節痛」と「関節炎」の区別だ。関節痛は痛みの訴えだけを指し、関節炎は腫脹・熱感・発赤といった炎症の客観的所見を伴う状態をいう。疼痛は変形性関節症や外傷でも出るから、痛み単独では炎症と断定できないんだ。
医学生医学生
整形外科の実習で、指導医の先生が手の甲で左右の膝を触り比べていました。熱感を見ていたんですね。
ドクタードクター
そう、手背は温度に敏感だから熱感の評価に向いている。膝なら膝蓋跳動で関節水腫を確認するのも基本だ。関節炎があると分かれば、関節リウマチ、痛風・偽痛風などの結晶誘発性関節炎、化膿性関節炎、脊椎関節炎、全身性エリテマトーデスなどへ鑑別を進めていく。特に単関節の強い発赤・熱感では化膿性関節炎を見逃さないよう、関節穿刺を考えることが大切だよ。
医学生医学生
まず炎症があるかを診察で確かめて、それから原因疾患を絞る、という順番ですね。
ドクタードクター
その通り。基本の4徴を病態から理解しておけば、こうした問題で迷うことはなくなるはずだ。

まとめ

関節炎は滑膜などに炎症が生じた状態で、血管拡張による発赤・熱感、血管透過性亢進による腫脹、化学伝達物質による疼痛という「炎症の4徴」が関節局所に現れ、機能障害を加えて5徴とも呼ばれます。紫斑は赤血球が血管外に漏れ出た皮膚内の出血で、硝子圧法で退色しない点で紅斑と区別され、血小板・凝固因子・血管壁の異常を示すものであり、炎症の徴候ではありません。IgA血管炎のように紫斑と関節症状が併存する疾患もありますが、紫斑は血管炎を、関節症状は別の病態を反映しています。また、痛みの訴えだけの関節痛と、腫脹・熱感などの客観的所見を伴う関節炎を区別することが、リウマチ性疾患や化膿性関節炎の鑑別の出発点になります。症候を病態生理から理解する姿勢は、身体診察の精度を高めるうえで欠かせません。

解答・解説

正解はaです

関節炎とは、関節を包む滑膜(関節包の内側を覆う膜)などに炎症が生じた状態である。炎症が起こると、局所の血管が拡張して血流が増え、血管の透過性が高まって血漿成分や白血球が組織へ漏れ出す。さらにプロスタグランジンやブラジキニンなどの化学伝達物質が神経を刺激する。この一連の変化が、外から観察できる症候として現れる。 古典的には、ケルスス(Celsus)が挙げた発赤(rubor)、腫脹(tumor)、熱感(calor)、疼痛(dolor)が「炎症の4徴」であり、ガレノス(またはウィルヒョウ)が加えた機能障害(functio laesa)を含めて「炎症の5徴」と呼ぶ。関節炎では、これらが関節局所にそろって現れやすい。 したがって本問は、選択肢の中から炎症の4徴に含まれないもの、すなわち炎症とは別の機序(出血)によって生じる症候を選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  紫斑

    紫斑は、赤血球が血管外へ漏れ出て皮膚や粘膜の中にたまることで生じる、紫紅色〜暗紫褐色の斑である。出血による変化なので、ガラス板で圧迫しても色が消えない(硝子圧法で退色しない)点で、血管拡張による紅斑と区別される。原因は血小板の減少・機能異常、凝固因子の異常、血管壁の脆弱化や血管炎などであり、関節の炎症を示す所見ではない。したがって関節炎を示唆しない症候であり、これが正解である。なお、IgA血管炎(旧称 Henoch-Schönlein紫斑病)のように紫斑と関節痛・関節炎が同時にみられる疾患はあるが、その場合も紫斑は血管炎による所見であって、関節炎そのものを表すわけではない。また血友病では関節内出血が起こるが、これも関節炎の徴候としての紫斑とは異なる。

  2. ×b.  腫脹

    腫脹は炎症の4徴の一つ(tumor)である。関節炎では、血管透過性の亢進による関節液の増加(関節水腫)や、滑膜の肥厚によって関節が腫れる。関節裂隙に沿った腫れや、膝での膝蓋跳動などとして診察で確認でき、関節炎を示唆する所見である。

  3. ×c.  疼痛

    疼痛は炎症の4徴の一つ(dolor)である。炎症局所で産生されるプロスタグランジンやブラジキニンが痛覚神経を刺激・感作し、さらに腫脹による関節包の伸展も痛みを強める。関節炎では安静時痛や運動時痛、圧痛がみられ、関節炎を示唆する所見である。ただし疼痛は変形性関節症や外傷などでも生じるため、それ単独では炎症と断定できず、ほかの徴候と合わせて判断する。

  4. ×d.  熱感

    熱感は炎症の4徴の一つ(calor)である。炎症局所では血管が拡張して血流が増えるため、体表から触れると周囲より温かく感じられる。関節炎では、手背で左右の関節を触り比べることで熱感を確認でき、関節炎を示唆する所見である。

  5. ×e.  発赤

    発赤は炎症の4徴の一つ(rubor)である。血管の拡張と充血によって、炎症を起こした関節を覆う皮膚が赤くなる。痛風発作や化膿性関節炎のように炎症が強い関節炎で特に目立つ。紫斑と異なり圧迫すると退色する。関節炎を示唆する所見である。

炎症の徴候

・炎症の4徴(Celsus):発赤(rubor)、腫脹(tumor)、熱感(calor)、疼痛(dolor) ・これに機能障害(functio laesa)を加えたものが炎症の5徴である。関節炎では関節可動域の制限や歩行障害などとして現れる。 ・全身的には、発熱、倦怠感、体重減少、CRP上昇や赤沈亢進などの炎症反応がみられることがある。

関節炎と関節痛の区別

関節痛は痛みの訴えだけを指し、関節炎は炎症の客観的所見(腫脹・熱感・発赤など)を伴う状態を指す。診察で腫脹や熱感を確認することが、両者を区別する鍵となる。関節炎をきたす代表的な疾患には、関節リウマチ、痛風・偽痛風などの結晶誘発性関節炎、化膿性関節炎、脊椎関節炎、全身性エリテマトーデスなどがある。

紫斑の基本

・皮膚内の出血による斑で、圧迫しても退色しない。大きさにより点状出血(数mm以下)と斑状出血(より大きいもの)に分けられる。 ・原因:血小板の異常(免疫性血小板減少症など)、凝固因子の異常(血友病など)、血管の異常(IgA血管炎、老人性紫斑、ステロイド紫斑など)。 ・触知できる隆起した紫斑(palpable purpura)は小血管炎を示唆し、IgA血管炎では紫斑に関節症状や腹痛を伴うことが多い。

POINT

・炎症の4徴は発赤・腫脹・熱感・疼痛で、機能障害を加えて5徴となる。 ・関節炎は、これらの炎症所見が関節局所にみられる状態である。 ・紫斑は皮膚内の出血であり、圧迫で退色しない。炎症の徴候ではなく、出血傾向や血管の異常を示す。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。