赤い・腫れる・熱い・痛い―紫斑はなぜ「関節炎のサイン」に入らないのか
第109回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
関節炎を示唆しない症候はどれか。
- a.紫斑
- b.腫脹
- c.疼痛
- d.熱感
- e.発赤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
関節炎は滑膜などに炎症が生じた状態で、血管拡張による発赤・熱感、血管透過性亢進による腫脹、化学伝達物質による疼痛という「炎症の4徴」が関節局所に現れ、機能障害を加えて5徴とも呼ばれます。紫斑は赤血球が血管外に漏れ出た皮膚内の出血で、硝子圧法で退色しない点で紅斑と区別され、血小板・凝固因子・血管壁の異常を示すものであり、炎症の徴候ではありません。IgA血管炎のように紫斑と関節症状が併存する疾患もありますが、紫斑は血管炎を、関節症状は別の病態を反映しています。また、痛みの訴えだけの関節痛と、腫脹・熱感などの客観的所見を伴う関節炎を区別することが、リウマチ性疾患や化膿性関節炎の鑑別の出発点になります。症候を病態生理から理解する姿勢は、身体診察の精度を高めるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はaです
関節炎とは、関節を包む滑膜(関節包の内側を覆う膜)などに炎症が生じた状態である。炎症が起こると、局所の血管が拡張して血流が増え、血管の透過性が高まって血漿成分や白血球が組織へ漏れ出す。さらにプロスタグランジンやブラジキニンなどの化学伝達物質が神経を刺激する。この一連の変化が、外から観察できる症候として現れる。 古典的には、ケルスス(Celsus)が挙げた発赤(rubor)、腫脹(tumor)、熱感(calor)、疼痛(dolor)が「炎症の4徴」であり、ガレノス(またはウィルヒョウ)が加えた機能障害(functio laesa)を含めて「炎症の5徴」と呼ぶ。関節炎では、これらが関節局所にそろって現れやすい。 したがって本問は、選択肢の中から炎症の4徴に含まれないもの、すなわち炎症とは別の機序(出血)によって生じる症候を選べばよい。
選択肢考察
- ○a. 紫斑
紫斑は、赤血球が血管外へ漏れ出て皮膚や粘膜の中にたまることで生じる、紫紅色〜暗紫褐色の斑である。出血による変化なので、ガラス板で圧迫しても色が消えない(硝子圧法で退色しない)点で、血管拡張による紅斑と区別される。原因は血小板の減少・機能異常、凝固因子の異常、血管壁の脆弱化や血管炎などであり、関節の炎症を示す所見ではない。したがって関節炎を示唆しない症候であり、これが正解である。なお、IgA血管炎(旧称 Henoch-Schönlein紫斑病)のように紫斑と関節痛・関節炎が同時にみられる疾患はあるが、その場合も紫斑は血管炎による所見であって、関節炎そのものを表すわけではない。また血友病では関節内出血が起こるが、これも関節炎の徴候としての紫斑とは異なる。
- ×b. 腫脹
腫脹は炎症の4徴の一つ(tumor)である。関節炎では、血管透過性の亢進による関節液の増加(関節水腫)や、滑膜の肥厚によって関節が腫れる。関節裂隙に沿った腫れや、膝での膝蓋跳動などとして診察で確認でき、関節炎を示唆する所見である。
- ×c. 疼痛
疼痛は炎症の4徴の一つ(dolor)である。炎症局所で産生されるプロスタグランジンやブラジキニンが痛覚神経を刺激・感作し、さらに腫脹による関節包の伸展も痛みを強める。関節炎では安静時痛や運動時痛、圧痛がみられ、関節炎を示唆する所見である。ただし疼痛は変形性関節症や外傷などでも生じるため、それ単独では炎症と断定できず、ほかの徴候と合わせて判断する。
- ×d. 熱感
熱感は炎症の4徴の一つ(calor)である。炎症局所では血管が拡張して血流が増えるため、体表から触れると周囲より温かく感じられる。関節炎では、手背で左右の関節を触り比べることで熱感を確認でき、関節炎を示唆する所見である。
- ×e. 発赤
発赤は炎症の4徴の一つ(rubor)である。血管の拡張と充血によって、炎症を起こした関節を覆う皮膚が赤くなる。痛風発作や化膿性関節炎のように炎症が強い関節炎で特に目立つ。紫斑と異なり圧迫すると退色する。関節炎を示唆する所見である。
炎症の徴候
・炎症の4徴(Celsus):発赤(rubor)、腫脹(tumor)、熱感(calor)、疼痛(dolor) ・これに機能障害(functio laesa)を加えたものが炎症の5徴である。関節炎では関節可動域の制限や歩行障害などとして現れる。 ・全身的には、発熱、倦怠感、体重減少、CRP上昇や赤沈亢進などの炎症反応がみられることがある。
関節炎と関節痛の区別
関節痛は痛みの訴えだけを指し、関節炎は炎症の客観的所見(腫脹・熱感・発赤など)を伴う状態を指す。診察で腫脹や熱感を確認することが、両者を区別する鍵となる。関節炎をきたす代表的な疾患には、関節リウマチ、痛風・偽痛風などの結晶誘発性関節炎、化膿性関節炎、脊椎関節炎、全身性エリテマトーデスなどがある。
紫斑の基本
・皮膚内の出血による斑で、圧迫しても退色しない。大きさにより点状出血(数mm以下)と斑状出血(より大きいもの)に分けられる。 ・原因:血小板の異常(免疫性血小板減少症など)、凝固因子の異常(血友病など)、血管の異常(IgA血管炎、老人性紫斑、ステロイド紫斑など)。 ・触知できる隆起した紫斑(palpable purpura)は小血管炎を示唆し、IgA血管炎では紫斑に関節症状や腹痛を伴うことが多い。
POINT
・炎症の4徴は発赤・腫脹・熱感・疼痛で、機能障害を加えて5徴となる。 ・関節炎は、これらの炎症所見が関節局所にみられる状態である。 ・紫斑は皮膚内の出血であり、圧迫で退色しない。炎症の徴候ではなく、出血傾向や血管の異常を示す。
