StudyMed医師国家試験

体重90kgでも「90kg分」は食べない―標準体重から逆算する高血圧の食事療法

第109回医師国家試験 C問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第109回 C問題 第14問

身長180 cm,体重90 kgで,高血圧のある事務職の男性に勧めるべき摂取エネルギーと食塩量の組合せで適切なのはどれか。(編註:選択肢表は下記をご参照ください。) 摂取エネルギー (kcal/日) 食塩 (g/日) a 1,400 6 b 1,400 10 c 1,800 6 d 1,800 10 e 2,200 10

  1. a.1,400  6
  2. b.1,400  10
  3. c.1,800  6
  4. d.1,800  10
  5. e.2,200  10

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肥満のある高血圧患者さんに、1日にどれだけのエネルギーと食塩を勧めるかを考える問題だ。ポイントは2つ。エネルギーは「何の体重」を基準に計算するか、そして高血圧患者さんの減塩目標がいくつか。まずは体格の評価から始めよう。この方のBMIはどのくらいになるかな。
医学生医学生
90を1.8の2乗の3.24で割って、だいたい27.8です。25以上なので肥満ですね。
ドクタードクター
その通り。日本肥満学会の基準では25以上30未満が肥満1度だ。肥満は血圧を上げる大きな要因で、減量そのものが降圧につながる。だから食事療法ではエネルギーを適正化することが重要になる。では、摂取エネルギーはどうやって計算する?
医学生医学生
今の体重90kgに、活動量の係数を掛けるのでしょうか。
ドクタードクター
そこがよくある落とし穴なんだ。実際の体重で計算すると、肥満の人ほど多く食べてよいことになってしまう。基準にするのは標準体重、つまり身長(m)の2乗に22を掛けた値だ。BMI 22が最も病気になりにくいとされることに基づいているよ。この方だと3.24×22でおよそ71kgになる。
医学生医学生
CBTの勉強で「標準体重×身体活動量」と覚えたのを思い出しました。事務職だと係数はいくつでしたっけ。
ドクタードクター
デスクワーク中心の事務職は軽い労作で、25〜30kcal/kgが目安だ。71kgに掛けると、およそ1,780〜2,130kcal/日になる。肥満を改善したいので下限寄りが望ましい。選択肢の中では1,800kcalがぴったり当てはまるね。
医学生医学生
1,400kcalのほうが早く痩せられそうな気もしますが、だめなんですか。
ドクタードクター
1,400kcalは標準体重あたり約20kcal/kgで、軽い労作の成人男性には少なすぎる。極端な制限は空腹感が強くて長続きしにくく、筋肉量が落ちることもある。食事療法は続けられることが何より大事なんだ。逆に2,200kcalは約31kcal/kgで適正範囲の上限を超えるから、減量につながらない。
医学生医学生
エネルギーは1,800kcalに決まりですね。食塩は高血圧なので6gでしょうか。
ドクタードクター
正解。日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧患者さんの食塩摂取量は1日6g未満が目標だ。10gという量は、日本人成人男性の平均的な摂取量に近い水準で、ほとんど減塩していないのと同じなんだ。だから1,800kcalと食塩6gの組合せが答えになる。
医学生医学生
1,800kcalで食塩10gの組合せは、エネルギーは合っていても減塩が不十分なので誤り、ということですね。
ドクタードクター
そう。この問題は2つの条件を両方満たすものを選ぶ形式だから、片方だけ合っている選択肢にひっかからないようにしよう。ところで、健康な人向けの食塩の目標量は知っているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で『日本人の食事摂取基準』を習いました。男性7.5g未満、女性6.5g未満だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。2020年版以降の値だ。健康な人向けの目標量と、高血圧患者さん向けの6g未満を区別して覚えておくのが大切だよ。
医学生医学生
減塩以外の生活習慣の修正には、どんなものがありますか。
ドクタードクター
適正体重の維持でBMI 25未満を目指すこと、野菜や果物、魚を積極的にとること、軽い有酸素運動を毎日30分以上、節酒、禁煙などがある。ただし腎機能障害がある人では、カリウムの多い野菜や果物を積極的に勧めるのは控える。高カリウム血症の危険があるからだ。
医学生医学生
臨床実習で循環器内科を回ったとき、栄養指導で患者さんが「味がしない」と困っていました。
ドクタードクター
減塩は実際の指導で一番苦労するところだね。だしや酸味、香辛料を活用する、麺類の汁を残す、加工食品の表示を見る習慣をつけるなど、具体的な工夫を一緒に考えることが継続の鍵になる。数字を伝えるだけで終わらせないことが大切だよ。

まとめ

肥満を伴う高血圧患者の食事療法では、適正な摂取エネルギーを「標準体重(身長(m)²×22)×身体活動量」で求め、実際の体重は使いません。身長180cmなら標準体重は約71kgで、事務職のような軽い労作(25〜30kcal/kg)では約1,780〜2,130kcal/日となり、肥満の是正を考えて下限寄りの1,800kcal/日が適切です。高血圧患者の食塩目標は6g/日未満で、健康な人向けの食事摂取基準の目標量(男性7.5g未満、女性6.5g未満)より厳しい点を区別しておく必要があります。過度なエネルギー制限は長続きせず筋肉量の減少も招くため、減塩・運動・節酒・禁煙などを組み合わせて続けられる指導を行うことが、生活習慣病診療の基本になります。

解答・解説

正解はcです

本問は、肥満を伴う高血圧患者に対する食事療法の基本である「適正な摂取エネルギー」と「減塩の目標値」を組み合わせて答える問題である。

1. 体格の評価

BMI(body mass index)=体重(kg)÷身長(m)² = 90 ÷ 1.8² = 90 ÷ 3.24 ≒ 27.8 である。日本肥満学会の基準ではBMI 25以上が肥満であり、本例は肥満(1度:25以上30未満)に該当する。肥満の是正は降圧にも有効であり、エネルギー摂取を適正化する必要がある。

2. 摂取エネルギーの算出

適正な摂取エネルギーは、実際の体重ではなく標準体重(目標体重)に、身体活動量に応じた係数を掛けて求める。 ・標準体重 = 身長(m)² × 22 = 3.24 × 22 ≒ 71 kg ・事務職(デスクワーク中心)は軽い労作に当たり、係数は25〜30 kcal/kg標準体重/日 ・71 × 25 ≒ 1,780 kcal、71 × 30 ≒ 2,130 kcal したがって適正範囲はおよそ1,780〜2,130 kcal/日であり、肥満の是正を目指す点からも範囲の下限寄りが望ましい。選択肢の中では1,800 kcal/日が該当する。1,400 kcalは約20 kcal/kgに相当し、軽労作の男性には少なすぎる。2,200 kcalは上限を超えており、減量につながらない。

3. 食塩摂取量

日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、高血圧患者の食塩摂取量を1日6 g未満とすることを推奨している。選択肢では6 gが該当し、10 gは多すぎる。 以上から、1,800 kcal/日と食塩6 g/日の組合せが適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  1,400  6

    食塩6 g/日は高血圧患者の減塩目標に合っているが、1,400 kcal/日は標準体重71 kgに対して約20 kcal/kgにすぎず、軽い労作の成人男性にとっては少なすぎる。過度のエネルギー制限は長続きしにくく、筋肉量の減少なども招きうるため、この組合せは適切でない。

  2. ×b.  1,400  10

    1,400 kcal/日は軽い労作の男性には少なすぎ、さらに食塩10 g/日は高血圧患者の目標(6 g/日未満)を大きく上回る。摂取エネルギー、食塩量ともに不適切である。

  3. ○c.  1,800  6

    標準体重約71 kgに、事務職(軽い労作)の係数25〜30 kcal/kgを掛けると約1,780〜2,130 kcal/日となり、1,800 kcal/日はこの範囲に入る。肥満(BMI 27.8)を改善するため下限付近に設定するのも理にかなっている。また食塩6 g/日は高血圧治療ガイドラインが推奨する減塩目標(6 g/日未満)に一致する。両方の条件を満たすため、これが正解である。

  4. ×d.  1,800  10

    摂取エネルギー1,800 kcal/日は適切であるが、食塩10 g/日は高血圧患者に推奨される6 g/日未満を大きく上回り、減塩としては不十分である。10 g/日前後は日本人成人男性の平均的な食塩摂取量に近い水準であり、ほとんど制限していないのと同じである。

  5. ×e.  2,200  10

    2,200 kcal/日は標準体重71 kgに対して約31 kcal/kgとなり、軽い労作の適正範囲の上限(約2,130 kcal)を超えるため、肥満の是正につながらない。食塩10 g/日も高血圧患者には多すぎる。いずれも不適切である。

適正な摂取エネルギーの目安

摂取エネルギー(kcal/日)= 標準体重(目標体重)(kg) × 身体活動量(kcal/kg) ・標準体重 = 身長(m)² × 22(BMI 22のとき最も有病率が低いとされることに基づく) ・身体活動量の目安  軽い労作(大部分が座位の静的活動:デスクワーク、主婦など):25〜30 kcal/kg  普通の労作(座位中心だが通勤・家事・軽い運動を含む):30〜35 kcal/kg  重い労作(力仕事、活発な運動習慣):35 kcal/kg以上 なお日本糖尿病学会の診療ガイドライン(2019年以降)では、年齢に応じた目標体重(65歳未満では身長(m)²×22)と、上記に近い身体活動係数を用いる方式に改められている。『日本人の食事摂取基準』では、基礎代謝量と身体活動レベルから推定エネルギー必要量を算出するが、臨床では上記の簡便法がよく用いられる。

BMIによる肥満の判定(日本肥満学会)

18.5未満:低体重、18.5以上25未満:普通体重、25以上30未満:肥満1度、30以上35未満:肥満2度、35以上40未満:肥満3度、40以上:肥満4度(35以上は高度肥満)

高血圧の生活習慣修正

・減塩:食塩6 g/日未満 ・野菜・果物・魚(n-3系多価不飽和脂肪酸)の積極的摂取、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える(腎障害がある場合、カリウムを多く含む野菜・果物の積極的摂取は推奨されない) ・適正体重の維持:BMI 25未満を目標とする ・運動:軽強度の有酸素運動を中心に、毎日30分以上を目標とする ・節酒:エタノールで男性20〜30 mL/日以下、女性10〜20 mL/日以下 ・禁煙

食塩摂取の目標値の違い

一般の健康な人向けの『日本人の食事摂取基準』の目標量(2020年版以降:成人男性7.5 g/日未満、成人女性6.5 g/日未満。かつての2015年版では男性8.0 g/日未満、女性7.0 g/日未満)と、高血圧患者向けの目標(6 g/日未満)は異なる。高血圧患者にはより厳しい6 g/日未満が推奨される点を区別して覚える。

POINT

・適正摂取エネルギー=標準体重(身長(m)²×22)×身体活動量で求める。実体重ではなく標準体重を用いる。 ・デスクワークなど軽い労作は25〜30 kcal/kg標準体重/日。 ・本例:標準体重約71 kg × 25〜30 ≒ 1,780〜2,130 kcal/日 → 1,800 kcal/日。 ・高血圧患者の食塩摂取目標は6 g/日未満である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。