StudyMed医師国家試験

高齢者の鼻血は「鼻だけの問題」じゃない―止血を妨げる全身の背景を問診で見抜く

第109回医師国家試験 B問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第39問

Kiesselbach部位から出血している高齢者に聴取すべき既往はどれか。3つ選べ。

  1. a.脳梗塞
  2. b.白内障
  3. c.高血圧症
  4. d.肝機能障害
  5. e.慢性閉塞性肺疾患

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の鼻出血で問診のときに何を聞くべきかを考える問題だ。出血しているのは鼻の入り口近くでも、止まりにくさを左右するのは全身の状態であることが多い。止血の仕組みと結びつけて考えるのが着眼点だよ。
医学生医学生
Kiesselbach部位って、鼻中隔の前のほうにある血管が集まった場所でしたよね。耳鼻科の講義で、鼻血の大半はここからだと習いました。
ドクタードクター
その通り。鼻中隔の前下端で、前篩骨動脈、蝶口蓋動脈、大口蓋動脈、上唇動脈の枝が吻合して網目状の血管叢をつくっている。粘膜が薄くて指が届きやすく、乾燥にもさらされるから、鼻出血のおよそ8〜9割がここから起こるとされているんだ。
医学生医学生
子どもが鼻をいじって出血するイメージが強いです。それなら高齢者でも鼻を押さえれば済むのでは、と思ってしまいました。
ドクタードクター
小児や若年者なら局所の要因がほとんどで、圧迫で止まることが多い。でも高齢者は複数の病気を抱えて、薬もたくさん飲んでいることが多い。そうした全身的な背景が出血を起こしやすくしたり、止血を妨げたりするんだ。だから問診では「出血を助長する全身的要因はあるか」を意識する必要がある。
医学生医学生
止血の要素で整理するといいんでしょうか。生理学で一次止血と二次止血を習いました。
ドクタードクター
いい発想だね。血小板、凝固因子、線溶系、そして血管、つまり血管壁と血圧、の4つに分けて考えると整理しやすい。この枠組みで選択肢を見ていこう。まず脳梗塞はどうかな。
医学生医学生
脳梗塞そのものは鼻と関係なさそうですが……あ、再発予防の薬ですか。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。脳梗塞の既往があれば、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を飲んでいることが多い。心房細動が原因の心原性脳塞栓症なら、ワルファリンやDOACといった抗凝固薬だ。これらは鼻出血を起こしやすく、止まりにくくする。既往を聞くことは、実は服薬内容を確認することにつながるんだ。
医学生医学生
出血しているなら、すぐ薬を止めてもらえばいいですか。
ドクタードクター
そこは慎重に。休薬すれば今度は血栓塞栓症のリスクが上がる。自己判断で中止させず、処方医と相談して決めるのが原則だよ。次は高血圧症。
医学生医学生
循環器内科の実習で、鼻血で救急に来た患者さんの血圧がすごく高かったのを覚えています。圧が高いと勢いよく出るからですよね。
ドクタードクター
そう。血管内圧が高いと出血の勢いが強く、止血しにくい。長年の高血圧で動脈硬化が進むと、血管壁がうまく収縮できないことも止血を難しくする。高齢者ではKiesselbach部位より奥の後方出血を起こすこともあり、難治性鼻出血の重要な背景因子なんだ。ただし、鼻出血の不安や苦痛で一時的に血圧が上がることもあるから、来院時の測定と既往の確認はどちらも必要だね。
医学生医学生
肝機能障害は、凝固因子が作れなくなるからですね。
ドクタードクター
正解。肝臓はフィブリノゲンやプロトロンビンなど多くの凝固因子を合成しているから、肝硬変などではPTが延長する。さらに門脈圧亢進による脾機能亢進で血小板も減る。凝固と血小板の両面から出血傾向になるわけだ。アルコール多飲歴もあわせて聞いておきたい。では残りの白内障と慢性閉塞性肺疾患は?
医学生医学生
どちらも高齢者に多い病気なので迷いそうですが、止血の4要素のどれにも関わらないですね。
ドクタードクター
その判断で合っている。白内障は水晶体の混濁、COPDは喫煙による気流閉塞で、それ自体は血小板にも凝固にも血管の止血機能にも影響しない。「高齢者に多いから」ではなく「止血機構に関わるか」で選ぶことが大切だよ。
医学生医学生
脳梗塞、高血圧症、肝機能障害の3つですね。ほかにも聞いておくべき病歴はありますか。
ドクタードクター
腎不全は尿毒症で血小板機能が落ちるし、白血病や再生不良性貧血、ITPなどの血液疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症、いわゆるOsler病も鼻出血を繰り返す原因になる。初期対応も押さえておこう。座位でやや前かがみにして、血液は飲み込まずに吐き出してもらい、鼻翼を両側から10分以上しっかり圧迫する。これでちょうどKiesselbach部位を押さえることになる。
医学生医学生
OSCEの練習で、上を向かせるのは間違いだと言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
そう、上を向くと血液を飲み込んで嘔気の原因になるし、出血量も把握しにくい。圧迫で止まらなければ血管収縮薬と表面麻酔薬を含ませたガーゼでタンポンを行い、出血点が見えれば焼灼する。後方出血ならバルーンによる後鼻孔タンポン、さらに難治なら動脈結紮や血管内塞栓術も選択肢になる。高齢者の鼻出血では、処置と並行して全身の背景を確認する姿勢を忘れないでほしい。

まとめ

鼻出血の大部分は鼻中隔前下端のKiesselbach部位から起こり、小児や若年者では局所の要因が中心ですが、高齢者では止血を妨げる全身的背景の確認が欠かせません。止血機構を血小板・凝固・線溶・血管の4要素で整理すると、抗血小板薬や抗凝固薬の内服につながる脳梗塞、血管内圧を高め動脈硬化を伴う高血圧症、凝固因子の産生低下と血小板減少をきたす肝機能障害が聴取すべき既往とわかります。白内障やCOPDは高齢者に多いものの止血機構には影響しません。ほかにも腎不全、血液疾患、Osler病などが鼻出血の背景となり、抗血栓薬の休薬は処方医と相談して決めることが重要です。症状の局所だけでなく全身を見て問診を組み立てる姿勢は、あらゆる出血性疾患の診療に通じる基本です。

解答・解説

正解はa, c, dです

Kiesselbach部位(キーゼルバッハ部位)は鼻中隔前下端の粘膜で、前篩骨動脈・蝶口蓋動脈・大口蓋動脈・上唇動脈の枝が吻合して網目状の血管叢をつくっている。粘膜が薄く、指で触れやすく乾燥にもさらされやすいため、鼻出血の大部分(約80〜90%)はここから起こる。 小児や若年者のKiesselbach部位からの出血は、鼻いじりや乾燥など局所の要因によるものが大半で、圧迫で止まることが多い。一方、高齢者の鼻出血では、局所の要因に加えて全身的な背景が出血を起こしやすくしたり、止血を妨げたりしていることが少なくない。高齢者は複数の疾患を抱え、多くの薬を内服している(多病・多剤)ことが多いためである。 そこで病歴聴取では「出血を助長する全身的要因があるか」を意識する。止血に関わる要素は、(1)血小板、(2)凝固因子、(3)線溶系、(4)血管(血管壁と血圧)に分けて考えると整理しやすい。 ・血小板・凝固の異常をもたらす薬剤:抗血小板薬、抗凝固薬を内服する原因となる疾患(脳梗塞、心房細動、虚血性心疾患、深部静脈血栓症など) ・凝固因子の産生低下・血小板減少:肝機能障害(肝硬変など)、腎不全、血液疾患 ・血管側の要因:高血圧症、動脈硬化 選択肢のうち、これらの観点から出血に関係するものを選べばよい。白内障や慢性閉塞性肺疾患は、それ自体が止血機構に影響を与えるものではない。

選択肢考察

  1. ○a.  脳梗塞

    脳梗塞の既往がある患者は、再発予防のために抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど)を内服していることが多い。心原性脳塞栓症(心房細動などが原因)であれば、ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC:ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)といった抗凝固薬を内服している。これらの薬剤は止血を妨げ、鼻出血を起こしやすく、止まりにくくする。服薬内容の確認は止血処置や休薬の判断に直結するため、必ず聴取すべき既往である。なお、休薬は血栓塞栓症のリスクを伴うため、自己判断で中止させず処方医と相談して決める。

  2. ×b.  白内障

    白内障は水晶体が混濁する疾患で、加齢が最大の原因である。高齢者に多い疾患ではあるが、血小板・凝固系や血管の状態に影響を与えることはなく、鼻出血のリスクや止血のしやすさとは関係しない。したがって、鼻出血の診療で特に聴取すべき既往には当たらない。

  3. ○c.  高血圧症

    高血圧があると血管内圧が高いため、いったん出血すると血液が勢いよく出て、止血しにくくなる。長期の高血圧に伴う動脈硬化によって血管壁の収縮性が低下していることも、止血を難しくする要因である。高齢者の鼻出血では、Kiesselbach部位より奥の出血(後方出血)を起こすこともあり、高血圧は難治性鼻出血の重要な背景因子である。また、Ca拮抗薬など血管拡張作用をもつ降圧薬の影響も考慮される。鼻出血時は不安や疼痛で一時的に血圧が上がりやすいため、来院時の血圧測定と既往の確認はともに欠かせない。

  4. ○d.  肝機能障害

    肝臓はフィブリノゲンやプロトロンビンをはじめ多くの凝固因子を合成している。肝硬変など肝機能障害が進むと凝固因子の産生が低下し、プロトロンビン時間(PT)が延長する。さらに門脈圧亢進に伴う脾機能亢進で血小板が減少する。この両方の機序により出血傾向が生じるため、鼻出血が止まりにくくなる。アルコール多飲歴とあわせて聴取すべき既往である。

  5. ×e.  慢性閉塞性肺疾患

    慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に喫煙によって気道と肺胞が障害され、持続的な気流閉塞が生じる疾患である。COPDそのものが血小板や凝固系、血管の止血機能に影響を与えることはなく、鼻出血の要因として聴取すべき既往とはいえない。

鼻出血の好発部位

・Kiesselbach部位(鼻中隔前下端):鼻出血の大部分を占める。小児から成人まで多く、前鼻鏡で直接見える部位なので、圧迫や焼灼で止血しやすい。 ・鼻腔後方(蝶口蓋動脈領域など):高齢者や高血圧・動脈硬化のある患者に多い。出血量が多く、前方からは出血点が見えにくいため、止血に難渋することがある。

鼻出血の原因

・局所的要因:鼻いじり、外傷、乾燥、鼻炎・副鼻腔炎、鼻・副鼻腔の腫瘍など ・全身的要因:  血管の要因…高血圧症、動脈硬化、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)  血小板の要因…抗血小板薬、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、白血病・再生不良性貧血  凝固の要因…抗凝固薬、肝機能障害、血友病、von Willebrand病、ビタミンK欠乏  その他…腎不全(尿毒症による血小板機能低下)

鼻出血の初期対応

座位でやや前かがみにし、血液を飲み込まないよう口から吐き出させる。鼻翼を両側から指で10分以上しっかり圧迫する(Kiesselbach部位を押さえることになる)。止まらなければ、血管収縮薬と表面麻酔薬を含ませたガーゼでタンポンを行い、出血点が見えれば電気凝固や化学焼灼を行う。後方出血にはバルーンカテーテルなどによる後鼻孔タンポン、さらに難治例では動脈結紮や血管内塞栓術が選択される。

POINT

・鼻出血の大部分はKiesselbach部位から起こる。 ・高齢者の鼻出血では、出血傾向・止血困難をもたらす全身的背景を必ず確認する。 ・止血機構は血小板・凝固・線溶・血管の4要素で整理する。 ・脳梗塞(抗血小板薬・抗凝固薬の内服)、高血圧症、肝機能障害(凝固因子低下・血小板減少)が代表的な聴取項目である。 ・白内障、COPDは止血機構に影響せず、鼻出血とは関係しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。