吐いてもすぐ欲しがる赤ちゃん―肥厚性幽門狭窄症は「詰まる場所」から症状が読み解ける
第109回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
肥厚性幽門狭窄症で正しいのはどれか。
- a.女児に多い
- b.胆汁性嘔吐
- c.哺乳力の不良
- d.胃蠕動の亢進
- e.生後7日以内の発症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肥厚性幽門狭窄症は、幽門輪状筋が生後しだいに肥厚して胃の出口が狭くなる疾患で、第1子の男児に多く、生後2〜3週ごろから非胆汁性の噴水状嘔吐で発症します。狭い出口に向けて胃が強く収縮するため胃蠕動が亢進し、蠕動波や右上腹部のオリーブ様腫瘤が身体所見の手がかりとなり、哺乳意欲は保たれて吐いた後もミルクを欲しがります。胃液喪失による低Cl性・低K性代謝性アルカローシスを輸液で補正してからRamstedt手術を行うのが治療の原則です。閉塞部位がVater乳頭より口側か肛門側かで胆汁性嘔吐の有無が決まるという考え方は、中腸軸捻転などの緊急疾患を見逃さないための乳児嘔吐の鑑別全般に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
問われているテーマ
肥厚性幽門狭窄症は、胃の出口である幽門部の輪状筋(平滑筋)が生後しだいに肥厚し、幽門管が狭く長くなって、胃から十二指腸への通過が障害される疾患である。出生時には明らかでなく、生後数週で症状が現れる後天性の病態と考えられており、原因は完全には解明されていないが、遺伝的素因に加えて、幽門筋の弛緩に関わる一酸化窒素(NO)作動性神経の異常などが想定されている。
病態から症状を導く
・閉塞部位が幽門、すなわち十二指腸乳頭(Vater乳頭:胆汁・膵液の出口)より口側にあるため、吐物に胆汁が混じらない(非胆汁性嘔吐)。 ・狭い出口に対して胃が強く収縮して内容物を押し出そうとするため、胃の蠕動が亢進し、哺乳後に噴水のような勢いの強い嘔吐(噴水状嘔吐)が起こる。やせた腹壁を通して、左上腹部から右へ移動する胃の蠕動波が見えることがある。 ・肥厚した幽門筋は、右上腹部(心窩部のやや右)にオリーブの実のような硬い腫瘤として触れることがある(オリーブ様腫瘤)。 ・胃そのものの機能や哺乳意欲には問題がないため、吐いた後もすぐにミルクを欲しがる。 ・嘔吐が続くと、胃液中の塩酸(H⁺とCl⁻)が失われ、低Cl血症・低K血症を伴う代謝性アルカローシスとなる。脱水・体重増加不良・体重減少もきたす。
正解を導く考え方
好発時期(生後2〜3週)、性差(男児に多い)、嘔吐の性状(非胆汁性・噴水状)、哺乳意欲(良好)、身体所見(胃蠕動の亢進・オリーブ様腫瘤)という典型像を押さえていれば、各選択肢の正誤を判断できる。
選択肢考察
- ×a. 女児に多い
誤り。男児に多く、男女比はおよそ4〜5:1である。特に第1子の男児に多いとされる。家族内発生もみられ、親が本症の既往をもつ場合に子の発症率が高いことから、遺伝的素因の関与が考えられている。
- ×b. 胆汁性嘔吐
誤り。胆汁は十二指腸下行部のVater乳頭から腸管内に排出される。本症の閉塞部位はそれより口側の幽門であるため、胆汁は胃内に逆流せず、吐物は乳汁や胃液からなる非胆汁性(白色〜乳白色)の嘔吐となる。新生児・乳児の胆汁性(緑色)嘔吐は、Vater乳頭より肛門側の閉塞を示唆し、腸回転異常症に伴う中腸軸捻転、十二指腸閉鎖・狭窄(乳頭より肛門側の場合)、小腸閉鎖などを疑う重要な警告徴候である。
- ×c. 哺乳力の不良
誤り。本症は幽門の機械的な通過障害であり、児自身の哺乳意欲や吸啜力は保たれている。嘔吐した直後でも空腹を訴えるようにミルクを欲しがるのが特徴である。ただし、診断が遅れて高度の脱水や電解質異常に陥ると、活気が低下して哺乳が弱くなることはある。哺乳力の不良が前景に立つ場合は、敗血症や髄膜炎などの感染症、先天性心疾患、代謝疾患、中枢神経疾患などを考える必要がある。
- ○d. 胃蠕動の亢進
幽門が狭窄しているため、胃は内容物を十二指腸へ送り出そうとして強く収縮し、蠕動が亢進する。哺乳後に腹部を観察すると、左上腹部から右上腹部へ向かってゆっくり移動する波状の膨隆(胃の蠕動波)が見えることがあり、本症に特徴的な身体所見である。この強い胃の収縮が、噴水状嘔吐の原因にもなっている。
- ×e. 生後7日以内の発症
誤り。出生直後は症状がなく、生後2〜3週ごろから嘔吐が始まり、しだいに頻度と勢いを増していくのが典型的な経過である。発症はおおむね生後2週〜2か月の間に多い。生後数日以内に嘔吐で発症する消化管閉塞としては、食道閉鎖症、十二指腸閉鎖症、小腸閉鎖症、腸回転異常症などを考える。
疫学
出生1,000人あたり1〜2人程度の頻度で発生する。男児、特に第1子に多い。新生児期のエリスロマイシンなどマクロライド系抗菌薬の投与が発症リスクを高めることが知られている(モチリン受容体作動作用による幽門筋の強い収縮が関与すると考えられている)。
検査
・腹部超音波検査:診断の第一選択である。肥厚した幽門筋がドーナツ状(短軸像)やラグビーボール状(長軸像)に描出される。幽門筋の厚さがおよそ4mm以上、幽門管の長さがおよそ15mm以上が診断の目安とされる。 ・上部消化管造影:超音波で診断がつかない場合に行う。幽門管が細く長く伸びた像(string sign)、肥厚筋が胃前庭部や十二指腸球部に食い込む像(shoulder sign、umbrella sign)などがみられる。 ・腹部単純X線:拡張した胃泡と、腸管ガスの減少がみられる。 ・血液検査:低Cl血症、低K血症、代謝性アルカローシス(HCO₃⁻上昇)。
電解質異常の機序
胃液の喪失でH⁺とCl⁻が失われ、代謝性アルカローシスとなる。脱水により腎はNa⁺を再吸収しようとし、アルドステロンの作用でK⁺とH⁺の尿中排泄が促される。低K血症が進むと、アルカローシスであるにもかかわらず酸性尿となることがある(奇異性酸性尿)。
治療
・術前にまず輸液で脱水と電解質異常(特に低Cl血症・代謝性アルカローシス)を補正する。アルカローシスが残った状態で全身麻酔を行うと、術後の呼吸抑制(無呼吸)の危険があるため、補正は手術より優先される。 ・根治的治療は粘膜外幽門筋切開術(Ramstedt手術)で、幽門の粘膜は切らずに肥厚した筋層のみを縦に切開する。開腹または腹腔鏡下で行われ、予後は良好である。 ・日本では、硫酸アトロピン(抗コリン薬)の静注・経口による内科的治療が選択されることもあるが、治療期間が長く、効果が不十分な場合は手術に移行する。
新生児・乳児の嘔吐の鑑別の要点
・非胆汁性嘔吐:肥厚性幽門狭窄症、胃食道逆流、噴門弛緩症、Vater乳頭より口側の十二指腸狭窄など。 ・胆汁性嘔吐:中腸軸捻転(緊急)、十二指腸閉鎖(乳頭より肛門側)、小腸閉鎖、Hirschsprung病、胎便性イレウスなど。
POINT
・幽門輪状筋の肥厚による胃出口の通過障害。第1子の男児に多い(男女比4〜5:1)。 ・生後2〜3週ごろから、非胆汁性の噴水状嘔吐が始まる。 ・吐いてもミルクを欲しがる(哺乳意欲は良好)。 ・腹部所見:胃の蠕動波の観察、右上腹部のオリーブ様腫瘤。 ・検査:低Cl性・低K性代謝性アルカローシス、超音波で幽門筋の肥厚。 ・治療:電解質補正を先に行い、Ramstedt手術(粘膜外幽門筋切開術)。
