StudyMed医師国家試験

「酸素が少なめ」と「酸素が毒」は別物―微好気性菌のワナを越えて嫌気性菌を見抜く

第109回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第10問

嫌気性菌はどれか。

  1. a.Campylobacter jejuni
  2. b.Clostridium difficile
  3. c.Helicobacter pylori
  4. d.Mycobacterium tuberculosis
  5. e.Pseudomonas aeruginosa

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は細菌を酸素との関係で分類できるかを問う問題だ。ポイントは「嫌気性菌」と、名前の印象で混同しやすい「微好気性菌」をきちんと区別できるかどうか。まず、細菌を酸素の要求性で分けるとどんなグループがあるか挙げてみよう。
医学生医学生
微生物学の講義では、偏性好気性、通性嫌気性、偏性嫌気性の3つに分けたと記憶しています。
ドクタードクター
大枠はそれでいい。ただもう一つ、微好気性菌というグループを加えておく必要がある。大気の酸素濃度は約21%だけれど、それより低い5〜10%程度でよく増え、大気条件でも無酸素条件でも育ちにくい菌たちだ。
医学生医学生
酸素が少ない方が好きなら、嫌気性菌の仲間と考えてもよさそうに思えますが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。微好気性菌は酸素を「少しは必要とする」菌で、酸素があると増殖できない偏性嫌気性菌とは別物なんだ。偏性嫌気性菌が酸素に弱いのは、酸素から生じるスーパーオキシドや過酸化水素を分解するカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼを十分にもたないから。彼らにとって酸素はむしろ毒なんだよ。
医学生医学生
なるほど。そうするとCampylobacterとHelicobacterは微好気性菌ですね。どちらもらせん状のGram陰性菌でした。
ドクタードクター
その通り。Campylobacterは酸素濃度を下げた条件と42℃前後の比較的高い温度で培養する。鶏肉の加熱不足などで起こる、わが国の主要な細菌性食中毒の原因菌で、潜伏期が2〜5日とやや長いのが特徴だ。感染後にGuillain-Barré症候群を合併することがある点も大事だね。
医学生医学生
Helicobacterはウレアーゼでアンモニアを作って胃酸を中和するんですよね。消化器内科の実習で、尿素呼気試験をしている患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい経験だね。慢性胃炎、消化性潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫の原因となる菌で、これも微好気性であって嫌気性菌ではない。では結核菌はどうかな。
医学生医学生
結核は肺尖部に多いので、酸素が好きな菌ということでしょうか。
ドクタードクター
そう、結核菌は偏性好気性菌で、酸素分圧の高い肺尖部に病変をつくりやすいことと関連づけて説明される。増殖が非常に遅く、小川培地や液体培養で判定まで数週間かかるのも特徴だ。診断は塗抹、培養、核酸増幅法が中心で、ツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験は感染の有無を補助的にみる検査だよ。
医学生医学生
緑膿菌も好気性でしたよね。ICUで人工呼吸器関連肺炎の原因菌として出てきました。
ドクタードクター
その通り、緑膿菌も偏性好気性のGram陰性桿菌だ。健常者には病原性が弱いけれど、湿った環境に広く存在し、多くの抗菌薬に自然耐性をもつため、カテーテル関連感染や熱傷創感染などの日和見感染を起こす。緑色の色素産生も特徴だ。
医学生医学生
ということで、残るClostridium difficileが嫌気性菌ですね。
ドクタードクター
正解。偏性嫌気性のGram陽性桿菌で、芽胞をつくる。現在はClostridioides difficileという属名に変わっているから、両方の名前に慣れておこう。抗菌薬で腸内細菌叢が乱れると異常増殖し、トキシンAとトキシンBを産生して抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎を起こすんだ。
医学生医学生
芽胞があるということは、アルコール消毒が効きにくいということですか。
ドクタードクター
まさにそこが感染対策の要だ。芽胞は乾燥やアルコールに強いから、病棟では流水と石けんによる手洗いが基本になる。診断は便中のトキシン検査やGDH抗原検査、遺伝子検査で行い、原因となった抗菌薬をできるだけ中止したうえで、経口バンコマイシンやフィダキソマイシン、メトロニダゾールなどで治療する。危険因子として抗菌薬使用、高齢、入院、プロトンポンプ阻害薬の使用も覚えておきたい。
医学生医学生
ほかの代表的な嫌気性菌も整理しておきたいです。
ドクタードクター
Clostridium属なら破傷風菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌。Gram陰性桿菌ならBacteroides fragilisやPrevotella、Fusobacteriumが代表だ。腸管や口腔の常在菌が多く、肺膿瘍や腹腔内膿瘍、誤嚥性肺炎などを起こし、悪臭のある膿やガス産生が手がかりになる。
医学生医学生
治療で気をつけることはありますか。
ドクタードクター
アミノグリコシド系は嫌気条件では菌体内に取り込まれにくく、嫌気性菌には効かない。メトロニダゾール、クリンダマイシン、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン、カルバペネムなどを選ぶ。それから検体は空気に触れないよう嫌気ポーターで運ぶこと。せっかく採った膿も、酸素に曝されれば菌が死んで培養で生えてこないからね。

まとめ

細菌は酸素との関係から、偏性好気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌、偏性嫌気性菌に分類されます。偏性嫌気性菌は活性酸素を処理する酵素が乏しく酸素下で増殖できない菌で、芽胞をもつGram陽性桿菌のClostridioides(旧Clostridium)difficileがその代表であり、抗菌薬投与後の偽膜性大腸炎の原因となります。CampylobacterやHelicobacter pyloriは低酸素を好む微好気性菌、結核菌や緑膿菌は偏性好気性菌であり、嫌気性菌とは区別されます。嫌気性菌感染症では悪臭膿やガス産生が手がかりとなり、アミノグリコシドが無効であること、検体を嫌気ポーターで輸送すること、C. difficileの芽胞にはアルコールが効きにくく石けんと流水の手洗いが重要であることなど、分類の知識は検査・治療・感染対策の判断に直結します。

解答・解説

正解はbです

細菌は、増殖に酸素を必要とするかどうか、また酸素にどの程度耐えられるかによって分類される。代表的な区分は次のとおりである。 ・偏性好気性菌:酸素がないと増殖できない(例:結核菌、緑膿菌)。 ・通性嫌気性菌:酸素があってもなくても増殖できる(例:大腸菌、黄色ブドウ球菌)。 ・微好気性菌:大気中(約21%)より低い酸素濃度(おおむね5〜10%程度)でよく増殖し、大気条件でも無酸素条件でも育ちにくい(例:カンピロバクター、ヘリコバクター)。 ・偏性嫌気性菌:酸素があると増殖できず、多くは酸素に曝されると死滅する(例:クロストリジウム属、バクテロイデス属)。 偏性嫌気性菌が酸素に弱いのは、酸素から生じる活性酸素(スーパーオキシド、過酸化水素)を分解するカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼ〈SOD〉を十分にもたないためである。 本問の「嫌気性菌」は偏性嫌気性菌を指すと考えてよい。選択肢のうち、カンピロバクターとヘリコバクターは「酸素が少なめを好む」微好気性菌であり、嫌気性菌とは区別される点が紛らわしい。偏性嫌気性菌として典型的なのは芽胞形成性のGram陽性桿菌であるクロストリジウム属であり、Clostridium difficileが該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  Campylobacter jejuni

    微好気性のGram陰性らせん状桿菌(S字状・カモメ状と表現される)で、嫌気性菌ではない。培養には酸素濃度を下げた微好気条件と42℃前後の比較的高い温度が用いられる。鶏肉やその内臓(加熱不十分な鶏肉料理・鶏刺しなど)のほか、ウシの内臓からも検出され、わが国の細菌性食中毒の主要な原因菌の一つである。潜伏期は2〜5日程度とやや長く、下痢・腹痛・発熱・血便を起こす。感染後にGuillain-Barré症候群を合併することがある点も重要である。

  2. ○b.  Clostridium difficile

    偏性嫌気性のGram陽性桿菌で、鞭毛と芽胞をもつ。現在はClostridioides difficileと属名が変更されている。芽胞は酸素・乾燥・アルコール消毒に強く、院内で環境や手指を介して伝播する。抗菌薬投与により腸内細菌叢が乱れると本菌が異常増殖し、トキシンA・トキシンBを産生して抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎を起こす。したがって嫌気性菌に該当する。

  3. ×c.  Helicobacter pylori

    微好気性のGram陰性らせん状菌で、複数の鞭毛をもつ。嫌気性菌ではない。ウレアーゼで尿素からアンモニアを産生して胃酸を中和し、胃粘膜に定着する。慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫などの原因となり、感染者には除菌治療が強く推奨される。

  4. ×d.  Mycobacterium tuberculosis

    偏性好気性の抗酸菌で、結核の原因菌である。酸素分圧の高い肺尖部に病変をつくりやすいのは、好気性であることと関係すると説明される。増殖が非常に遅く(分裂に十数時間以上かかる)、通常の寒天培地ではなく小川培地などの専用培地や液体培養(MGITなど)を用い、判定まで数週間を要する。診断には塗抹(Ziehl-Neelsen染色など)、培養、核酸増幅法(PCRなど)を行い、感染の有無の補助としてツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験〈IGRA〉が用いられる。

  5. ×e.  Pseudomonas aeruginosa

    緑膿菌と呼ばれる好気性(偏性好気性)のGram陰性桿菌である。健常者には病原性が弱いが、湿潤環境に広く存在し、多くの抗菌薬に自然耐性をもつため、免疫不全者や入院患者でカテーテル関連感染、人工呼吸器関連肺炎、尿路感染、熱傷創感染などの日和見感染を起こす。緑色色素(ピオシアニン)産生やブドウ様の特有の臭いが特徴である。

主な偏性嫌気性菌

・Gram陽性桿菌(芽胞あり):Clostridium属(破傷風菌 C. tetani、ボツリヌス菌 C. botulinum、ウェルシュ菌 C. perfringens)、Clostridioides difficile ・Gram陽性桿菌(芽胞なし):Cutibacterium(旧Propionibacterium)acnes、Actinomyces israelii など ・Gram陽性球菌:Peptostreptococcus属など ・Gram陰性桿菌:Bacteroides fragilis、Prevotella属、Fusobacterium属、Porphyromonas属 など

微好気性菌

Campylobacter属、Helicobacter pylori、Treponema pallidum(梅毒)などが代表である。「嫌気性菌」と混同しやすいので注意する。

偏性好気性菌

Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Bordetella pertussis、Legionella pneumophila、Neisseria属、Nocardia属などがある。

嫌気性菌感染症の特徴

腸管・口腔・女性生殖器の常在菌が多く、深部膿瘍(肺膿瘍、腹腔内膿瘍、脳膿瘍)、誤嚥性肺炎、壊死性軟部組織感染などを起こす。悪臭のある膿、ガス産生が手がかりとなる。検体は空気に触れないよう嫌気ポーターで輸送する。アミノグリコシド系は嫌気条件下で菌体内に取り込まれにくく無効であり、メトロニダゾール、クリンダマイシン、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン、カルバペネムなどが用いられる。

C. difficile感染症〈CDI〉

抗菌薬使用、高齢、入院、プロトンポンプ阻害薬使用などが危険因子である。便中トキシン検査やGDH(グルタミン酸脱水素酵素)抗原検査、遺伝子検査で診断し、原因抗菌薬の中止のうえでメトロニダゾールやバンコマイシン(経口)、フィダキソマイシンで治療する。芽胞にはアルコールが効きにくいため、流水と石けんによる手洗いが感染対策の基本である。

POINT

・偏性嫌気性菌の代表はClostridium属(C. difficile、破傷風菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌)とBacteroides属。 ・Campylobacter、Helicobacterは「微好気性」であり嫌気性菌ではない。 ・結核菌、緑膿菌は偏性好気性。 ・C. difficileは抗菌薬投与後の偽膜性大腸炎の原因で、芽胞はアルコール抵抗性。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。