「酸素が少なめ」と「酸素が毒」は別物―微好気性菌のワナを越えて嫌気性菌を見抜く
第109回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
嫌気性菌はどれか。
- a.Campylobacter jejuni
- b.Clostridium difficile
- c.Helicobacter pylori
- d.Mycobacterium tuberculosis
- e.Pseudomonas aeruginosa
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細菌は酸素との関係から、偏性好気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌、偏性嫌気性菌に分類されます。偏性嫌気性菌は活性酸素を処理する酵素が乏しく酸素下で増殖できない菌で、芽胞をもつGram陽性桿菌のClostridioides(旧Clostridium)difficileがその代表であり、抗菌薬投与後の偽膜性大腸炎の原因となります。CampylobacterやHelicobacter pyloriは低酸素を好む微好気性菌、結核菌や緑膿菌は偏性好気性菌であり、嫌気性菌とは区別されます。嫌気性菌感染症では悪臭膿やガス産生が手がかりとなり、アミノグリコシドが無効であること、検体を嫌気ポーターで輸送すること、C. difficileの芽胞にはアルコールが効きにくく石けんと流水の手洗いが重要であることなど、分類の知識は検査・治療・感染対策の判断に直結します。
解答・解説
正解はbです
細菌は、増殖に酸素を必要とするかどうか、また酸素にどの程度耐えられるかによって分類される。代表的な区分は次のとおりである。 ・偏性好気性菌:酸素がないと増殖できない(例:結核菌、緑膿菌)。 ・通性嫌気性菌:酸素があってもなくても増殖できる(例:大腸菌、黄色ブドウ球菌)。 ・微好気性菌:大気中(約21%)より低い酸素濃度(おおむね5〜10%程度)でよく増殖し、大気条件でも無酸素条件でも育ちにくい(例:カンピロバクター、ヘリコバクター)。 ・偏性嫌気性菌:酸素があると増殖できず、多くは酸素に曝されると死滅する(例:クロストリジウム属、バクテロイデス属)。 偏性嫌気性菌が酸素に弱いのは、酸素から生じる活性酸素(スーパーオキシド、過酸化水素)を分解するカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼ〈SOD〉を十分にもたないためである。 本問の「嫌気性菌」は偏性嫌気性菌を指すと考えてよい。選択肢のうち、カンピロバクターとヘリコバクターは「酸素が少なめを好む」微好気性菌であり、嫌気性菌とは区別される点が紛らわしい。偏性嫌気性菌として典型的なのは芽胞形成性のGram陽性桿菌であるクロストリジウム属であり、Clostridium difficileが該当する。
選択肢考察
- ×a. Campylobacter jejuni
微好気性のGram陰性らせん状桿菌(S字状・カモメ状と表現される)で、嫌気性菌ではない。培養には酸素濃度を下げた微好気条件と42℃前後の比較的高い温度が用いられる。鶏肉やその内臓(加熱不十分な鶏肉料理・鶏刺しなど)のほか、ウシの内臓からも検出され、わが国の細菌性食中毒の主要な原因菌の一つである。潜伏期は2〜5日程度とやや長く、下痢・腹痛・発熱・血便を起こす。感染後にGuillain-Barré症候群を合併することがある点も重要である。
- ○b. Clostridium difficile
偏性嫌気性のGram陽性桿菌で、鞭毛と芽胞をもつ。現在はClostridioides difficileと属名が変更されている。芽胞は酸素・乾燥・アルコール消毒に強く、院内で環境や手指を介して伝播する。抗菌薬投与により腸内細菌叢が乱れると本菌が異常増殖し、トキシンA・トキシンBを産生して抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎を起こす。したがって嫌気性菌に該当する。
- ×c. Helicobacter pylori
微好気性のGram陰性らせん状菌で、複数の鞭毛をもつ。嫌気性菌ではない。ウレアーゼで尿素からアンモニアを産生して胃酸を中和し、胃粘膜に定着する。慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫などの原因となり、感染者には除菌治療が強く推奨される。
- ×d. Mycobacterium tuberculosis
偏性好気性の抗酸菌で、結核の原因菌である。酸素分圧の高い肺尖部に病変をつくりやすいのは、好気性であることと関係すると説明される。増殖が非常に遅く(分裂に十数時間以上かかる)、通常の寒天培地ではなく小川培地などの専用培地や液体培養(MGITなど)を用い、判定まで数週間を要する。診断には塗抹(Ziehl-Neelsen染色など)、培養、核酸増幅法(PCRなど)を行い、感染の有無の補助としてツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験〈IGRA〉が用いられる。
- ×e. Pseudomonas aeruginosa
緑膿菌と呼ばれる好気性(偏性好気性)のGram陰性桿菌である。健常者には病原性が弱いが、湿潤環境に広く存在し、多くの抗菌薬に自然耐性をもつため、免疫不全者や入院患者でカテーテル関連感染、人工呼吸器関連肺炎、尿路感染、熱傷創感染などの日和見感染を起こす。緑色色素(ピオシアニン)産生やブドウ様の特有の臭いが特徴である。
主な偏性嫌気性菌
・Gram陽性桿菌(芽胞あり):Clostridium属(破傷風菌 C. tetani、ボツリヌス菌 C. botulinum、ウェルシュ菌 C. perfringens)、Clostridioides difficile ・Gram陽性桿菌(芽胞なし):Cutibacterium(旧Propionibacterium)acnes、Actinomyces israelii など ・Gram陽性球菌:Peptostreptococcus属など ・Gram陰性桿菌:Bacteroides fragilis、Prevotella属、Fusobacterium属、Porphyromonas属 など
微好気性菌
Campylobacter属、Helicobacter pylori、Treponema pallidum(梅毒)などが代表である。「嫌気性菌」と混同しやすいので注意する。
偏性好気性菌
Mycobacterium tuberculosis、Pseudomonas aeruginosa、Bordetella pertussis、Legionella pneumophila、Neisseria属、Nocardia属などがある。
嫌気性菌感染症の特徴
腸管・口腔・女性生殖器の常在菌が多く、深部膿瘍(肺膿瘍、腹腔内膿瘍、脳膿瘍)、誤嚥性肺炎、壊死性軟部組織感染などを起こす。悪臭のある膿、ガス産生が手がかりとなる。検体は空気に触れないよう嫌気ポーターで輸送する。アミノグリコシド系は嫌気条件下で菌体内に取り込まれにくく無効であり、メトロニダゾール、クリンダマイシン、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン、カルバペネムなどが用いられる。
C. difficile感染症〈CDI〉
抗菌薬使用、高齢、入院、プロトンポンプ阻害薬使用などが危険因子である。便中トキシン検査やGDH(グルタミン酸脱水素酵素)抗原検査、遺伝子検査で診断し、原因抗菌薬の中止のうえでメトロニダゾールやバンコマイシン(経口)、フィダキソマイシンで治療する。芽胞にはアルコールが効きにくいため、流水と石けんによる手洗いが感染対策の基本である。
POINT
・偏性嫌気性菌の代表はClostridium属(C. difficile、破傷風菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌)とBacteroides属。 ・Campylobacter、Helicobacterは「微好気性」であり嫌気性菌ではない。 ・結核菌、緑膿菌は偏性好気性。 ・C. difficileは抗菌薬投与後の偽膜性大腸炎の原因で、芽胞はアルコール抵抗性。
