StudyMed医師国家試験

「内」の名に惑わされるな―腹腔の中にとどまる網嚢孔ヘルニア

第109回医師国家試験 A問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第8問

内ヘルニアはどれか。

  1. a.大腿ヘルニア
  2. b.内鼠径ヘルニア
  3. c.閉鎖孔ヘルニア
  4. d.網嚢孔ヘルニア
  5. e.腹壁瘢痕ヘルニア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ヘルニアを「外ヘルニア」と「内ヘルニア」に分類できるかを問う問題だ。着眼点はひとつだけ。脱出した臓器が腹腔の外へ出るのか、腹腔の中にとどまるのか。まずはヘルニアの定義から確認しよう。
医学生医学生
臓器が本来の場所から、ヘルニア門という裂け目を通って別の場所に飛び出した状態、ですよね。
ドクタードクター
その通り。そのうち外ヘルニアは、腹腔内の臓器が壁側腹膜でできたヘルニア嚢に包まれたまま、腹壁や骨盤壁の弱いところを通って皮下や大腿部など腹腔の外へ出るもの。臨床で出会うヘルニアのほとんどがこちらだ。一方の内ヘルニアは、腹腔の外には出ずに、腹腔内の生理的な陥凹や孔、腸間膜の異常な裂孔に入り込むものをいう。
医学生医学生
それなら、名前に「内」が付いている内鼠径ヘルニアが答えではないんですか。
ドクタードクター
そう考える人が多いから、まさに出題者の狙いどころだね。内鼠径ヘルニアの「内」は、下腹壁動静脈より内側、つまり正中寄りから出るという位置を示しているだけなんだ。Hesselbach三角の弱くなった鼠径管後壁から直接前方へ出るので直接鼠径ヘルニアとも呼ばれ、脱出先は腹腔の外。だから外ヘルニアだ。
医学生医学生
解剖学実習で下腹壁動静脈を確認して、その外側の内鼠径輪から出るのが外鼠径ヘルニア、内側が内鼠径ヘルニアと習いました。どちらも外ヘルニアなんですね。
ドクタードクター
そういうこと。内鼠径ヘルニアは加齢による筋膜の脆弱化が原因で高齢男性に多く、外鼠径ヘルニアは腹膜鞘状突起の開存が背景で小児から成人まで幅広くみられる。では大腿ヘルニアはどうだろう。
医学生医学生
鼠径靱帯の下から大腿のほうへ出てくるので、外ヘルニアですね。
ドクタードクター
正解。大腿静脈の内側にある大腿輪から大腿管を通って、鼠径靱帯より足側の皮下に膨隆する。中高年の女性、特に経産婦に多く、ヘルニア門が狭くて硬いので嵌頓しやすいのが特徴だ。腹壁瘢痕ヘルニアも、開腹手術後の筋膜の癒合不全部から臓器が皮下へ膨出するので外ヘルニアだね。
医学生医学生
閉鎖孔ヘルニアは骨盤の奥なので、体の中にとどまっている感じがして迷いました。
ドクタードクター
その迷いはよくわかる。でも閉鎖孔ヘルニアは閉鎖管を通って大腿内側の恥骨筋の深部へ出るから、やはり腹腔の外、外ヘルニアだ。深いところに出るので体表から膨隆がわかりにくく、腸閉塞で発症してCTで初めて見つかることが多い。痩せた高齢の経産婦に多いことと、閉鎖神経の圧迫で大腿内側から膝に痛みが走るHowship-Romberg徴候は必ず覚えておこう。
医学生医学生
そうすると、残る網嚢孔ヘルニアが内ヘルニアですね。
ドクタードクター
その通り。網嚢孔、別名Winslow孔は、腹腔の大部分を占める大腹膜腔と胃の後ろにある網嚢をつなぐ孔だ。前方が肝十二指腸間膜、後方が下大静脈に囲まれている。この孔から小腸や固定の緩い盲腸などが網嚢内に入り込むのが網嚢孔ヘルニアで、臓器は腹腔の外に出ていないから内ヘルニアになる。
医学生医学生
肝十二指腸間膜には総胆管、固有肝動脈、門脈が通っているので、Pringle法で押さえる場所のすぐ後ろが網嚢孔ということですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。解剖の知識がそのまま臨床につながる良い例だ。内ヘルニアにはほかに、比較的多い傍十二指腸ヘルニア、腸間膜裂孔ヘルニア、それに胃切除後のRoux-en-Y再建などで生じたPetersen間隙に小腸が入り込む術後内ヘルニアがある。
医学生医学生
内ヘルニアは外から膨らみが見えないので、身体診察だけでは見つけにくそうです。
ドクタードクター
まさにそこが臨床上の注意点だ。開腹歴のない人に原因のはっきりしない腸閉塞が起きたら、まず鼠径部・大腿部・閉鎖孔の外ヘルニアを確認し、同時に内ヘルニアも鑑別に挙げて腹部造影CTで腸管の位置異常や腸間膜血管の走行異常を評価する。嵌頓して絞扼性腸閉塞になれば腸管壊死に至るから、緊急手術のタイミングを逃さないことが大切なんだ。

まとめ

腹部のヘルニアは、臓器が腹腔外へ脱出する外ヘルニアと、腹腔内の孔・陥凹や異常裂孔に入り込む内ヘルニアに分けられます。大腿ヘルニア、内鼠径ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアはいずれも外ヘルニアで、内鼠径ヘルニアの「内」は下腹壁動静脈の内側という位置を示すにすぎません。網嚢孔(Winslow孔)ヘルニアは大腹膜腔と網嚢をつなぐ孔に腸管が入り込む内ヘルニアで、傍十二指腸ヘルニアや術後内ヘルニアも同じ仲間です。内ヘルニアは体表から膨隆として触れないため、開腹歴のない腸閉塞では鑑別に挙げて造影CTで評価し、絞扼を見逃さないことが重要です。「臓器がどこへ出るか」という視点で整理すると、名称に惑わされずにヘルニアを正しく分類できます。

解答・解説

正解はdです

問われているテーマ

ヘルニアとは、臓器や組織が本来あるべき腔から、先天的または後天的に生じた裂隙(ヘルニア門)を通って別の場所へ脱出した状態をいう。腹部のヘルニアは、脱出する先によって大きく2つに分けられる。 ・外ヘルニア:腹腔内の臓器が、壁側腹膜でできた袋(ヘルニア嚢)に包まれたまま、腹壁や骨盤壁の弱い部分を通って腹腔の外(皮下や大腿部など)へ脱出するもの。鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、臍ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアなど、臨床で遭遇するヘルニアの大部分がこれにあたる。 ・内ヘルニア:臓器が腹腔の外へは出ず、腹腔内に存在する生理的な陥凹・孔、あるいは腸間膜や大網の異常な裂孔に入り込むもの。網嚢孔ヘルニア、傍十二指腸ヘルニア、腸間膜裂孔ヘルニア、大網裂孔ヘルニア、盲腸周囲ヘルニア、S状結腸間膜窩ヘルニアなどがある。

正解を導く考え方

各選択肢について「脱出した臓器が腹腔の外に出るのか、腹腔の中にとどまるのか」を考えればよい。名前に「内」が付く内鼠径ヘルニアは、鼠径部の腹壁から体外方向へ脱出する外ヘルニアであり、内ヘルニアとは別物である点に注意する。網嚢孔(Winslow孔)は腹腔の本体(大腹膜腔)と網嚢をつなぐ腹腔内の孔であり、ここに腸管が入り込む網嚢孔ヘルニアが内ヘルニアである。

臨床的な特徴

内ヘルニアは体表から膨隆として触れないため、身体診察だけでは診断が難しい。開腹歴のない人に原因不明の腸閉塞が起きたときには、外ヘルニア(特に鼠径部・大腿部・閉鎖孔)を確認するとともに、内ヘルニアも鑑別に挙げ、腹部造影CTで腸管の位置異常や腸間膜血管の走行異常を評価することが大切である。内ヘルニアは嵌頓して絞扼性腸閉塞に至ると腸管壊死をきたすため、緊急手術が必要となる。

選択肢考察

  1. ×a.  大腿ヘルニア

    外ヘルニアである。鼠径靱帯の下で大腿静脈の内側にある大腿輪をヘルニア門とし、大腿管を通って大腿前面の卵円窩(伏在裂孔)付近の皮下に脱出する。鼠径靱帯より尾側(足側)に膨隆を触れるのが特徴で、骨盤が広い中高年の女性、特に経産婦に多い。ヘルニア門が狭く硬いため嵌頓しやすく、腸管壁の一部だけがはまり込むRichterヘルニアの形をとることもある。

  2. ×b.  内鼠径ヘルニア

    外ヘルニアである。名称に「内」が付くが、これは下腹壁動静脈より内側(正中寄り)から脱出するという位置を示しているだけで、脱出先は腹腔外である。Hesselbach三角(下腹壁動静脈・腹直筋外縁・鼠径靱帯に囲まれた領域)の脆弱になった鼠径管後壁(横筋筋膜)から直接前方へ脱出するため、直接鼠径ヘルニアともよばれる。加齢による筋膜の脆弱化が原因で、高齢男性に多い。これに対し、下腹壁動静脈の外側にある内鼠径輪から鼠径管に沿って脱出するものが外鼠径ヘルニア(間接鼠径ヘルニア)であり、腹膜鞘状突起の開存を背景に小児から成人まで幅広くみられる。

  3. ×c.  閉鎖孔ヘルニア

    外ヘルニアである。閉鎖神経と閉鎖動静脈が骨盤内から大腿内側へ向かう通路である閉鎖管をヘルニア門とし、大腿内側の恥骨筋の深部へ脱出する。痩せた高齢の経産婦に多く、別名「やせた老婦人のヘルニア(little old lady's hernia)」ともよばれる。脱出部が深い筋層の下にあるため体表からの膨隆がわかりにくく、腸閉塞で発症してCTで初めて診断されることが多い。ヘルニア内容が閉鎖神経を圧迫すると、大腿内側から膝にかけて疼痛やしびれが生じ、股関節の伸展・内転・内旋で増強する(Howship-Romberg徴候)。嵌頓しやすく、Richterヘルニアの形をとることも多い。

  4. ○d.  網嚢孔ヘルニア

    内ヘルニアである。網嚢孔(Winslow孔)は、腹腔の大部分を占める大腹膜腔と、胃の後方にある網嚢(小腹膜腔)とを連絡する孔である。前方を肝十二指腸間膜(総胆管・固有肝動脈・門脈を含む)、後方を下大静脈、上方を肝尾状葉、下方を十二指腸上部に囲まれている。この孔を通って小腸(主に回腸)や、固定の緩い盲腸・上行結腸などが網嚢内へ入り込むのが網嚢孔ヘルニアであり、臓器は腹腔の外へ出ていないため内ヘルニアに分類される。まれな疾患だが、網嚢孔が大きい、腸間膜が長い、盲腸・上行結腸の後腹膜への固定が不十分(移動盲腸)などの解剖学的素因が関係する。特異的な症状に乏しく、突然の上腹部痛や腸閉塞症状で発症し、嵌頓すると絞扼性腸閉塞となる。診断には、網嚢内の腸管ガス像や小網部の腸管ループを示す腹部CTが有用である。

  5. ×e.  腹壁瘢痕ヘルニア

    外ヘルニアである。開腹手術後、筋膜の縫合部が癒合不全を起こしたり離開したりして生じた腹壁の欠損部をヘルニア門とし、腹腔内の臓器(小腸や大網など)が腹膜に覆われたまま皮下へ膨出する。立位や腹圧をかけたときに手術創に一致した膨隆として目立つ。危険因子には創感染、肥満、糖尿病、ステロイド使用、低栄養、喫煙、術後の咳嗽などの腹圧上昇がある。治療はメッシュなどを用いた修復術が中心である。

ヘルニアの構成要素

・ヘルニア門:臓器が脱出する出口となる裂隙。 ・ヘルニア嚢:脱出臓器を包む袋。外ヘルニアでは壁側腹膜からなる。 ・ヘルニア内容:脱出した臓器(小腸、大網、結腸、卵巣など)。

ヘルニアの状態による分類

・還納性(可動性):脱出臓器を腹腔内に戻せる状態。 ・非還納性:癒着などで戻せないが、血流障害はない状態。 ・嵌頓:ヘルニア門で締め付けられて戻らなくなった状態。血流が途絶すると絞扼となり、腸管壊死・穿孔・腹膜炎に至る。 ・Richterヘルニア:腸管の全周ではなく、腸間膜の反対側の腸管壁の一部だけが嵌頓したもの。内腔が完全には閉塞しないため腸閉塞症状が軽く、診断が遅れて壊死・穿孔に至りやすい。大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアで起こりやすい。

主な内ヘルニア

・傍十二指腸ヘルニア:十二指腸周囲の腹膜窩(Landzert窩、Waldeyer窩など)に小腸が入り込む。内ヘルニアの中では比較的多く、左側が多い。 ・腸間膜裂孔ヘルニア:小腸間膜や結腸間膜の先天的な欠損孔に腸管が入り込む。小児にも起こる。 ・網嚢孔(Winslow孔)ヘルニア:本問の選択肢。 ・術後内ヘルニア:胃切除後のRoux-en-Y再建や腹腔鏡下胃バイパス術後に、人工的にできた間隙(Petersen間隙など)に小腸が入り込む。近年の内ヘルニアの原因として重要である。 ・盲腸周囲ヘルニア、S状結腸間膜窩ヘルニア、大網裂孔ヘルニアなど。

主な外ヘルニアの整理

・外鼠径ヘルニア:内鼠径輪から鼠径管を通り、外鼠径輪から陰嚢方向へ脱出。最多。下腹壁動静脈の外側。 ・内鼠径ヘルニア:Hesselbach三角から直接脱出。高齢男性。下腹壁動静脈の内側。 ・大腿ヘルニア:大腿輪から脱出。鼠径靱帯より尾側。中高年女性。嵌頓しやすい。 ・閉鎖孔ヘルニア:閉鎖管から脱出。痩せた高齢女性。Howship-Romberg徴候。 ・臍ヘルニア:乳児では自然閉鎖が多い。成人では肥満・妊娠・腹水が誘因。 ・腹壁瘢痕ヘルニア:手術創部に発生。

POINT

・外ヘルニアは腹腔外へ、内ヘルニアは腹腔内の孔・陥凹・異常裂孔へ臓器が入り込む。 ・網嚢孔(Winslow孔)ヘルニア、傍十二指腸ヘルニア、腸間膜裂孔ヘルニアは内ヘルニア。 ・「内鼠径ヘルニア」は外ヘルニアである(「内」は下腹壁動静脈の内側という位置を示す)。 ・内ヘルニアは体表から膨隆がみえず、開腹歴のない腸閉塞の原因として鑑別に挙げ、CTで評価する。 ・大腿ヘルニア・閉鎖孔ヘルニアは女性に多く嵌頓しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。