StudyMed医師国家試験

場所も時期もバラバラな白質病変―多発性硬化症を見抜く「空間」と「時間」

第108回医師国家試験 I問題 第52問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第52問

26歳の男性。歩行困難を主訴に来院した。痙性歩行,上下肢腱反射亢進およびBabinski徴候陽性を認める。頭部単純MRIのT2強調水平断像(A)(B),Aと同一断面の頭部造影MRIのT1強調水平断像(C)及び頸椎単純MRIのT2強調矢状断像(D)を別に示す。血清の抗アクアポリン4抗体は陰性である。  最も考えられるのはどれか。

第108回 I問題 第52問の問題画像
  1. a.神経膠腫
  2. b.転移性腫瘍
  3. c.視神経脊髄炎
  4. d.多発性硬化症
  5. e.進行性多巣性白質脳症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い男性の錐体路徴候とMRI所見から、中枢神経の病気を絞り込む問題だ。注目すべきは、病変が「どこに」「いくつ」あるか、そして造影で「新しいか古いか」。最後に抗アクアポリン4抗体が陰性という情報をどう使うかもカギになる。まず神経所見からどう考える?
医学生医学生
痙性歩行、腱反射亢進、Babinski徴候陽性なので、上位運動ニューロン、つまり錐体路の障害です。
ドクタードクター
そうだね。しかも上肢にも腱反射亢進があるから、病変は少なくとも頸髄より上にあると考えられる。では画像を見ていこう。頭部のT2強調像では、側脳室の周囲の白質に卵円形の高信号病変が複数散らばっている。別の断面では中脳のあたりにも病変がうかがえる。
医学生医学生
脳室の周りに並ぶ卵円形の病変というのは、神経内科の講義で見た多発性硬化症の典型像に似ています。
ドクタードクター
いい記憶だね。脳室周囲の卵円形病変は脱髄病変の典型像で、側脳室に垂直に伸びるものはDawson's fingersと呼ばれる。次に造影T1強調像だ。同じ断面で、T2で見えていた病変のうち一部だけが造影されている。これは何を意味すると思う?
医学生医学生
造影されるのは血液脳関門が壊れているからですよね。新しい炎症がある病変ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。造影される病変は活動性の新しい病変、造影されない病変は古い病変と考えられる。新旧の病変が同時にあるということは、病気が時間を隔てて繰り返し起きている証拠、つまり時間的多発性を示しているんだ。そして頸椎のT2強調矢状断では、頸髄内に1椎体程度の短い高信号病変があり、脊髄の腫れも目立たない。
医学生医学生
脳室周囲、脳幹、頸髄と、別々の場所にも病変があるので空間的多発性も満たしますね。若い人の脱髄疾患なら多発性硬化症でしょうか。
ドクタードクター
正解。多発性硬化症は中枢神経の髄鞘が自己免疫的に繰り返し障害される脱髄疾患で、20〜30歳代に好発する。空間的多発性と時間的多発性をMRIで示し、他の疾患を除外して診断する、というのが診断基準の考え方だ。では、一番大事な鑑別の視神経脊髄炎はどうかな。
医学生医学生
正直迷いました。脊髄にも病変があるし、若い人の脱髄という点でも似ていますよね。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。視神経脊髄炎はアストロサイトの水チャネルであるアクアポリン4への自己抗体が病態の中心で、多くの例で抗AQP4抗体が陽性になる。女性に著しく多く、重い視神経炎と、3椎体以上に連なる長大な脊髄病変が特徴だ。今回は男性で抗体陰性、脊髄病変も短く、脳室周囲の卵円形病変はむしろ多発性硬化症らしい。だから否定的なんだ。
医学生医学生
腫瘍の可能性はどうでしょう。神経膠腫や転移でも多発することはありませんか。
ドクタードクター
神経膠腫は通常単発の腫瘤で、周囲の浮腫や圧排所見を伴う。大脳と脊髄に小さな卵円形病変が散らばる像は腫瘍らしくない。転移性脳腫瘍は中高年に多く、原発巣があるのが前提で、皮髄境界に好発し、強い浮腫とリング状造影を伴うことが多い。26歳で原発巣の情報もなく、分布も合わないね。
医学生医学生
進行性多巣性白質脳症は、免疫不全の人に起こるJCウイルス感染でしたよね。微生物学の講義で出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。HIV感染症や免疫抑制薬の使用などで細胞性免疫が落ちると、JCウイルスが再活性化してオリゴデンドロサイトを侵す。画像は皮質下白質に非対称で融合傾向のある病変が主体で、通常は造影されない。脊髄病変もまれだ。この方には免疫不全の背景もないから考えにくい。
医学生医学生
空間と時間の多発性で多発性硬化症を疑って、抗体と脊髄病変の長さで視神経脊髄炎を除外する、という流れですね。
ドクタードクター
その2段構えが大事だ。臨床ではこの鑑別が治療に直結する。急性期はどちらもステロイドパルス療法が基本で、効かなければ血漿交換を行う。ところが再発予防では、多発性硬化症に使うインターフェロンβが視神経脊髄炎を悪化させることがあるんだ。
医学生医学生
診断を取り違えると、治療でかえって悪くしてしまうんですね。
ドクタードクター
そういうこと。もう一つ、ナタリズマブなど多発性硬化症の疾患修飾薬を使っている人では、PMLを発症することがある。つまり今回の選択肢の中で、多発性硬化症とPMLは治療を通じてつながっているんだ。症状面では、体温上昇で症状が一時的に悪化するUhthoff現象や、首を前に曲げると背中から手足に電撃痛が走るLhermitte徴候も特徴的だから覚えておこう。
医学生医学生
臨床実習で神経内科を回ったとき、入浴後に視界がかすむという患者さんがいました。あれがUhthoff現象だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。問診で拾える大事な手がかりだよ。脳脊髄液のオリゴクローナルバンドも診断の補助になるから、あわせて押さえておこう。

まとめ

若年者に錐体路徴候があり、MRIで脳室周囲白質の卵円形病変、脳幹病変、短い脊髄病変が複数部位にみられ(空間的多発性)、造影される新しい病変と造影されない古い病変が混在する(時間的多発性)場合は、多発性硬化症を考えます。最も重要な鑑別は視神経脊髄炎で、抗アクアポリン4抗体陽性、3椎体以上の長大な脊髄病変、重い視神経炎、女性に多いことが区別のポイントです。神経膠腫は単発の腫瘤、転移性脳腫瘍は皮髄境界のリング状造影病変、進行性多巣性白質脳症は免疫不全を背景とした造影されない皮質下白質病変が典型で、本例とは合いません。インターフェロンβが視神経脊髄炎を悪化させうるように、両者の鑑別は治療選択に直結するため、画像と抗体を組み合わせた診断の考え方を確実に身につけておくことが重要です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・26歳の若年男性で、歩行困難を主訴とする。 ・痙性歩行、上下肢の腱反射亢進、Babinski徴候陽性は、いずれも上位運動ニューロン(錐体路)の障害を示す徴候である。上肢にも所見が及ぶことから、病変は頸髄以上のレベルに存在すると考えられる。

画像所見

・A(頭部T2強調水平断):側脳室周囲の白質に、境界明瞭な卵円形の高信号病変が複数みられる。脳室に接する、あるいは脳室近傍の白質に散在する卵円形病変は脱髄病変の典型像である。 ・B(頭部T2強調水平断、中脳レベル):中脳にも高信号病変がみられ、テント下(脳幹)にも病変が存在する。 ・C(Aと同一断面の造影T1強調像):Aでみられた病変のうち一部だけが造影される。造影効果は血液脳関門が破綻した活動性(新しい)病変を示し、造影されない病変は古い病変と考えられる。すなわち新旧の病変が同時に存在し、時間的多発性を示す。 ・D(頸椎T2強調矢状断):頸髄内に高信号病変があるが、その長さは1椎体程度の短い病変で、脊髄の腫大も目立たない。

診断へのプロセス

脳室周囲白質・脳幹(テント下)・脊髄と、中枢神経の異なる部位に病変があり(空間的多発性)、造影される病変とされない病変が混在する(時間的多発性)。若年発症の中枢神経脱髄疾患としてまず多発性硬化症(MS)が考えられる。 鑑別として最も重要なのは視神経脊髄炎(NMO、視神経脊髄炎スペクトラム障害:NMOSD)であるが、血清抗アクアポリン4(AQP4)抗体が陰性であり、脊髄病変も3椎体以上に及ぶ長大病変ではないため否定的である。腫瘍性病変や日和見感染症(進行性多巣性白質脳症)は、年齢・臨床背景・画像所見から考えにくい。以上より多発性硬化症が最も考えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  神経膠腫

    神経膠腫(グリオーマ)は脳実質に発生する原発性脳腫瘍で、通常は単発の腫瘤性病変として現れ、周囲に浮腫や圧排所見(mass effect)を伴う。本例のように脳室周囲白質・脳幹・頸髄に小さな卵円形病変が多数散在する像は腫瘍としては非典型的であり、大脳と脊髄の両方に多発することもまれである。

  2. ×b.  転移性腫瘍

    転移性脳腫瘍は中高年に多く、原発巣(肺癌、乳癌など)の存在が前提となる。26歳で原発巣を示す情報もない。脳転移は血行性に到達するため皮質と白質の境界(皮髄境界)に好発し、周囲に強い浮腫を伴ってリング状や結節状に造影されることが多い。脳室周囲に並ぶ卵円形病変という分布は非典型的で、脊髄髄内への転移もまれである。

  3. ×c.  視神経脊髄炎

    視神経脊髄炎(NMOSD)はアストロサイトの足突起に存在する水チャネルであるアクアポリン4に対する自己抗体(抗AQP4抗体)が病態の中心となる疾患で、多くの例で血清抗AQP4抗体が陽性となる。女性に多く、重度の視神経炎と、3椎体以上に連続する長大な脊髄病変(longitudinally extensive transverse myelitis:LETM)が特徴である。本例は男性で、抗AQP4抗体陰性、脊髄病変も1椎体程度と短く、脳室周囲の卵円形病変はむしろMSに典型的であるため考えにくい。

  4. ○d.  多発性硬化症

    多発性硬化症(MS)は中枢神経の髄鞘が自己免疫機序で繰り返し障害される脱髄疾患で、20~30歳代の若年成人に好発する。本例では、脳室周囲白質、脳幹(中脳)、頸髄(短い病変)という複数部位に病変があり空間的多発性を満たす。さらに造影MRIで造影される活動性病変と造影されない陳旧性病変が同時に存在し、時間的多発性も示される。錐体路徴候はこれらの病変による錐体路障害で説明でき、抗AQP4抗体陰性で視神経脊髄炎も否定的であることから、MSが最も考えられる。

  5. ×e.  進行性多巣性白質脳症

    進行性多巣性白質脳症(PML)は、JCウイルスがHIV感染症、悪性腫瘍、免疫抑制薬・生物学的製剤の使用などによる細胞性免疫低下を背景に再活性化し、オリゴデンドロサイトに感染して脱髄を起こす予後不良の疾患である。本例には免疫不全の背景がない。画像では皮質下白質(U線維を含む)に非対称で融合傾向のある病変が主体で、通常は造影されず浮腫も乏しい。脊髄病変はまれで、本例の画像とは一致しない。

多発性硬化症(MS)の概要

・中枢神経(大脳・小脳・脳幹・脊髄・視神経)の白質に脱髄病変が時間的・空間的に多発する自己免疫性疾患。若年成人(20~30歳代)の女性にやや多い。日本の有病率は欧米より低いが増加傾向にある。 ・症状:視神経炎(視力低下、眼球運動時痛)、錐体路徴候、感覚障害、小脳失調、膀胱直腸障害、内側縦束(MLF)症候群、Lhermitte徴候(頸部前屈で背部から四肢に電撃痛が走る)、Uhthoff現象(体温上昇で症状が一過性に悪化する)など。 ・病型:再発寛解型が最も多く、のちに二次性進行型へ移行することがある。はじめから進行する一次性進行型もある。

診断(McDonald診断基準の考え方)

臨床症状とMRIにより空間的多発性(dissemination in space)と時間的多発性(dissemination in time)を証明し、他疾患を除外する。 ・空間的多発性:脳室周囲、皮質または皮質直下、テント下、脊髄(2017年改訂以降は視神経も含めた議論がある)のうち2か所以上にT2病変がある。 ・時間的多発性:造影される病変と造影されない病変が同時に存在する、または経過中に新たな病変が出現する。脳脊髄液のオリゴクローナルバンド陽性も時間的多発性の代わりとして用いることができる(2017年改訂)。 ・MRIの典型像:側脳室に垂直に伸びる卵円形病変(Dawson's fingers)、脳梁病変、短い脊髄病変(2椎体未満)。

MSとNMOSDの比較

・抗体:MSは特異的抗体なし/NMOSDは抗AQP4抗体陽性が多い ・性差:NMOSDは女性に著しく多い ・脊髄病変:MSは短い(2椎体未満)/NMOSDは3椎体以上の長大病変 ・視神経炎:NMOSDでは重症で両側性のことが多い ・脳病変:MSは脳室周囲の卵円形病変が典型/NMOSDは脳病変が乏しいか、第三・第四脳室周囲や延髄最後野など非典型的 ・治療:急性期はいずれもステロイドパルス療法、無効時は血漿交換。再発予防はMSではインターフェロンβ、フィンゴリモド、ナタリズマブ、オクレリズマブなどの疾患修飾薬、NMOSDではステロイド・免疫抑制薬や抗補体・抗IL-6受容体・抗CD20抗体などを用いる。インターフェロンβはNMOSDを悪化させることがあるため鑑別が治療上重要である。

関連事項

ナタリズマブなどMSの疾患修飾薬の使用中にPMLが発症することがあり、両疾患は治療上の関連がある。

POINT

・若年者の錐体路徴候+脳室周囲白質の卵円形T2高信号病変+テント下・脊髄病変 → 多発性硬化症を考える。 ・造影病変と非造影病変の混在は時間的多発性を示す。複数部位の病変は空間的多発性を示す。 ・視神経脊髄炎との鑑別点:抗AQP4抗体陽性、3椎体以上の長大な脊髄病変、重症視神経炎。 ・PMLは免疫不全を背景にJCウイルスで起こり、皮質下白質中心で通常造影されない。 ・転移性脳腫瘍は皮髄境界に好発し、周囲浮腫とリング状造影を伴う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。