StudyMed医師国家試験

似ているけれど別の病気―髄液の「細胞数」が語る視神経脊髄炎と多発性硬化症の違い

第113回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第113回 D問題 第11問

多発性硬化症との鑑別上,視神経脊髄炎を疑うべき所見はどれか。

  1. a.視力の低下
  2. b.血清の抗核抗体陽性
  3. c.脳脊髄液の細胞数増多
  4. d.末梢神経伝導速度の低下
  5. e.頭部MRIの側脳室周囲病変

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、多発性硬化症と視神経脊髄炎という、よく似た2つの中枢神経の炎症性疾患を見分ける問題だ。ポイントは「両方に共通する所見」と「どちらか一方に寄った所見」を区別すること。まず、この2つがなぜ紛らわしいのか考えてみよう。
医学生医学生
どちらも視神経炎と脊髄炎を起こすからですよね。神経内科の講義では、昔は視神経脊髄炎も多発性硬化症の一型と習ったような気がします。
ドクタードクター
その通り。日本ではかつて「視神経脊髄型MS」と呼ばれていた。ところが2004年ごろ、視神経脊髄炎に特異的な自己抗体が見つかり、その標的がアクアポリン4という水チャネルだとわかった。そこから、多発性硬化症とは病態が別の疾患として扱われるようになったんだ。今は視神経脊髄炎スペクトラム障害、NMOSDと総称されている。
医学生医学生
アクアポリン4はどこにあるんですか。髄鞘とは違うんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。アクアポリン4はアストロサイトの足突起に豊富に発現している。抗AQP4抗体が結合すると補体が活性化され、アストロサイトそのものが壊される。だからNMOSDは「アストロサイトパチー」と呼ばれ、脱髄は二次的な結果と考えられている。一方、多発性硬化症は髄鞘を標的とする脱髄疾患だ。
医学生医学生
抗体と補体による攻撃なら、炎症もかなり強そうですね。
ドクタードクター
まさにそこが今回の答えにつながる。NMOSDでは組織傷害が強く、炎症細胞の浸潤も目立つ。その結果、急性期の髄液では細胞数がはっきり増え、50/μLを超えることもあり、好中球や好酸球が混じることさえある。対して多発性硬化症の髄液は、細胞数は正常か軽度増加にとどまり、むしろオリゴクローナルバンド陽性やIgGインデックス上昇といった「髄腔内でのIgG産生」が特徴なんだ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ髄液細胞数増多が正解ですね。でも、視力低下も視神経脊髄炎っぽい気がして迷いました。名前に「視神経」が入っていますし。
ドクタードクター
そう感じる人は多いよ。ただ、視神経炎による視力低下は多発性硬化症でも普通に起こるから、それだけでは区別できない。強いて言えば、NMOSDの視神経炎は重症で、両眼同時に起きたり視交叉に及んだりして、失明に近い視力低下が残ることがある。程度の差はあっても「視力が下がる」こと自体は鑑別の根拠にならない。
医学生医学生
抗核抗体陽性はどうでしょう。NMOSDは自己抗体の病気なので、自己免疫っぽい所見かと思ったんですが。
ドクタードクター
鋭いところを突いてきたね。実際、NMOSDはシェーグレン症候群や全身性エリテマトーデスなどを合併しやすく、抗核抗体が陽性になることもある。でも抗核抗体は多くの自己免疫疾患で出る非特異的な抗体だ。鑑別で測るべきは抗AQP4抗体、陰性なら抗MOG抗体も考える。抗核抗体では両者を区別できないんだ。
医学生医学生
末梢神経伝導速度の低下は、そもそも中枢の病気なので関係ないですよね。CBTの勉強でギラン・バレー症候群のところに出てきた所見です。
ドクタードクター
その通り。多発性硬化症もNMOSDも、脳・視神経・脊髄という中枢神経の疾患で、末梢神経は通常障害されない。伝導速度低下はギラン・バレー症候群やCIDPといった末梢神経の脱髄を示す所見だ。では最後、側脳室周囲病変は?
医学生医学生
脳室に垂直に並ぶ卵円形の病変、Dawson's fingersですよね。放射線科の実習で見せてもらいました。あれは多発性硬化症の典型だったはずです。
ドクタードクター
よく覚えているね。McDonald診断基準でも脳室周囲は空間的多発性を判定する部位の一つだ。つまりこれはむしろ多発性硬化症を支持する所見になる。NMOSDでは脳病変がないか非特異的なことが多く、出るとしても第三・第四脳室周囲や延髄最後野など、アクアポリン4が豊富な場所に出やすい。
医学生医学生
整理すると、NMOSD寄りなのは抗AQP4抗体、長い脊髄病変、重い視神経炎、髄液細胞数増多、オリゴクローナルバンド陰性。MS寄りなのはDawson's fingers、短い脊髄病変、オリゴクローナルバンド陽性、という感じですね。
ドクタードクター
完璧だ。脊髄病変はNMOSDで3椎体以上に連続する長大な病変、多発性硬化症では2椎体以内の短い病変が典型だね。症状面では、延髄最後野症候群、つまり難治性のしゃっくりや悪心・嘔吐がNMOSDに特徴的なことも覚えておこう。原因不明の嘔吐として消化器内科を受診していることもあるんだ。
医学生医学生
患者さんの背景にも違いはありますか。
ドクタードクター
多発性硬化症は20〜30歳代の女性に多く、女性:男性はおよそ2〜3:1。NMOSDは発症年齢がやや高く、女性の割合はさらに高くて約9:1だ。そして臨床で一番大事なのが治療の違い。急性期はどちらもステロイドパルスが基本で、NMOSDで効果不十分なら早めに血漿交換を行う。再発予防はまったく別物で、NMOSDには補体C5阻害薬や抗IL-6受容体抗体などが使われる。
医学生医学生
多発性硬化症の薬をそのまま使ってはいけないんですか。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。インターフェロンβやフィンゴリモドなど一部のMS治療薬は、NMOSDを悪化させることがある。だから「似ているけれど別の病気」として正しく見分けることが、患者さんの予後を直接左右するんだよ。

まとめ

多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)はともに視神経炎や脊髄炎をきたしますが、MSが髄鞘を標的とする脱髄疾患であるのに対し、NMOSDは抗AQP4抗体と補体によるアストロサイト傷害が本態です。強い炎症を反映して、NMOSDでは急性期に髄液細胞数が明らかに増加し(好中球・好酸球を含むことも)、オリゴクローナルバンドは陰性が多い一方、MSでは細胞数は正常〜軽度増加にとどまりオリゴクローナルバンド陽性が特徴です。視力低下は両者に共通し、抗核抗体は非特異的、神経伝導速度低下は末梢神経疾患の所見、側脳室周囲病変(Dawson's fingers)はむしろMSを示唆します。抗AQP4抗体、3椎体以上の長い脊髄病変、延髄最後野症候群もNMOSDの手がかりです。インターフェロンβなど一部のMS治療薬はNMOSDを悪化させうるため、両者の鑑別は治療選択に直結する重要な知識です。

解答・解説

正解はcです

問われていること

多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)と視神経脊髄炎(neuromyelitis optica: NMO、現在は視神経脊髄炎スペクトラム障害 NMOSD と総称される)は、いずれも中枢神経に炎症性病変を起こし、視神経炎や脊髄炎をきたす点で臨床像が重なる。本問は、両者が重なる症状ではなく、「NMOの方に寄った所見」を選ばせる問題である。

両疾患の本質的な違い

MSは中枢神経の髄鞘(ミエリン)を標的とする脱髄疾患であり、病変は時間的・空間的に多発する。一方NMOSDの多くは、アストロサイトの足突起に発現する水チャネル、アクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体(抗AQP4抗体)が病態の中心にあり、補体の活性化を伴ってアストロサイトが傷害されるアストロサイトパチーである。脱髄はその結果として二次的に起こるものと考えられている。病態が抗体と補体による強い炎症であるため、NMOSDでは組織傷害が強く、炎症細胞(好中球や好酸球を含む)の浸潤も目立つ。

鑑別の着眼点

・血清抗AQP4抗体:NMOSDに特異性が高く、鑑別の決め手となる。 ・脊髄病変:NMOSDでは3椎体以上に連続する長大な病変(longitudinally extensive transverse myelitis: LETM)が典型で、MSでは1〜2椎体以内の短い病変が多い。 ・脳病変:MSでは側脳室周囲の卵円形病変(脳室に垂直に並ぶ Dawson's fingers)、皮質直下、テント下の病変が特徴的である。NMOSDでは脳病変がない、あるいは非特異的なことが多く、あっても第三脳室・第四脳室周囲や延髄最後野などAQP4が豊富な部位に出やすい。 ・髄液:MSではオリゴクローナルバンド(OCB)陽性やIgGインデックス上昇が高率で、細胞数は正常か軽度増加にとどまる。NMOSDではOCBの陽性率は低い一方、急性期に細胞数が明らかに増える(50/μLを超えることもあり、好中球や好酸球が混じることがある)。 したがって、選択肢の中でNMOSDを示唆するのは髄液の細胞数増多である。

選択肢考察

  1. ×a.  視力の低下

    視神経炎による視力低下はMSでもNMOSDでも起こるため、これだけで両者は区別できない。強いて言えばNMOSDの視神経炎は重症で、両眼同時に起こったり視交叉に及んだりしやすく、失明に近い視力低下が残ることもある。しかし「視力が下がる」という事実だけではNMOSDを疑う根拠にならない。

  2. ×b.  血清の抗核抗体陽性

    抗核抗体(ANA)は全身性エリテマトーデスなど多くの自己免疫疾患で陽性となる非特異的な抗体であり、MSとNMOSDの鑑別には役立たない。NMOSDではシェーグレン症候群などほかの自己免疫疾患を合併しやすく、ANAなどが陽性になることもあるが、診断的価値は乏しい。NMOSDの鑑別で測定すべき自己抗体は抗AQP4抗体(陰性例では抗MOG抗体も考慮)である。

  3. ○c.  脳脊髄液の細胞数増多

    MSの髄液は細胞数が正常か軽度増加(通常50/μL未満、主にリンパ球)にとどまり、むしろOCB陽性やIgGインデックス上昇といった髄腔内でのIgG産生を示す所見が特徴となる。一方NMOSDでは、抗AQP4抗体と補体による強い炎症を反映して、急性期に髄液細胞数が明らかに増える。50/μLを超えることもあり、好中球や好酸球が混じることもある。OCBは陰性のことが多い。髄液の細胞数がはっきり増えていればMSらしくなく、NMOSDを疑う手がかりとなる。

  4. ×d.  末梢神経伝導速度の低下

    MSもNMOSDも中枢神経(脳・視神経・脊髄)の疾患であり、末梢神経は通常障害されない。神経伝導速度の低下は、ギラン・バレー症候群や慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)など末梢神経の脱髄疾患を示す所見であり、両者の鑑別には使えない。

  5. ×e.  頭部MRIの側脳室周囲病変

    側脳室周囲の白質病変、とくに脳室に垂直な卵円形病変(Dawson's fingers)は、MSに典型的な所見である。McDonald診断基準でも、脳室周囲は空間的多発性を判定する部位の一つとされている。むしろMSを支持する所見であり、NMOSDを疑う根拠にはならない。

NMOSDの概念の変遷

NMOはかつて、視神経と脊髄に病変が集中し視力予後の悪いMSの一亜型(日本では視神経脊髄型MSと呼ばれた)と考えられていた。2004年ごろにNMOに特異的な自己抗体(NMO-IgG)が見つかり、その標的がAQP4と判明したことで、MSとは病態の異なる独立した疾患とされるようになった。現在は、視神経炎・脊髄炎がそろわない例も含めて視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)として扱われる(2015年の国際診断基準)。

MSとNMOSDの比較

・好発:MSは20〜30歳代の女性に多い(女性:男性はおよそ2〜3:1)。NMOSDは発症年齢がやや高く(30〜40歳代)、女性の割合がさらに高い(約9:1)。 ・病態:MSは髄鞘を標的とする脱髄。NMOSDは抗AQP4抗体と補体によるアストロサイト傷害。 ・特徴的な症状:MSではLhermitte徴候(頸部前屈で背部に電撃痛)、Uhthoff現象(体温上昇で症状悪化)、核間性眼筋麻痺など。NMOSDでは重い視神経炎、横断性脊髄炎に加え、延髄最後野症候群(難治性のしゃっくり・悪心・嘔吐)が特徴的である。有痛性強直性けいれんはどちらにもみられるが、NMOSDでとくに多い。 ・脊髄MRI:MSは短い病変(2椎体以内)、NMOSDは3椎体以上の長い病変。 ・髄液:MSはOCB陽性・IgGインデックス上昇、細胞数は正常〜軽度増加。NMOSDはOCB陰性が多く、急性期の細胞数増多が目立つ。 ・合併症:NMOSDはシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、橋本病などの自己免疫疾患を合併しやすい。

治療の違い

急性期はどちらもステロイドパルス療法が基本である。NMOSDで効果が不十分なときは血漿交換を早めに行う。再発予防の考え方は大きく異なる。MSにはインターフェロンβ、フィンゴリモド、ナタリズマブなどの疾患修飾薬を使う。NMOSDでは、少量の経口ステロイドや免疫抑制薬(アザチオプリンなど)のほか、近年は補体C5阻害薬(エクリズマブ、ラブリズマブ)、抗IL-6受容体抗体(サトラリズマブ)、抗CD19抗体(イネビリズマブ)、抗CD20抗体(リツキシマブ)が使われる。インターフェロンβやフィンゴリモドなど一部のMS治療薬はNMOSDを悪化させることがあるため、両者を正しく見分けることは治療上きわめて重要である。

POINT

・NMOSDは抗AQP4抗体が関わるアストロサイトパチーで、MSとは別の疾患である。 ・NMOSDを示唆する所見:抗AQP4抗体陽性、3椎体以上の長い脊髄病変、重い(両側性の)視神経炎、延髄最後野症候群、急性期の髄液細胞数増多(好中球・好酸球を含むことも)、OCB陰性。 ・MSを示唆する所見:側脳室周囲の卵円形病変(Dawson's fingers)、短い脊髄病変、OCB陽性・IgGインデックス上昇、髄液細胞数は正常〜軽度増加。 ・視力低下は両疾患に共通し、抗核抗体は非特異的、伝導速度低下は末梢神経疾患の所見である。 ・インターフェロンβなど一部のMS治療薬はNMOSDを悪化させうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。