StudyMed医師国家試験

培養でも染色でも見えない菌をどう捕まえる?―男性クラミジア尿道炎は初尿PCRで

第108回医師国家試験 I問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第28問

男性の尿路クラミジア感染の検査として最も適切なのはどれか。

  1. a.尿沈渣
  2. b.精液検査
  3. c.尿のPCR法
  4. d.血液培養検査
  5. e.尿のGram染色

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は男性の尿路クラミジア感染を診断する検査を選ぶ問題だ。カギはクラミジアという微生物の性質にある。この菌がほかの一般的な細菌とどう違うか、覚えているかな。
医学生医学生
微生物学の講義で、偏性細胞内寄生菌だと習いました。生きた細胞の中でしか増えないんですよね。
ドクタードクター
その通り。だから普通の寒天培地では育たないし、細胞壁のペプチドグリカンが乏しくて宿主細胞の中にいるから、Gram染色でも見えない。この性質が検査選びに直結するんだ。まず臨床像から確認しよう。性器クラミジア感染症は日本で最も多い性感染症で、男性では主に尿道炎を起こす。
医学生医学生
淋菌性尿道炎と比べると、症状が軽いイメージがあります。
ドクタードクター
そうだね。潜伏期は1〜3週間と淋菌の2〜7日程度より長く、排尿時痛は軽く、分泌物は漿液性で少量。無症状の人も多い。症状だけでは淋菌と区別しきれないから、病原体そのものを検出する検査が必要になる。では、どんな方法がいいと思う?
医学生医学生
培養も染色もだめなら、遺伝子を見つけるしかない、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさに。病原体のDNAやRNAを増幅して検出する核酸増幅検査が診断の標準で、その代表がPCR法だ。男性では出始めの尿、つまり初尿を検体にすれば、痛みもなく採取できて感度・特異度も高い。だから尿のPCR法が最も適切な検査になる。多くの検査系では淋菌も同時に調べられるのも利点だね。
医学生医学生
初尿というのは、中間尿じゃなくていいんですか。臨床検査の実習では中間尿を採るように指導されていました。
ドクタードクター
いい疑問だ。膀胱炎などで膀胱内の尿を調べたいときは、尿道の菌が混ざらないよう中間尿を採る。でも尿道炎では、尿道にいる病原体こそが知りたいものだから、それを洗い流してくる最初の10〜20mL程度の尿を使うんだ。目的によって採り方が逆になるわけだね。
医学生医学生
なるほど。尿沈渣も尿道炎の検査で使われると思うんですが、なぜ不十分なんですか。
ドクタードクター
尿沈渣で初尿中の白血球が増えていれば、尿道炎があることは推測できる。ただ白血球の増加は原因微生物を問わず起こるから、クラミジアかどうかは分からない。スクリーニングにはなっても確定診断にはならないんだ。
医学生医学生
尿のGram染色はどうでしょう。泌尿器科を回ったとき、尿道分泌物の染色で診断していたのを見ました。
ドクタードクター
それはおそらく淋菌だね。淋菌性尿道炎では、好中球に貪食されたGram陰性双球菌が見えて迅速診断に役立つ。でもクラミジアは見えない。好中球はいるのに菌が見えない非淋菌性尿道炎なら、クラミジアを疑う根拠にはなるけれど、診断の決め手にはならないよ。
医学生医学生
精液検査は精巣上体炎まで考えると使えそうな気もしました。
ドクタードクター
発想はわかるけど、精液検査は精子の数や運動率、形態をみるもので、主に男性不妊の評価に使う。病原体を特定する目的では普通は行わない。血液培養も、菌血症や感染性心内膜炎を疑うときの検査だ。クラミジア尿道炎は局所の感染で菌血症はまず起こさないし、そもそも通常の培養ボトルでは育たないから役に立たない。
医学生医学生
結局、クラミジアの性質を押さえておけば、選択肢を消去できる問題なんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点をまとめよう。治療は細胞内に移行しやすいアジスロマイシンやドキシサイクリンなど、マクロライド系やテトラサイクリン系が中心だ。β-ラクタム系は細胞壁合成阻害薬だから、ペプチドグリカンが乏しいクラミジアには効きにくい。一方、淋菌は耐性化が進んでいて、セフトリアキソンが第一選択になる。
医学生医学生
淋菌とクラミジアは混合感染も多いと聞きました。片方だけ見つかって安心してはいけないですね。
ドクタードクター
そう。一方を検出しても両方の検査と治療を考える。そしてパートナーの同時検査・治療も重要だ。放置すれば男性では精巣上体炎、女性では骨盤内炎症性疾患や肝周囲炎、卵管性不妊、異所性妊娠につながるし、産道感染で新生児の結膜炎や肺炎の原因にもなる。女性の検体は子宮頸管擦過検体が基本、という点もあわせて覚えておこう。
医学生医学生
血清抗体検査は使わないんですか。
ドクタードクター
抗体は過去の感染でも陽性になりうるから、いま起きている尿道炎の診断には向かない。今まさに病原体がいるかを知りたいときは、核酸増幅検査で直接遺伝子を捕まえる、と考えておけばいいよ。

まとめ

クラミジア・トラコマティスは偏性細胞内寄生菌で、通常の培養では発育せず、Gram染色でも観察できません。そのため男性の尿道クラミジア感染の診断には、非侵襲的に採取できる初尿を検体とした核酸増幅検査(PCR法など)が標準で、淋菌の同時検出も可能です。尿沈渣は尿道炎の存在を示すにとどまり、Gram染色は淋菌の診断には有用でもクラミジアは見えず、精液検査や血液培養は目的が異なります。治療はマクロライド系・テトラサイクリン系が中心で、淋菌との混合感染やパートナー治療、女性での不妊・異所性妊娠などの合併症にも注意が必要です。病原体の性質から検査と治療を選ぶという考え方は、性感染症に限らず感染症診療全般の基本となります。

解答・解説

正解はcです

Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマティス)は、宿主細胞の中でしか増殖できない偏性細胞内寄生性の細菌である。性器クラミジア感染症は日本で最も多い性感染症(sexually transmitted infection:STI)であり、男性では主に尿道炎を起こし、進行すると精巣上体炎の原因となる。 男性のクラミジア性尿道炎は、潜伏期が1〜3週間と淋菌性尿道炎(2〜7日程度)より長く、排尿時痛は軽度で、分泌物も漿液性で少量のことが多い。無症状の感染者も少なくないため、症状だけでは淋菌性尿道炎と区別できず、病原体を特定する検査が必要となる。 クラミジアは細胞内寄生菌であるため、一般的な細菌培養用の培地では発育せず、Gram染色でも観察できない。そこで、病原体の遺伝子(DNAやRNA)を増幅して検出する核酸増幅検査(nucleic acid amplification test:NAAT)が診断の標準となっている。代表的なものがPCR(polymerase chain reaction)法であり、男性では採取が容易で痛みを伴わない初尿(出始めの尿)を検体として、高い感度・特異度で診断できる。多くの検査系ではクラミジアと淋菌を同時に検出でき、両者の混合感染の確認にも役立つ。

選択肢考察

  1. ×a.  尿沈渣

    尿沈渣(尿を遠心分離して沈殿した成分を顕微鏡で観察する検査)では、初尿中の白血球増加(膿尿)から尿道炎の存在を推測することはできる。しかし、白血球の増加は原因微生物を問わずみられるため、クラミジアが原因であることは特定できない。スクリーニングにとどまり、確定診断の検査としては不適切である。

  2. ×b.  精液検査

    精液検査は精子の数・運動率・形態などを評価する検査で、主に男性不妊症の診断に用いられる。尿道炎の原因病原体を特定する目的では通常行わない。

  3. ○c.  尿のPCR法

    クラミジアは偏性細胞内寄生菌で通常の培養やGram染色では検出できないため、遺伝子を増幅して検出する核酸増幅検査が診断の標準となる。男性では初尿を検体とするPCR法が非侵襲的で感度・特異度も高く、尿道クラミジア感染の診断に最も適している。淋菌の同時検出も可能であり、日常診療で広く用いられている。

  4. ×d.  血液培養検査

    血液培養検査は、菌血症・敗血症や感染性心内膜炎が疑われる場合に血中の細菌・真菌を検出するための検査である。クラミジア性尿道炎は局所感染であり菌血症を起こすことはまずなく、またクラミジアは通常の血液培養ボトルでは発育しないため、診断には用いない。

  5. ×e.  尿のGram染色

    尿や尿道分泌物のGram染色は、淋菌性尿道炎では好中球に貪食されたGram陰性双球菌として淋菌を確認でき、迅速診断に有用である。一方、クラミジアは細胞壁のペプチドグリカンが乏しく、宿主細胞内に存在するためGram染色では観察できない。好中球を認めるのに菌が見えない尿道炎(非淋菌性尿道炎)ではクラミジアを疑う根拠にはなるが、クラミジア感染そのものの診断にはならない。

男性尿道炎の分類と比較

・淋菌性尿道炎:潜伏期2〜7日程度。排尿時痛が強く、黄白色の膿性分泌物が多量に出る。Gram染色で好中球内のGram陰性双球菌を認める。治療はセフトリアキソン静注が第一選択(薬剤耐性化が進んでいるため)。 ・非淋菌性尿道炎(クラミジア性が最多):潜伏期1〜3週間。症状は軽く、分泌物は漿液性で少量。無症候のことも多い。治療はアジスロマイシンやドキシサイクリンなどのマクロライド系・テトラサイクリン系抗菌薬(細胞内に移行しやすい薬剤)。β-ラクタム系は細胞壁合成阻害薬であり、ペプチドグリカンに乏しいクラミジアには効きにくい。 ・淋菌とクラミジアの混合感染が少なくないため、一方を検出した場合も両方の検査・治療を考慮する。

検査の要点

・検体:男性は初尿(排尿開始直後の尿、最初の10〜20mL程度)。女性は子宮頸管擦過検体(自己採取の腟スワブも可)。咽頭感染が疑われる場合は咽頭スワブやうがい液。 ・核酸増幅検査(PCR法、SDA法、TMA法など)が標準。培養は特殊な細胞培養が必要で、日常診療では用いない。 ・血清抗体検査は既往感染との区別が難しく、尿道炎の診断には適さない。

合併症

男性:精巣上体炎(若年者の精巣上体炎の主因)、反応性関節炎。 女性:子宮頸管炎、骨盤内炎症性疾患(PID)、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)、卵管性不妊、異所性妊娠。産道感染により新生児の結膜炎・肺炎の原因となる。 パートナーの同時検査・治療も重要である。

POINT

・クラミジアは偏性細胞内寄生菌:通常の培養・Gram染色では検出できない。 ・診断は核酸増幅検査(PCR法など)。男性は初尿、女性は子宮頸管擦過検体を用いる。 ・尿沈渣の白血球増加は尿道炎の存在を示すが原因菌は特定できない。 ・Gram染色で好中球内Gram陰性双球菌→淋菌。菌が見えない尿道炎→クラミジアを疑う。 ・治療はマクロライド系・テトラサイクリン系。淋菌との混合感染に注意し、パートナーも治療する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。