CD4が減ると何が起こる?―AIDSの併発疾患から「仲間はずれ」を見抜く
第108回医師国家試験 I問題 第27問
国試問題にチャレンジ
後天性免疫不全症候群〈AIDS〉の併発疾患でないのはどれか。
- a.サイトメガロウイルス感染症
- b.ニューモシスチス肺炎
- c.口腔内カンジダ症
- d.悪性リンパ腫
- e.プリオン病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
AIDSは、HIVがCD4陽性T細胞を破壊して細胞性免疫が高度に低下し、23のAIDS指標疾患のいずれかを発症した状態です。サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス肺炎、カンジダ症などの日和見感染症に加え、EBウイルスが関わる悪性リンパ腫やKaposi肉腫、浸潤性子宮頸癌といった日和見腫瘍が併発します。口腔内カンジダ症は指標疾患ではありませんが、HIV感染を疑う重要な手がかりです。一方、プリオン病は異常プリオン蛋白の蓄積による神経変性疾患で、免疫不全とは関係しないため併発疾患には当たりません。CD4数の低下段階ごとに出やすい合併症を整理しておくことは、診断のきっかけや予防投与の判断に直結します。
解答・解説
正解はeです
後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)がCD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)に感染してこれを破壊し続けることで細胞性免疫が高度に障害され、日和見感染症や日和見腫瘍を発症した状態である。 HIVに感染すると、急性期を経て数年〜10年程度の無症候期が続き、その間にCD4陽性リンパ球数が徐々に減少する。CD4陽性リンパ球数が低下するにつれ、健常者では問題にならない病原体による日和見感染症や、ウイルスが関与する腫瘍が現れる。日本では、HIV感染が確認された者が厚生労働省の定める23の指標疾患(AIDS指標疾患)のいずれかを発症した時点でAIDSと診断する。 本問では、選択肢のうちHIV感染による細胞性免疫低下と関連して発症する病態かどうかを判断すればよい。サイトメガロウイルス感染症・ニューモシスチス肺炎・カンジダ症・悪性リンパ腫はいずれも細胞性免疫低下に伴って起こる代表的な併発疾患である。一方、プリオン病は異常プリオン蛋白が脳に蓄積する疾患で、免疫不全とは発症機序が関係しない。
選択肢考察
- ×a. サイトメガロウイルス感染症
サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)はヘルペスウイルス科に属し、多くの人が小児期までに不顕性感染して体内に潜伏している。細胞性免疫が低下すると再活性化して発症する(回帰感染)。AIDSでは特にCD4陽性リンパ球数が50/μL未満の高度免疫不全で、網膜炎(失明の原因となる)、腸炎、食道炎、脳炎などを起こす。肝・脾・リンパ節以外のCMV感染症はAIDS指標疾患に含まれており、AIDSの併発疾患である。
- ×b. ニューモシスチス肺炎
ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)は真菌の一種であるPneumocystis jiroveciiによる肺炎で、CD4陽性リンパ球数が200/μL未満になると発症しやすくなる。日本ではAIDS発症時の指標疾患として最も多く、AIDSの代表的な併発疾患である。亜急性に進行する乾性咳嗽・発熱・呼吸困難、胸部CTでのびまん性すりガラス影、血清β-Dグルカン上昇、LDH上昇などが特徴で、治療・予防にはST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)が第一選択である。
- ×c. 口腔内カンジダ症
口腔内カンジダ症(鵞口瘡)はCandida albicansなどによる口腔粘膜の感染症で、剥がれやすい白苔を形成する。細胞性免疫低下で起こりやすく、HIV感染者ではCD4陽性リンパ球数が比較的保たれた段階(おおむね200〜500/μL)からしばしば出現し、HIV感染を疑うきっかけとなる。なお、AIDS指標疾患に含まれるのは食道・気管・気管支・肺のカンジダ症であり、口腔内に限局したものは指標疾患ではないが、HIV感染症・AIDSに高頻度に併発する疾患であることに変わりはない。広域抗菌薬の使用による菌交代現象、ステロイド吸入、糖尿病、高齢者の義歯なども原因となる。
- ×d. 悪性リンパ腫
悪性リンパ腫(主に非Hodgkinリンパ腫で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、Burkittリンパ腫、中枢神経原発リンパ腫など)はAIDS指標疾患であり、AIDSの併発疾患である。Epstein-Barr(EB)ウイルスの関与が大きく、特に中枢神経原発リンパ腫はCD4陽性リンパ球数が50/μL未満の高度免疫不全で起こりやすい。AIDS指標疾患となる悪性腫瘍には、ほかにKaposi肉腫(ヒトヘルペスウイルス8型が関与)と浸潤性子宮頸癌(ヒトパピローマウイルスが関与)がある。
- ○e. プリオン病
プリオン病は、正常プリオン蛋白が構造変化した異常プリオン蛋白が脳内に蓄積し、神経細胞が変性・脱落して海綿状変化をきたす致死的な疾患である。代表はCreutzfeldt-Jakob病(CJD)で、原因により孤発性(最多)、遺伝性(プリオン蛋白遺伝子変異)、獲得性(ヒト乾燥硬膜移植などの医原性や、牛海綿状脳症〈BSE〉に感染した牛の摂取による変異型CJD)に分けられる。免疫不全が発症の背景になるわけではなく、AIDSの併発疾患ではない。よってこれが正解である。なお、AIDSでみられる中枢神経の感染症としては、JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(PML)やトキソプラズマ脳症、クリプトコックス髄膜炎などがあり、プリオン病と混同しないよう注意する。
CD4陽性リンパ球数と出現しやすい合併症の目安
・500/μL前後〜:帯状疱疹、結核、口腔内カンジダ症、口腔毛状白板症など ・200/μL未満:ニューモシスチス肺炎、食道カンジダ症、Kaposi肉腫など ・100/μL未満:トキソプラズマ脳症、クリプトコックス髄膜炎など ・50/μL未満:サイトメガロウイルス感染症(網膜炎など)、非結核性抗酸菌(MAC)症、中枢神経原発悪性リンパ腫、進行性多巣性白質脳症など (結核は免疫が比較的保たれた段階でも発症し、CD4数にかかわらず注意が必要である。)
AIDS指標疾患(23疾患)の主なもの
・真菌症:カンジダ症(食道・気管・気管支・肺)、クリプトコックス症(肺以外)、コクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、ニューモシスチス肺炎 ・原虫症:トキソプラズマ脳症、クリプトスポリジウム症、イソスポラ症 ・細菌感染症:化膿性細菌感染症(13歳未満)、サルモネラ菌血症、活動性結核、非結核性抗酸菌症 ・ウイルス感染症:サイトメガロウイルス感染症、単純ヘルペスウイルス感染症、進行性多巣性白質脳症 ・腫瘍:Kaposi肉腫、原発性脳リンパ腫、非Hodgkinリンパ腫、浸潤性子宮頸癌 ・その他:反復性肺炎、リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成(13歳未満)、HIV脳症、HIV消耗性症候群
プリオン病の要点
孤発性CJDは中高年に発症し、急速に進行する認知症、ミオクローヌス、脳波での周期性同期性放電(PSD)、MRI拡散強調像での大脳皮質・線条体の高信号、髄液14-3-3蛋白・総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC法による異常プリオン蛋白の検出が特徴である。通常の滅菌では不活化されにくく、感染症法の5類全数把握疾患である。
POINT
・AIDS=HIV感染+AIDS指標疾患(23疾患)の発症。 ・細胞性免疫低下に伴う日和見感染症(ニューモシスチス肺炎、CMV感染症、カンジダ症、トキソプラズマ脳症、クリプトコックス症、非結核性抗酸菌症、結核など)と日和見腫瘍(Kaposi肉腫、悪性リンパ腫、浸潤性子宮頸癌)が併発する。 ・CD4陽性リンパ球数の低下の程度で出現する疾患が異なる(PCPは200/μL未満、CMV・MACは50/μL未満)。 ・プリオン病は異常プリオン蛋白の蓄積による疾患で、免疫不全とは無関係。 ・口腔内カンジダ症は指標疾患ではない(指標疾患は食道・気管・気管支・肺カンジダ症)が、HIV感染を疑う重要な所見である。
