「とりあえずキノロン」はもう効かない―淋菌性尿道炎と耐性菌の現実
第120回医師国家試験 A問題 第24問
国試問題にチャレンジ
30歳の男性。排尿時痛と尿道からの膿性分泌物を主訴に来院した。5日前に性交渉を持ち,その後,痛みが生じるようになったという。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-),沈渣に赤血球0~5/HPF,白血球50~100/HPFを認める。分泌物のGram染色でGram陰性双球菌を認めた。 この疾患で誤っているのはどれか。
- a.咽頭炎の原因となる。
- b.パートナーの女性に感染する。
- c.クラミジアとの混合感染がある。
- d.診断にはPCR検査が有用である。
- e.ニューキノロン系抗菌薬が第一選択薬である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
性交渉後数日で発症した強い排尿時痛と膿性尿道分泌物に、Gram陰性双球菌を認めれば淋菌性尿道炎を考えます。淋菌は尿道だけでなく咽頭・直腸・子宮頸管にも感染し、女性では無症状のまま骨盤内炎症性疾患から不妊症の原因となるため、パートナーの同時検査・治療が欠かせません。クラミジアとの混合感染が2〜3割にみられ、核酸増幅法で両者を同時に検出できます。治療は耐性化の現状を踏まえ、ニューキノロンではなくセフトリアキソン単回静注が第一選択で、代替のスペクチノマイシンは咽頭感染に無効です。病原体ごとの耐性の歴史を理解して抗菌薬を選ぶ姿勢は、性感染症に限らず感染症診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・30歳男性。排尿時痛と尿道からの膿性分泌物があり、尿道炎の症状である。 ・5日前に性交渉があり、その後に発症している。性感染症(sexually transmitted infection:STI)を考える経過であり、潜伏期が数日と短い点は淋菌性尿道炎(潜伏期はおおむね2〜7日)に合致する。 ・尿沈渣で白血球50〜100/HPFと膿尿を認め、尿道の炎症を裏付ける。 ・尿道分泌物のGram染色でGram陰性双球菌(ソラマメ状の球菌が2個対になったもの)を認める。白血球に貪食された像として観察されることが多く、男性尿道分泌物でのこの所見は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)感染を強く示す。
診断へのプロセス
男性の尿道炎は、淋菌性と非淋菌性(その代表がクラミジア・トラコマティス)に大別される。淋菌性は潜伏期が短く(数日)、症状が強く、黄白色の膿性分泌物が多い。クラミジア性は潜伏期が1〜3週間と長く、症状が軽く、分泌物は漿液性〜粘液性で少量である。本例は潜伏期・症状・分泌物の性状・Gram染色所見のいずれも淋菌性尿道炎に一致する。
設問の考え方
「誤っているもの」を選ぶ問題である。淋菌感染症の感染部位(尿道以外に咽頭・直腸・子宮頸管など)、パートナーへの感染、クラミジアとの混合感染、診断法(核酸増幅法)、治療薬(薬剤耐性の現状)を確認する。淋菌はキノロン系をはじめ多くの抗菌薬に耐性化が進んでおり、現在の第一選択薬はセフトリアキソンである点が判断の鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 咽頭炎の原因となる。
正しい記述である。淋菌はオーラルセックスを介して咽頭に感染し、淋菌性咽頭炎を起こす。多くは無症状か、軽い咽頭違和感・痛み程度にとどまるため気づかれにくく、感染源となりやすい。咽頭感染は尿道感染より治療抵抗性であり、薬剤選択にも注意が必要である。淋菌はほかに精巣上体炎、直腸炎、結膜炎、女性では子宮頸管炎・骨盤内炎症性疾患などの原因にもなる。
- ×b. パートナーの女性に感染する。
正しい記述である。淋菌感染症は性行為で伝播し、男性から女性への感染効率は高い。女性では子宮頸管炎を起こすが無症状のことが多く、放置すると卵管炎・骨盤内炎症性疾患を経て不妊症や異所性妊娠の原因となる。このため、患者だけでなくセックスパートナーの検査と治療を同時に行い、治癒確認までは性交渉を控えるよう指導する。
- ×c. クラミジアとの混合感染がある。
正しい記述である。男性の淋菌性尿道炎の約20〜30%にクラミジア・トラコマティスの混合感染がみられる。淋菌の治療だけを行うと、クラミジアによる尿道炎が残存する(淋菌治療後尿道炎)ことがあるため、両者を同時に検査し、クラミジアが陽性または否定できない場合はクラミジアに有効な薬剤(アジスロマイシンやドキシサイクリンなど)も併用する。
- ×d. 診断にはPCR検査が有用である。
正しい記述である。男性の尿道炎ではGram染色が迅速診断に有用だが、確定には分離培養またはPCR法などの核酸増幅法による淋菌の検出を行う。核酸増幅法は感度・特異度が高く、初尿を検体にでき、淋菌とクラミジアを同時に検出できる。一方、薬剤感受性を調べるには培養が必要である。
- ○e. ニューキノロン系抗菌薬が第一選択薬である。
誤った記述である。わが国の淋菌はニューキノロン系抗菌薬に対する耐性率がおよそ80%前後ときわめて高く、第一選択薬にはならない。ペニシリン系・テトラサイクリン系にも耐性が多く、経口セフェム系も耐性化により推奨されない。現在の第一選択はセフトリアキソンの単回静脈内投与であり、代替としてスペクチノマイシンの単回筋肉内投与があるが、スペクチノマイシンは咽頭感染には効果が期待できない。
淋菌感染症の要点
・病原体:Neisseria gonorrhoeae(Gram陰性双球菌)。乾燥や温度変化に弱く、性行為以外での感染はまれである。 ・男性:尿道炎(強い排尿時痛と多量の膿性分泌物)、進展すると精巣上体炎。 ・女性:子宮頸管炎が主体で無症状が多い。上行して卵管炎・骨盤内炎症性疾患となり、不妊症・異所性妊娠の原因となる。肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)はクラミジアに多いが淋菌でも起こる。 ・その他:咽頭感染、直腸感染、結膜炎(新生児では産道感染による新生児淋菌性結膜炎)、まれに播種性淋菌感染症(関節炎、皮疹)。
淋菌性尿道炎とクラミジア性尿道炎の比較
・潜伏期:淋菌は2〜7日、クラミジアは1〜3週間。 ・症状:淋菌は急性で強い、クラミジアは軽度で無症状例も多い。 ・分泌物:淋菌は黄白色の膿性で多量、クラミジアは漿液性〜粘液性で少量。 ・Gram染色:淋菌ではGram陰性双球菌(白血球内)を認め、クラミジアでは白血球のみで菌は見えない(細胞内寄生体であるため)。 ・治療:淋菌はセフトリアキソン静注(代替としてスペクチノマイシン筋注)、クラミジアはアジスロマイシン、ドキシサイクリンなど。
薬剤耐性
淋菌はペニシリン、テトラサイクリン、ニューキノロン、経口セフェムと次々に耐性を獲得してきた。セフトリアキソン耐性株も国内外で報告されており、適正な投与と治癒確認、パートナー治療が重要である。
POINT
・性交渉後数日で発症する排尿時痛と膿性尿道分泌物、Gram陰性双球菌→淋菌性尿道炎。 ・淋菌は咽頭・直腸・子宮頸管などにも感染し、パートナーの同時治療が必要。 ・クラミジアとの混合感染が約20〜30%あり、同時に検査・治療を考慮する。 ・診断は核酸増幅法(PCRなど)や培養。 ・キノロン耐性率が高く、第一選択はセフトリアキソン単回静注。スペクチノマイシンは咽頭感染に無効。
