「1日5本まで」はゴールじゃない―禁煙外来の初診で押さえる原則
第108回医師国家試験 I問題 第29問
国試問題にチャレンジ
禁煙外来における初診時の対応として適切でないのはどれか。
- a.禁煙の意思を確認する。
- b.身体症状の有無を聴取する。
- c.現在までの喫煙歴を聴取する。
- d.目標とする喫煙本数を話し合う。
- e.問診票によりニコチン依存の程度を診断する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
禁煙外来では喫煙をニコチン依存症という疾患としてとらえ、薬物療法とカウンセリングで完全な禁煙の達成と維持をめざします。初診では禁煙の意思の確認、TDS(5点以上で依存症)による診断、Brinkman指数を含む喫煙歴の聴取、身体症状や併存疾患の確認を行い、禁煙開始日を決めて薬物療法を選択します。一方、本数を減らす減煙は代償性喫煙により有害物質の摂取が十分に減らず、少量の喫煙でも心血管リスクは高いため、目標本数を話し合うことは禁煙治療の原則に反します。治療は12週間に5回の診察で呼気CO濃度を確認しながら進め、離脱症状が数日でピークを迎え数週で軽快することを事前に伝えておくことが重要です。「ゴールはゼロ」という原則を理解しておくことは、診療科を問わず日常的に行う禁煙支援の基本となります。
解答・解説
正解はdです
禁煙外来は、喫煙をニコチン依存症という治療の必要な疾患ととらえ、薬物療法とカウンセリングを組み合わせて禁煙(喫煙本数を0本にすること)を達成・維持させることを目的とする診療である。 日本では関係学会が作成した「禁煙治療のための標準手順書」に沿って行われ、所定の要件を満たせば保険診療として治療を受けられる。初診時には、①禁煙の意思の確認、②ニコチン依存症の診断(問診票によるスクリーニング)、③喫煙歴の聴取(喫煙本数と喫煙年数)、④喫煙に関連する身体症状・既往歴・併存疾患の確認、⑤禁煙開始日の設定と薬物療法の選択、⑥禁煙に伴う離脱症状や再喫煙しやすい状況への対処法の説明、などを行う。 ここで重要なのは、禁煙治療の目標はあくまで完全な禁煙であり、「本数を減らす(減煙)」ことを目標にはしないという原則である。喫煙本数を減らしても、喫煙者は1本あたりを深く吸うなどしてニコチン摂取量を補おうとする傾向があり(代償性喫煙)、健康被害の軽減効果は乏しい。また心血管疾患のリスクは少量の喫煙でも大きく上昇する。したがって「目標とする喫煙本数を話し合う」という対応は禁煙外来の方針に反する。
選択肢考察
- ×a. 禁煙の意思を確認する。
適切な対応である。禁煙治療の成否は本人の意欲に大きく左右されるため、まず禁煙したいという意思を確認する。保険診療で禁煙治療を行うには、直ちに禁煙することを希望していること、および治療を受けることに文書で同意していることが要件となる。すぐに禁煙する意思がない喫煙者には、禁煙の利益を伝える短い助言や情報提供を行い、動機づけを図る。
- ×b. 身体症状の有無を聴取する。
適切な対応である。咳・痰・息切れなど喫煙関連疾患(慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉、虚血性心疾患など)を示唆する症状や既往歴を確認することは、喫煙による健康被害の評価と、禁煙の動機づけに役立つ。また、禁煙補助薬の選択にあたって、併存疾患(精神疾患、心血管疾患、皮膚疾患など)や妊娠の有無を確認しておく必要がある。
- ×c. 現在までの喫煙歴を聴取する。
適切な対応である。1日の平均喫煙本数×喫煙年数で求められるBrinkman指数(喫煙指数)は、喫煙関連疾患のリスク評価に用いられる。保険診療で禁煙治療を行う要件として、35歳以上の者ではこの指数が200以上であることが求められる(2016年の改定で35歳未満の者はこの要件が撤廃された)。過去の禁煙の試みや再喫煙のきっかけを聴取することも治療計画に役立つ。
- ○d. 目標とする喫煙本数を話し合う。
適切でない対応であり、これが正解である。禁煙外来の目標は喫煙本数を0本にする完全な禁煙であり、本数を減らす減煙を目標とすることはない。減煙では代償性喫煙によってニコチンや有害物質の摂取量が期待ほど減らず、健康上の利益も小さい。初診時には目標本数ではなく禁煙開始日を決め、その日から完全にやめるよう指導する。
- ×e. 問診票によりニコチン依存の程度を診断する。
適切な対応である。ニコチン依存症のスクリーニングにはTDS(Tobacco Dependence Screener)という10項目の問診票が用いられ、5点以上でニコチン依存症と診断する。これは保険診療で禁煙治療を行うための要件の一つでもある。依存の程度の把握は、薬物療法の選択や離脱症状への対策にも役立つ。
保険診療による禁煙治療の対象者の要件
1. ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)で5点以上 2. 35歳以上の者では、Brinkman指数(1日喫煙本数×喫煙年数)が200以上 3. 直ちに禁煙することを希望し、治療について説明を受け、文書で同意している
標準的な治療スケジュール
12週間に計5回(初回、2週後、4週後、8週後、12週後)の診察を行う。診察では呼気一酸化炭素(CO)濃度を測定して喫煙状況を客観的に確認し、禁煙継続の励みとする。2回目以降の一部はオンライン診療で行うことも認められている。
禁煙補助薬
・ニコチン製剤(ニコチンパッチ、ニコチンガム):ニコチンを喫煙以外の経路で補い、離脱症状を和らげながら段階的に減量する。 ・バレニクリン:ニコチン受容体(α4β2)の部分作動薬で、離脱症状を軽減するとともに喫煙による満足感を減らす。副作用に悪心、異常な夢などがある。なお、日本では2021年に製剤中の不純物(ニトロソアミン)の問題で出荷が停止された。
ニコチン離脱症状
イライラ、不安、集中困難、落ち着きのなさ、抑うつ気分、食欲増加・体重増加、不眠など。禁煙後数日以内にピークとなり、多くは2〜4週間で軽快する。
禁煙支援の考え方
短時間の禁煙支援では「5A」(Ask:喫煙状況を尋ねる、Advise:禁煙を勧める、Assess:禁煙の意思を評価する、Assist:禁煙を支援する、Arrange:フォローアップを手配する)が用いられる。禁煙の意思がない人には動機づけ面接的なかかわりで関心を高める。
POINT
・禁煙外来の目標は完全な禁煙(0本)であり、減煙を目標としない(代償性喫煙のため減煙の利益は小さい)。 ・初診時:禁煙の意思確認、TDSによるニコチン依存症の診断、喫煙歴(Brinkman指数)、身体症状・既往歴の聴取、禁煙開始日の設定、薬物療法の選択。 ・保険適用の要件:TDS 5点以上、35歳以上ではBrinkman指数200以上、直ちに禁煙を希望し文書で同意。 ・治療は12週間で5回の診察、呼気CO濃度で喫煙状況を確認する。
