「CTを撮ってください」と言われたら―最初のひと言が信頼を決める
第108回医師国家試験 H問題 第33問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
42歳の女性。頭痛を主訴に来院した。 現病歴:3年前から月1,2回の頭痛を自覚していた。頭痛は両側の後頭部を中心とした持続性の鈍痛で,肩こりを伴っている。夕方になると頭痛が悪化するが,生活に支障をきたすほどの痛みではない。家事などで体を動かしている時のほうが多少痛みは和らぐ感じがする。悪心はない。頭痛に大きな変化はないが,昨日知人が脳梗塞で入院したという話を聞き,心配になって受診した。 既往歴:スギ花粉症。 生活歴:事務職。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。 家族歴:父親が56歳時にくも膜下出血で死亡。母親が高血圧症で治療中。
身体診察を開始しようとした時に,患者が「今日,頭のCTを撮ってもらえませんか」と希望してきた。 現時点の医師の返答として最も適切なのはどれか。
- a.「まだ診察の途中ですよ」
- b.「人間ドックで相談してください」
- c.「予約制なので今日はできません」
- d.「頭のCTを撮ってほしいのですね」
- e.「あなたの状態ではCTを撮る必要はありません」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療面接の途中で患者から検査を希望されたときは、即座に拒否したり、施設の事情や他の場を理由に退けたりせず、まず「CTを撮ってほしいのですね」と希望を反復して受け止めるのが基本です。この中立的な応答によって患者は話を続けやすくなり、知人の脳梗塞や父親のくも膜下出血といった不安、すなわち解釈モデルを引き出すことができます。検査の要否は身体診察を終えてから判断し、危険な頭痛の所見の有無や検査の利点・不利益を根拠として説明し、患者と話し合って方針を決めます。なお第一度近親者にくも膜下出血の既往がある場合は、MRAによる脳動脈瘤スクリーニングを別途相談する余地もあります。コミュニケーション技法を場面と目的に結びつけて使えることは、患者の納得と信頼を得る臨床の土台になります。
解答・解説
正解はdです
症例の整理
42歳の女性で、3年前から月1〜2回の頭痛を繰り返している。頭痛の性状は、両側の後頭部を中心とした持続性の鈍い痛み(圧迫感・締めつけ感に近い痛み)で、肩こりを伴う。夕方に増悪する一方、日常生活に支障をきたすほどではなく、家事など体を動かしていると多少軽くなる。悪心はない。つまり、同じパターンの頭痛が長期間変化なく反復しており、片頭痛にみられる拍動性・体動による悪化・悪心などの随伴症状がない。これらは緊張型頭痛に典型的な特徴である。 一方で、今回受診したきっかけは頭痛そのものが変化したことではなく、「昨日、知人が脳梗塞で入院したと聞いて心配になった」ことである。家族歴には父親のくも膜下出血による死亡もあり、患者は自分の頭の中にも重大な病気が隠れているのではないかという不安(解釈モデル)を抱いていると推測できる。
設問の考え方
本問が問うているのは医学的判断そのものではなく、医療面接の場面で患者から検査の希望が出されたときの最初の応じ方である。医療面接では、患者が語った言葉を医師が言い換えたり繰り返したりして返す「反復(繰り返し)」や「言い換え(パラフレーズ)」の技法が重視される。これにより、患者は「自分の話をきちんと受け止めてもらえた」と感じ、医師は患者の真の関心事(なぜCTを希望するのか、何が心配なのか)を引き出すきっかけを得られる。 この時点ではまだ身体診察も終わっておらず、検査の要否を判断できる段階ではない。したがって、希望を即座に拒否したり、制度上の理由や他の場で済ませるよう伝えたりするのではなく、まず患者の希望をそのまま受け止めて返し、その背景にある不安を聴いていく対応が最も適切である。その後、診察所見を踏まえて、CTが必要かどうかを患者に分かる言葉で説明し、納得を得ていく(共有意思決定)という流れになる。
選択肢考察
- ×a. 「まだ診察の途中ですよ」
事実としては診察の途中であるが、この返答は患者の希望を受け止めずに話を遮る印象を与える。患者は自分の不安を軽く扱われたと感じやすく、医師患者関係の構築を損なう。不安を抱えて受診した患者に対し、まず希望や心配を受け止めることが先であり、最初の返答としては不適切である。
- ×b. 「人間ドックで相談してください」
目の前の患者の訴えや不安を自分の診療の場で扱わず、別の場へ回してしまう返答である。患者の意思を尊重しておらず、問題から逃げている態度と受け取られかねない。患者は頭痛を主訴に受診しているのであり、その診療を担当する医師が相談に応じるべきである。
- ×c. 「予約制なので今日はできません」
施設の運用上の事情を最初に持ち出して希望を退ける返答であり、患者の不安には何も応えていない。まず希望を受け止め、不安の内容を聴き、診察を行い検査の必要性を話し合ったうえで、実際に検査を行う場合に予約や日程の制約を説明するのは差し支えない。しかし、会話の最初にこれを告げるのは不適切である。
- ○d. 「頭のCTを撮ってほしいのですね」
患者の発言を受け止めてそのまま返す反復(言い換え)の技法である。この返答は検査の実施を約束するものでも拒否するものでもなく、「あなたの希望を理解した」ことを伝える中立的な応答である。これにより患者は安心して話を続けやすくなり、医師は「なぜCTを希望するのか」「何が心配なのか」(知人の脳梗塞や父親のくも膜下出血に関連した不安)を引き出すことができる。緊張型頭痛が強く疑われ、医学的にはCTが必ずしも必要でない状況であっても、まず患者の解釈モデルを尊重して受け止めることが、その後の説明と納得につながる。
- ×e. 「あなたの状態ではCTを撮る必要はありません」
身体診察もまだ済んでいない段階で検査の不要を断定しており、医学的な判断としても早すぎる。また、患者の不安に向き合わずに希望を一方的に否定する返答であり、患者は納得せず不満や不信感を抱きやすい。仮に最終的にCTが不要と判断した場合でも、診察を終えたうえで、頭痛の特徴や危険な頭痛を示す所見がないことを根拠として丁寧に説明するべきである。
医療面接の主なコミュニケーション技法
・開放型質問(オープンクエスチョン): 「どうされましたか」のように、患者が自由に答えられる質問。面接の初めに用いて情報を広く集める。 ・閉鎖型質問(クローズドクエスチョン): 「はい/いいえ」や一語で答えられる質問。情報を確認・絞り込む段階で用いる。 ・促し: うなずき、相づち、「それで?」など、患者が話を続けるよう後押しする。 ・反復・言い換え(パラフレーズ): 患者の言葉をそのまま、あるいは言い換えて返し、理解したことを示す。本問の正解肢がこれにあたる。 ・要約: 聴いた内容をまとめて伝え、医師の理解が正しいかを確認する。 ・共感・正当化: 「ご心配になるのはもっともです」のように、患者の感情を言葉にして受け止める。
解釈モデル
患者が自分の症状について「何が原因か」「どのくらい重いか」「どうしてほしいか」をどう考えているかを解釈モデルという。本症例では、知人の脳梗塞や父親のくも膜下出血をきっかけに「頭の中に重大な病気があるのでは」と不安を抱き、CTで確かめたいと考えていると推測される。解釈モデルを把握することで、医師は患者が本当に求めている説明(例: 今回の頭痛の性質は脳卒中によるものとは異なる、など)を的確に提供できる。
検査希望への対応の流れ
1. 希望を受け止める(反復・共感) 2. 希望の背景にある不安や理由を聴く 3. 病歴聴取と身体診察を行い、危険な頭痛(二次性頭痛)を示唆する所見の有無を確認する 4. 検査の必要性・利点・不利益(CTでは放射線被曝など)を説明し、患者と話し合って方針を決める なお、第一度近親者(親・きょうだい・子)にくも膜下出血の既往がある場合は脳動脈瘤の頻度が高いことが知られている。このため、今回の頭痛とは別の問題として、スクリーニング検査(主に被曝のないMRAが用いられる)について相談に応じる余地はある。
POINT
・医療面接では、患者の希望をまず受け止めて返す(反復・言い換え)ことが基本であり、最初から否定・拒否・他所への丸投げをしない。 ・検査を希望する背景にある患者の不安(解釈モデル)を聴き取ることが、適切な説明と納得につながる。 ・検査の要否は診察を終えてから判断し、根拠を示して説明する。
