StudyMed医師国家試験

ソファでは眠れるのに布団では眠れない―「寝床=眠れない場所」をほどく刺激制御療法

第108回医師国家試験 H問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第108回 H問題 第30問

50歳の女性。不眠を主訴に来院した。寝床に入っても何時間たっても眠れないのがつらいと訴える。一方,ソファでテレビを見ているとウトウトすることがある。睡眠がとれた翌日は気分もよく趣味を楽しむことができる。  この患者への指導として適切なのはどれか。

  1. a.「昼寝をしてください」
  2. b.「寝床で本を読んでください」
  3. c.「起床時間を遅くしてください」
  4. d.「早めに寝床に入ってください」
  5. e.「眠れない時は寝床から出てください」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は不眠を訴える患者への生活指導を問う問題だ。注目してほしいのは「寝床では眠れないのに、別の場所ではウトウトする」という点と、「眠れた翌日は気分よく趣味を楽しめる」という点。この2つが診断と指導の方向を決めるカギになる。
医学生医学生
不眠と聞くと、まずうつ病を考えてしまいます。精神科の実習でも、不眠を主訴に来た人がうつ病だったケースがありました。
ドクタードクター
いい出発点だね。不眠はうつ病の重要な初発症状だから、まず除外すべきだ。ただ、この患者さんは眠れた翌日に気分がよく、趣味も楽しめている。抑うつ気分や興味・喜びの喪失がないから、うつ病による不眠は考えにくい。
医学生医学生
ソファでウトウトするということは、眠る力自体はあるんですね。
ドクタードクター
その通り。眠る能力は保たれていて、「眠ろう」と意識していない場面では自然に眠気が来る。これは精神生理性不眠症の典型的な特徴なんだ。一度眠れない夜を経験すると「今夜も眠れないのでは」と不安になり、眠ろうと努力するほど緊張と覚醒が高まる。それを繰り返すうちに、寝床そのものが覚醒の引き金になってしまう。
医学生医学生
基礎の心理学で習った古典的条件づけみたいですね。「寝床」と「眠れない苦しさ」が結びついてしまう。
ドクタードクター
まさにそう。だから治療は、その結びつきをほどいて「寝床=眠る場所」に戻すことが目標になる。これが刺激制御療法で、不眠に対する認知行動療法の柱の一つだ。中心となる指導が「眠れない時は寝床から出てください」。しばらく、目安として10〜20分ほどたっても眠れなければ、いったん寝床を出て別の部屋で静かに過ごし、眠気を感じてから戻る。
医学生医学生
寝床で眠れずに苦しむ時間を減らすことで、条件づけを消していくわけですね。
ドクタードクター
そう。この患者さんは寝床以外では眠れているから、特に効果が期待できる。では、ほかの指導が適さない理由も見ていこう。昼寝を勧めるのはどうかな。
医学生医学生
日中の眠気がとれて楽になりそうですが、夜に眠れなくなりそうな気もします。
ドクタードクター
その感覚が正しい。昼寝をすると夜までに溜まるはずの睡眠への欲求、いわゆる睡眠圧が解消されて、夜の寝つきがさらに悪くなる。夜間の入眠困難に悩む人には昼寝を控えてもらうのが原則だ。
医学生医学生
寝床で本を読むのは、リラックスできるので良さそうに思えたんですが。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。刺激制御療法では、寝床は眠ることと性生活以外に使わない。読書やテレビ、スマートフォンを寝床でしていると、寝床が「起きて活動する場所」として結びついてしまう。読書でくつろぐなら、寝床を離れた場所ですればいい。
医学生医学生
起床時間を遅くするのは、眠れなかった分を取り戻せる気がします。
ドクタードクター
そう考えがちだけど、朝寝坊すると体内時計が後ろにずれて、次の夜がさらに眠りにくくなる。朝の光で体内時計はリセットされるから、前夜の睡眠にかかわらず毎朝同じ時刻に起きるのが大切だ。早めに寝床に入るのも同じで、眠気がないうちに横になると眠れない時間が長くなって、悪循環を強めてしまう。寝床に入るのは眠くなってからだね。
医学生医学生
良かれと思ってやりそうなことが、どれも逆効果なんですね。患者さんに説明するときも、理由をセットで伝えたほうが納得してもらえそうです。
ドクタードクター
その視点は臨床でとても大切だよ。発展知識として、不眠に対する認知行動療法には、刺激制御療法のほかに、寝床にいる時間を実際に眠れている時間まで縮めて睡眠を凝縮させる睡眠制限療法、カフェインやアルコールを控えるなどの睡眠衛生指導、「8時間眠らないといけない」といった思い込みを修正する認知療法、筋弛緩法などのリラクセーションがある。慢性不眠ではこれが第一選択として推奨されている。
医学生医学生
睡眠薬はどういう位置づけになりますか。
ドクタードクター
非薬物療法で改善しない場合に検討するのが基本だ。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は依存や転倒、翌朝への持ち越しに注意が必要で、特に高齢者では慎重に使う。近年はメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬も使われている。それから、いびきや日中の強い眠気があれば睡眠時無呼吸症候群、夕方以降の脚の不快感があればむずむず脚症候群など、ほかの原因を見落とさないことも忘れずにね。

まとめ

寝床では眠れないのにソファなど寝床以外ではウトウトでき、眠れた翌日は気分よく趣味を楽しめる不眠は、うつ病などの二次性不眠よりも、寝床への条件づけられた覚醒による精神生理性不眠症を考えます。治療の中心は不眠に対する認知行動療法で、その柱である刺激制御療法では「眠くなってから寝床に入る」「眠れなければ寝床を出て、眠くなったら戻る」「寝床は眠るためだけに使う」「毎朝同じ時刻に起きる」「昼寝をしない」を指導します。昼寝、寝床での読書、朝寝坊、早すぎる就床はいずれも睡眠圧の解消や体内時計のずれ、条件づけの強化によって不眠を悪化させます。睡眠薬は非薬物療法で改善しない場合に検討し、依存や転倒などに注意が必要です。不眠の訴えに対して背景疾患を除外しつつ、理由を添えて生活指導を行う力は、どの診療科でも役立つ基本的な臨床技能です。

解答・解説

正解はeです

症状の整理

・50歳女性。寝床に入ると何時間も眠れず、それを苦痛に感じている。 ・一方で、ソファでテレビを見ているときにはウトウトすることがある。つまり眠る能力そのものは保たれており、「眠ろう」と意識していない場面では自然に眠気が訪れる。 ・眠れた翌日は気分がよく、趣味も楽しめる。抑うつ気分や興味・喜びの喪失はなく、うつ病による不眠は考えにくい。

診断の考え方

不眠を訴える患者では、まず二次的な不眠(うつ病などの精神疾患、身体疾患による痛みやかゆみ・頻尿、薬物やカフェイン・アルコール、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群などの他の睡眠障害)を除外する。本例では気分の症状がなく、日中は趣味を楽しめていることから、うつ病は否定的である。 寝床では眠れないのに、寝床以外のくつろいだ場面では眠れるという特徴は、精神生理性不眠症の典型である。一度眠れない夜を経験すると「今夜も眠れないのでは」という不安が生じ、眠ろうと努力するほど緊張と覚醒が高まる。これを繰り返すうちに、「寝床=眠れずに苦しむ場所」という結びつき(条件づけ)が形成され、寝床に入ること自体が覚醒の引き金になる。なお現在の診断分類(DSM-5やICSD-3)では、このような病態は不眠障害(慢性不眠障害)としてまとめて扱われている。

指導の方針

治療の中心は薬物ではなく、不眠に対する認知行動療法(CBT-I)であり、その柱の一つが刺激制御療法である。これは「寝床=眠る場所」という結びつきを取り戻すことを目的とし、眠くなってから寝床に入る、寝床では眠ること以外をしない、眠れなければいったん寝床を離れ、眠くなってから戻る、毎朝同じ時刻に起きる、昼寝をしない、といった指導を行う。本問ではこの考え方に沿った指導を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  「昼寝をしてください」

    昼寝をすると、夜までに蓄積されるはずの睡眠への欲求(睡眠圧)が解消されてしまい、夜間の寝つきがさらに悪くなる。夜の不眠に悩む患者には、昼寝を控えるよう指導するのが原則である。一般の人では午後の早い時間帯の短い昼寝(30分以内)が日中の眠気対策として勧められることもあるが、本例のように夜間の入眠困難が問題の場合には適さない。

  2. ×b.  「寝床で本を読んでください」

    刺激制御療法では、寝床を眠ること(および性生活)以外に使わないよう指導する。寝床で読書をしたり、テレビやスマートフォンを見たりすると、寝床が「目を覚まして活動する場所」として結びつき、寝床に入っても眠れない状態が強化される。読書でリラックスしたいなら、寝床を離れた別の場所で行うべきである。

  3. ×c.  「起床時間を遅くしてください」

    眠れなかった分を朝寝坊で取り戻そうとすると、体内時計(概日リズム)が後ろにずれ、次の夜の寝つきがさらに悪くなる。朝に光を浴びることで体内時計がリセットされるため、前夜の睡眠時間にかかわらず毎朝同じ時刻に起床することが重要である。不眠症の治療法である睡眠制限療法でも、起床時刻は固定したまま、寝床にいる時間を実際に眠れている時間に近づけるよう就床時刻を調整する。

  4. ×d.  「早めに寝床に入ってください」

    眠気がないうちに寝床に入ると、眠れずに過ごす時間が長くなり、「寝床では眠れない」という結びつきがかえって強まる。また寝床にいる時間が実際の睡眠時間より長くなると、睡眠が浅く途切れがちになる。寝床に入るのは眠気を感じてからにするよう指導するのが適切である。

  5. ○e.  「眠れない時は寝床から出てください」

    刺激制御療法の中心となる指導である。寝床に入ってしばらく(目安として10〜20分程度)たっても眠れないときは、いったん寝床を出て別の部屋で静かに過ごし、眠気を感じてから寝床に戻る。眠れなければこれを繰り返す。寝床で眠れずに苦しむ経験を減らすことで、「寝床=眠れない場所」という条件づけが解消され、「寝床に入ると眠れる」という結びつきが再形成される。本例は寝床以外では自然に眠れているため、この方法が特に有効と考えられる。

精神生理性不眠症

眠れないことへの不安やこだわりと、寝床・寝室に対する条件づけられた覚醒によって持続する不眠である。特徴として、眠ろうと努力するほど眠れない、寝床以外の場所(ソファ、テレビの前、旅行先など)ではかえって眠れる、日中は不眠を心配する以外に大きな精神症状がない、などが挙げられる。現在の分類(DSM-5の不眠障害、睡眠障害国際分類第3版の慢性不眠障害)では、原発性不眠の諸病型をまとめて扱うようになっている。

不眠に対する認知行動療法(CBT-I)

慢性不眠の第一選択として推奨される非薬物療法で、以下の要素からなる。 ・刺激制御療法:1)眠くなってから寝床に入る、2)寝床は眠ること(と性生活)以外に使わない、3)しばらくしても眠れなければ寝床を離れ、眠くなったら戻る(繰り返してよい)、4)前夜の睡眠にかかわらず毎朝同じ時刻に起きる、5)昼寝をしない。 ・睡眠制限療法:寝床にいる時間を実際に眠れている時間まで短縮し、睡眠を凝縮させる。起床時刻を固定して就床時刻を遅らせ、睡眠効率(実際の睡眠時間÷寝床にいた時間)が改善すれば少しずつ寝床にいる時間を延ばす。 ・睡眠衛生指導:就寝前のカフェイン・アルコール・喫煙を控える、寝る直前の激しい運動や強い光(スマートフォンなど)を避ける、日中に適度な運動をする、朝に日光を浴びる、寝室の環境(温度・明るさ・音)を整える。 ・認知療法:「8時間眠らなければならない」「眠れないと明日は大変なことになる」といった不眠に対する過度な思い込みを修正する。 ・リラクセーション法:漸進的筋弛緩法、呼吸法など。

不眠の鑑別で確認すべき点

・うつ病:早朝覚醒、抑うつ気分、興味・喜びの喪失を伴う。不眠はうつ病の重要な初発症状である。 ・睡眠時無呼吸症候群:いびき、呼吸停止の指摘、日中の強い眠気。 ・むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群):夕方から夜間に安静時の下肢の不快感と動かしたい衝動が出る。 ・概日リズム睡眠障害:睡眠の時間帯そのものがずれている。 ・身体疾患や薬物:痛み、かゆみ、頻尿、甲状腺機能亢進症、ステロイド、カフェイン、アルコールなど。

薬物療法

非薬物療法で改善しない場合に検討する。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は依存や転倒、翌朝への持ち越しに注意が必要であり、近年はメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬も用いられる。

POINT

・寝床では眠れないが、ソファなど寝床以外では眠れる不眠は、精神生理性不眠症(条件づけられた覚醒)を考える。 ・眠れた翌日に気分がよく趣味を楽しめるなら、うつ病は否定的である。 ・治療の中心は刺激制御療法を含む認知行動療法で、「眠くなってから寝床に入る」「眠れなければ寝床を出る」「寝床は眠るためだけに使う」「起床時刻を一定に保つ」「昼寝をしない」が基本である。 ・昼寝、寝床での読書、朝寝坊、早すぎる就床は、いずれも不眠を悪化させる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。