午前3時、左眼の奥を襲う激痛―じっとしていられない頭痛「群発頭痛」を見抜く
第117回医師国家試験 D問題 第52問
国試問題にチャレンジ
A 35-year-old man complained of a sudden onset of severe headache. For the past two weeks, he woke up around 3:00 a.m. due to soreness behind the left eye. His pain continued for about an hour. Today, he visited the emergency department at 5:30 a.m. His consciousness was clear, but he appeared restless. His body temperature was 36.4℃. Pulse rate was 84/min. Blood pressure was 136/80mmHg. Conjunctival hyperemia and tearing of the left eye were observed. There were no meningeal signs. MRI and MRA of the head showed no abnormalities. What is the most likely diagnosis?
- a.migraine
- b.meningitis
- c.brain tumor
- d.cluster headache
- e.subarachnoid hemorrhage
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然の激しい頭痛では、まずくも膜下出血や髄膜炎、脳腫瘍などの二次性頭痛を、髄膜刺激症状や画像検査で除外することが大前提です。そのうえで、青壮年男性に片側の眼窩部の激痛が15〜180分続き、群発期には毎日同じ時刻(とくに夜間睡眠中)に起こり、同側の結膜充血・流涙などの自律神経症状と、じっとしていられない様子を伴えば群発頭痛を考えます。片頭痛とは持続時間、自律神経症状の有無、発作中の行動、性差で鑑別できます。急性期治療は高濃度酸素吸入とスマトリプタン皮下注、予防はベラパミルが中心で、群発期の飲酒は避けるよう指導します。頭痛の時間的パターンと発作中の行動に注目する姿勢は、一次性頭痛全般を見分ける基本となります。
解答・解説
正解はdです
問題文の要旨
35歳の男性が突然の激しい頭痛を訴えて受診した。この2週間は、午前3時ごろに左眼の奥の痛みで目が覚め、痛みは約1時間続いていた。本日は午前5時30分に救急外来を受診した。意識は清明だが落ち着きがない。体温36.4℃、脈拍84/分、血圧136/80mmHg。左眼に結膜充血と流涙がある。髄膜刺激症状はない。頭部MRI・MRAに異常はない。最も考えられる診断を問う問題である。
所見の整理
・患者背景:35歳男性(青壮年期の男性)。 ・頭痛の性状:片側(左)の眼の奥の激しい痛み。 ・時間的特徴:2週間にわたって毎日、ほぼ同じ時刻(午前3時ごろ)に睡眠中に起こり、持続は約1時間。ある期間に集中して連日起こる「群発期」の像である。 ・随伴症状:痛みと同じ側(左)の結膜充血と流涙(自律神経症状)、落ち着きのなさ(restlessness:痛みでじっとしていられない状態)。 ・発熱なし、髄膜刺激症状なし、頭部MRI・MRAで異常なし。
診断へのプロセス
「突然の激しい頭痛」ではまず、くも膜下出血などの危険な二次性頭痛(他の病気が原因で起こる頭痛)を除外する必要がある。本例では、発熱・髄膜刺激症状がなく、MRI・MRAでも出血、腫瘍、脳動脈瘤などの異常がないため、二次性頭痛は否定的である。 そのうえで、(1)片側の眼窩部(眼の奥)の激痛、(2)持続が約1時間と短い、(3)毎日ほぼ同じ時刻に、とくに夜間睡眠中に起こる周期性、(4)同側の結膜充血・流涙という自律神経症状、(5)落ち着きなく動き回る様子、(6)青壮年男性、という組み合わせは、一次性頭痛のうち三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)に分類される群発頭痛に典型的である。
設問の考え方
片頭痛との鑑別が最も重要である。片頭痛は女性に多く、持続は4〜72時間と長く、悪心・光過敏・音過敏を伴い、患者は体を動かすと痛みが悪化するため暗く静かな場所でじっと休もうとする。これに対し群発頭痛は男性に多く、持続は15〜180分と短く、眼の周囲の激痛に同側の自律神経症状を伴い、患者はじっとしていられない。本例の特徴は後者に一致する。
選択肢考察
- ×a. migraine
片頭痛(migraine)は20〜40歳代の女性に多く、片側性・拍動性の頭痛が4〜72時間続き、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴う。日常的な動作で痛みが悪化するため、患者は横になって安静にしようとする。閃輝暗点などの前兆を伴うこともある。本例は男性で、持続が約1時間と短く、2週間にわたり毎晩同じ時刻に起こる規則性があり、同側の結膜充血・流涙を伴い、落ち着きなく動いている点が片頭痛と合わない。
- ×b. meningitis
髄膜炎(meningitis)では、発熱とともに持続的な頭痛が続き、項部硬直やKernig徴候などの髄膜刺激症状がみられる。本例は体温36.4℃で発熱がなく、髄膜刺激症状もない。また1時間程度でおさまる発作性の頭痛が毎日繰り返すという経過も髄膜炎に合わない。
- ×c. brain tumor
脳腫瘍(brain tumor)による頭痛は、頭蓋内圧の上昇によって徐々に増悪する慢性の頭痛が典型的で、早朝に強く、悪心・嘔吐、神経脱落症状やけいれんを伴うことがある。本例は頭部MRIで異常を認めないため、脳腫瘍は否定できる。
- ○d. cluster headache
群発頭痛(cluster headache)は青壮年男性に多く、片側の眼窩部から側頭部の激痛が15〜180分続き、同側の結膜充血・流涙、鼻閉・鼻漏、眼瞼下垂・縮瞳(Horner徴候)などの自律神経症状を伴う。発作は一定期間(数週〜数か月)連日起こり、夜間睡眠中の決まった時刻に起こりやすい。痛みのため患者はじっとしていられず、歩き回ったり頭を抱えたりする。本例の、2週間連日・午前3時ごろ・約1時間持続する左眼の奥の痛み、同側の結膜充血・流涙、落ち着きのなさは、いずれもこれに当てはまり、画像検査で二次性頭痛も否定されていることから、群発頭痛が最も考えられる。
- ×e. subarachnoid hemorrhage
くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage)は「突然発症し、これまでに経験したことのない激しい頭痛」が典型で、主訴の文面からは鑑別に挙げるべき疾患である。しかし、くも膜下出血の頭痛は一度起こると持続し、1時間でおさまる発作が毎日繰り返すことはない。また本例は髄膜刺激症状がなく、MRI・MRAで出血や脳動脈瘤も認めないため否定的である。
群発頭痛の概要
・国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)に分類される一次性頭痛である。 ・20〜40歳代の男性に多い。かつては男性が女性の数倍以上とされたが、近年は女性例の報告も増え、性差は以前考えられていたより小さいとされる。それでも男性優位である。 ・喫煙者や飲酒習慣のある人に多い。群発期にはアルコールが発作の誘因となる。 ・病態には、視床下部(体内時計に関わる部位)の機能異常と三叉神経・自律神経反射の活性化が関与すると考えられており、発作が毎日同じ時刻、とくに夜間に起こりやすい理由と考えられている。
ICHD-3の診断基準の要点
・片側の眼窩部、眼窩上部、側頭部のいずれか1つ以上に生じる重度〜きわめて重度の痛みが、未治療で15〜180分続く。 ・次の一方または両方を伴う。(1)頭痛と同側の自律神経症状(結膜充血または流涙、鼻閉または鼻漏、眼瞼浮腫、前額部・顔面の発汗、縮瞳または眼瞼下垂)、(2)落ち着きのない、あるいは興奮した様子。 ・発作頻度は1回/2日から8回/日。 ・他の疾患でうまく説明できない。
治療
・急性期(発作時):高濃度酸素吸入(非再呼吸式のリザーバー付きマスクで純酸素を毎分7〜15L程度、約15分間)が有効である。スマトリプタンの皮下注射や点鼻も有効である。経口薬は効果発現が遅く、持続の短い発作には不向きである。 ・予防(群発期の間):ベラパミル(Ca拮抗薬)が第一選択として用いられ、副腎皮質ステロイドの短期投与を併用することもある。わが国では抗CGRP抗体のガルカネズマブが反復性群発頭痛の発作抑制に承認されている。 ・生活指導:群発期中の飲酒を避ける。
片頭痛と群発頭痛の比較
・好発:片頭痛は若年女性、群発頭痛は青壮年男性。 ・持続:片頭痛は4〜72時間、群発頭痛は15〜180分。 ・部位:片頭痛は片側(両側のこともある)の側頭部が多い、群発頭痛は片側の眼窩部周囲で、発作ごとに左右が入れ替わることはまれ。 ・随伴症状:片頭痛は悪心・嘔吐、光過敏・音過敏、群発頭痛は同側の自律神経症状。 ・発作中の行動:片頭痛は暗く静かな所で安静にする、群発頭痛はじっとしていられず動き回る。 ・急性期治療:片頭痛はトリプタン(経口など)・鎮痛薬、群発頭痛は酸素吸入・スマトリプタン皮下注。
POINT
・青壮年男性、片側の眼の奥の激痛、15〜180分の持続、毎日同じ時刻(とくに夜間睡眠中)の発作、同側の結膜充血・流涙、じっとしていられない → 群発頭痛。 ・突然の激しい頭痛では、まずくも膜下出血などの二次性頭痛を画像検査で除外する。 ・片頭痛との違い:持続時間(短い)、自律神経症状、発作中の行動(動き回る)、性差(男性に多い)。 ・急性期治療は高濃度酸素吸入とスマトリプタン皮下注、予防はベラパミル。群発期の飲酒は避ける。
