暗い部屋でじっと耐える頭痛―片頭痛を群発頭痛と取り違えないための基本整理
第119回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
片頭痛で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.男性に多い。
- b.入眠中に多い。
- c.体動により増悪する。
- d.拍動性の痛みが多い。
- e.発作予防にトリプタンを用いる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
片頭痛は女性に多い一次性頭痛で、4〜72時間続き、片側性・拍動性・中等度〜重度・日常動作による増悪のうち2つ以上を満たし、悪心・嘔吐や光・音過敏を伴うのが特徴です。発作中は安静を好む点で、睡眠中に起こりやすく落ち着きなく動き回る男性優位の群発頭痛とは対照的です。トリプタンは急性期治療薬であり、予防にはバルプロ酸、ロメリジン、プロプラノロール、アミトリプチリン、抗CGRP関連抗体製剤などを用います。トリプタンは虚血性心疾患や脳血管障害などで禁忌となり、急性期治療薬の使いすぎは薬剤の使用過多による頭痛を招くため注意が必要です。一次性頭痛の3類型を性差・時間帯・発作中の行動・治療薬で比較して整理しておくことが、問診での的確な鑑別につながります。
解答・解説
正解はc, dです
片頭痛(migraine)は、一次性頭痛(脳腫瘍やくも膜下出血などの器質的疾患によらない頭痛)の代表であり、緊張型頭痛・群発頭痛(三叉神経・自律神経性頭痛の一つ)との違いを整理しておくことが本問を解く鍵である。 片頭痛の臨床像は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準に沿って覚えるとよい。頭痛は4〜72時間続き、「片側性」「拍動性」「中等度〜重度」「日常的な動作で増悪する(または動作を避ける)」の4特徴のうち2つ以上をもち、悪心・嘔吐、あるいは光過敏と音過敏を伴う。つまり、体動による増悪と拍動性の痛みは、片頭痛を特徴づける所見そのものである。 一方、性差(女性に多い)、発作の出現時間帯(睡眠中に起こりやすいのは群発頭痛)、治療薬の位置づけ(トリプタンは急性期治療薬であり予防薬ではない)は、群発頭痛や予防療法と混同しやすいポイントである。各選択肢をこれらの知識と照らし合わせれば、正しい記述を2つ選ぶことができる。
選択肢考察
- ×a. 男性に多い。
誤り。片頭痛は女性に多い。わが国の疫学調査では有病率は全体で約8.4%、男性約3.6%に対して女性約12.9%であり、女性は男性の3〜4倍とされる。20〜40歳代の女性に多く、月経周期に関連して発作が起こること(月経関連片頭痛)もあり、エストロゲンの変動が関与すると考えられている。男性に多い一次性頭痛は群発頭痛であり、両者の対比として押さえておく。
- ×b. 入眠中に多い。
誤り。片頭痛の発作は主に覚醒している時間帯、とくに起床後から日中にかけて起こることが多い。誘因としてストレス、ストレスから解放された後(週末など)、睡眠不足や寝すぎ、空腹、月経、天候の変化、アルコールなどが知られる。睡眠中に毎晩ほぼ同じ時刻に痛みで目が覚めるという経過は群発頭痛に特徴的であり、片頭痛の記述としては当てはまらない。
- ○c. 体動により増悪する。
正しい。歩行や階段の昇降といった日常的な動作で頭痛が増悪する、あるいは頭痛のためにそうした動作を避けることは片頭痛に特徴的であり、ICHD-3の診断基準の項目にも含まれている。このため発作中の患者は暗く静かな部屋で横になってじっとしていることを好む。これに対して群発頭痛では、痛みのために落ち着きなく歩き回ったり、頭を壁に打ちつけたりする様子がみられ、「落ち着きがない、あるいは興奮した様子」が診断基準に含まれる。発作中の行動の違いは両者の鑑別に役立つ。
- ○d. 拍動性の痛みが多い。
正しい。片頭痛では脈打つような「ズキンズキン」という拍動性の痛みを訴えることが多く、ICHD-3の診断基準の頭痛の特徴にも挙げられている。ただし診断基準では4つの特徴のうち2つを満たせばよいため、拍動性でない片頭痛や両側性の片頭痛も存在する。「多い」という表現は、典型的ではあるが必須ではないという点を正しく反映している。なお、緊張型頭痛は非拍動性の圧迫感・締めつけ感が典型である。
- ×e. 発作予防にトリプタンを用いる。
誤り。トリプタン(セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)は、発作が起きたときに服用して頭痛を頓挫させる急性期治療薬であり、発作予防には用いない。頭痛が始まってから早期(痛みが軽いうち)に使うと効果が高い。発作頻度が多い場合などに行う予防療法には、抗てんかん薬のバルプロ酸、Ca拮抗薬のロメリジン、β遮断薬のプロプラノロール、抗うつ薬のアミトリプチリンなどが用いられ、これらで効果不十分な症例には抗CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)抗体・抗CGRP受容体抗体の皮下注射製剤が使われる。なお、トリプタンは血管収縮作用をもつため、虚血性心疾患や脳血管障害(脳梗塞・一過性脳虚血発作)の患者・既往例、片麻痺性片頭痛などでは禁忌である。こうした患者の急性期治療には、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、血管収縮作用をもたない5-HT1F受容体作動薬のラスミジタンなどが選択肢となる。
前兆のない片頭痛の診断基準(ICHD-3)
A.B〜Dを満たす頭痛発作が5回以上ある B.頭痛発作の持続時間は4〜72時間(未治療または治療が無効の場合) C.次の4つの特徴のうち少なくとも2項目を満たす 1.片側性 2.拍動性 3.中等度〜重度の頭痛 4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける D.頭痛発作中に少なくとも次の1項目を満たす 1.悪心または嘔吐(あるいはその両方) 2.光過敏および音過敏 E.ほかに最適なICHD-3の診断がない C項目は2つ満たせばよいので、両側性や非拍動性の片頭痛もありうる。
前兆のある片頭痛
頭痛に先立って、閃輝暗点(ギザギザした光が視野に現れ広がる)などの視覚症状、感覚症状、言語症状などが5〜60分かけて出現し、完全に回復する。前兆は大脳皮質を伝播する神経活動の抑制(皮質拡延性抑制)によると考えられている。
病態
三叉神経血管説が有力で、三叉神経終末からCGRPなどの神経ペプチドが放出され、硬膜血管の拡張と神経原性炎症が起こり痛みが生じると考えられている。トリプタンや抗CGRP製剤はこの経路を標的とする。
一次性頭痛の比較
片頭痛:女性に多い/片側性・拍動性が多い/4〜72時間/体動で増悪し安静を好む/悪心・嘔吐、光・音過敏 緊張型頭痛:性差は少ない/両側性の圧迫感・締めつけ感/30分〜7日/体動で増悪しない/悪心・嘔吐は伴わない 群発頭痛:男性に多い/片側の眼窩周囲の激痛/15〜180分/睡眠中に起こりやすく、群発期に連日出現/落ち着きなく動き回る/同側の流涙・結膜充血・鼻漏・縮瞳・眼瞼下垂などの自律神経症状
治療
急性期:軽〜中等度ではアセトアミノフェン・NSAIDs、中等度〜重度やこれらが無効の場合はトリプタン。悪心・嘔吐には制吐薬を併用する。トリプタンが使えない例ではラスミジタンも選択肢となる。 予防:バルプロ酸、ロメリジン、プロプラノロール、アミトリプチリン、抗CGRP関連抗体製剤など。 急性期治療薬を月10日以上(単純鎮痛薬は15日以上)使い続けると薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を起こしうるため、頻用している患者には予防療法を検討する。
POINT
・片頭痛は女性に多い(男性の3〜4倍)。男性に多いのは群発頭痛。 ・片側性、拍動性、中等度〜重度、日常動作で増悪の4特徴のうち2つ以上+悪心・嘔吐または光・音過敏。 ・発作中は安静を好む(群発頭痛は落ち着きなく動き回る)。 ・睡眠中に起こりやすいのは群発頭痛。 ・トリプタンは急性期治療薬。予防にはバルプロ酸、ロメリジン、プロプラノロール、抗CGRP関連抗体など。 ・トリプタンは虚血性心疾患・脳血管障害・片麻痺性片頭痛などで禁忌。
