StudyMed医師国家試験

あふれる鼻血にまず一手―アドレナリンガーゼで「止めて、見る」

第108回医師国家試験 H問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第108回 H問題 第18問

大量の鼻出血のため搬入された成人患者にまず行うのはどれか。

  1. a.電気凝固
  2. b.鼻根部圧迫
  3. c.顎動脈塞栓術
  4. d.外頸動脈結紮
  5. e.アドレナリン含浸ガーゼ挿入

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大量の鼻出血で運ばれてきた患者に、最初に何をするかを問う問題だ。鼻出血の治療は「侵襲の小さい方法から段階的に」が大原則。選択肢を処置の重さの順に並べ替えてみると、答えが見えてくるよ。
医学生医学生
救急外来の実習で鼻出血の患者さんを見ましたが、まず血圧と脈を測っていました。
ドクタードクター
そう、それが本当の第一歩だね。出血性ショックがないかを確認し、気道を守る。体位は座位で軽く前かがみにして、喉に流れた血は飲み込まずに吐き出してもらう。飲み込むと嘔吐を誘発するし、出血量もわからなくなる。仰向けに寝かせると血が咽頭に流れ込んで誤嚥の危険があるんだ。
医学生医学生
子どもの頃、鼻血が出たら上を向いて首の後ろをたたけと言われましたが、逆効果なんですね。
ドクタードクター
そういう民間療法は効果が期待できないね。では局所の止血を考えよう。鼻出血の8〜9割はどこから出るか覚えている?
医学生医学生
鼻中隔前下部のKiesselbach部位です。だから選択肢の鼻根部圧迫でいいのかなと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。Kiesselbach部位を押さえられるのは、鼻翼、つまり小鼻を外から鼻中隔に向けてつまむ方法。鼻根部は両目の間の硬い骨の部分で、ここを押しても出血点には圧がかからない。それに正しい鼻翼圧迫でさえ、救急搬入されるほどの大量出血では止まらないことが多いんだ。
医学生医学生
では、出血している血管を電気凝固で焼いてしまうのが早そうですが。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、電気凝固は出血点を直接見てピンポイントで焼く方法だ。大量出血の最中は鼻腔が血で満たされて、どこから出ているのか見えない。見えないものは焼けないよね。だから最初の処置にはならない。
医学生医学生
そこで正解のアドレナリン含浸ガーゼ挿入ですね。薬理学で習ったα1作用で血管を締めるわけですか。
ドクタードクター
その通り。アドレナリンのα1受容体刺激で鼻粘膜の血管が強く収縮し、さらにガーゼそのものが出血部位を物理的に圧迫する。この相乗効果で、前方からの出血なら多くはこれで止まる。リドカインなどの表面麻酔薬を一緒に浸すことが多く、痛みを和らげて次の処置もしやすくなるんだ。
医学生医学生
もし止まらなくても、出血が弱まって粘膜も縮むので、中が見やすくなりますね。
ドクタードクター
まさにそこが大事で、「止める」と「見る」を同時にかなえる一手なんだ。出血点が見えれば電気凝固や化学焼灼、見えなければ軟膏ガーゼの前鼻タンポン、後方からの出血ならバルーンカテーテルや後鼻タンポン(Bellocqタンポン)へと進む。
医学生医学生
残りの顎動脈塞栓術と外頸動脈結紮は、それでもダメなときの最終手段という位置づけですか。
ドクタードクター
そう。顎動脈塞栓術はカテーテルを使う血管内治療で、保存的処置で止まらない難治性の後方出血に行う。脳梗塞などの合併症のリスクもある。外頸動脈結紮は頸部を切開する手術で侵襲が大きいうえ、出血点から遠いところで縛るので、対側や内頸動脈系の篩骨動脈からの側副血行で止血効果が十分でないこともある。今は内視鏡下の蝶口蓋動脈焼灼や塞栓術が優先されることが多いね。
医学生医学生
鼻腔が外頸動脈系と内頸動脈系の両方から血流を受けている、という解剖の講義がここでつながりました。
ドクタードクター
いいね。発展知識として、前方出血と後方出血の違いも押さえておこう。Kiesselbach部位からの前方出血は小児や若年者に多く、比較的止めやすい。一方、蝶口蓋動脈領域などからの後方出血は高齢者、高血圧、動脈硬化、抗血栓薬内服中の人に多く、血液が咽頭へ流れ込み、量も多く止めにくい。
医学生医学生
反復する場合は、背景の病気も探したほうがいいですよね。
ドクタードクター
その通り。抗血小板薬や抗凝固薬の内服、白血病や特発性血小板減少性紫斑病、血友病などの血液疾患、肝硬変、Osler病、そして鼻腔・副鼻腔腫瘍、若年男性なら若年性血管線維腫も考える。あと、アドレナリンは全身に吸収されると血圧上昇や頻脈を起こしうるから、高血圧や虚血性心疾患のある人ではバイタルに注意しよう。

まとめ

鼻出血の治療は、侵襲の小さい方法から段階的に進めるのが原則です。大量出血で搬入された患者では、まずバイタルサインと気道を確認し、座位・前屈位で血液を吐き出させたうえで、アドレナリン(多くはリドカイン併用)を含ませたガーゼを挿入し、血管収縮と圧迫で止血を図ると同時に出血点を観察できる視野をつくります。電気凝固は出血点を確認してから行う処置であり、鼻根部の圧迫は出血部位に圧がかからず無効、顎動脈塞栓術や外頸動脈結紮は保存的治療で止まらない難治例に限られます。鼻出血の大半はKiesselbach部位からの前方出血ですが、高齢者や高血圧・抗血栓薬内服例では止血困難な後方出血に注意し、反復例では背景疾患を検索します。「止めて、見て、次へ進む」という段階的な考え方は、救急外来で鼻出血に対応するうえでの基本となります。

解答・解説

正解はeです

鼻出血の治療は「侵襲の小さい方法から段階的に行う」のが原則である。本問は、大量の鼻出血で搬入された患者に対して最初に行う局所処置を問うている。 来院直後にはまず、意識・血圧・脈拍を確認して出血性ショックの有無を評価し、気道を確保する。患者を座位で軽く前屈させ、咽頭に流れ込んだ血液は飲み込まずに吐き出させる(飲み込むと嘔吐を誘発し、出血量の把握も難しくなる。仰臥位は血液が咽頭に流れ込み誤嚥の危険がある)。必要に応じて静脈路を確保する。 局所の止血処置としては、軽い出血であれば鼻翼(小鼻)を外側から鼻中隔に向けて10〜15分ほどつまむ圧迫で多くが止まる。しかし大量出血で搬入されるような例では、圧迫だけでは止まらないことが多く、また鼻腔内が血液で満たされて出血点も見えない。そこで、血管収縮作用をもつアドレナリン(多くは表面麻酔薬のリドカインを併用)を含ませたガーゼを鼻腔に挿入し、薬理学的な血管収縮と物理的な圧迫で出血を減らす。これにより多くの前方からの出血は止まり、止まらなくても出血が弱まって鼻内が観察しやすくなり、出血点の同定と次の処置につながる。 それでも止血できない場合は、出血点が確認できれば電気凝固・化学焼灼、確認できなければ軟膏ガーゼによる前鼻タンポン、後方からの出血ならバルーンカテーテルや後鼻タンポン(Bellocqタンポン)へと進む。これらでも制御できない難治例に限って、内視鏡下の蝶口蓋動脈焼灼・結紮、顎動脈塞栓術などの血管内治療、外頸動脈結紮といった外科的・血管内的治療が検討される。

選択肢考察

  1. ×a.  電気凝固

    誤り。電気凝固(バイポーラなどによる焼灼)は、出血点を直視下に確認したうえでその部位をピンポイントに焼く方法である。大量出血の最中は鼻腔が血液で満たされて出血点を同定できないため、最初に行うことはできない。まずアドレナリン含浸ガーゼなどで出血を弱め、視野を確保してから出血点が見つかった場合に行う二段階目の処置である。

  2. ×b.  鼻根部圧迫

    誤り。鼻出血の約8〜9割は鼻中隔前下部のKiesselbach部位(Little area)から生じ、この部位を圧迫できるのは鼻翼(小鼻)を外からつまむ方法である。鼻根部(両眼の間の骨性の部分)は硬い骨で覆われており、ここを押さえても出血部位に圧はかからず止血効果はない。鼻根部を冷やす、首の後ろをたたくといった民間療法も効果は期待できない。なお、正しい方法である鼻翼圧迫も軽い出血の応急処置としては有効だが、大量出血例では無効なことが多い。

  3. ×c.  顎動脈塞栓術

    誤り。顎動脈(外頸動脈の終枝で、蝶口蓋動脈を通じて鼻腔後方を栄養する)の塞栓術は、カテーテルを用いた侵襲的な血管内治療であり、タンポンなど保存的処置で止血できない難治性の後方出血に対して行われる最終段階の治療である。来院時点では出血部位も特定されておらず、また脳梗塞などの合併症のリスクもあるため、最初に選択する処置ではない。

  4. ×d.  外頸動脈結紮

    誤り。外頸動脈結紮は頸部を切開して行う手術であり、侵襲が大きい。しかも結紮部位が出血点から遠いため、対側や内頸動脈系(前・後篩骨動脈)からの側副血行によって血流が保たれ、止血効果は必ずしも高くない。現在では内視鏡下蝶口蓋動脈焼灼や顎動脈塞栓術が優先され、外頸動脈結紮はそれらが行えない場合などに限られる。初期治療として行うものではない。

  5. ○e.  アドレナリン含浸ガーゼ挿入

    正しい。アドレナリンはα1受容体を介して鼻粘膜の血管を強く収縮させ、ガーゼ自体が出血部位を物理的に圧迫するため、両者の相乗効果で止血が得られる。多くはリドカインなどの表面麻酔薬を併せて浸すことで、疼痛を和らげその後の処置を行いやすくする。鼻出血の大半を占めるKiesselbach部位からの出血であればこの処置で止まることが多く、やや奥からの出血でもガーゼを十分に詰めることで止血できる場合がある。止血しなかった場合でも、出血量が減り粘膜が収縮して鼻内の視野が広がるため、出血点の確認と電気凝固など次の処置へ進むことができる。侵襲が小さく、迅速に行えるため、大量鼻出血でもまず行う処置として適切である。なお、アドレナリンは全身に吸収されると血圧上昇や頻脈をきたしうるため、高血圧や虚血性心疾患のある患者ではバイタルサインに注意する。

鼻腔の血管支配と出血部位

鼻腔は外頸動脈系(顎動脈の枝である蝶口蓋動脈、顔面動脈の枝の上唇動脈)と内頸動脈系(眼動脈の枝である前・後篩骨動脈)の両方から血流を受ける。 前方出血:鼻中隔前下部のKiesselbach部位(Little area)には上記の枝が吻合して血管網をつくり、粘膜が薄く外力や指でいじる刺激を受けやすいため、鼻出血の大部分がここから生じる。小児や若年者に多く、比較的止血しやすい。 後方出血:蝶口蓋動脈領域などの鼻腔後方からの出血で、高齢者・高血圧・動脈硬化・抗血栓薬内服者に多く、出血量が多く止血困難になりやすい。血液が咽頭へ流れ込むのが特徴である。

鼻出血の段階的治療

1. 全身状態の評価(バイタルサイン、ショックの有無、気道確保)、座位・前屈位、血液は吐き出させる 2. 鼻翼圧迫(10〜15分) 3. アドレナリン(+リドカイン)含浸ガーゼ挿入 4. 出血点が見えれば電気凝固、化学焼灼(硝酸銀など) 5. 前鼻タンポン(軟膏ガーゼ、止血用スポンジ)、後方出血にはバルーンカテーテル・後鼻タンポン(Bellocqタンポン) 6. 難治例:内視鏡下蝶口蓋動脈焼灼・結紮、顎動脈塞栓術、篩骨動脈結紮、外頸動脈結紮

背景疾患の検索

反復・大量出血では、高血圧、抗血小板薬・抗凝固薬の内服、血液疾患(白血病、特発性血小板減少性紫斑病、血友病など)、肝硬変、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)、鼻腔・副鼻腔腫瘍(若年男性では若年性血管線維腫)などを考慮する。

POINT

・鼻出血の大部分はKiesselbach部位からの前方出血である。 ・応急処置は座位・前屈で鼻翼をつまんで圧迫する(鼻根部の圧迫や冷却は無効)。仰臥位にせず、血液は飲み込ませない。 ・大量出血ではまずアドレナリン含浸ガーゼ(リドカイン併用)を挿入し、血管収縮と圧迫で止血を図り視野を確保する。 ・電気凝固は出血点を確認してから行う。塞栓術・血管結紮は保存的治療で止血できない難治例に限る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。