StudyMed医師国家試験

うっ血は「上流」に起こる―左心不全・右心不全を流れで読み解く

第108回医師国家試験 H問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第108回 H問題 第16問

うっ血性心不全について正しいのはどれか。

  1. a.浮腫は顔面に著明である。
  2. b.呼吸困難は仰臥位で軽減する。
  3. c.肺水腫は左心不全の所見である。
  4. d.肺動脈楔入圧の上昇は右心不全の所見である。
  5. e.左室駆出率が正常の場合はうっ血性心不全を否定できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はうっ血性心不全の基本事項を問う問題だ。症状や所見をばらばらに暗記するのではなく、「どちらの心室が弱って、その上流のどこに血液が滞るか」という流れで考えると、選択肢がすっきり整理できるよ。
医学生医学生
左心室の上流は肺、右心室の上流は全身の静脈、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その通り。左心室のポンプ力が落ちると、左室拡張末期圧、左房圧、肺静脈圧、肺毛細血管圧へと圧の上昇が逆行性に伝わる。肺毛細血管圧が高まって水分が間質や肺胞にあふれ出したものが肺水腫だ。
医学生医学生
ということは、肺水腫は左心不全の所見ですね。これが正解だと思います。
ドクタードクター
正解。胸部X線では肺血管影の上肺野への再分布、Kerley B線、蝶形陰影、胸水などとして見え、聴診では水泡音が聞こえる。どれも肺循環のうっ血の表れだね。
医学生医学生
循環器内科の実習で、入院時の胸部X線に蝶形陰影があった患者さんが、利尿薬で数日のうちにきれいになっていくのを見ました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。では呼吸困難は仰臥位で軽減する、という記述はどうかな。
医学生医学生
起坐呼吸のことを考えると、逆ではないでしょうか。横になると苦しくなるはずです。
ドクタードクター
そう、記述は逆だ。仰臥位では下半身にたまっていた血液が心臓に戻りやすくなり、弱った左心室では処理しきれず肺うっ血が増悪する。横隔膜が上がって肺が広がりにくくなることも加わる。だから患者さんは上半身を起こすと楽になるんだ。夜間に息苦しさで目が覚める発作性夜間呼吸困難も同じ仕組みだよ。
医学生医学生
浮腫が顔面に著明、というのも違いますよね。心不全なら足がむくむイメージです。
ドクタードクター
そうだね。心不全、特に右心不全の浮腫は体静脈圧の上昇によるもので、重力の影響を受けて低い部位に出る。歩ける人なら下腿や足背、寝たきりの人なら背部や仙骨部だ。顔面や眼瞼の浮腫が目立つときは、まずネフローゼ症候群や急性糸球体腎炎などの腎疾患を考える。
医学生医学生
肺動脈楔入圧の上昇は右心不全の所見、という選択肢は少し迷いました。肺動脈は右心室から出ているので、右心系の指標かと思ってしまって。
ドクタードクター
そこが狙われるポイントだ。Swan-Ganzカテーテルの先端のバルーンで肺動脈の末梢枝をふさぐと、流れが止まった先の肺毛細血管と肺静脈を介して左房圧を間接的に測れる。つまり肺動脈楔入圧は左房圧、ひいては左室拡張末期圧の近似値で、上昇は左心不全を示す。右心不全の評価には右房圧、つまり中心静脈圧を使うんだ。
医学生医学生
名前は肺動脈でも、見ているのは左心系の圧なんですね。Forrester分類で18 mmHgが境界になっていたのも、肺うっ血の目安だからですか。
ドクタードクター
その通り。Forrester分類は肺動脈楔入圧18 mmHgと心係数2.2 L/分/m²で分けて、うっ血と低灌流の有無から治療方針を考える。最後に、左室駆出率が正常なら心不全を否定できる、という記述はどうだろう。
医学生医学生
講義でHFpEFを習いました。駆出率が保たれていても心不全になりうるので、否定できないと思います。
ドクタードクター
正しい。左室が硬くて十分に広がれない拡張障害でも、充満圧が上がってうっ血が起こる。HFpEFは高齢者、女性、高血圧、糖尿病、肥満、心房細動のある人に多く、心不全全体の約半数を占めるとされる。BNPやNT-proBNPの上昇、心エコーでのE/e′上昇や左房拡大などを組み合わせて診断するんだ。
医学生医学生
整理すると、左心不全は肺のうっ血、右心不全は体静脈のうっ血で、駆出率だけでは心不全を否定できない、ということですね。
ドクタードクター
そのまとめで十分だ。臨床での注意点も加えておこう。左心不全が続くと肺高血圧を介して右心不全も合併し、両心不全になることが多い。治療面では、HFrEFでは予後改善効果が確立した薬剤の組み合わせがあるのに対し、HFpEFでは利尿薬によるうっ血管理と併存疾患の治療が中心で、近年はSGLT2阻害薬の有効性も示されている。また外来では、数日での体重増加が浮腫や体液貯留の早いサインになるから、患者さんに毎日の体重測定をすすめることが大切だよ。
医学生医学生
症状を体の「上流と下流」で考えると、暗記しなくても理屈で答えが出せそうです。

まとめ

うっ血性心不全では、障害された心室の上流にうっ血が生じると考えると所見を整理できます。左心不全では肺静脈圧が上昇して肺うっ血・肺水腫をきたし、起坐呼吸や発作性夜間呼吸困難が現れ、右心不全では頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫などの体静脈うっ血が現れます。心不全の浮腫は重力のかかる部位に強く、顔面浮腫はまず腎疾患を考えます。肺動脈楔入圧は左房圧を反映する左心不全の指標であり、右心不全の評価には右房圧(中心静脈圧)を用います。さらに左室駆出率が保たれていても拡張障害による心不全(HFpEF)がありうるため、症状、BNP、心エコー所見を総合して判断することが、臨床で心不全を見逃さないための基本となります。

解答・解説

正解はcです

うっ血性心不全は、心臓のポンプ機能が低下して必要な血液を送り出せなくなり、その結果として心臓の「上流」に血液がうっ滞(うっ血)する病態である。症状や所見を理解するには、どちらの心室が障害されているかと、うっ血がどこに生じるかを対応させて考えるのが基本となる。 【左心不全】左心室の機能が低下すると左室拡張末期圧・左房圧が上昇し、その上流である肺静脈・肺毛細血管の圧が高まる。すると肺うっ血・肺水腫が生じ、労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音(coarse crackles)などが現れる。 【右心不全】右心室の機能が低下すると右房圧が上昇し、上流の体静脈系にうっ血が生じる。頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水などが現れる。 さらに、心不全は必ずしも左室の収縮力(左室駆出率〈LVEF〉)が低下しているとは限らず、心室が十分に広がらない拡張障害によっても起こる点が重要である。本問は、この「うっ血の部位」「体位と症状」「血行動態指標の意味」「駆出率が保たれた心不全」という基本事項を整理できているかを問うている。

選択肢考察

  1. ×a.  浮腫は顔面に著明である。

    誤り。心不全(特に右心不全)による浮腫は、体静脈圧の上昇によって毛細血管から水分が漏れ出すことで生じ、重力の影響を受けて身体の低い部位に強く出る。そのため歩行・座位の多い人では下腿・足背に、寝たきりの人では背部・仙骨部に目立つ(圧痕を残す pitting edema)。顔面・眼瞼の浮腫が目立つのは、ネフローゼ症候群や急性糸球体腎炎などの腎疾患に典型的で、組織の柔らかい眼瞼に朝方出やすい。甲状腺機能低下症の粘液水腫でも顔面腫脹がみられる。

  2. ×b.  呼吸困難は仰臥位で軽減する。

    誤り。記述は逆である。仰臥位になると下半身にたまっていた血液が心臓へ戻りやすくなり(静脈還流量の増加)、機能の落ちた左心室では処理しきれず肺うっ血が増悪する。また横隔膜が挙上して肺が広がりにくくなる。このため患者は横になると息苦しく、上半身を起こすと楽になる。これを起坐呼吸(orthopnea)と呼び、左心不全に特徴的な症状である。就寝後数時間して呼吸困難で目が覚める発作性夜間呼吸困難も同じ機序で説明される。

  3. ○c.  肺水腫は左心不全の所見である。

    正しい。左心室のポンプ機能が低下すると、左室拡張末期圧から左房圧、肺静脈圧、肺毛細血管圧へと圧上昇が逆行性に波及する。肺毛細血管圧がおよそ18 mmHgを超えると間質への水分漏出(間質性肺水腫)が始まり、さらに上昇すると肺胞内にまで液体があふれる(肺胞性肺水腫)。胸部X線写真では肺血管影の上肺野への再分布、Kerley B線、蝶形陰影(butterfly shadow)、胸水などとして捉えられ、聴診では水泡音を聴取する。これらはいずれも左心系の上流である肺循環のうっ血所見であり、左心不全の代表的所見である。

  4. ×d.  肺動脈楔入圧の上昇は右心不全の所見である。

    誤り。肺動脈楔入圧(PAWP、PCWP)は、Swan-Ganzカテーテル(肺動脈カテーテル)の先端バルーンを膨らませて肺動脈の末梢枝を閉塞させた状態で測定する圧である。血流が止まった先の肺毛細血管・肺静脈を介して左房圧を間接的に反映し、僧帽弁狭窄などがなければ左室拡張末期圧の近似値となる。正常はおよそ12 mmHg以下で、18 mmHgを超えると肺うっ血をきたしやすい。したがってその上昇は左心不全を示す所見である。右心不全の評価には右房圧(中心静脈圧)の上昇が用いられる。なお、Forrester分類では肺動脈楔入圧18 mmHgと心係数2.2 L/分/m²を境界として重症度と治療方針を決める。

  5. ×e.  左室駆出率が正常の場合はうっ血性心不全を否定できる。

    誤り。心不全には左室の収縮力が低下するタイプ(HFrEF:左室駆出率の低下した心不全、LVEF 40%未満)だけでなく、収縮力は保たれているのに左室が硬く十分に拡張できないために充満圧が上昇するタイプ(HFpEF:左室駆出率の保たれた心不全、LVEF 50%以上)がある。HFpEFは高齢者、女性、高血圧、糖尿病、肥満、心房細動を有する人に多く、心不全全体の約半数を占めるとされる。LVEFが正常であっても、症状・身体所見に加え、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPの上昇、心エコーでの拡張障害所見(E/e′の上昇、左房拡大など)、肺動脈楔入圧の上昇があれば心不全と診断されうる。

左心不全と右心不全の所見の整理

左心不全(肺循環のうっ血+心拍出量低下):労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音、III音・IV音、交互脈、肺動脈楔入圧上昇、胸部X線での肺うっ血・肺水腫。低心拍出による易疲労感、四肢冷感、尿量減少。 右心不全(体循環のうっ血):頸静脈怒張、肝腫大(うっ血肝)、肝頸静脈逆流、下腿浮腫、腹水、胸水、体重増加、食欲不振(腸管浮腫)、右房圧(中心静脈圧)上昇。 左心不全が続くと肺高血圧を介して右心不全を合併し、両心不全となることが多い。

左室駆出率による分類

HFrEF:LVEF 40%未満 HFmrEF:LVEF 40%以上50%未満(軽度低下) HFpEF:LVEF 50%以上 HFimpEF(HFrecEF):以前低下していたLVEFが改善したもの HFrEFでは予後改善効果の確立した薬物療法(ACE阻害薬・ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)があるのに対し、HFpEFでは利尿薬によるうっ血の管理と併存疾患の治療が中心となる(近年はSGLT2阻害薬の有効性も示されている)。

浮腫の分布による鑑別

下腿・足背(重力依存性):心不全、静脈還流障害、低アルブミン血症など 顔面・眼瞼:腎疾患(ネフローゼ症候群、急性糸球体腎炎)、甲状腺機能低下症(非圧痕性) 上半身(顔面・頸部・上肢):上大静脈症候群 片側性:深部静脈血栓症、リンパ浮腫、蜂窩織炎

POINT

・心不全の症状は「障害された心室の上流にうっ血が起こる」と考える。左心不全→肺うっ血・肺水腫、右心不全→体静脈うっ血(頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫)。 ・心不全の呼吸困難は臥位で増悪し、座位で軽減する(起坐呼吸)。 ・心不全の浮腫は下肢など重力のかかる部位に強い。顔面浮腫はまず腎疾患を考える。 ・肺動脈楔入圧は左房圧(≒左室拡張末期圧)を反映し、上昇は左心不全の指標。右心不全の指標は右房圧(中心静脈圧)。 ・LVEFが正常でも心不全は否定できない(HFpEF:拡張障害が主体)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。