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その痰、本当に肺から来ていますか?―Gram染色は「検体選び」から始まる

第108回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第108回 F問題 第15問

喀痰のGram染色のために検体を採取した。検体の写真(①~⑤)を別に示す。  検体として適さないのはどれか。

第108回 F問題 第15問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、喀痰のGram染色に出す検体の良し悪しを、肉眼で見分ける問題だ。顕微鏡をのぞく前の段階で勝負が決まることも多い、とても実践的なテーマだよ。注目してほしいのは「色」「濁り」「粘り気」「泡」の4点だ。
医学生医学生
Gram染色は微生物学の実習でやりましたが、検体そのものの質まではあまり意識していませんでした。痰なら何でも同じではないんですか。
ドクタードクター
そこが大事なポイントなんだ。患者さんに「痰を出してください」とお願いしても、実際には口の中の唾液だけを出してくることがよくある。唾液には口腔内常在菌と、口腔粘膜の扁平上皮細胞がたくさん含まれている。それを染めても、肺炎の原因菌ではなく口の中の菌を見ているだけになってしまう。
医学生医学生
つまり、下気道で何が起きているかを反映しない検体になってしまうんですね。
ドクタードクター
その通り。だから良い検体の条件は、下気道由来であることがわかる性状をしていることだ。具体的には、黄色から黄緑色で濁っていて、粘り気のある膿性の部分を含むもの。膿性部分には好中球と原因菌が集まっているからね。逆に、無色透明でさらさらしていて泡が多いものは唾液と考える。
医学生医学生
では写真を見ていくと、黄色くて粘稠な塊がはっきりしている検体は、いかにも膿性痰で良さそうです。
ドクタードクター
うん、あれは典型的な良質検体だ。全体が混濁して黄色から緑灰色調の成分を含むものも、唾液主体ではないから使える。では、泡の多い部分が大半を占める検体はどう考える?
医学生医学生
泡が多いと唾液っぽいので、ダメな気がしてしまいます。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。確かに質は高くないけれど、よく見ると黄褐色の膿性とみられる部分が混じっている。塗抹標本を作るときはその膿性部分を選んで使えばいい。泡があるかどうかだけでなく、膿性の成分が含まれているかどうかで判断するんだ。
医学生医学生
白っぽくて粘り気のある塊の検体はどうでしょう。膿性ではなさそうですが。
ドクタードクター
白色から淡黄色の粘稠な塊は粘液性の痰で、さらさらした唾液とは明らかに違う。気道分泌物を含む喀痰と判断できるから、検体としては使える。そして残る一つ、無色透明で泡が多く、膿性も粘液性の塊もまったく見られない検体。これが唾液のみで、Gram染色には適さない検体だ。
医学生医学生
なるほど、「適さない」のは泡の多さそのものではなく、下気道由来の成分が見当たらないから、ということですね。
ドクタードクター
まさにそう。肉眼での評価にはMiller & Jones分類が使われる。M1が唾液や完全な粘液性痰、M2が粘液性痰に少量の膿性を含むもの、P1からP3は膿性部分の割合で分け、P3は全体の3分の2以上が膿性だ。Pの割合が高いほど良質で、唾液主体なら採り直しを考える。
医学生医学生
CBTの勉強でGeckler分類というのも見た気がします。あれは顕微鏡で見るほうでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。Geckler分類は弱拡大の1視野あたりの扁平上皮細胞と白血球の数で群分けする。扁平上皮は唾液混入の指標、白血球は下気道の炎症の指標だから、扁平上皮が少なく白血球が多い4群・5群が良質とされる。さらに好中球が細菌を貪食している像があれば、その菌が原因菌である可能性が高い。
医学生医学生
唾液しか出てこない患者さんには、どうやって良い痰を出してもらえばいいですか。呼吸器内科を回ったとき、なかなか痰が出ない高齢の方がいました。
ドクタードクター
まず水でうがいをして口腔内の常在菌を減らし、深く息を吸ってから強く咳をして奥から出してもらう。起床時の痰は量が多くて採りやすい。それでも難しければ高張食塩水の吸入で誘発喀痰を得る方法もある。そして大切なのは、抗菌薬を投与する前に採取することと、採ったらすぐ検査室に出すことだ。室温に放置すると常在菌が増えて、肺炎球菌のように死滅しやすい菌は見えにくくなる。
医学生医学生
良い検体が採れれば、莢膜を伴うランセット形のグラム陽性双球菌なら肺炎球菌、小型のグラム陰性短桿菌ならインフルエンザ菌、というふうに推定できるわけですね。
ドクタードクター
その通り。Gram染色は迅速で安価なのに、初期治療の抗菌薬選択を大きく左右する。だからこそ「何を染めるか」が結果の価値を決めるんだ。

まとめ

喀痰のGram染色は下気道感染症の原因菌を迅速に推定する基本検査ですが、唾液主体の検体では口腔内常在菌と扁平上皮細胞ばかりが見え、診断の役に立ちません。黄色〜黄緑色で混濁し粘稠な膿性部分を含む痰や、白色の粘液性の塊は使用でき、泡が多くても膿性部分があればそこを選んで塗抹します。一方、無色透明で泡が多く、膿性・粘液性成分を欠く検体は唾液のみと判断し、うがい後の深い咳や誘発喀痰で採り直します。肉眼評価はMiller & Jones分類、顕微鏡評価はGeckler分類(扁平上皮が少なく白血球が多い4・5群が良質)で行い、抗菌薬投与前の採取と速やかな提出も欠かせません。検体の質を見極める目は、適切な抗菌薬選択への第一歩です。

解答・解説

正解はeです

テーマ

喀痰のGram染色(グラム染色:細菌を染め分けて、形態と染色性から原因菌を推定する迅速検査)や培養は、肺炎などの下気道感染症で原因菌を推定する基本的な検査である。しかし、口腔内の唾液が主体の検体では、口腔内常在菌と口腔粘膜の扁平上皮細胞ばかりが観察され、下気道の病原菌を反映しない。そのため、検体の質をまず肉眼で評価し、唾液主体であれば採り直すことが重要である。

肉眼的評価の考え方

・適した検体:黄色~黄緑色で混濁し、粘り気のある膿性部分を含むもの。膿性部分には好中球と原因菌が多く含まれる。 ・適さない検体:無色透明でさらさらしており、泡の多いもの(唾液)。 この評価の目安としてMiller & Jones分類(下記)が用いられる。

写真の評価

①:黄色で粘稠な膿性の塊が主体であり、良質な検体である。 ②:全体に混濁し、黄色~緑灰色調の膿性成分を含むとみられ、検体として使用できる。 ③:泡の多い部分が大半を占めるが、中央から右下にかけて黄褐色の膿性とみられる部分があり、その部分を選んで塗抹すれば使用できる。 ④:白色~淡黄色の粘稠な塊(粘液性の痰)で、唾液ではなく下気道由来の喀痰と考えられ、検体として使用できる。 ⑤:無色透明で泡が多く、膿性・粘液性の成分が認められない。唾液のみと判断され、検体として適さない。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    誤り(検体として適する)。黄色で粘り気の強い膿性痰の塊であり、好中球と原因菌が豊富に含まれると考えられる。Gram染色に最も適した性状の検体である。

  2. ×b.  ②

    誤り(検体として適する)。全体が混濁し、黄色~緑灰色調の膿性成分が広く含まれていると考えられる。泡はあるが透明な唾液主体ではなく、検体として使用できる。

  3. ×c.  ③

    誤り(検体として使用可能)。泡状の唾液成分が多く、質としては高くないが、中央から右下に黄褐色の膿性とみられる部分がある。塗抹標本を作る際にはこの膿性部分を選んで用いる。ほかの選択肢に比べると再採取を検討してもよい検体ではあるが、唾液のみの⑤ほど不適ではない。

  4. ×d.  ④

    誤り(検体として適する)。白色~淡黄色の粘稠な塊状の痰で、さらさらした唾液とは明らかに異なり、気道分泌物を含む喀痰と判断される。検体として使用できる。

  5. ○e.  ⑤

    正しい(検体として適さない)。無色透明で泡が多く、膿性や粘液性の塊を含まない。唾液のみの検体と考えられ、Gram染色をしても口腔内常在菌と扁平上皮細胞が主に観察されるだけで、下気道の原因菌を推定できない。うがいをさせてから深い咳とともに再採取する、必要に応じて高張食塩水の吸入で喀痰を誘発するなどの対応をとる。

Miller & Jones分類(喀痰の肉眼的品質評価)

・M1:唾液、完全な粘液性痰 ・M2:粘液性痰の中に少量の膿性痰を含む ・P1:膿性部分が全体の1/3以下 ・P2:膿性部分が全体の1/3~2/3 ・P3:膿性部分が全体の2/3以上 P(purulent:膿性)の割合が高いほど良質で、M1のような唾液主体の検体は再採取を考える。

Geckler分類(顕微鏡的品質評価)

塗抹標本を弱拡大(100倍)で観察し、1視野あたりの扁平上皮細胞数と白血球(好中球)数で6群に分ける。 ・1群:扁平上皮 >25、白血球 <10 ・2群:扁平上皮 >25、白血球 10~25 ・3群:扁平上皮 >25、白血球 >25 ・4群:扁平上皮 10~25、白血球 >25 ・5群:扁平上皮 <10、白血球 >25 ・6群:扁平上皮 <25、白血球 <25(経気管吸引物など) 扁平上皮細胞は口腔粘膜由来であり唾液混入の指標、白血球は下気道の炎症の指標である。4・5群が喀痰検体として良質とされる。さらに白血球による細菌の貪食像がみられれば、その菌が原因菌である可能性が高い。

良質な喀痰を得る工夫

・採取前に水でうがいをして口腔内の常在菌を減らす。 ・深く息を吸い、強く咳をして気道の奥から喀出させる。 ・起床時の喀痰は量が多く採取しやすい。 ・抗菌薬投与前に採取する。 ・喀出が難しい場合は高張食塩水の吸入による誘発喀痰を用いる。 ・採取後は速やかに検査室へ提出する(室温放置で常在菌が増殖し、肺炎球菌などは死滅しやすい)。

Gram染色で推定できる代表的な菌

・グラム陽性双球菌(莢膜を伴うランセット形):肺炎球菌 ・グラム陽性球菌(ぶどうの房状):黄色ブドウ球菌 ・グラム陰性短桿菌(小型):インフルエンザ菌 ・グラム陰性双球菌:モラクセラ・カタラーリス ・グラム陰性桿菌(太く莢膜あり):肺炎桿菌

POINT

・喀痰検体は黄色~黄緑色の膿性・粘稠なものが良質で、無色透明・泡状の唾液主体のものは不適である。 ・肉眼的評価はMiller & Jones分類(M1・M2・P1~P3)、顕微鏡的評価はGeckler分類(扁平上皮が少なく白血球が多い4・5群が良質)。 ・扁平上皮細胞は唾液混入、白血球は下気道炎症の指標である。 ・泡の多い検体でも膿性部分があれば、その部分を選んで塗抹する。 ・不適な検体は、うがい後の深い咳や誘発喀痰で採り直す。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。