StudyMed医師国家試験

50人で選任、月1回の巡視―産業医の「数字と法律」を整理する

第108回医師国家試験 E問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第8問

産業医について正しいのはどれか。

  1. a.処方箋の発行はできない。
  2. b.労働基準法に定められている。
  3. c.選任後は地域の保健所に届け出る。
  4. d.週1回は職場巡視をする義務がある。
  5. e.労働者50人以上の事業所では選任が義務付けられている。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業医の制度を問う問題だ。産業保健の問題では、根拠となる法律、選任が必要になる人数、届出先、巡視の頻度という4つの骨組みを正確に押さえているかが問われる。順番に確認していこう。
医学生医学生
産業医って、会社の健康診断の結果を見てくれる先生というイメージくらいしかありません。
ドクタードクター
そのイメージは間違っていないよ。産業医は事業場で働く人の健康管理を、医学の専門的立場から担う医師だ。まず根拠法から。産業医は何という法律に定められているかな。
医学生医学生
労働に関することなので、労働基準法でしょうか。
ドクタードクター
そこがよくあるひっかけだ。産業医は労働安全衛生法第13条に定められている。もともと職場の安全と健康に関する部分は労働基準法の中にあったけれど、1972年に分離して労働安全衛生法として独立したんだ。労働基準法は労働時間や賃金、休日といった労働条件の最低基準を定める法律だよ。
医学生医学生
なるほど、もとは同じ法律だったから混同しやすいんですね。衛生管理者や健康診断も労働安全衛生法ですか。
ドクタードクター
その通り。衛生管理者、衛生委員会、健康診断、ストレスチェックも同じ枠組みだ。次に選任基準。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、業種を問わず産業医の選任が義務付けられている。これが正解の記述だ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「50人」はやたら強調されていました。もっと大きい事業場だと何か変わりますか。
ドクタードクター
常時1,000人以上、または深夜業や有害物質の取扱いなど一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場では、その事業場専属の産業医が必要になる。さらに常時3,000人を超えると2人以上の選任が必要だ。逆に50人未満の事業場では選任義務はないけれど、医師などに健康管理を行わせるよう努めることとされ、地域産業保健センターの支援が使える。
医学生医学生
50、500、1,000、3,000とセットで覚えます。選任したら保健所に届けるんですよね。
ドクタードクター
そこも違うんだ。選任すべき事由が生じてから14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告する。保健所は地域保健法に基づく機関で、感染症対策や食品衛生、精神保健など地域住民向けの保健衛生を担当している。産業保健の届出先は労働基準監督署だと押さえよう。
医学生医学生
職場巡視は週1回だと思っていましたが、これも違いますか。
ドクタードクター
産業医の職場巡視は少なくとも毎月1回だ。2017年の改正で、衛生管理者の巡視結果などの情報が毎月提供され、事業者の同意があれば2か月に1回でもよいとされた。週1回の巡視が義務なのは衛生管理者のほうなんだ。
医学生医学生
産業医は月1回、衛生管理者は週1回。立場を入れ替えたひっかけですね。最後の処方箋の話は、産業医だから治療はしないということで正しい気がしたんですが。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。産業医の本来の職務は、健康診断結果に基づく就業上の措置への意見、長時間労働者やストレスチェックの高ストレス者への面接指導、作業環境や作業管理への助言といった予防的な健康管理で、治療は主業務ではない。でも産業医は医師だから、医師法上、診察して薬を処方するときには処方箋を交付する義務がある。資格そのものが制限されるわけではないので、発行できないという記述は誤りだよ。
医学生医学生
役割として治療をしないことと、法的にできないことは別なんですね。
ドクタードクター
その区別が大事だ。発展として、産業医の要件と権限も押さえておこう。医師であることに加えて、日本医師会の認定産業医研修などの所定の研修修了や、労働衛生コンサルタント試験合格といった要件が必要になる。また、必要と認めるときは事業者に勧告でき、事業者はその勧告を尊重し、衛生委員会に報告しなければならない。働き方改革関連法で、この機能は強化されているんだ。
医学生医学生
将来、臨床をしながら嘱託の産業医をする先生もいると聞きます。病院実習で指導医の先生が企業に面談に行っていました。
ドクタードクター
実際、勤務医や開業医が嘱託産業医を兼ねることは多いよ。復職判定や長時間労働の面接では、主治医の診断と職場の実情をつなぐのが産業医の役割になる。主治医としての立場と産業医としての立場を混同しないことも、臨床では大切な注意点だね。

まとめ

産業医は労働安全衛生法第13条に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場で業種を問わず選任が義務付けられており、常時1,000人以上(一定の有害業務では500人以上)で専属、3,000人超で2人以上が必要です。選任後は保健所ではなく所轄の労働基準監督署長に報告し、職場巡視は産業医が少なくとも月1回(条件付きで2か月に1回)、衛生管理者が週1回と頻度が異なります。産業医の主業務は健康診断後の措置や面接指導などの予防的健康管理ですが、医師である以上、処方箋の交付が制限されるわけではありません。根拠法・人数・届出先・頻度という数字と制度の骨組みを整理しておくことは、国試対策だけでなく、将来嘱託産業医として働く場面や、主治医として職場と連携する場面でも役立ちます。

解答・解説

正解はeです

産業医は、事業場で働く人の健康管理を医学の専門的立場から担う医師である。根拠となる法律は労働安全衛生法(第13条)で、選任基準や職務の詳細は労働安全衛生規則に定められている。 押さえるべき骨組みは次のとおりである。 ・選任義務:常時50人以上の労働者を使用する事業場(業種を問わない)。 ・専属産業医:常時1,000人以上の事業場、または一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場では、その事業場専属の産業医が必要。常時3,000人を超える事業場では2人以上。 ・選任の手続き:選任すべき事由が生じてから14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ報告する。 ・職場巡視:少なくとも毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)。 本問では、これらの数字・法律名・届出先を正確に覚えているかが問われている。「50人以上で選任義務」が正しい記述である。

選択肢考察

  1. ×a.  処方箋の発行はできない。

    誤り。産業医は医師であり、医師法上、診察して薬を処方する際には処方箋を交付する義務がある(医師法第22条)。産業医としての本来の職務は、健康診断結果に基づく措置、面接指導、作業環境・作業の管理への助言などの予防的な健康管理であって、治療は主業務ではない。しかし、医師としての資格が制限されるわけではないので、処方箋を発行できないという記述は誤りである。なお、保険診療として扱えるかは、その場が保険医療機関で、医師が保険医であるかどうかで決まる。

  2. ×b.  労働基準法に定められている。

    誤り。産業医の選任は労働安全衛生法第13条に定められている。労働基準法は労働時間、賃金、休日など労働条件の最低基準を定める法律である。職場の安全と健康に関する部分は1972年に労働基準法から分離され、労働安全衛生法として独立した。産業医、衛生管理者、衛生委員会、健康診断、ストレスチェックなどはいずれも労働安全衛生法の枠組みに含まれる。

  3. ×c.  選任後は地域の保健所に届け出る。

    誤り。産業医を選任したときは、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告する(労働安全衛生規則第13条)。労働基準監督署は厚生労働省の出先機関で、労働安全衛生行政を担う。保健所は地域保健法に基づく機関で、感染症対策、食品衛生、精神保健などの地域住民向け保健衛生を担当しており、産業保健の届出先ではない。

  4. ×d.  週1回は職場巡視をする義務がある。

    誤り。産業医の職場巡視は少なくとも毎月1回である(労働安全衛生規則第15条)。2017年の改正以降は、事業者から衛生管理者の巡視結果など所定の情報が毎月提供され、事業者の同意がある場合には、少なくとも2か月に1回でもよいとされている。一方、少なくとも毎週1回の作業場巡視が義務づけられているのは衛生管理者である(労働安全衛生規則第11条)。産業医と衛生管理者の頻度を混同させる典型的なひっかけである。

  5. ○e.  労働者50人以上の事業所では選任が義務付けられている。

    正しい。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、業種を問わず産業医を選任しなければならない(労働安全衛生法第13条、同施行令第5条)。さらに、常時1,000人以上の事業場や、深夜業・有害物質取扱いなど一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場では専属の産業医が必要であり、常時3,000人を超える事業場では2人以上を選任する(労働安全衛生規則第13条)。50人未満の事業場に選任義務はないが、医師などに健康管理を行わせるよう努めることとされ、地域産業保健センター(地域窓口)の支援を利用できる。

産業医の要件

医師であることに加え、厚生労働大臣が定める研修(日本医師会の認定産業医研修、産業医科大学の産業医学基本講座など)の修了者、労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分)の合格者、大学で労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・常勤講師(経験者を含む)などの要件を満たす必要がある(労働安全衛生法第13条第2項、労働安全衛生規則第14条)。また、事業者本人や法人の代表者など、事業場の運営に利害関係をもつ者は、その事業場の産業医にはなれない。

産業医の主な職務

・健康診断の実施とその結果に基づく就業上の措置についての意見 ・長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックと高ストレス者への面接指導 ・作業環境の維持管理、作業の管理に関する助言 ・健康教育、健康相談、健康の保持増進 ・衛生教育、労働者の健康障害の原因調査と再発防止 ・衛生委員会への出席と意見 必要と認めるときは事業者に勧告でき、事業者はその勧告を尊重し、衛生委員会へ報告しなければならない(2019年施行の働き方改革関連法で機能が強化された)。

産業保健体制の比較(常時使用労働者数による)

50人以上:産業医、衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施、定期健康診断結果報告書の労働基準監督署への提出。 10〜49人:衛生推進者(業種により安全衛生推進者)の選任。

巡視頻度の整理

産業医:毎月1回以上(条件付きで2か月に1回)。 衛生管理者:毎週1回以上。

POINT

・産業医の根拠法は労働安全衛生法(労働基準法ではない)。 ・常時50人以上で選任義務、1,000人以上(有害業務は500人以上)で専属、3,000人超で2人以上。 ・選任後は労働基準監督署長へ報告(保健所ではない)。 ・職場巡視は産業医が月1回以上、衛生管理者が週1回以上。 ・産業医も医師なので処方箋を交付できる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。