StudyMed医師国家試験

保健所と市町村、どっちの仕事?―地域保健法で読み解く「広域・専門」と「身近なサービス」の線引き

第108回医師国家試験 E問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第39問

保健所の役割はどれか。3つ選べ。

  1. a.環境衛生に関する業務
  2. b.食品衛生に関する業務
  3. c.人口動態統計に関する業務
  4. d.社会福祉士に関する認定業務
  5. e.母子健康手帳に関する交付業務

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の定番、保健所の役割を問う問題だ。ポイントは保健所と市町村(市町村保健センター)の役割分担。「広域的・専門的・技術的な業務は保健所」「住民に身近で頻度の高いサービスは市町村」という線引きを意識すると、迷わず解ける。まず、保健所は誰が設置しているか知っているかな。
医学生医学生
市町村ごとにあるイメージでしたが……違いましたか。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。保健所は地域保健法に基づいて、都道府県、政令指定都市、中核市、その他政令で定める市、東京の特別区が設置する。一般の市町村には置かれていない。一方、市町村が任意で設置するのが市町村保健センターだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、保健所法が地域保健法に改められたと習いました。そのときに分担が整理されたんですよね。
ドクタードクター
その通り。1994年の改正、1997年の全面施行で、母子健康手帳の交付や乳幼児健診、定期予防接種、健康相談といった住民に身近なサービスは市町村へ、保健所は監視・許可業務や感染症対策、精神保健、難病対策、統計、市町村への技術的援助など、広域で専門性の高い仕事を担う形が明確になった。では選択肢を見ていこう。環境衛生はどうかな。
医学生医学生
水道や廃棄物の処理などですよね。広域的なので保健所だと思います。
ドクタードクター
正解。地域保健法第6条には、住宅・水道・下水道・廃棄物処理・清掃などの環境衛生が保健所の業務として挙げられている。具体的には理容所・美容所・クリーニング所・旅館・公衆浴場などの営業許可や立入検査、飲料水の安全確保、ねずみ・衛生害虫対策などだ。食品衛生は?
医学生医学生
これも保健所ですね。臨床実習で消化器内科を回ったとき、カンピロバクター腸炎の患者さんについて先生が保健所に連絡していました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。医師は食中毒の患者、あるいはその疑いのある患者を診断したら、直ちに最寄りの保健所長に届け出る義務がある。保健所には食品衛生監視員が置かれ、飲食店の営業許可、施設への立入検査、検査のための食品の収去、食中毒の原因調査を行う。栄養の改善も同じ号に含まれているよ。次は人口動態統計だ。
医学生医学生
出生届や死亡届は市役所に出すので、市町村の仕事かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。届出自体は市区町村に提出されるけれど、市区町村が作成した人口動態調査票は保健所を経由して都道府県、さらに厚生労働省へ送られて集計される。保健所は調査票の審査・送付を担い、地域の保健統計の作成や分析にも関わる。第6条にも「人口動態統計その他地域保健に関する統計」が明記されているんだ。
医学生医学生
窓口は市町村でも、統計としての流れには保健所が入っているんですね。社会福祉士の認定はどうでしょう。
ドクタードクター
社会福祉士は社会福祉士及び介護福祉士法に基づく国家資格で、国家試験に合格し、厚生労働省に備える登録簿に登録されることで資格を得る。登録事務は国が指定した登録機関が行っていて、保健所は関わらない。医師免許が厚生労働大臣による医籍への登録で成り立つのと同じ発想だね。
医学生医学生
母子健康手帳は、まさに「身近なサービス」なので市町村ですね。
ドクタードクター
その通り。母子保健法で、妊娠した人は市町村長に妊娠の届出をし、市町村が母子健康手帳を交付する。届出に医師の証明書の添付は法律上必須ではない。ただ、保健所が母子保健に無関係というわけではなく、母性・乳幼児の保健のうち広域的・専門的な事項を担う立場にある、という整理で覚えておこう。
医学生医学生
正解は環境衛生、食品衛生、人口動態統計の3つ。窓口がどこかではなく、法律上その業務を誰が担うかで考えるんですね。
ドクタードクター
そう。発展として、第6条にはほかにも医事・薬事(病院への立入検査である医療監視など)、保健師に関する事項、歯科保健、精神保健、難病対策、エイズ・結核・感染症の予防、衛生上の試験・検査などが並んでいる。それから、保健所長は原則として医師でなければならないが、市町村保健センターの長は医師である必要はない、という違いもよく問われるポイントだ。
医学生医学生
感染症法の発生届も保健所長宛てですよね。CBTの勉強で一類から五類までの届出を覚えるのに苦労しました。
ドクタードクター
そうだね。臨床に出ると、感染症の発生届や食中毒の届出、結核患者の届出や接触者健診などで保健所とやりとりする場面は意外と多い。保健所の仕事を知っておくことは、試験対策だけでなく、医師として地域の公衆衛生とつながるための基礎になるよ。

まとめ

保健所は地域保健法に基づき、都道府県・政令指定都市・中核市・特別区などが設置する地域公衆衛生の拠点で、広域的・専門的・技術的な業務を担います。地域保健法第6条には環境衛生、栄養の改善と食品衛生、人口動態統計などの地域保健統計、医事・薬事、精神保健、難病、感染症予防などが保健所の業務として定められています。一方、母子健康手帳の交付や乳幼児健診、定期予防接種など住民に身近なサービスは市町村の業務であり、社会福祉士のような国家資格の登録は国が行います。出生・死亡の届出窓口は市区町村でも、人口動態調査票は保健所を経由して集計される点が見落としやすいポイントです。食中毒や感染症の届出先は保健所長であり、保健所の役割を理解しておくことは臨床医として地域と連携するうえでも欠かせません。

解答・解説

正解はa, b, cです

保健所は、地域保健法に基づいて設置される地域の公衆衛生の拠点である。設置主体は都道府県、政令指定都市、中核市、その他政令で定める市、特別区(東京23区)である。

保健所と市町村保健センターの役割分担

1994年に保健所法が地域保健法に改められて以降(1997年全面施行)、住民に身近で頻度の高いサービス(母子健康手帳の交付、乳幼児健康診査、一般的な予防接種、健康相談など)は市町村(市町村保健センター)が担い、保健所はより広域的・専門的・技術的な業務を担うという分担が明確になった。保健所が担うのは、食品衛生や環境衛生のような監視・許可業務、感染症対策、精神保健や難病対策などの専門的事業、統計や調査、市町村への技術的援助などである。 本問では、地域保健法第6条に掲げられた保健所の業務に該当するものを選ぶ。環境衛生(a)、食品衛生(b)、人口動態統計(c)がこれに当たる。社会福祉士は国家資格であり国(厚生労働大臣)が登録を行い、母子健康手帳は市町村が交付するため、d・eは保健所の役割ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  環境衛生に関する業務

    地域保健法第6条は、住宅・水道・下水道・廃棄物処理・清掃など環境衛生に関する事項を保健所の業務として定めている。具体的には、理容所・美容所・クリーニング所・旅館・公衆浴場・興行場などの営業許可や届出受理、立入検査、飲料水の安全確保、ねずみ・衛生害虫対策、建築物衛生などに関する指導監視を行っている。

  2. ○b.  食品衛生に関する業務

    栄養の改善と食品衛生に関する事項は保健所の業務である。保健所には食品衛生監視員が置かれ、食品衛生法に基づく飲食店などの営業許可、施設への立入検査、食品の収去(検査のために抜き取ること)、食中毒発生時の原因調査などを行う。医師が食中毒患者(疑いを含む)を診断した場合は、直ちに最寄りの保健所長に届け出る義務がある。

  3. ○c.  人口動態統計に関する業務

    人口動態統計その他地域保健に関する統計は、保健所の業務に含まれる。出生・死亡・死産・婚姻・離婚の届出は市区町村に提出され、市区町村が作成した人口動態調査票は保健所を経由して都道府県へ、さらに厚生労働省へ送られ集計される。保健所はこの過程で調査票の審査・送付を担い、地域の保健統計の作成・分析にも携わる。

  4. ×d.  社会福祉士に関する認定業務

    社会福祉士は、社会福祉士及び介護福祉士法に基づく国家資格である。国家試験に合格した者が、厚生労働省に備える社会福祉士登録簿に登録されることで資格を得る(登録事務は国が指定した登録機関が行う)。保健所が認定や登録に関わることはない。

  5. ×e.  母子健康手帳に関する交付業務

    母子保健法により、妊娠した者は市町村長に妊娠の届出を行い、市町村は届出をした者に母子健康手帳を交付する。交付は市町村(多くは市町村保健センターや役所の窓口)の業務であり、保健所の業務ではない。届出は本人の申告で行え、医師の証明書の添付は法律上必須ではない。なお、保健所は母性・乳幼児の保健に関する広域的・専門的な事項(未熟児への支援など、一部は市町村へ移譲)を担当している。

地域保健法第6条に定める保健所の業務(要旨)

1. 地域保健に関する思想の普及・向上 2. 人口動態統計その他地域保健に関する統計 3. 栄養の改善・食品衛生 4. 住宅・水道・下水道・廃棄物処理・清掃などの環境衛生 5. 医事・薬事(医療法に基づく病院などへの立入検査=医療監視、薬局の監視など) 6. 保健師に関する事項 7. 公共医療事業の向上・増進 8. 母性・乳幼児・老人の保健 9. 歯科保健 10. 精神保健 11. 治療法が確立していない疾病など、長期療養を要する者の保健(難病対策) 12. エイズ・結核・性病・感染症その他の疾病の予防 13. 衛生上の試験・検査 14. その他地域住民の健康の保持・増進

必要に応じて行うことができる事業(第7条・第8条の要旨)

地域保健に関する情報の収集・整理・活用、調査・研究、歯科疾患など厚生労働大臣が指定する疾病の治療、試験・検査の実施と施設の利用提供、市町村間の連絡調整と市町村への技術的助言などの援助。

市町村(市町村保健センター)の主な業務

母子健康手帳の交付、妊婦・乳幼児健康診査、定期予防接種の実施、健康増進法に基づく健康相談・保健指導、がん検診などの健康増進事業。市町村保健センターは設置が任意であり、所長が医師である必要はない。一方、保健所長は原則として医師でなければならない。

医師と保健所の関わり

感染症法に基づく感染症の発生届、食品衛生法に基づく食中毒の届出は、いずれも最寄りの保健所長に提出する。結核患者の届出や、麻薬中毒者の届出(都道府県知事宛て)なども、地域の行政機関との連携の例である。

POINT

・保健所は地域保健法に基づき都道府県・政令指定都市・中核市・特別区などが設置し、広域的・専門的・技術的な業務を担う。 ・保健所の業務: 環境衛生、食品衛生、人口動態統計、医事・薬事、精神保健、難病、感染症予防など。 ・母子健康手帳の交付や乳幼児健診、定期予防接種は市町村の業務。 ・社会福祉士などの国家資格の登録は国が行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。