その仕事、本当に保健所?―保健所・労働基準監督署・検疫所の所管を見分ける
第115回医師国家試験 C問題 第27問
国試問題にチャレンジ
保健所の業務で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.医療機関に立入検査を行う。
- b.選任している産業医の変更の届出を受ける。
- c.検疫感染症が流行している地域からの船舶を隔離する。
- d.業務中に結核に感染した労働者の労働災害を認定する。
- e.カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の届出を受ける。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
保健所は地域保健法に基づき都道府県・政令指定都市・中核市・特別区などが設置する公衆衛生の中核機関で、医療法に基づく医療機関への立入検査や、感染症法に基づく感染症の届出受理を担います。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(現:腸内細菌目細菌)感染症は5類全数把握疾患で、診断した医師は7日以内に保健所へ届け出ます。一方、産業医の選任・変更の報告や業務上疾病の労災認定は労働基準監督署、検疫感染症に対する船舶の隔離や停留は検疫所の所管です。同じ結核でも、発生届や接触者健診は保健所、労災認定は労働基準監督署と、手続きの種類によって窓口が異なる点に注意が必要です。業務内容と根拠法・所管機関をセットで整理しておくことは、国試対策だけでなく、医師として適切に届出や連携を行うための基礎になります。
解答・解説
正解はa, eです
保健所は地域保健法に基づいて都道府県、政令指定都市、中核市、その他政令で定める市(保健所政令市)、特別区が設置する、地域の公衆衛生の中核機関である。地域保健法は保健所が担う事項として、人口動態統計などの地域保健統計、栄養改善と食品衛生、環境衛生、医事・薬事、精神保健、難病対策、感染症予防などを定めている。 本問は、選択肢の業務がどの機関の所管かを区別できるかを問うている。 ・医療機関への立入検査(医療法)→ 保健所 ・感染症発生届の受理(感染症法)→ 保健所 ・産業医の選任届・変更届(労働安全衛生法)→ 労働基準監督署 ・労働災害(業務上疾病)の認定(労働者災害補償保険法)→ 労働基準監督署 ・検疫感染症に対する船舶・航空機の検疫や隔離(検疫法)→ 検疫所 保健所は「地域住民の保健・医事・感染症」を担う。労働者の健康管理や労災は厚生労働省の労働行政の出先機関である労働基準監督署が、国境での感染症侵入防止は同じく厚生労働省の出先機関である検疫所が担う。この所管の違いを整理しておけば、正解は a と e となる。
選択肢考察
- ○a. 医療機関に立入検査を行う。
正しい。医療法第25条により、都道府県知事・保健所設置市の市長・特別区の区長は、病院・診療所・助産所に対して報告を求め、職員に立ち入って検査させることができる。この立入検査(医療監視)は主に保健所の職員(医療監視員)が実施する。人員配置、構造設備、医療安全・院内感染対策の体制、診療録などの記録が法令の基準に合っているかを確認する。病院に対しては原則として毎年実施される。
- ×b. 選任している産業医の変更の届出を受ける。
誤り。労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、事業者が産業医を選任しなければならない。産業医を選任・変更した事業者は、所轄の労働基準監督署長へ遅滞なく報告(選任報告)する。届出先は保健所ではない。産業保健(職場の労働者の健康管理)は厚生労働省の労働行政の系統(都道府県労働局・労働基準監督署)が所管している。
- ×c. 検疫感染症が流行している地域からの船舶を隔離する。
誤り。国外から感染症が侵入するのを水際で防ぐ業務は、検疫法に基づき、厚生労働省の施設等機関である検疫所が港や空港で行う。検疫感染症(一類感染症、新型インフルエンザ等感染症、政令で定める感染症など)の患者の隔離や、感染したおそれのある者の停留、船舶・航空機の消毒などを指示するのは検疫所長である。保健所は、入国後に国内で発生した感染症の届出受理や積極的疫学調査などを担う。
- ×d. 業務中に結核に感染した労働者の労働災害を認定する。
誤り。業務によって負傷・疾病が生じたかどうか(業務上か業務外か)の認定と、労働者災害補償保険(労災保険)の給付の決定は、労働基準監督署長が行う。医療従事者が業務中に結核に感染した場合も同様に、労働基準監督署に請求して認定を受ける。一方、結核患者の発生届の受理、接触者健診、服薬支援(DOTS)などの結核対策は保健所の業務である。両者を混同しないようにする。
- ○e. カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の届出を受ける。
正しい。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、感染症法で5類感染症の全数把握対象疾患に指定されている。診断した医師は7日以内に最寄りの保健所長を経由して都道府県知事等に届け出る。感染症法に基づく医師の届出は、1~5類(全数把握)のいずれも保健所が窓口となる。CREは、広域スペクトラムをもつカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌で、院内感染対策上とくに重要な薬剤耐性菌である。なお、本疾患名は2023年の感染症法施行規則の改正で「カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症」に改められた(菌の分類体系の変更による)。保健所に届け出る点は変わらない。
保健所と市町村保健センターの違い
・保健所:地域保健法に基づき、都道府県・政令指定都市・中核市・保健所政令市・特別区が設置する。所長は原則として医師である。専門的・広域的・技術的な業務(感染症対策、食品衛生・環境衛生の監視指導、医事・薬事、精神保健福祉、難病対策、地域保健統計など)を担う。 ・市町村保健センター:市町村が設置できる。乳幼児健診、母子健康手帳の交付、健康相談・保健指導、予防接種など、住民に身近な対人保健サービスを担う。所長が医師である必要はない。
関連機関の所管の整理
・労働基準監督署:労働基準法・労働安全衛生法に基づく監督。産業医・衛生管理者の選任報告や定期健康診断結果報告の受理、労災認定、労災保険給付の決定などを行う ・検疫所:検疫法に基づく、港・空港での検疫や輸入食品の監視などを行う ・地方衛生研究所:都道府県・指定都市の試験検査・調査研究機関。感染症の病原体検査などを担い、保健所の技術的な後方支援を行う
感染症法の届出
1~4類感染症は診断後直ちに、5類感染症の全数把握疾患は7日以内に(侵襲性髄膜炎菌感染症・麻しん・風しんは直ちに)届け出る。届出は、いずれも最寄りの保健所長を経由して都道府県知事等へ行う。5類定点把握疾患は、指定届出機関(定点医療機関)だけが届け出る。 薬剤耐性菌のうち、CRE(現:カルバペネム耐性腸内細菌目細菌)感染症、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)感染症、薬剤耐性アシネトバクター感染症は5類全数把握である。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症は5類定点把握(基幹定点)である。
POINT
・保健所の業務は地域保健法に規定され、医療機関への立入検査(医療法)や感染症の届出受理(感染症法)を担う ・産業医の選任報告や労災認定は労働基準監督署の所管 ・検疫感染症に対する船舶・航空機の隔離・停留は検疫所(検疫所長)が行う ・CRE感染症は5類全数把握で、7日以内に保健所へ届け出る(2023年から「腸内細菌目細菌」に名称変更)
