StudyMed医師国家試験

透析を1週間休んだら―「腎臓の仕事」から読み解く電解質の行方

第108回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第37問

週3回の維持血液透析を受けている患者が1週間治療を受けなかった場合,血液検査で高値となっていると予想されるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.Na
  2. b.K
  3. c.Ca
  4. d.P
  5. e.HCO3-

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、維持透析を受けている患者さんが1週間治療を受けなかったとき、血液検査がどう変化するかを考える問題だ。ポイントは、暗記ではなく「腎臓が本来何をしているか」から推論すること。腎臓が排泄していたものはたまり、腎臓が作ったり透析で補われたりしていたものは減る。この原則で考えていこう。
医学生医学生
週3回透析を受けている人は、尿がほとんど出ていないと考えていいですか。
ドクタードクター
多くはそうだね。末期腎不全で乏尿から無尿の状態にあり、水・電解質・酸塩基の調節を透析が肩代わりしている。その透析が止まれば、腎臓の働きがまったくない状態で、食事や代謝による負荷が1週間分積み重なることになる。では、まず真っ先に心配すべき電解質は何だと思う?
医学生医学生
カリウムです。腎臓内科の実習で、透析を休んだ患者さんが救急搬送されてきて、心電図でテント状T波が出ていたのを見ました。
ドクタードクター
貴重な経験だね。Kは摂取量の約9割が腎臓から排泄され、主に皮質集合管での分泌で調整されている。腎臓が働かないと、果物・野菜・芋類などから入ったKがたまる一方だ。さらに代謝性アシドーシスがあると、Kが細胞内から細胞外へ移動して高カリウム血症を悪化させる。テント状T波、PR延長やP波消失、QRS幅の拡大と進み、心室細動や心停止に至りうる。透析を受けなかった患者さんで最も警戒すべき異常だ。
医学生医学生
リンも腎臓から排泄されるので、上がると思います。
ドクタードクター
正解。Pは糸球体でろ過され、大部分が近位尿細管で再吸収されて、残りが尿へ出ていく。ろ過そのものができなくなれば排泄は途絶え、除去は透析頼みになる。乳製品、肉や魚、豆類、加工食品の添加物などに多いので、透析を休めば確実にたまって高リン血症になる。
医学生医学生
Naはどうでしょう。塩分も排泄できないので、高くなる気がしますが。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだ。血清Na濃度は、体内のNaの量そのものではなく、Naに対する水の比で決まる。無尿の人は塩分も水もたまるけれど、口渇に応じて飲水するので水が相対的に多くなりやすい。結果として体重増加、浮腫、高血圧、肺水腫といった体液過剰が前面に出て、Naは正常か、むしろ希釈されて低めになるのが一般的だ。
医学生医学生
生理学で「Na濃度は水の問題」と習ったのを忘れていました。では、Caはどうですか。
ドクタードクター
Caは下がる方向だ。腎臓はビタミンDを活性型に変える臓器なので、腎不全ではそれが不足して腸からのCa吸収が減る。さらに高リン血症があるとリンとCaが結合して、血中Caはいっそう下がりやすい。透析中は透析液からCaが補われているけれど、中断すればその補給もなくなる。
医学生医学生
HCO3-は、酸を捨てられないので減る、という理解でいいでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。体内では毎日、タンパク質の代謝などで硫酸やリン酸といった不揮発性酸が生じる。普段は腎臓がアンモニウムや滴定酸として酸を排泄し、同時にHCO3-を新しく作って補っている。腎不全ではこれができず、酸の緩衝にHCO3-が消費されて減る。透析患者は透析液の重炭酸で補正されているから、透析を休めばアニオンギャップの開大した代謝性アシドーシスになる。
医学生医学生
つまり上がるのはKとP、下がるのはCaとHCO3-、Naは希釈で正常〜低め、ということですね。BUNやクレアチニン、尿酸、Mgも上がりそうです。
ドクタードクター
完璧だ。それに加えて尿毒症物質がたまるので、悪心・嘔吐や意識障害、心膜炎なども起こりうる。ここから緊急透析の適応も整理しておこう。内科的治療に反応しない高カリウム血症、高度の代謝性アシドーシス、利尿薬が効かない体液過剰による肺水腫、そして意識障害や心膜炎などの尿毒症症状が代表的だ。
医学生医学生
高カリウム血症で心電図変化があったら、まず何をすればいいですか。OSCEの救急シナリオで迷った記憶があります。
ドクタードクター
まずグルコン酸カルシウムの静注で心筋の膜を安定させる。これはKを下げる治療ではなく、不整脈を防ぐための時間稼ぎだ。次にグルコース・インスリン療法やβ2刺激薬の吸入でKを細胞内へ移し、陽イオン交換樹脂などで体外へ出す。ただ末期腎不全の患者さんでは、最終的には血液透析で除去するのが確実な方法だ。
医学生医学生
高リン血症は、長い目で見ると何が問題になるんでしょう。
ドクタードクター
慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常、いわゆるCKD-MBDだね。高リン血症、活性型ビタミンD低下、低Ca血症がPTH分泌を刺激して二次性副甲状腺機能亢進症を起こし、骨病変や血管石灰化を通じて生命予後を悪くする。だから透析患者さんは日頃からリン吸着薬や活性型ビタミンD製剤、食事指導で管理されているんだ。透析を休むというのは、こうした積み重ねを一気に崩すことでもある。

まとめ

維持透析患者は腎臓の排泄・産生機能をほぼ失っており、透析を1週間受けないと、腎排泄に依存するK、P、BUN、クレアチニン、尿酸、Mgなどが蓄積して上昇します。一方、HCO3-は酸の排泄と重炭酸の再生ができず、透析液からの補給も途絶えるため低下し、Caも活性型ビタミンD不足と高リン血症により低下傾向となります。Naは水の貯留で希釈され、正常〜低値となりやすい点に注意が必要です。最も危険なのは高カリウム血症による致死的不整脈であり、心電図変化があればグルコン酸カルシウムによる膜安定化を行い、最終的には透析で除去します。「腎臓が何を捨て、何を作っているか」から異常を予測する考え方は、腎不全患者の管理や緊急透析の判断に直結します。

解答・解説

正解はb, dです

週3回の維持血液透析を受けている患者は、末期腎不全で腎臓の排泄機能がほぼ失われており、多くは尿がほとんど出ない(乏尿〜無尿)。本来腎臓が担っている水・電解質・酸塩基の調節を、透析が代わりに行っている状態である。その透析を1週間受けなかった場合、腎臓の働きが完全に欠けた状態で食事や代謝による負荷が蓄積していく。

考え方

腎臓から主に排泄される物質は、透析が止まると体内にたまって血中濃度が上がる。一方、腎臓で産生・再生される物質や、透析によって補われていた物質は低下する。 ・上がるもの: K(カリウム)、P(リン)、BUN(血中尿素窒素)、クレアチニン、尿酸、Mg、H+(酸) ・下がるもの: HCO3-(重炭酸イオン)、Ca(カルシウム) ・水が貯留するため、Naは希釈されてむしろ低めになりやすい。 したがって、高値となるのはKとPである。特に高カリウム血症は致死的不整脈や心停止を起こしうるため、透析を受けなかった患者では最も警戒すべき異常である。

選択肢考察

  1. ×a.  Na

    血清Na濃度は、体内のNa量そのものよりも、Naに対する水の量の比によって決まる。無尿の患者が透析を受けないと、摂取した塩分と水分がいずれも体内にとどまり、体重増加・浮腫・高血圧・肺水腫など体液過剰をきたす。このとき口渇に応じた飲水で水が相対的に多くたまりやすく、また尿素などの蓄積で浸透圧が上がって飲水が促されることもあり、血清Naは正常〜低値(希釈性低ナトリウム血症)となるのが一般的である。高値になるとは予想されない。

  2. ○b.  K

    Kは摂取量の約90%が腎臓から排泄され、その量は主に集合管(皮質集合管)での分泌によって調整される。腎機能が失われた透析患者では、Kの除去を透析に頼っているため、1週間透析を受けないと食事(果物・野菜・芋類など)から入ったKや、細胞から出たKが排泄されずに蓄積する。さらに代謝性アシドーシスがあると、Kが細胞内から細胞外へ移動して高カリウム血症を悪化させる。高カリウム血症では心電図でテント状T波、PR延長・P波消失、QRS幅の拡大などがみられ、心室細動や心停止に至りうる。

  3. ×c.  Ca

    腎臓はビタミンDを活性型(1,25-ジヒドロキシビタミンD)に変える臓器であり、腎不全ではこれが不足して腸管からのCa吸収が減る。また高リン血症があるとリンとCaが結合し、血中のCaはさらに下がりやすい。透析中は透析液からCaが補われているが、透析を中断するとその補給も途絶える。したがって血清Caは低下傾向となり、高値になるとは予想されない。

  4. ○d.  P

    Pは糸球体でろ過され、その大部分が近位尿細管で再吸収されて、残りが尿中へ排泄される。腎機能が廃絶するとろ過によるP排泄ができず、体外への除去は透析に依存する。Pは乳製品、肉・魚などのタンパク質食品、豆類、加工食品の添加物に多く含まれ、透析を受けないと蓄積して高リン血症となる。高リン血症は低Ca血症や二次性副甲状腺機能亢進症、血管石灰化の原因となる。

  5. ×e.  HCO3-

    食事中のタンパク質の代謝などにより、体内では毎日一定量の不揮発性酸(硫酸・リン酸など)が生じる。通常は腎臓が酸をアンモニウムや滴定酸として尿へ排泄し、同時にHCO3-を新たに作って補っている。腎不全ではこれができないため代謝性アシドーシスとなる。透析患者は透析液中の重炭酸(アルカリ)で酸塩基平衡を補正されているが、透析を中断するとこの補給もなくなり、酸の緩衝にHCO3-が消費されて血中濃度は低下する。

透析を受けなかった透析患者にみられる異常

・体液過剰: 体重増加、浮腫、高血圧、胸水、肺水腫(うっ血性心不全)。 ・電解質異常: 高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症、高マグネシウム血症、希釈性低ナトリウム血症。 ・酸塩基平衡異常: アニオンギャップ(AG)の増加した代謝性アシドーシス。 ・尿毒症物質の蓄積: BUN・クレアチニン・尿酸の上昇、悪心・嘔吐、意識障害、心膜炎など。

緊急透析の適応(代表的なもの)

内科的治療に反応しない高カリウム血症、高度の代謝性アシドーシス、利尿薬に反応しない体液過剰(肺水腫)、尿毒症症状(意識障害・心膜炎など)が挙げられる。

高カリウム血症の緊急対応

心電図変化があれば、まずグルコン酸カルシウムを静注して心筋の膜を安定化させる。続いて、グルコース・インスリン療法やβ2刺激薬の吸入でKを細胞内へ移動させ、陽イオン交換樹脂などで体外への排泄を図る。末期腎不全では最終的に血液透析で除去する。

CKD-MBD

慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)では、高リン血症・活性型ビタミンD低下・低Ca血症が副甲状腺ホルモン(PTH)分泌を刺激し、二次性副甲状腺機能亢進症を起こす。これが骨病変や血管石灰化を通じて生命予後を悪化させるため、透析患者ではリン吸着薬や活性型ビタミンD製剤などで管理する。

POINT

・腎排泄に依存する物質(K、P、BUN、Cr、Mg)は透析中断で上昇する。 ・HCO3-は低下(代謝性アシドーシス)、Caは低下(活性型ビタミンD不足、高リン血症)。 ・Naは水の貯留で希釈され、正常〜低値となりやすい。 ・透析を受けなかった患者で最も危険なのは高カリウム血症による致死的不整脈である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。