StudyMed医師国家試験

Naが低くても意識は保たれる?―「有効浸透圧」で読み解く5つの血液検査

第108回医師国家試験 E問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第27問

5名の患者の血液検査所見を示す。  意識が清明である可能性が最も高いのはどれか。  ただし,他に血液検査所見の異常はないものとする。 Na (mEq/l) 尿素窒素 (mg/dl) 血糖 (mg/dl) 血漿浸透圧(mOsm/l) (基準 275~288) a 121   8    90  250 b 123 22 540 284 c 137 14   36  281 d 149 28 486 335 e 169 22 108 352

  1. a.121  8  90  250
  2. b.123  22  540  284
  3. c.137  14  36  281
  4. d.149  28  486  335
  5. e.169  22  108  352

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血液検査の数値だけから意識状態を推測する問題だ。見るべきポイントは2つ。脳の細胞の大きさを左右する「浸透圧」と、脳の燃料である「血糖」だね。Naの値だけで判断しないことが最大のコツだよ。
医学生医学生
Naが一番正常に近いのは137のパターンなので、それが意識清明かなと最初は思いました。
ドクタードクター
そう考えた人は多いと思う。でもその例は血糖が36 mg/dLしかない。脳はエネルギーのほとんどをブドウ糖に頼っているから、ここまで下がると意識障害やけいれん、昏睡に至りうるんだ。
医学生医学生
そうか、低血糖を見落としていました。救急科の実習でも、意識障害の患者さんにはまず簡易血糖測定をしていました。
ドクタードクター
それが鉄則だね。AIUEOTIPSでも低血糖は必ず確認する。では次に浸透圧。血漿浸透圧の推定式は覚えているかな。
医学生医学生
2×Na+血糖/18+BUN/2.8、ですよね。CBTの前に必死で覚えました。
ドクタードクター
その通り。表の実測値もこの式でほぼ再現できる。ここで大事なのは、尿素は細胞膜を自由に通り抜けるから、細胞内外の水の移動を起こさないという点。脳細胞の容積を変えるのはNaとブドウ糖で、これを有効浸透圧、つまり張度と呼ぶんだ。
医学生医学生
有効浸透圧が低いと水が脳細胞に入って脳浮腫、高いと脳細胞から水が抜けて細胞内脱水、ということですね。
ドクタードクター
完璧。それを踏まえると、Na 121で浸透圧250の例は低張性低Na血症で、脳浮腫から頭痛、傾眠、けいれん、昏睡を起こしうる。Na 169で浸透圧352の例は著明な高Na血症で、脳が縮んで錯乱や昏睡、ときに架橋静脈が引っ張られて頭蓋内出血まで起こす。
医学生医学生
Na 149で血糖486、浸透圧335の例は、高浸透圧高血糖状態ですか。BUNも少し高いので脱水もありそうです。
ドクタードクター
よく読めているね。有効浸透圧は約325で、HHSで意識障害が目立ち始める320を超えている。高齢の2型糖尿病の方が脱水を契機に意識がもうろうとして運ばれてくる、典型的なパターンだ。
医学生医学生
残るのはNa 123で血糖540の例ですが、Naも低いし血糖もすごく高いので、一番危なそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。血糖が上がると細胞外が高張になって、細胞内から水が出てくる。その水でNaが薄まるから、Naが下がるんだ。血糖100 mg/dL上昇ごとにNaは約1.6 mEq/L下がるとされ、補正すると本来のNaは約130になる。
医学生医学生
つまり、低Naと高血糖が打ち消し合って、浸透圧は284と正常範囲に収まっているわけですね。
ドクタードクター
その通り。有効浸透圧も約276で保たれていて、脳細胞は膨らみも縮みもしにくい。高血糖自体は治療が必要な異常だけれど、5例の中で意識が保たれている可能性が最も高いのはこの例なんだ。
医学生医学生
腎臓内科の講義で聞いた偽性低Na血症とは違うんですか。
ドクタードクター
いい質問。偽性低Na血症は、高度の脂質異常症や多発性骨髄腫などの高蛋白血症で、測定法の関係で見かけ上Naが低く出るもので、実際の水の移動はない。今回のように高血糖で本当に水が細胞外へ移動して生じる低Na血症とは区別しておこう。
医学生医学生
臨床で低Na血症を見たら、まず浸透圧と血糖を確認して分類する、ということですね。
ドクタードクター
そう。そしてもう一つ臨床で大切なのが補正速度だ。慢性の低Na血症を急いで補正すると浸透圧性脱髄症候群を起こすから、24時間で10 mEq/L以内、高リスク例では8以内を目安にする。高Na血症も急速に下げると脳浮腫を招く。また、実測浸透圧と計算浸透圧の差、浸透圧ギャップが開いていたら、エタノールやメタノール、エチレングリコールなどの中毒も考えるといい。
医学生医学生
数値の組み合わせから、脳の中で何が起きているかを想像するのが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。数字を一つずつ見るのではなく、「脳細胞の水」と「脳の燃料」という視点でまとめて解釈しよう。

まとめ

意識障害を起こす代謝異常として、低血糖・低浸透圧(低Na血症)・高浸透圧(高Na血症やHHS)を確認することが基本です。血漿浸透圧は2×Na+血糖/18+BUN/2.8で推定でき、細胞膜を通過する尿素を除いた有効浸透圧(張度)が脳細胞の浮腫や脱水、すなわち中枢神経症状に直結します。高血糖では細胞内の水が細胞外へ移動してNaが希釈性に低下するため、Naが低くても高血糖と打ち消し合って浸透圧が正常なら、脳細胞の容積は保たれ意識障害は起こりにくくなります。この病態は測定上の見かけの低値である偽性低Na血症とは区別され、低Na血症の診療では補正Naの計算や補正速度への配慮も欠かせません。検査値を「脳の水」と「脳の燃料」の視点で統合して読む力は、救急や内科での意識障害の評価に直結します。

解答・解説

正解はbです

意識障害の原因となる代謝異常として、本問では「血漿浸透圧(とくに有効浸透圧=張度)の異常」と「低血糖」の2点を評価すればよい。

血漿浸透圧の計算

血漿浸透圧は次の式でおおよそ推定できる。 血漿浸透圧(mOsm/kg)≒ 2×Na(mEq/L)+ 血糖(mg/dL)/18 + 尿素窒素(mg/dL)/2.8 各選択肢に当てはめると、a:242+5+2.9≒250、b:246+30+7.9≒284、c:274+2+5≒281、d:298+27+10≒335、e:338+6+7.9≒352となり、表の実測値とほぼ一致する。

有効浸透圧(張度)という考え方

尿素は細胞膜を自由に通過するため、細胞内外の水の移動を起こさない(無効浸透圧物質)。細胞の容積を変え、脳細胞の浮腫や脱水を起こすのはNaとブドウ糖(インスリン作用が乏しい状態では細胞内に入りにくい)であり、これらで決まる有効浸透圧(≒2×Na+血糖/18、基準はおよそ275~290)が中枢神経症状と深く関係する。 ・有効浸透圧が低い → 水が脳細胞内へ移動し脳浮腫 → 頭痛、嘔気、傾眠、けいれん、昏睡 ・有効浸透圧が高い → 水が脳細胞外へ移動し細胞内脱水 → 錯乱、傾眠、昏睡、脳出血

高血糖とNa値の関係

血糖が上昇すると細胞外液の浸透圧が上がり、細胞内から細胞外へ水が移動するため、血清Naは希釈されて低下する(高血糖による希釈性低Na血症)。血糖100 mg/dL上昇ごとにNaは約1.6 mEq/L低下するとされ、補正Na=実測Na+1.6×(血糖-100)/100 で本来のNa値を推定する(低下幅を約2.4 mEq/Lとする報告もある)。 bは、Naが低い一方で血糖が著しく高く、両者が打ち消し合って血漿浸透圧・有効浸透圧(約276)がいずれも基準範囲内に保たれている。脳細胞の容積は変化しにくいため、ほかの選択肢と比べて意識が保たれている可能性が最も高い。他の4つは、低浸透圧(a)、重度低血糖(c)、高浸透圧(d、e)のいずれかを示し、意識障害をきたしうる。

選択肢考察

  1. ×a.  121  8  90  250

    Na 121 mEq/Lで血糖は正常、血漿浸透圧は250 mOsm/lと明らかに低い。低浸透圧性(低張性)低Na血症であり、細胞外液の張度低下に伴って水が脳細胞内に移動し、脳浮腫を生じる。一般にNaが125 mEq/L前後を下回ると頭痛、悪心、傾眠、見当識障害などが現れやすく、急性に進行した場合や120 mEq/L未満ではけいれん・昏睡に至ることもある。意識障害をきたしている可能性があり、最も意識清明な例とはいえない。

  2. ○b.  123  22  540  284

    Na 123 mEq/Lと低値だが、血糖540 mg/dLの著明な高血糖を伴う。高血糖によって細胞内の水が細胞外へ引き出され、Naが希釈されて低下している状態で、補正Naは123+1.6×(540-100)/100≒130 mEq/Lとなる。計算上の血漿浸透圧も約284(実測284)で基準範囲内にあり、尿素を除いた有効浸透圧も約276と正常範囲に保たれている。すなわち、Naの低下と高血糖が互いに打ち消し合い、脳細胞の浮腫も脱水も起こりにくい。高血糖そのものは治療を要する異常だが、浸透圧が正常であれば高血糖単独で意識障害をきたすことは考えにくく、5例の中で意識清明の可能性が最も高い。なお、脂質異常症や異常蛋白血症で生じる「偽性低Na血症」は測定法による見かけ上の低値であり、本例のように高血糖で実際に水が移動して起こる低Na血症とは区別される。

  3. ×c.  137  14  36  281

    Naと血漿浸透圧は正常だが、血糖36 mg/dLと重度の低血糖である。脳はエネルギー源のほとんどをブドウ糖に依存しているため、低血糖では中枢神経機能が急速に障害される。血糖が約70 mg/dL未満で発汗、動悸、振戦などの交感神経症状が出現し、50 mg/dL前後以下で集中力低下、異常行動などの中枢神経症状、さらに30~40 mg/dL前後では意識障害、けいれん、昏睡に至りうる。意識清明である可能性は低い。

  4. ×d.  149  28  486  335

    Na 149 mEq/L(補正Naは約155 mEq/L)、血糖486 mg/dL、血漿浸透圧335 mOsm/lで、高Na血症と高血糖が重なった高浸透圧状態である。尿素窒素も28 mg/dLとやや高く、脱水の存在が示唆される。臨床的には高浸透圧高血糖状態(HHS、かつての高浸透圧性非ケトン性昏睡)を強く疑う所見であり、HHSでは有効浸透圧が320 mOsm/kgを超えると意識障害が目立つようになる。本例の有効浸透圧は約325であり、脳細胞内脱水による意識障害をきたしている可能性が高い。

  5. ×e.  169  22  108  352

    血糖はほぼ正常だが、Na 169 mEq/Lと著明な高Na血症で、血漿浸透圧は352 mOsm/lと高度に上昇している。細胞外液が高張となり、水が脳細胞から引き出されて細胞内脱水を起こすため、口渇に続いて易刺激性、錯乱、傾眠、けいれん、昏睡が生じる。脳が縮むことで架橋静脈が牽引され、頭蓋内出血を起こすこともある。Naが160 mEq/Lを超える急性の高Na血症では重篤な中枢神経症状を呈しやすく、意識清明とは考えにくい。

血漿浸透圧の推定式と浸透圧ギャップ

・計算浸透圧 ≒ 2×Na+血糖/18+BUN/2.8(mOsm/kg) ・有効浸透圧(張度)≒ 2×Na+血糖/18 ・実測浸透圧-計算浸透圧=浸透圧ギャップ。通常10 mOsm/kg未満で、開大していればエタノール、メタノール、エチレングリコール、マンニトールなど測定されない浸透圧物質の存在を考える。

低Na血症の分類(血漿浸透圧による)

・低張性低Na血症(浸透圧低下):最も多い。体液量によって、SIADH、心不全・肝硬変・ネフローゼ、利尿薬、嘔吐・下痢などを鑑別する。脳浮腫による症状が問題となる。 ・高張性低Na血症(浸透圧正常~上昇):高血糖、マンニトール投与など。細胞外に浸透圧物質が増え、細胞内から水が移動してNaが希釈される。 ・等張性低Na血症(偽性低Na血症):高度の脂質異常症や高蛋白血症(多発性骨髄腫など)で、血漿の水分以外の容積が増えるため、間接法の測定で見かけ上Naが低く出る。浸透圧は正常で、治療の必要はない。

Na補正速度の注意

・慢性低Na血症を急速に補正すると浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症など)を起こすため、補正は24時間で10 mEq/L以内(高リスク例では8 mEq/L以内)を目安とする。 ・高Na血症の急速な是正も脳浮腫の原因となるため、慢性例では緩徐に補正する。

高血糖緊急症

・糖尿病ケトアシドーシス(DKA):主に1型糖尿病、インスリン欠乏による高血糖・ケトーシス・代謝性アシドーシス。 ・高浸透圧高血糖状態(HHS):主に高齢の2型糖尿病。著明な高血糖(しばしば600 mg/dL以上)と高度脱水、高浸透圧(有効浸透圧320 mOsm/kg以上)を特徴とし、ケトアシドーシスは軽度か認めない。意識障害を伴いやすい。

低血糖の症状

血糖約70 mg/dL未満で交感神経症状(発汗、動悸、振戦、空腹感)、さらに低下すると中枢神経症状(頭痛、集中力低下、異常行動、傾眠)、30 mg/dL前後以下で意識消失・けいれん・昏睡へ進む。自律神経障害やβ遮断薬使用、低血糖を繰り返す例では交感神経症状を欠き、いきなり意識障害で発症することがある(無自覚性低血糖)。

POINT

・意識障害を起こす代謝異常として、低血糖、低浸透圧(低Na血症)、高浸透圧(高Na血症、HHS)を確認する。 ・血漿浸透圧 ≒ 2×Na+血糖/18+BUN/2.8。中枢神経症状に関わるのは尿素を除いた有効浸透圧(2×Na+血糖/18)である。 ・高血糖では細胞内から水が移動してNaが希釈性に低下する。補正Na=実測Na+1.6×(血糖-100)/100。 ・低Naと高血糖が並存しても浸透圧が正常なら、脳細胞の容積は保たれ意識障害は起こりにくい。 ・偽性低Na血症(脂質異常症・異常蛋白血症、浸透圧正常)と高血糖による低Na血症(浸透圧は正常~上昇)を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。