男児は生まれず、女児はまだらに―Lyon現象が教えるX連鎖優性遺伝
第108回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
Mendel遺伝様式に従う母斑症で,男児は胎児期に死亡するが,女児ではLyon現象のため,健常部と病変部が混在するmosaicを呈する遺伝形式はどれか。
- a.常染色体優性遺伝
- b.常染色体劣性遺伝
- c.X連鎖優性遺伝
- d.X連鎖劣性遺伝
- e.Y連鎖遺伝
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Lyon現象(X染色体不活化)によって女性の組織は父由来Xと母由来Xが働く細胞のモザイクになるため、これが表現型に現れる疾患は原因遺伝子がX染色体上にあります。ヘテロ接合の女性が発症することは変異が顕性(優性)に働くことを示し、X染色体を1本しかもたない男性では代償がきかず胎生期に致死となるため、本問の遺伝形式はX連鎖優性遺伝です。代表は色素失調症(IKBKG/NEMO)や限局性真皮低形成(Goltz症候群)で、女児の皮膚にBlaschko線に沿った線状・渦巻き状の皮疹が現れるのはモザイクの表れです。X連鎖劣性は男性が発症し女性は保因者、Y連鎖は男性のみ、常染色体性は性差なしと対比すると整理しやすくなります。問題文の性差や発症様式から遺伝形式を論理的に導く力は、遺伝カウンセリングや家系図の解釈にも直結します。
解答・解説
正解はcです
問題文には遺伝形式を絞り込む手がかりが3つある。
手がかり1:Lyon現象によるmosaic
Lyon現象(X染色体不活化、ライオニゼーション)は、X染色体を2本もつ女性の細胞で、発生初期にどちらか一方のX染色体がランダムに不活化される現象である。変異をもつX染色体が働く細胞と正常なX染色体が働く細胞が入り混じるため、ヘテロ接合の女性では病変部と健常部がモザイク状に分布する。この現象が表現型に関係するということは、原因遺伝子がX染色体上にある(X連鎖性である)ことを意味する。
手がかり2:男児は胎児期に死亡する
男性はX染色体を1本しかもたないため、変異X染色体を受け継ぐと正常な対立遺伝子による補いが全くきかない。そのため重症化しやすく、変異が致死的であれば胎生期に死亡する(流産となる)。性別によって表現型がこれほど異なることも、常染色体遺伝ではなく伴性遺伝を示す。
手がかり3:ヘテロ接合の女児が発症する
女児は正常X染色体と変異X染色体を1本ずつもつヘテロ接合体である。ヘテロ接合で症状が出るということは、変異遺伝子が顕性(優性)に作用していることを示す。潜性(劣性)であれば、ヘテロ接合の女性は原則として無症状の保因者にとどまる。 以上から、X連鎖優性(顕性)遺伝で、男性致死となる形式と判断できる。皮膚科領域の代表は色素失調症(incontinentia pigmenti)であり、女児の皮膚にBlaschko線に沿った線状・渦巻き状の皮疹が出現するのは、まさにLyon現象によるモザイクの表れである。
選択肢考察
- ×a. 常染色体優性遺伝
常染色体上の遺伝子であれば男女とも同じ2コピーをもつため、原則として性別で発症頻度や重症度に大差は生じない。男児のみ胎生致死という性差や、X染色体不活化(Lyon現象)によるモザイクは説明できない。常染色体優性遺伝の母斑症には結節性硬化症や神経線維腫症1型などがあるが、いずれも男女ともに生まれて発症する。
- ×b. 常染色体劣性遺伝
常染色体劣性遺伝では、両親から変異遺伝子を1つずつ受け継いだホモ接合(または複合ヘテロ接合)の個体が、性別に関係なく発症する。男性だけが致死となる性差も、女性でLyon現象によりモザイクとなる現象も生じないため該当しない。
- ○c. X連鎖優性遺伝
変異遺伝子がX染色体上にあり顕性に作用するため、ヘテロ接合の女性でも発症する。女性ではLyon現象により、変異Xが活性化している細胞群(病変部)と正常Xが活性化している細胞群(健常部)が混在し、皮膚ではBlaschko線に沿ったモザイク状の皮疹となる。一方、X染色体を1本しかもたない男性では正常対立遺伝子による代償がなく、致死的な変異では胎生期に死亡する。このため、患者はほぼ女性に限られ、患者女性の妊娠では流産(男児胎児の死亡)が多くみられる。色素失調症(IKBKG〈NEMO〉遺伝子変異)や限局性真皮低形成(Goltz症候群、PORCN遺伝子変異)が代表例であり、問題文の条件をすべて満たす。
- ×d. X連鎖劣性遺伝
X連鎖劣性遺伝では、変異X染色体を1本もつ男性(ヘミ接合)が発症し、ヘテロ接合の女性は多くの場合症状のない保因者となる。血友病A・B、Duchenne型筋ジストロフィー、Fabry病などが代表である。つまり男性が生まれて発症するのが典型であり、「男児は胎児期に死亡し、女児が発症する」という問題文の記載とは合わない。なお、X染色体不活化の偏りによって女性保因者が軽く発症することはあるが、それは例外的な事象である。
- ×e. Y連鎖遺伝
Y染色体は男性にしか存在しないため、Y連鎖遺伝の形質は父から息子へのみ伝わり、女性が発症することはない。女児が発症し、Lyon現象(X染色体の現象)が関与するという問題文と矛盾する。
Lyon現象(X染色体不活化)
・女性の体細胞では、2本のX染色体のうち1本が発生早期(胚盤胞期ごろ)に不活化され、凝縮したBarr小体(性染色質)となる。 ・どちらのX染色体が不活化されるかは細胞ごとにランダムに決まり、一度決まると娘細胞に引き継がれる。そのため成人女性の組織は、父由来Xが働く細胞と母由来Xが働く細胞のモザイクになる。 ・遺伝子量補正(男女でX染色体上の遺伝子の発現量をそろえる仕組み)の役割をもつ。XIST遺伝子のRNAが不活化に関与する。 ・皮膚では、胎生期の細胞移動の経路を反映したBlaschko線(体幹でV字・S字状、四肢で線状に走る仮想線)に沿って、モザイクが線状・渦巻き状の皮疹として現れる。
X連鎖優性・男性致死の代表的疾患
・色素失調症(incontinentia pigmenti):原因遺伝子はIKBKG(NEMO)。皮疹はBlaschko線に沿って、水疱期→疣状期→色素沈着期→色素脱失・萎縮期と経過する。歯牙異常、脱毛、網膜血管異常、中枢神経障害を伴うことがある。 ・限局性真皮低形成(Goltz症候群):原因遺伝子はPORCN。Blaschko線に沿った皮膚萎縮、脂肪組織のヘルニア様突出、四肢・眼の異常を伴う。 ・母斑症ではないが、Rett症候群もX連鎖優性の遺伝形式をとり、男性では重篤・致死的となるため主に女性に発症する。
遺伝形式の見分け方の要点
・常染色体性:男女差なく発症。優性なら各世代に患者がみられ、劣性なら同胞発症や近親婚が手がかりとなる。 ・X連鎖劣性:患者はほぼ男性、女性は保因者。父から息子へは伝わらない。 ・X連鎖優性:女性患者が男性患者より多い。罹患男性の娘は全員罹患し、息子は罹患しない。男性致死型では患者はほぼ女性のみとなる。 ・Y連鎖:男性のみ、父から息子へ伝わる。
POINT
・Lyon現象によるモザイク → X連鎖性の疾患である。 ・ヘテロ接合の女性が発症 → 顕性(優性)遺伝である。 ・男児が胎生致死 → X連鎖優性で男性致死型。代表は色素失調症(IKBKG/NEMO)と限局性真皮低形成(Goltz症候群)。 ・女性患者の皮疹はBlaschko線に沿って分布する。 ・X連鎖劣性は男性が発症し女性は保因者、Y連鎖は男性のみ、常染色体遺伝は性差がない点と対比して覚える。
