StudyMed医師国家試験

圧が上がらない心不全?―肺高血圧の3つの原因から心タンポナーデを見抜く

第108回医師国家試験 D問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第4問

肺高血圧を伴わないのはどれか。

  1. a.強皮症
  2. b.肺血栓塞栓症
  3. c.僧帽弁狭窄症
  4. d.急性心筋梗塞
  5. e.心タンポナーデ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺高血圧をきたす病態を理解しているかを問う問題だ。病名を一つずつ暗記するより、肺動脈の圧がどんな仕組みで上がるのかを整理しておくと、迷わずに解けるよ。
医学生医学生
肺高血圧というと、まず特発性の肺動脈性肺高血圧症を思い浮かべます。若い女性に多い、と講義で習いました。
ドクタードクター
それも大事な病型だね。ただ、今回はもっと広く考えよう。肺動脈圧はおおよそ「肺血流量×肺血管抵抗+下流の圧(左房圧)」で決まる。つまり肺高血圧は、肺血管抵抗が上がる、左房圧が上がって逆向きに圧が伝わる、肺血流量が増える、の3つのどれかで起こるんだ。
医学生医学生
オームの法則みたいな考え方ですね。生理学の循環の講義を思い出しました。
ドクタードクター
まさにその応用だよ。ちなみに定義は右心カテーテルで測る安静時の平均肺動脈圧で、かつては25 mmHg以上だったけれど、2022年の欧州のガイドラインでは20 mmHgを超えるものに改められている。では、この枠組みで強皮症を考えてみよう。
医学生医学生
強皮症は皮膚が硬くなる病気ですが、肺では間質性肺炎が有名なので、それで肺の血管が減る……ということでしょうか。
ドクタードクター
それも一因だね。間質性肺炎による肺血管床の減少と低酸素性肺血管収縮が肺高血圧を助長する。でももっと重要なのは、肺の小動脈そのものに内膜や中膜の肥厚、線維化が起きて内腔が狭くなることなんだ。これは肺動脈性肺高血圧症に分類され、膠原病の中でも強皮症は代表的な原因。混合性結合組織病や全身性エリテマトーデスでもよく合併して、予後を左右する合併症になるよ。
医学生医学生
膠原病内科の実習で、強皮症の患者さんに定期的に心エコーをしていたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そう、早期発見のためのスクリーニングだね。次は肺血栓塞栓症。
医学生医学生
これは肺動脈が血栓で詰まるので、血管抵抗が上がるパターンですね。
ドクタードクター
その通り。主に下肢の深部静脈血栓が飛んで肺動脈を閉塞し、有効な肺血管床が減る。さらに血小板由来のセロトニンやトロンボキサンA2による血管収縮も加わって、急性の肺高血圧と右心負荷が起こる。器質化した血栓が残って慢性化したものは慢性血栓塞栓性肺高血圧症、CTEPHと呼ばれるよ。
医学生医学生
僧帽弁狭窄症と急性心筋梗塞は、左心系の病気なので肺とは関係なさそうに思えますが……。
ドクタードクター
そこが引っかけになりやすいところ。2つ目の機序、左房圧の上昇を思い出してほしい。僧帽弁狭窄症では左房から左室に血液が流れにくく、左房圧が上がる。その圧が肺静脈、肺毛細血管を経て肺動脈まで逆向きに伝わるんだ。長く続くと肺小動脈の収縮や壁肥厚も加わって、さらに進行する。
医学生医学生
聴診でⅡ音の肺動脈成分が強くなるのはそのためですね。OSCEの練習で心音を聞き分けるのに苦労しました。
ドクタードクター
いいつながりだね。肺動脈が拡張して二次性の肺動脈弁閉鎖不全が起きると、Graham Steell雑音が聞こえることもある。急性心筋梗塞も同じで、広範な心筋壊死で左室の収縮が落ちると左室拡張末期圧や左房圧が上がり、肺うっ血、肺水腫とともに肺動脈圧も上昇する。Forrester分類で肺動脈楔入圧18 mmHg超を肺うっ血ありとするのも、この左房圧を見ているわけだ。
医学生医学生
そうすると、心タンポナーデが肺高血圧を伴わないものになりますね。でも心臓が圧迫されて全体的に圧が上がりそうなので、少し意外です。
ドクタードクター
良い疑問だね。心タンポナーデでは心膜腔の液体が心臓を外から押しつぶして、心室が十分に広がれない。すると右心への静脈還流が妨げられて、頸静脈怒張のような体静脈のうっ血は起こるけれど、右室から肺へ送り出される血液はむしろ減る。肺血管そのものの病変もないし、左心不全のような肺うっ血も起こりにくいから、肺高血圧の原因にはならないんだ。実際、心タンポナーデの胸部X線では肺野がきれいなことが多いよ。
医学生医学生
カテーテルで測ると、右房圧や肺動脈拡張期圧、楔入圧がほぼ同じ値に揃う「拡張期圧の等圧化」も特徴でしたよね。
ドクタードクター
よく知っているね。外からの圧で各部屋の拡張期圧が揃って上がって見えることはあるけれど、肺血管が悪いわけでも肺血流が増えたわけでもないので、肺高血圧の原因疾患としては扱わない。心タンポナーデの診断ではBeckの三徴、つまり血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱や、吸気時に収縮期血圧が10 mmHgを超えて下がる奇脈、心電図の低電位や電気的交互脈が手がかりになる。治療は心嚢穿刺による排液だ。
医学生医学生
肺高血圧のほうは、臨床分類で第1群から第5群まであったと思います。
ドクタードクター
そう。第1群が膠原病などを含む肺動脈性肺高血圧症、第2群が左心疾患、第3群がCOPDや間質性肺疾患など肺疾患・低酸素、第4群がCTEPHなどの肺動脈閉塞、第5群がサルコイドーシスや血液疾患など多因子のもの。頻度は第2群が最も多いんだ。楔入圧15 mmHg以下なら前毛細血管性、超えれば後毛細血管性と分けると、原因が肺動脈側か左心側かを見分けられる。心エコーで三尖弁逆流の速度から肺動脈圧を推定する方法も、臨床ではよく使うから覚えておこう。

まとめ

肺高血圧は、肺動脈圧が「肺血流量×肺血管抵抗+左房圧」でおおよそ決まることから、肺血管抵抗の上昇、左房圧の上昇、肺血流量の増加の3つの機序に整理できます。強皮症では肺小動脈病変による肺動脈性肺高血圧症が、肺血栓塞栓症では肺動脈の閉塞が、僧帽弁狭窄症や急性心筋梗塞では左房圧の逆行性伝播がそれぞれ肺高血圧をもたらします。一方、心タンポナーデは心室の拡張障害により肺血流量がむしろ減少し、肺血管病変や肺うっ血も伴わないため、肺高血圧の原因にはなりません。臨床分類(第1〜5群)や楔入圧による前・後毛細血管性の区別と合わせて機序で理解しておくと、未知の病態に出会っても肺高血圧の有無を推論できるようになります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の原因となる病態を理解しているかを問う問題である。肺高血圧とは肺動脈圧が異常に上昇した状態で、右心カテーテル検査で安静時の平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure:mPAP)が上昇していることで定義される。かつては mPAP 25 mmHg 以上とされてきたが、2022年の欧州(ESC/ERS)ガイドラインでは 20 mmHg を超えるものに改められた。

考え方

肺動脈圧は「肺血流量 × 肺血管抵抗 + 下流の圧(左房圧=肺静脈圧)」でおおよそ決まる。したがって肺高血圧は次の3つのいずれかで生じる。 1)肺血管抵抗の上昇:肺動脈そのものの病変(膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症など)、肺動脈の閉塞(肺血栓塞栓症)、肺実質の破壊や低酸素性肺血管収縮(慢性閉塞性肺疾患や間質性肺炎など)。 2)下流の圧の上昇:左房圧が上がると、肺静脈から肺毛細血管、肺動脈へと圧が逆行性に伝わる(僧帽弁狭窄症、左心不全)。 3)肺血流量の増加:心房中隔欠損症などの左右短絡疾患。 各選択肢がこのどれに当てはまるかを考えればよい。心タンポナーデは心膜腔内の液体貯留で心臓全体が外から圧迫され、心室が十分に拡張できなくなる病態である。静脈還流が妨げられて右心から肺へ送られる血液量(肺血流量)自体が減少し、心拍出量も低下する。肺動脈や肺血管床の病変もなく、左房圧上昇による慢性的な肺うっ血も起こらないため、肺高血圧の原因にはならない。よって正解は e である。

選択肢考察

  1. ×a.  強皮症

    強皮症(全身性強皮症)は肺高血圧を高頻度に合併する代表的な膠原病である。肺の小動脈に内膜肥厚・中膜肥厚・線維化が生じて内腔が狭くなり、肺血管抵抗が上がる(肺動脈性肺高血圧症、第1群)。加えて、間質性肺炎(肺線維症)による肺血管床の減少と低酸素性肺血管収縮も肺高血圧を助長する(第3群の機序)。混合性結合組織病(MCTD)や全身性エリテマトーデスでも同様に肺高血圧を合併しやすく、膠原病患者の予後を左右する重要な合併症である。なお膠原病類縁疾患でもBehçet病では肺病変は比較的まれである。肺高血圧を伴い得るため、本問の答えにはならない。

  2. ×b.  肺血栓塞栓症

    肺血栓塞栓症は、主に下肢の深部静脈で生じた血栓が遊離して肺動脈を閉塞する疾患である。閉塞によって有効な肺血管床が減少し、さらに血小板由来のセロトニンやトロンボキサンA2などによる血管収縮も加わって肺血管抵抗が急上昇し、肺高血圧と右心負荷(急性肺性心)をきたす。胸部エックス線写真では、血栓で拡張した肺門部肺動脈が途絶する knuckle sign や、末梢の血流減少による透過性亢進(Westermark sign)がみられることがある。慢性化して器質化血栓が残存したものは慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH、第4群)と呼ばれる。肺高血圧を伴うため、答えにはならない。

  3. ×c.  僧帽弁狭窄症

    僧帽弁狭窄症では左房から左室への血液流入が妨げられ、左房圧が上昇する。この圧が肺静脈・肺毛細血管を経て肺動脈へ逆行性に伝わり、肺うっ血と肺高血圧を生じる(左心疾患に伴う肺高血圧、第2群)。長期化すると肺小動脈の反応性収縮や壁肥厚が加わり、肺血管抵抗自体も上がって肺高血圧はさらに進行する。聴診ではⅡ音の肺動脈成分(ⅡP)亢進がみられ、肺動脈の拡張によって二次性の肺動脈弁閉鎖不全を生じると、胸骨左縁で拡張期の高調な雑音(Graham Steell雑音)を聴取することがある。肺高血圧を伴うため、答えにはならない。

  4. ×d.  急性心筋梗塞

    急性心筋梗塞で広範囲の心筋が壊死すると左室の収縮力が落ち、左室拡張末期圧と左房圧が上昇する(急性左心不全)。その結果、肺静脈圧・肺毛細血管圧が上がって肺うっ血・肺水腫となり、肺動脈圧も上昇する(第2群の機序)。急性心筋梗塞の重症度を評価する Forrester 分類でも、肺動脈楔入圧(左房圧を反映)が 18 mmHg を超えるものを肺うっ血ありと判定する。このように左心不全を介して肺高血圧を伴い得るため、答えにはならない。

  5. ○e.  心タンポナーデ

    心タンポナーデでは、心膜腔に貯留した液体(血液・滲出液など)の圧により心臓全体が圧迫され、心室の拡張が障害される。右心への静脈還流が妨げられるため、頸静脈怒張などの体静脈うっ血は起こるが、右室から肺動脈へ送り出される血液量はむしろ減少する。また、左心への流入血液量も少なくなるので、左心不全のような肺うっ血も生じにくい(臨床的にも心タンポナーデでは肺野はきれいなことが多い)。肺血管の病変も肺血流量の増加もないため、肺高血圧の原因とはならない。したがって本問の正解である。

肺高血圧症の臨床分類(ニース分類、現在の国際分類の骨格)

第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH):特発性・遺伝性、薬物・毒物誘発性、膠原病(強皮症、MCTD、SLEなど)、門脈圧亢進症(門脈肺高血圧症)、HIV感染症、先天性心疾患(左右短絡)に伴うものなど。 第2群 左心疾患に伴う肺高血圧症:左室収縮不全・拡張不全、弁膜症(僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症、大動脈弁疾患)など。頻度は最も高い。 第3群 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症:慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害、高地居住など。 第4群 肺動脈閉塞に伴う肺高血圧症:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)など。 第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症:血液疾患、サルコイドーシス、代謝疾患など。

血行動態による分類

・前毛細血管性肺高血圧:肺動脈楔入圧(PAWP)15 mmHg 以下。肺動脈側に原因がある(第1・3・4群)。 ・後毛細血管性肺高血圧:PAWP 15 mmHg 超。左房圧上昇が原因(第2群)。

肺高血圧の身体所見・検査所見

Ⅱ音肺動脈成分の亢進、右室拍動(胸骨左縁の抬起)、三尖弁閉鎖不全による収縮期雑音、心電図での右軸偏位・右室肥大、胸部エックス線での肺動脈主幹部(左第2弓)の突出、心エコーでの三尖弁逆流速度の上昇・右室拡大など。

心タンポナーデのポイント

Beckの三徴(血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱)、奇脈(吸気時に収縮期血圧が10 mmHg を超えて低下)、Kussmaul徴候、心電図の低電位・電気的交互脈が知られる。心内圧は右房圧・右室拡張期圧・肺動脈拡張期圧・肺動脈楔入圧がほぼ等しくなる(拡張期圧の等圧化)のが特徴で、治療は心嚢穿刺による排液である。

POINT

・肺高血圧の原因は「肺血管抵抗の上昇」「左房圧(肺静脈圧)の上昇」「肺血流量の増加」の3つに整理する。 ・強皮症などの膠原病は肺動脈性肺高血圧症の重要な原因である。 ・肺血栓塞栓症は肺血管床の閉塞で急性の肺高血圧・右心負荷をきたす。慢性化したものが CTEPH。 ・僧帽弁狭窄症や急性心筋梗塞(左心不全)は、左房圧上昇を介して肺高血圧をきたす(左心疾患に伴う肺高血圧)。 ・心タンポナーデは心室の拡張障害で肺血流量が減少し、肺うっ血も起こさないため、肺高血圧の原因にならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。