StudyMed医師国家試験

「治さない」のも治療のうち―サルコイドーシスで経過観察を選ぶ病変を見抜く

第108回医師国家試験 D問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第3問

サルコイドーシスで治療の対象とならないのはどれか。

  1. a.骨病変
  2. b.神経病変
  3. c.高カルシウム血症
  4. d.完全房室ブロック
  5. e.両側肺門リンパ節腫脹

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はサルコイドーシスの治療適応を問う問題だ。この病気は自然に良くなる人が多い一方で、放っておくと命に関わったり、元に戻らない障害を残したりする病変もある。どの病変がどちらに当てはまるのかを整理できているかがポイントだよ。
医学生医学生
サルコイドーシスと聞くと、すぐにステロイドを使うイメージがあります。肉芽腫の病気なので、抑えないといけない気がして。
ドクタードクター
そう思う人は多いね。でも、サルコイドーシスは無治療で寛解する例が多いのが大きな特徴なんだ。ステロイドには感染しやすくなる、糖尿病や骨粗鬆症を起こすといった副作用があるし、ステロイドで治療した例ではかえって再燃しやすいという指摘もある。だから「全員に治療」ではなく「治療が必要な病変を選ぶ」という考え方をするんだ。
医学生医学生
病理実習で乾酪壊死のない類上皮細胞肉芽腫を見ましたが、全身のどこにでもできるんですよね。どこにできると危ないんでしょうか。
ドクタードクター
基準はシンプルで、生命予後に関わるか、不可逆な臓器障害を残すか、の2つ。まず心臓から見ていこう。完全房室ブロックはどうかな。
医学生医学生
心臓の伝導系がやられているので、突然死につながりそうです。治療が必要だと思います。
ドクタードクター
その通り。心サルコイドーシスは心室中隔の基部に肉芽腫ができやすく、刺激伝導系が障害されて房室ブロックを起こしやすい。心室頻拍などの致死的不整脈や心不全も起こり、わが国では主要な死因の一つなんだ。だからステロイドを投与し、完全房室ブロックならペースメーカの植込みも考える。致死的な心室性不整脈のリスクが高ければ、除細動機能付きの機器を選ぶこともあるよ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、原因不明の房室ブロックの若い患者さんに心サルコイドーシスを疑ってFDG-PETを撮っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。原因のはっきりしない房室ブロックでは、心サルコイドーシスを鑑別に入れておくことが大切だ。次は神経病変。
医学生医学生
顔面神経麻痺とか尿崩症とかでしたっけ。神経は一度壊れると戻りにくいので、これも治療ですね。
ドクタードクター
正解。脳神経障害、髄膜炎、脳実質病変、視床下部・下垂体病変、脊髄病変など多彩で、重い後遺症や命の危険につながりうる。ステロイドの全身投与が基本で、効きが悪ければ免疫抑制薬を併用する。では高カルシウム血症はなぜ起こるかわかるかな。
医学生医学生
えっと、副甲状腺ホルモンが上がるからでしょうか。
ドクタードクター
惜しい、そこはよく間違えるところだ。肉芽腫を構成するマクロファージが1α-水酸化酵素をもっていて、ビタミンDを活性型に変えてしまうのが原因なんだ。腸管からのカルシウム吸収が増えて、高カルシウム血症や高カルシウム尿症になる。PTHはむしろ抑制される方向だよ。放置すると腎結石や腎石灰化症、腎機能障害につながるので、臨床的に問題となる高カルシウム血症はステロイドの適応になる。
医学生医学生
ステロイドで肉芽腫の活動性を抑えれば、活性型ビタミンDの産生も減るということですね。骨病変はどうですか。
ドクタードクター
手足の指の骨に好発して、X線では嚢胞状、打ち抜き状の骨破壊像を示す。痛みや腫れ、変形、機能障害を伴う症候性の骨病変は、進むと骨破壊が戻らなくなるから治療対象だ。
医学生医学生
そうなると残る両側肺門リンパ節腫脹、BHLが治療しなくていいもの、ということになりますね。一番有名な所見なのに意外です。
ドクタードクター
有名だからこそ押さえておきたいところだね。BHLはサルコイドーシスで最も頻度の高い胸部X線所見で、肺野病変のないBHLだけの段階、つまり病期Iでは多くが自然に寛解する。臓器障害も自覚症状もほとんどないから、経過観察が原則なんだ。
医学生医学生
胸部X線の病期分類で、BHLだけが病期I、肺野病変が加わると病期II、BHLが消えて肺野病変だけになると病期III、線維化が病期IVでしたね。
ドクタードクター
よく整理できている。病期が進むほど自然寛解率は下がるから、肺病変でも進行する場合や、呼吸機能障害・強い症状がある場合には治療を考える。眼病変はまず点眼などの局所治療が基本で、局所治療で抑えきれず視力障害のおそれがあれば全身投与を検討するよ。
医学生医学生
BHLだけの人でも、心臓や眼にこっそり病変がないかは確認しておく必要がありそうですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床での注意点。BHLで見つかった人でも、心電図や心エコー、眼科診察で他臓器の病変を探しにいく。特に心病変は無症状のまま進むこともあり、予後を左右するからね。検査では血清ACEや可溶性IL-2受容体の上昇、BALFでのリンパ球増加とCD4/CD8比上昇も診断の手がかりになる。

まとめ

サルコイドーシスは乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が全身に生じる疾患で、自然寛解する例が多いため、両側肺門リンパ節腫脹のみ(病期I)の段階では無治療での経過観察が原則です。一方、生命予後や不可逆な臓器障害に関わる病変、すなわち房室ブロックや致死的不整脈などの心病変、神経病変、肉芽腫のマクロファージによる活性型ビタミンD産生を介した高カルシウム血症、症候性の骨病変、局所治療で抑えられない眼病変、進行性の肺病変は副腎皮質ステロイドの全身投与を考慮します。完全房室ブロックではペースメーカの植込みも検討し、心病変はわが国での主要な死因として特に重要です。「どの病変が自然寛解を待てて、どの病変が待てないか」を見極める視点は、副作用のある治療を適切に使い分けるという臨床判断の基本にもつながります。

解答・解説

正解はeです

サルコイドーシスは、原因不明の全身性肉芽腫性疾患で、肺・リンパ節、眼、皮膚、心臓、神経、骨、腎などさまざまな臓器に乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が形成される。 この疾患の大きな特徴は、自然に軽快する例が多いことである。とくに肺門リンパ節腫脹だけの病期では多くが数年以内に自然寛解するため、無治療で経過観察するのが原則である。 一方、治療(主に副腎皮質ステロイドの全身投与)が必要となるのは、放置すると生命に関わる、あるいは不可逆的な臓器障害を残すおそれのある病変である。代表的なものとして、心病変(房室ブロック、心室性不整脈、心機能低下)、神経病変、高カルシウム血症とそれに伴う腎障害、自覚症状や機能障害を伴う骨病変、視力障害のおそれのある眼病変、進行性の肺野病変や呼吸機能障害などが挙げられる。 したがって「治療の対象とならない」ものを選ぶ本問では、自然寛解が期待でき臓器障害をきたさない両側肺門リンパ節腫脹が該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  骨病変

    サルコイドーシスの骨病変は手足の指節骨に好発し、骨梁の破壊による嚢胞状・打ち抜き像を呈する。疼痛や腫脹、変形、機能障害をきたす症候性の骨病変は、進行すると骨破壊が不可逆となるため、副腎皮質ステロイドによる治療の対象となる。

  2. ×b.  神経病変

    神経サルコイドーシスは、顔面神経麻痺などの脳神経障害、髄膜炎、脳実質病変、視床下部・下垂体病変(尿崩症など)、脊髄病変、末梢神経障害など多彩な症状を呈する。重篤な後遺症や生命の危険につながりうるため、副腎皮質ステロイドの全身投与が基本となり、効果不十分な場合は免疫抑制薬などを併用する。

  3. ×c.  高カルシウム血症

    サルコイドーシスの肉芽腫を構成するマクロファージは1α-水酸化酵素をもち、ビタミンDを活性型(1,25-ジヒドロキシビタミンD)に変換する。その結果、腸管からのカルシウム吸収が亢進して高カルシウム血症や高カルシウム尿症が生じ、腎結石、腎石灰化症、腎機能障害の原因となる。臨床的に問題となる高カルシウム血症はステロイド治療の適応であり、ステロイドは肉芽腫の活動性を抑えることで活性型ビタミンDの産生を低下させる。

  4. ×d.  完全房室ブロック

    心サルコイドーシスでは、心室中隔基部に肉芽腫が好発して刺激伝導系が障害され、房室ブロックを生じやすい。ほかに心室頻拍などの致死的不整脈や心機能低下(心不全)をきたし、突然死の原因となるなど、サルコイドーシスの主要な死因の一つである。このため心病変は治療の最優先対象であり、副腎皮質ステロイドを投与する。完全房室ブロックでは、それに加えてペースメーカ(致死的心室性不整脈のリスクが高い場合は植込み型除細動器の機能をもつ機器)の植込みも考慮する。

  5. ○e.  両側肺門リンパ節腫脹

    両側肺門リンパ節腫脹(BHL:bilateral hilar lymphadenopathy)は、サルコイドーシスで最も高頻度にみられる胸部X線所見である。BHLのみで肺野に病変のない段階(病期I)では、多くの症例が自然寛解し、臓器障害や自覚症状もほとんどないため、ステロイド投与の対象とはならず経過観察が原則である。ステロイドには易感染性、糖尿病、骨粗鬆症などの副作用があり、ステロイド治療を行った例ではかえって再燃しやすいとの指摘もあるため、不要な投与は避ける。肺病変に治療を考慮するのは、肺野病変が進行する場合や、呼吸機能障害・強い自覚症状を伴う場合である。

サルコイドーシスの概要

・好発:若年(20〜30歳代)と中高年(特に女性)の二峰性。 ・主な障害臓器:肺・胸郭内リンパ節(最多)、眼(ぶどう膜炎)、皮膚、心臓、神経、骨、腎、肝など。 ・検査所見:血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)上昇、血清リゾチーム上昇、血清可溶性IL-2受容体上昇、高カルシウム血症・高カルシウム尿症、ツベルクリン反応陰性化、気管支肺胞洗浄液(BALF)でのリンパ球増加とCD4/CD8比上昇、67Gaシンチグラフィ・FDG-PETでの集積。 ・確定診断:生検で乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を証明する(結核などの除外が必要)。

胸部X線による病期分類

病期0:胸部X線で異常なし 病期I:BHLのみ(肺野病変なし) 病期II:BHL+肺野病変 病期III:肺野病変のみ(BHLなし) 病期IV:肺の線維化 病期が進むほど自然寛解率は低くなる。病期Iでは自然寛解率が高い。

治療適応の考え方

自然寛解が多いため、無症状・臓器障害なしなら経過観察。以下では副腎皮質ステロイドの全身投与を考慮する。 ・心病変(房室ブロック、心室性不整脈、心機能低下) ・神経病変 ・高カルシウム血症(腎障害を含む) ・症候性の骨病変 ・局所治療で制御できない眼病変(眼病変はまずステロイド点眼などの局所治療が基本) ・進行性の肺病変、呼吸機能障害や強い症状を伴う肺病変 ステロイドで効果不十分・減量困難な場合はメトトレキサートなどの免疫抑制薬を併用する。

予後

多くは自然寛解または治療で軽快するが、わが国では心病変が主要な死因となるため、心電図や心エコーなどによる心病変の評価が重要である。

POINT

・サルコイドーシスは自然寛解が多く、BHLのみ(病期I)は無治療で経過観察が原則。 ・ステロイド全身投与の適応:心病変(房室ブロック・不整脈・心機能低下)、神経病変、高カルシウム血症、症候性骨病変、局所治療で制御困難な眼病変、進行性肺病変。 ・高カルシウム血症の機序は肉芽腫のマクロファージによる活性型ビタミンD産生。 ・心サルコイドーシスはわが国での主要な死因。房室ブロックにはペースメーカも考慮する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。