StudyMed医師国家試験

下大静脈の真ん前に潜む影―尾状葉の肝細胞癌を区域解剖で見抜く

第108回医師国家試験 D問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第5問

ダイナミックCTの動脈相を別に示す。  この患者の肝細胞癌の主たる占拠区域はどれか。

第108回 D問題 第5問の問題画像
  1. a.尾状葉
  2. b.右葉前区域
  3. c.右葉後区域
  4. d.左葉内側区域
  5. e.左葉外側区域

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ダイナミックCTの1枚から肝細胞癌がどの区域にあるかを判定する問題だ。病変そのものよりも、周りの「目印」になる血管との位置関係に注目するのがコツだよ。まず、肝の区域はどうやって分けるか覚えているかな。
医学生医学生
Couinaud分類でS1からS8に分けるんですよね。解剖学の講義で覚えましたけど、CTの横断像になると途端にどこがどこだか分からなくなります。
ドクタードクター
多くの人がつまずくところだね。区域は肝の表面の形ではなく、脈管で決まる。右肝静脈が右葉の前区域と後区域の境、中肝静脈を通るCantlie線が左右の葉の境、肝円索や肝鎌状間膜が左葉の内側区域と外側区域の境になる。そして尾状葉だけは少し特別で、門脈と下大静脈に挟まれた場所にある。
医学生医学生
下大静脈は椎体の右前方にある楕円形の構造ですよね。腫瘤はそのすぐ前にありました。
ドクタードクター
その通り。動脈相で周囲の肝実質より強く、やや不均一に染まる腫瘤が、下大静脈の直前、しかも門脈より背側の正中やや右に見える。肝細胞癌は主に肝動脈から栄養を受けるから、動脈相で濃染して、門脈相から平衡相で周囲より低吸収に抜けるwashoutが典型だ。今回の造影パターンも肝細胞癌として矛盾しない。
医学生医学生
門脈の後ろで下大静脈の前、ということは尾状葉ですね。でも、肝門部の近くなので左葉内側区域とも迷いました。
ドクタードクター
いい迷い方だ。左葉内側区域、つまりS4は尾状葉の腹側にあって、肝門部の前側を占めている。このスライスでは肝門の腹側がS4にあたるけれど、腫瘤はそれより背側、門脈の後ろにある。門脈を境に前ならS4、後ろなら尾状葉と考えると整理しやすいよ。
医学生医学生
右葉前区域の可能性はどうでしょう。腫瘤は正中より少し右寄りなので。
ドクタードクター
右葉前区域はS5とS8からなり、中肝静脈と右肝静脈の間、肝の右前方を占める。この画像なら右葉の腹側がS5と考えられるけれど、腫瘤は正中寄りで下大静脈の直前だから位置が合わない。右葉後区域はS6とS7で、右肝静脈より背外側、右腎の外側から背側に接する部分だ。こちらも腫瘤の場所とは違う。
医学生医学生
左葉外側区域は、胃に接している左前方の部分ですよね。そこには病変がなかったので外せます。
ドクタードクター
そうだね。S2とS3は肝円索より左側で、このスライスでは主にS3が写っていると考えられる。つまり、門脈と下大静脈という2つの目印に挟まれていることから、主たる占拠区域は尾状葉と判断できる。
医学生医学生
区域の並びがなかなか頭に入らないんですが、何かいい覚え方はありますか。
ドクタードクター
S1を中心に、腹側から見て時計回りにS2からS8が並ぶと覚えるといい。左の外側後区域がS2、外側前区域がS3、内側区域がS4、そこから右下へS5、S6、上へ回ってS7、S8という順番だ。門脈の左右分岐部の高さがおおよその上下の境になる。
医学生医学生
尾状葉は「特別」とおっしゃっていましたが、血管の支配も違うんですか。
ドクタードクター
そこが大事な発展知識だ。尾状葉は左右両方の門脈・肝動脈枝から血流を受け、さらに短肝静脈を通って、肝静脈本幹を経ずに直接下大静脈へ流れ込む。だからBudd-Chiari症候群で肝静脈本幹が閉塞しても尾状葉の還流は保たれ、代償性に腫大することがあるんだ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、Budd-Chiari症候群の患者さんのCTで尾状葉だけ大きくなっていたのを見せてもらいました。理由がつながりました。
ドクタードクター
それは良い経験をしたね。臨床的にもう一つ押さえたいのは、尾状葉は肝の深部にあって下大静脈や門脈などの大血管に囲まれているため、肝細胞癌ができると切除やラジオ波焼灼療法が技術的に難しいことだ。治療方針を考えるうえでも、区域の同定は単なる解剖の知識ではなく、とても実践的な情報なんだよ。
医学生医学生
画像を見るときは、まず下大静脈と門脈と肝静脈を探して、そこから区域を割り振るようにします。
ドクタードクター
それが一番確実なやり方だ。動脈相で濃染しwashoutする腫瘤を見つけたら、肝細胞癌を考え、次に目印の脈管との位置関係で区域を決める。この2段階を習慣にしよう。

まとめ

肝の区域はCouinaud分類(S1〜S8)で表し、右肝静脈・中肝静脈(Cantlie線)・肝円索といった脈管や構造を目印に境界を判断します。尾状葉(S1)は肝門の背側、下大静脈の直前に位置し、門脈と下大静脈に挟まれているのが特徴で、門脈より腹側のS4とはこの前後関係で区別できます。肝細胞癌はダイナミックCTの動脈相で濃染し、後期相でwashoutされるのが典型です。尾状葉は左右の門脈枝から血流を受け、短肝静脈で直接下大静脈へ還流するため、Budd-Chiari症候群で代償性に腫大することがあり、深部にあるため腫瘍の切除や焼灼が難しい部位でもあります。血管を目印に区域を同定する力は、画像診断だけでなく治療方針の決定にも直結する基本技能です。

解答・解説

正解はaです

画像所見

提示されたのは腹部ダイナミックCT(造影剤を急速静注し、時相を変えて繰り返し撮影するCT)の動脈相の横断像である。腎臓・脾臓が写るやや尾側のスライスで、肝門部付近にあたる。下大静脈(椎体の右前方にある楕円形の構造)のすぐ腹側、門脈より背側の正中やや右の位置に、周囲の肝実質より強く、やや不均一に造影される腫瘤がある。肝細胞癌は主に肝動脈から血流を受けるため、動脈相で濃染し、門脈相から平衡相にかけて周囲より低吸収に抜ける(washout)のが典型である。本症例の腫瘤も動脈相で濃染しており、肝細胞癌として矛盾しない。

部位の決め方

肝の区域は、脈管(門脈・肝静脈)と下大静脈との位置関係で決める。尾状葉は肝門(門脈本幹から左右分岐部)の背側で、下大静脈の腹側に位置し、左右を門脈と下大静脈に挟まれた部分である。本症例の腫瘤は下大静脈の直前、門脈の背側に存在し、肝右葉・左葉の本体とは位置が異なる。したがって主たる占拠区域は尾状葉(Couinaud 分類の S1)と判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  尾状葉

    尾状葉(S1)は肝門部の背側、下大静脈の腹側にあり、門脈と下大静脈に挟まれる位置を占める。尾状葉はさらに、左側のSpiegel葉、下大静脈の前面を覆う下大静脈部(paracaval portion)、右下方に突出する尾状突起に分けられる。本症例の腫瘤は下大静脈の直前で門脈より背側に存在し、この位置に合致するため、主たる占拠区域は尾状葉である。尾状葉は左右両方の門脈・肝動脈枝から血流を受け、短肝静脈で直接下大静脈に還流するという独立した脈管支配をもつ。

  2. ×b.  右葉前区域

    右葉前区域は S5(前下区域)と S8(前上区域)からなり、中肝静脈と右肝静脈の間に位置する肝の右前方の部分である。本画像では肝右葉の腹側に S5 が写っていると考えられるが、腫瘤はそこではなく下大静脈直前の正中寄りに存在する。したがって誤りである。

  3. ×c.  右葉後区域

    右葉後区域は S6(後下区域)と S7(後上区域)からなり、右肝静脈より背外側に位置する。本画像では右腎の外側から背側に接する肝右葉の後方部分がこれにあたる。腫瘤はこの領域ではなく、下大静脈の前方に存在するため誤りである。

  4. ×d.  左葉内側区域

    左葉内側区域は S4 で、中肝静脈(Cantlie 線:胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線)と肝円索・肝鎌状間膜の間に位置する。尾状葉の腹側に位置し、本画像では肝門部の腹側部分が S4 にあたる。腫瘤は S4 より背側、門脈より後ろの下大静脈直前にあるので誤りである。

  5. ×e.  左葉外側区域

    左葉外側区域は S2(外側後区域)と S3(外側前区域)からなり、肝円索・肝鎌状間膜より左側、胃の腹側から右側に広がる部分である。本画像では左前方の胃に接する肝の辺縁部が該当する(このスライスでは主に S3)。腫瘤はこの領域には存在しないため誤りである。

肝区域(Couinaud 分類)

S1:尾状葉 S2:左葉外側後区域、S3:左葉外側前区域(S2+S3=左葉外側区域) S4:左葉内側区域 S5:右葉前下区域、S8:右葉前上区域(S5+S8=右葉前区域) S6:右葉後下区域、S7:右葉後上区域(S6+S7=右葉後区域) S1 を中心に、腹側から見て時計回りに S2 から S8 が並ぶと覚えるとよい。

区域の境界となる構造

・右肝静脈:右葉前区域と後区域の境界 ・中肝静脈(Cantlie 線):解剖学的な右葉と左葉の境界(外科的な左右葉の境界) ・肝円索・肝鎌状間膜(臍静脈裂):左葉内側区域と外側区域の境界 ・門脈左右分岐部の高さ:上区域(S7・S8、S2)と下区域(S5・S6、S3)のおおよその境界

尾状葉の特徴

・肝門の背側、下大静脈の腹側に位置し、左右門脈の双方から分枝を受ける。 ・短肝静脈を介して肝静脈本幹を経ずに下大静脈へ直接流出する。Budd-Chiari症候群で肝静脈本幹が閉塞しても尾状葉の還流は保たれるため、尾状葉が代償性に腫大することがある。 ・深部に位置し大血管に囲まれるため、尾状葉の肝細胞癌は切除やラジオ波焼灼療法が技術的に難しい。

肝細胞癌のダイナミックCT所見

動脈相で早期濃染し、門脈相〜平衡相で周囲肝より低吸収となる(washout)。被膜を有する場合は平衡相で辺縁の被膜が遅れて造影される。

POINT

・肝区域は Couinaud 分類(S1〜S8)で表し、境界は肝静脈・門脈・肝円索を目印に判断する。 ・尾状葉(S1)は門脈と下大静脈に挟まれた位置、つまり肝門の背側・下大静脈の直前にある。 ・右葉前区域=S5+S8、右葉後区域=S6+S7、左葉内側区域=S4、左葉外側区域=S2+S3。 ・肝細胞癌はダイナミックCTの動脈相で濃染し、後期相で washout される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。