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ROC曲線の軸はなぜ「感度」と「1-特異度」なのか―カットオフ値が描く検査性能の地図

第108回医師国家試験 C問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第108回 C問題 第8問

ある検査に関するROC曲線を示す。  縦軸と横軸の組合せで正しいのはどれか。(編註:選択肢表は下記をご参照ください。)  縦軸  横軸 a 1-感度 特異度 b 感度 1-特異度 c 陽性的中率 陰性的中率 d 1-陽性尤度比 陰性尤度比 e 陽性尤度比 1-陰性尤度比

第108回 C問題 第8問の問題画像
  1. a.1-感度特異度
  2. b.感度  1-特異度
  3. c.陽性的中率陰性的中率
  4. d.1-陽性尤度比陰性尤度比
  5. e.陽性尤度比  1-陰性尤度比

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診断検査の性能を評価するROC曲線の基本構造を問う問題だ。図そのものを覚えるより、「カットオフ値を動かすと何が変わるか」から考えると軸の意味が自然にわかる。まず、ROC曲線はどんな検査について描くものだと思う?
医学生医学生
血糖値や腫瘍マーカーのように、結果が数値で出る検査でしょうか。
ドクタードクター
その通り。検査値が連続量だと、どこで陽性・陰性を区切るか、つまりカットオフ値を決めなければならない。カットオフ値を一つ決めると、その値での感度と特異度が一組決まる。その組をカットオフ値ごとに点として打ち、結んだものがROC曲線なんだ。
医学生医学生
感度と特異度の組を打つなら、縦軸が感度、横軸が特異度になりそうな気がします。
ドクタードクター
惜しい、そこが引っかけどころだ。横軸は特異度そのものではなく「1-特異度」をとる。1-特異度は、疾患のない人のうち検査が陽性になってしまう割合、つまり偽陽性率だね。一方の感度は疾患のある人のうち陽性になる割合で、真陽性率とも呼ぶ。
医学生医学生
縦軸が真陽性率、横軸が偽陽性率ということですね。どちらも「陽性と判定された割合」でそろっているんですね。
ドクタードクター
いい気づきだ。カットオフ値を陽性と判定しやすい方向へずらすと、患者をたくさん拾えて感度は上がるけれど、健康な人も陽性になりやすく偽陽性率も上がる。だから曲線は原点から右上の点へ向かう右上がりのカーブになる。正解は縦軸が感度、横軸が1-特異度の組合せだ。
医学生医学生
1-感度と特異度の組合せは、軸の両方を裏返しただけに見えます。
ドクタードクター
そう、1-感度は偽陰性率で、疾患があるのに見逃す割合だ。両方の軸を1から引いた形にすると図が上下左右に反転してしまい、ROC曲線の定義から外れる。では、陽性的中率と陰性的中率の組合せはどうかな。
医学生医学生
CBTの勉強で、的中率は有病率で変わると覚えました。だから検査そのものの性能を表すには向かないのでしょうか。
ドクタードクター
よく覚えているね。同じ検査でも有病率の低い集団で使うと陽性的中率は下がる。ROC曲線は有病率に左右されない感度と特異度から描くからこそ、検査どうしの性能を比べられるんだ。
医学生医学生
尤度比を使った組合せはどうですか。陽性尤度比は感度を1-特異度で割ったものだったと思います。
ドクタードクター
定義は正しいよ。陰性尤度比は1-感度を特異度で割ったものだ。尤度比は検査結果が検査前確率をどれだけ動かすかを示す指標で、1を超える値もとるから、1-陽性尤度比のような量には意味がない。ただ面白いことに、ROC曲線上のある点と原点を結ぶ直線の傾きは、そのカットオフ値での陽性尤度比に等しい。軸ではないけれど、図の中に隠れているわけだ。
医学生医学生
なるほど。では、曲線のどこを見れば良い検査だとわかるんですか。
ドクタードクター
理想的な検査は、偽陽性率0のまま感度1を達成する、つまり左上隅を通る。逆に原点と右上を結ぶ対角線は、コイン投げと同じで診断能がない。曲線が左上に張り出すほど優れた検査で、それを数値にしたのが曲線下面積、AUCだ。0.5から1.0の値をとり、1に近いほど良い。
医学生医学生
最適なカットオフ値はどう決めるんでしょう。疫学の講義でYouden指数という言葉を聞いた気がします。
ドクタードクター
それが代表的な方法の一つで、感度+特異度-1が最大になる点を選ぶ。左上隅に最も近い点を選ぶ方法もある。ただ臨床では目的に応じて調整する。見逃しを避けたいスクリーニングでは感度を重視し、偽陽性を減らしたい確定診断では特異度を重視するんだ。
医学生医学生
感度の高い検査の陰性は除外に、特異度の高い検査の陽性は確定に使える、というSnNoutとSpPinの話につながりますね。
ドクタードクター
その通り。ROC曲線は、そのトレードオフを一枚の図で見せてくれる道具だと理解しておこう。

まとめ

ROC曲線は、検査値が連続量で表される検査について、カットオフ値を変えたときの感度(真陽性率)を縦軸に、1-特異度(偽陽性率)を横軸にとって点を結んだ曲線です。曲線が左上隅に近いほど診断能が高く、原点と右上を結ぶ対角線は診断能がないことを示し、曲線下面積(AUC)は0.5〜1.0の範囲で検査全体の性能を表します。的中率は有病率に依存するため軸には用いず、尤度比も感度と特異度から計算される比であって軸ではありません。最適なカットオフ値はYouden指数や左上隅との距離で決められますが、スクリーニングでは感度、確定診断では特異度を重視するなど目的に応じた設定が必要です。感度と特異度のトレードオフを理解することは、検査結果を正しく解釈するための基礎になります。

解答・解説

正解はbです

ROC曲線(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)は、検査値が連続量で表される検査について、陽性と陰性を分ける境界値(カットオフ値)をさまざまに変えたときの検査性能の変化を一つの図で表したものである。

ROC曲線の描き方

カットオフ値を一つ決めると、その値での感度と特異度が一組決まる。カットオフ値を少しずつずらしながら、各カットオフ値について縦軸に感度(真陽性率)、横軸に1-特異度(偽陽性率)をとって点をプロットし、それらを結んだものがROC曲線である。 ・感度=疾患のある人のうち検査が陽性となる割合(真陽性率) ・特異度=疾患のない人のうち検査が陰性となる割合(真陰性率) ・1-特異度=疾患のない人のうち検査が陽性となる割合(偽陽性率)

曲線の読み方

カットオフ値を「陽性」と判定しやすい方向へ動かすと、感度は上がるが偽陽性も増える(1-特異度も上がる)。そのため曲線は原点(0,0)から右上の(1,1)へ向かう右上がりのカーブとなる。理想的な検査は感度1かつ偽陽性率0、すなわち左上隅(0,1)を通る。逆に、原点と(1,1)を結ぶ対角線は、コイン投げと同じく診断能がまったくない検査を表す。曲線が左上に張り出すほど診断能の高い検査である。 したがって、縦軸は感度、横軸は1-特異度の組合せが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  1-感度特異度

    縦軸「1-感度」、横軸「特異度」の組合せである。1-感度は偽陰性率(疾患があるのに陰性となる割合)であり、ROC曲線の軸ではない。この組合せは正しい軸(縦軸:感度、横軸:1-特異度)の両方を「1から引いた値」に置き換えたものにあたり、図が上下左右に反転してしまう。

  2. ○b.  感度  1-特異度

    ROC曲線は、縦軸に感度(真陽性率)、横軸に1-特異度(偽陽性率)をとる。カットオフ値ごとの(1-特異度, 感度)の点を結んだ曲線が左上隅(0,1)に近づくほど、偽陽性を少なく保ちながら患者を多く拾い上げられる、すなわち診断能の高い検査であることを示す。最適なカットオフ値の決め方として、左上隅(0,1)との距離が最も近い点を選ぶ方法や、感度+特異度-1(Youden指数)が最大となる点を選ぶ方法がある。

  3. ×c.  陽性的中率陰性的中率

    陽性的中率は検査陽性者のうち実際に疾患がある人の割合、陰性的中率は検査陰性者のうち実際に疾患がない人の割合である。的中率は検査を受ける集団の有病率によって大きく変わる(有病率が低いと陽性的中率は下がる)ため、検査そのものの性能を表すROC曲線の軸には用いない。ROC曲線は有病率の影響を受けない感度と特異度から描かれる。

  4. ×d.  1-陽性尤度比陰性尤度比

    陽性尤度比は感度/(1-特異度)、陰性尤度比は(1-感度)/特異度で定義され、検査結果が検査前確率をどれだけ変化させるかを示す指標である。尤度比は1を超える値もとるため「1-陽性尤度比」という量には意味がなく、ROC曲線の軸でもない。なお、ROC曲線上のある点と原点を結ぶ直線の傾き(感度/(1-特異度))は、そのカットオフ値での陽性尤度比に等しいという関係はあるが、軸そのものではない。

  5. ×e.  陽性尤度比  1-陰性尤度比

    尤度比は感度と特異度から計算される比であり、ROC曲線の軸には用いない。陽性尤度比は10を超えるような大きな値をとることもあり、0〜1の範囲に収まる軸としても適さない。また、陰性尤度比は1より小さいほど有用な指標であるが、「1-陰性尤度比」は一般に使われる指標ではない。

2×2表と主な指標

疾患あり・なし と 検査陽性・陰性 で、真陽性(a)、偽陽性(b)、偽陰性(c)、真陰性(d)とすると、 ・感度=a/(a+c) ・特異度=d/(b+d) ・偽陽性率=1-特異度=b/(b+d) ・偽陰性率=1-感度=c/(a+c) ・陽性的中率=a/(a+b) ・陰性的中率=d/(c+d) ・陽性尤度比=感度/(1-特異度) ・陰性尤度比=(1-感度)/特異度 感度・特異度・尤度比は有病率に依存しないが、的中率は有病率に依存する。

AUC(曲線下面積)

ROC曲線の下の面積をAUC(area under the curve)といい、検査全体の診断能を表す。AUCは0.5(対角線、診断能なし)から1.0(完全な検査)の値をとり、1に近いほど優れた検査である。複数の検査の診断能を比較するとき、ROC曲線がより左上にある(AUCが大きい)検査が優れていると判断する。

カットオフ値と感度・特異度のトレードオフ

カットオフ値を下げて陽性を広くとると、感度は上がるが特異度は下がる。見逃しを避けたいスクリーニング検査では感度を重視し、偽陽性を避けたい確定診断では特異度を重視してカットオフ値を設定することがある。感度の高い検査の陰性は除外診断に(SnNout)、特異度の高い検査の陽性は確定診断に(SpPin)役立つ。

POINT

・ROC曲線:縦軸=感度(真陽性率)、横軸=1-特異度(偽陽性率) ・カットオフ値を変えたときの感度と偽陽性率の組を結んだ曲線 ・左上隅(0,1)に近いほど診断能が高く、対角線は診断能なし ・最適カットオフ値:左上隅に最も近い点、またはYouden指数(感度+特異度-1)が最大の点 ・AUCは0.5〜1.0で、大きいほど優れた検査 ・的中率は有病率に依存するためROC曲線には用いない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。