指先が感じる「石の硬さ」―直腸指診で前立腺癌を見抜く
第108回医師国家試験 C問題 第7問
国試問題にチャレンジ
直腸指診で前立腺癌を疑う所見はどれか。
- a.圧痛
- b.石様硬
- c.弾性硬
- d.血液付着
- e.表面平滑
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
直腸指診では、正常前立腺はクルミ大・弾性軟・表面平滑で正中溝を触れ、前立腺肥大症は腫大して弾性硬・表面平滑となり正中溝が不明瞭になります。前立腺癌は線維化を伴って石様硬の結節として触れ、表面不整や左右差を示し、直腸に接する辺縁域に好発するため指診で捉えやすいのが特徴です。圧痛は前立腺炎を、指への血液付着は直腸・肛門の出血性病変を示唆し、いずれも癌を疑う所見ではありません。一方、早期癌や移行域の癌は触知できないことも多いため、PSA測定と組み合わせ、MRIや生検へと精査を進めることが重要です。「硬さ」の質を言葉で区別できることは、前立腺に限らず触診全般の所見を正しく解釈する力につながります。
解答・解説
正解はbです
直腸指診(DRE:digital rectal examination)は、肛門から示指を挿入し、直腸の前壁越しに前立腺を触れて、大きさ・硬さ・表面の性状・圧痛の有無・左右差・正中溝(前立腺の左右の葉の間にある浅い溝)の有無などを評価する診察法である。 前立腺の触診所見は、疾患ごとに次のように整理できる。 ・正常:クルミ大で、弾性軟(母指球を押したときのような柔らかさ)。表面は平滑で、正中溝を触れる。 ・前立腺肥大症:腫大し、弾性硬(ゴムのような硬さ)。表面は平滑で、腫大に伴い正中溝が不明瞭になる。 ・前立腺癌:石様硬(骨や石のような硬さ)の結節や硬結を触れ、表面は不整(凹凸がある)。進行すると境界が不明瞭となり、周囲に固定される。 ・急性前立腺炎:腫大し、熱感と強い圧痛を伴う。 前立腺癌の約70%は、直腸に接する辺縁域(peripheral zone)から発生するため、直腸指診で触れやすい。したがって、硬さの異常、特に石様硬の硬結が癌を疑う最も重要な所見となる。
選択肢考察
- ×a. 圧痛
前立腺の圧痛は炎症を示唆する所見で、前立腺炎を疑う。急性細菌性前立腺炎では、発熱・排尿痛・頻尿とともに、前立腺の腫大・熱感・著明な圧痛を認める。この場合、前立腺マッサージは菌血症を誘発するおそれがあるため禁忌とされ、指診も愛護的に行う。前立腺癌は早期にはほとんど痛みを伴わず、圧痛は癌を疑う所見ではない。
- ○b. 石様硬
前立腺癌は、癌細胞の増殖とそれに伴う線維化(間質反応)によって組織が非常に硬くなるため、直腸指診で石のように硬い結節や硬結として触れる。表面は凹凸不整で、病変が片側の葉に偏ると左右差がみられる。前立腺癌は直腸に接する辺縁域に好発するので、指診で異常を捉えやすい。石様硬の結節を触れた場合は、血清PSA(前立腺特異抗原)測定、MRI、前立腺生検へと精査を進める。なお、前立腺結石や肉芽腫性前立腺炎でも硬く触れることがあり、確定診断には生検による病理診断が必要である。
- ×c. 弾性硬
弾性硬(ゴムのような弾力のある硬さ)は、前立腺肥大症に典型的な所見である。前立腺肥大症は主に尿道を取り囲む移行域の腺腫様過形成で、前立腺はびまん性に腫大するが、組織の弾力は保たれている。表面は平滑で、腫大に伴い正中溝が浅く不明瞭になる。癌のような石様の硬さや不整な結節は認めない。
- ×d. 血液付着
指診後の手袋(指サック)への血液付着は、直腸や肛門からの出血を示す所見であり、直腸癌、内痔核、裂肛、炎症性腸疾患などの下部消化管の出血性病変を疑う。前立腺そのものの性状を示す所見ではなく、前立腺癌を疑う根拠にはならない。前立腺癌が直腸に浸潤すれば出血することはあるが、それは相当に進行した場合である。
- ×e. 表面平滑
表面平滑は、正常前立腺や前立腺肥大症でみられる所見である。前立腺癌では結節を形成するため、表面が凹凸不整に触れることが多い。したがって、表面平滑は癌を疑う所見とはいえない。ただし、早期癌や移行域に発生した癌は指診で異常を触れないことも多く、表面平滑であっても癌を否定することはできない。
前立腺の区域(McNealの分類)
・辺縁域(peripheral zone):前立腺の後外側で直腸に接する部分。前立腺癌の約70%が発生する。 ・移行域(transition zone):尿道を取り囲む部分。前立腺肥大症の好発部位で、癌の一部(約20%)もここから発生する。 ・中心域(central zone):射精管を取り囲む部分。 ・前部線維筋性間質:腺組織を含まない。
前立腺癌の診断の流れ
1. スクリーニング:血清PSA測定と直腸指診。PSAは一般に4.0 ng/mLを基準値とし、年齢階層別の基準値を用いることもある。PSAは前立腺肥大症、前立腺炎、直腸指診や尿道操作の後にも上昇するため、癌に特異的ではない。 2. 画像検査:MRI(特にマルチパラメトリックMRI)で病変を評価し、生検部位の決定に役立てる。 3. 確定診断:経直腸的または経会陰的な超音波ガイド下前立腺生検による病理診断。組織学的にはほとんどが腺癌で、Gleasonスコア(グレードグループ)で悪性度を評価する。 4. 病期診断:CT、MRI、骨シンチグラフィ。前立腺癌は骨転移、特に造骨性(骨形成性)の転移をきたしやすい。
直腸指診の意義
PSA検査の普及により、直腸指診で異常がなくPSAの上昇のみを契機に発見される前立腺癌が大幅に増えている。一方で、PSA値が低くても直腸指診で異常を触れる癌もあるため、両者を組み合わせて評価することに意味がある。
POINT
・前立腺癌の指診所見:石様硬、表面不整(凹凸不整)の結節、左右非対称 ・前立腺肥大症:弾性硬、表面平滑、腫大して正中溝が不明瞭 ・正常前立腺:クルミ大、弾性軟、表面平滑、正中溝を触れる ・前立腺炎:圧痛(急性細菌性前立腺炎では前立腺マッサージは禁忌) ・指への血液付着は直腸・肛門の出血性病変(直腸癌、痔核など)を示唆する ・前立腺癌は辺縁域に好発するため直腸指診で触れやすい
