免疫が崩れると顔を出す癌―AIDS指標疾患に潜むウイルス発癌の共通項
第108回医師国家試験 B問題 第13問
国試問題にチャレンジ
後天性免疫不全症候群〈AIDS〉の指標疾患に含まれるのはどれか。
- a.胃癌
- b.乳癌
- c.卵巣癌
- d.大腸癌
- e.子宮頸癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
AIDSはHIV感染が確認された人に、23の指標疾患のいずれかが認められた場合に診断されます。指標疾患に含まれる悪性腫瘍はKaposi肉腫、原発性脳リンパ腫、非Hodgkinリンパ腫、浸潤性子宮頸癌の4つで、いずれもHHV-8、EBV、HPVといった発癌ウイルスが関与し、細胞性免疫の低下によってウイルスを制御できなくなることで発生・進行しやすくなるという共通点があります。一方、胃癌・乳癌・卵巣癌・大腸癌などの一般的な固形癌は、ピロリ菌やホルモン曝露、遺伝的素因、生活習慣などが主因であり、指標疾患には含まれません。抗レトロウイルス療法の普及で指標疾患の頻度は減ったものの、HIV陽性女性への子宮頸部細胞診や、指標疾患を契機としたHIV感染の発見など、臨床では今も重要な知識です。「ウイルス発癌と免疫不全」という視点で整理すると、暗記ではなく理解として定着させることができます。
解答・解説
正解はeです
本問は、後天性免疫不全症候群〈AIDS〉の診断に用いられる指標疾患(AIDS指標疾患)のうち、悪性腫瘍に分類されるものを問う一般問題である。
AIDSの診断と指標疾患
ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉に感染すると、CD4陽性Tリンパ球が徐々に減少し、細胞性免疫が低下する。わが国のサーベイランスでは、HIV感染が確認された人に、定められた23の指標疾患のいずれか一つ以上が認められた場合にAIDSと診断する。指標疾患は、細胞性免疫の低下によって初めて起こりやすくなる日和見感染症や腫瘍などで構成され、真菌症、原虫症、細菌感染症、ウイルス感染症、悪性腫瘍、その他(反復性肺炎、リンパ性間質性肺炎、HIV脳症、HIV消耗性症候群)の群に分けられている。
指標疾患に含まれる悪性腫瘍
悪性腫瘍の群に含まれるのは、Kaposi肉腫、原発性脳リンパ腫、非Hodgkinリンパ腫、浸潤性子宮頸癌の4つである。いずれも発癌ウイルス(Kaposi肉腫ではヒトヘルペスウイルス8型〈HHV-8〉、リンパ腫ではEpstein-Barrウイルス〈EBV〉が関与するものが多い、子宮頸癌ではヒトパピローマウイルス〈HPV〉)が関わり、免疫低下によってウイルスを制御できなくなることで発生・進行しやすくなるという共通点がある。 一方、胃癌・乳癌・卵巣癌・大腸癌は、HIV感染者で特に多発するわけではなく、指標疾患には含まれない。したがって正解は子宮頸癌である。
選択肢考察
- ×a. 胃癌
胃癌はAIDS指標疾患に含まれない。胃癌の発生には、Helicobacter pylori(ピロリ菌)の持続感染による萎縮性胃炎・腸上皮化生を背景に、高塩分食や喫煙などが加わることが重要である。HIV感染による細胞性免疫低下で頻度が大きく増す腫瘍ではない。
- ×b. 乳癌
乳癌はAIDS指標疾患に含まれない。乳癌はエストロゲンへの曝露期間が長いほど発生しやすく、早い初経、遅い閉経、未産・高齢初産、閉経後の肥満(脂肪組織でアンドロゲンからエストロゲンが作られる)などが危険因子である。ほかにBRCA1/2遺伝子変異などの遺伝的要因がある。免疫不全との関連は乏しい。
- ×c. 卵巣癌
卵巣癌はAIDS指標疾患に含まれない。上皮性卵巣癌では、排卵のたびに卵巣表層上皮が損傷・修復を繰り返すことが発癌に関与すると考えられており(絶え間ない排卵仮説)、未産や妊娠・授乳回数の少なさが危険因子となる。経口避妊薬の使用は排卵を抑えるためリスクを下げる。ほかに子宮内膜症(明細胞癌・類内膜癌との関連)やBRCA1/2変異が危険因子である。
- ×d. 大腸癌
大腸癌はAIDS指標疾患に含まれない。大腸癌の危険因子は、家族歴や遺伝性疾患(家族性大腸腺腫症、Lynch症候群)、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、加工肉・赤肉の多量摂取、飲酒、肥満、運動不足、食物繊維摂取の不足などであり、免疫不全による日和見腫瘍ではない。
- ○e. 子宮頸癌
浸潤性子宮頸癌はAIDS指標疾患の一つである。子宮頸癌は性交渉で感染する高リスク型HPV(16型、18型など)の持続感染が原因となる。免疫正常者ではHPV感染の多くが自然に排除されるが、HIV感染により細胞性免疫が低下するとウイルスが排除されにくくなり、前癌病変である子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉の頻度が高まり、浸潤癌への進行も速くなる。このためHIV陽性女性では子宮頸部細胞診による定期的なスクリーニングが重視される。なお指標疾患として定義されるのは「浸潤性」の子宮頸癌であり、上皮内癌は含まれない。
わが国のAIDS指標疾患(23疾患)
・真菌症:カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)、クリプトコッカス症(肺以外)、コクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、ニューモシスチス肺炎 ・原虫症:トキソプラズマ脳症(生後1か月以後)、クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴う)、イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴う) ・細菌感染症:化膿性細菌感染症(13歳未満で反復するもの)、サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもの、チフス菌によるものを除く)、活動性結核(肺結核または肺外結核)、非結核性抗酸菌症 ・ウイルス感染症:サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で、肝・脾・リンパ節以外)、単純ヘルペスウイルス感染症(1か月以上持続する粘膜・皮膚の潰瘍、または気管支炎・肺炎・食道炎)、進行性多巣性白質脳症 ・腫瘍:Kaposi肉腫、原発性脳リンパ腫、非Hodgkinリンパ腫、浸潤性子宮頸癌 ・その他:反復性肺炎、リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成(13歳未満)、HIV脳症(認知症または亜急性脳炎)、HIV消耗性症候群(全身衰弱またはスリム病)
HIV関連腫瘍と関与するウイルス
・Kaposi肉腫:HHV-8(カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス) ・原発性脳リンパ腫:EBVが関与することが多い。免疫正常者ではまれな腫瘍である。 ・非Hodgkinリンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、Burkittリンパ腫など):EBVが関与するものが多く、HIV感染者では発生頻度が著しく高い。 ・浸潤性子宮頸癌:HPV
抗HIV療法との関係
多剤併用の抗レトロウイルス療法〈ART〉の普及により免疫機能が回復するようになり、Kaposi肉腫やリンパ腫などの指標疾患の頻度は減少した。
POINT
・AIDSはHIV感染+23の指標疾患のいずれかで診断する。 ・指標疾患に含まれる悪性腫瘍は4つ:Kaposi肉腫、原発性脳リンパ腫、非Hodgkinリンパ腫、浸潤性子宮頸癌。 ・いずれも発癌ウイルス(HHV-8、EBV、HPV)が関与し、細胞性免疫の低下で発生・進行しやすい。 ・胃癌、乳癌、卵巣癌、大腸癌などの一般的な固形癌は指標疾患ではない。
