StudyMed医師国家試験

5疾病に加わった「心の病」―数字と制度で読み解く日本の精神保健福祉

第108回医師国家試験 B問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第14問

我が国の精神保健福祉について正しいのはどれか。

  1. a.自殺者数は男性よりも女性の方が多い。
  2. b.精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる。
  3. c.精神障害は障害者の雇用の促進等の法律の対象とならない。
  4. d.精神科の人口当たり入院病床数は他のOECD諸国に比べて少ない。
  5. e.精神疾患の自立支援医療費の支給は維持治療期になれば中止される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は日本の精神保健福祉について、統計と制度をまとめて問う問題だ。自殺の男女差、精神科病床の国際比較、医療計画、障害者雇用、自立支援医療と、テーマが幅広いから、ひとつずつ「日本の実情」と照らし合わせていこう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で一通り習ったはずなんですが、数字と法律名が混ざってしまって自信がないです。
ドクタードクター
大丈夫、背景にある流れをつかめば覚えやすくなるよ。まずは自殺の統計から。日本の自殺者は男女どちらが多いかな。
医学生医学生
自殺未遂は女性に多いと聞いた覚えがあるので、女性かなと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけになりやすいところだね。未遂は女性に多い傾向があるけれど、自殺で亡くなる人は男性が女性のおよそ2倍で、一貫して男性のほうが多い。特に中高年男性が多く、動機としては健康問題が最も多く、経済・生活問題や勤務問題が続く。だから「女性の方が多い」は誤りだ。
医学生医学生
1998年に急増して3万人を超えたという話も講義で出ました。
ドクタードクター
そう、2011年まで年間3万人超が続き、2006年の自殺対策基本法などの取り組みもあって、近年は2万人前後まで減ってきた。ただ、10〜30歳代では死因の第1位が自殺で、若い世代の自殺の多さは国際的にみても課題とされている。次に精神科の病床数。OECD諸国と比べて日本はどうだろう。
医学生医学生
精神科実習で、何十年も入院している患者さんがいると聞いて驚きました。病床は多いのではないでしょうか。
ドクタードクター
その通り。日本の人口当たり精神病床数はOECD加盟国の中で突出して多く、平均在院日数もとても長い。欧米が脱施設化で病床を大きく減らしてきたのに対し、日本では民間の精神科病院を中心に病床が維持されてきた歴史がある。だから「少ない」は誤り。国はこれを受けて「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針を掲げているんだ。
医学生医学生
では正解は医療計画の5疾病の話ですね。がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病……あと一つが精神疾患でしたっけ。
ドクタードクター
正解。医療計画は医療法に基づいて都道府県が策定するもので、もともとはがん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4疾病だった。そこにうつ病や認知症などの患者数の増加を受けて、2013年度から精神疾患が加わり5疾病になった。精神疾患の患者数は、ほかの4疾病のどれよりも多い規模なんだ。
医学生医学生
4疾病より患者さんが多いというのは意外でした。5疾病と一緒に出てくる「事業」も覚える必要がありますか。
ドクタードクター
セットで押さえておくといい。救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療の5事業に、2024年度からは新興感染症発生・まん延時の医療が加わって6事業になった。これに在宅医療を合わせて体制整備を進めている。では障害者雇用の話。障害者雇用促進法は精神障害を対象にしていないだろうか。
医学生医学生
就労支援の話を地域医療実習で聞いたので、対象になっていると思います。
ドクタードクター
そうだね。障害者雇用促進法は身体・知的・精神障害者(発達障害を含む)を対象としている。2013年の改正で差別の禁止と合理的配慮の提供義務が定められ、2018年からは精神障害者も法定雇用率の算定基礎に含まれるようになった。だから「対象とならない」は誤りだ。
医学生医学生
最後の自立支援医療は、症状が落ち着いたら打ち切られるイメージがありました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいポイントだね。自立支援医療の精神通院医療は、障害者総合支援法に基づいて通院医療費の自己負担を原則1割に軽くする制度で、所得に応じた月額上限もある。症状が安定した後も再発予防のために通院・服薬を続ける維持治療こそ中心的な対象で、維持治療期になったから中止、ということはない。有効期間は1年で、必要なら更新できる。
医学生医学生
統合失調症やうつ病は再発予防の継続治療が大事だと精神医学の講義で習ったので、そこで打ち切られたら困りますね。
ドクタードクター
まさにその視点が大切。臨床では、治療中断が再発や再入院につながることが多いから、経済的な負担を下げて通院を続けやすくすることに意味があるんだ。関連して、入院形態や精神保健指定医、精神障害者保健福祉手帳を定めているのは精神保健福祉法、という整理もしておこう。
医学生医学生
法律ごとに何を定めているかを分けて覚えるとよさそうです。
ドクタードクター
その通り。近年は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が目標になっている。病院の外で暮らす患者さんを、医療・福祉・就労・住まいでどう支えるかという視点を持っておくと、制度の問題も筋道立てて考えられるよ。

まとめ

医療法に基づき都道府県が策定する医療計画では、患者数の増加を背景に2013年度から精神疾患が加わり、がん・脳卒中・心筋梗塞等の心血管疾患・糖尿病とあわせて5疾病となりました。日本の自殺者数は男性が女性の約2倍で、人口当たり精神病床数はOECD諸国の中で突出して多く、平均在院日数の長さから「入院医療中心から地域生活中心へ」の転換が進められています。障害者雇用促進法は精神障害者も対象とし法定雇用率の算定にも含まれ、自立支援医療(精神通院医療)は維持治療期の通院も対象として自己負担を原則1割に軽減します。統計の傾向と各法律の役割を結び付けて理解することは、患者の地域生活を支える医師としての基盤になります。

解答・解説

正解はbです

本問は、わが国の精神保健福祉に関する統計(自殺者数、精神病床数)と制度(医療計画、障害者雇用、自立支援医療)を横断的に問う一般問題である。 押さえるべき骨格は次のとおりである。 ・統計:自殺者は一貫して男性が女性より多い。精神病床数は国際的に突出して多く、平均在院日数も長い。そのため国は「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針を掲げている。 ・医療計画:都道府県が医療法に基づいて策定する医療計画では、重点的に対策を講じる疾病として、がん・脳卒中・急性心筋梗塞(のちに心筋梗塞等の心血管疾患)・糖尿病の4疾病に、2013年度(平成25年度)から精神疾患が加わり5疾病となった。患者数の増加(精神疾患の患者数は4疾病のいずれよりも多い)がその背景である。 ・障害者雇用:障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)は身体・知的・精神障害者を対象とし、精神障害者も法定雇用率の算定基礎に含まれている。 ・自立支援医療(精神通院医療):通院による継続的な精神科医療の自己負担を軽減する制度で、症状が安定した後の再発予防のための通院も対象となる。 これらに照らすと、正しいのは「精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる」である。

選択肢考察

  1. ×a.  自殺者数は男性よりも女性の方が多い。

    わが国の自殺者数は男性が女性の約2倍(年によっては2倍を超える)で、男性のほうが多い。自殺者総数は1998年に急増して以降、2011年まで年間3万人を超えていたが、自殺対策基本法(2006年制定)に基づく取り組みなどにより減少し、近年は年間2万人前後で推移している。男性では中高年層に多く、原因・動機としては健康問題が最多で、経済・生活問題、家庭問題、勤務問題などが続く。女性は自殺者数では少ないが、自殺未遂は女性に多いことも覚えておきたい。

  2. ○b.  精神疾患は医療法に基づく医療計画の5疾病に含まれる。

    医療計画は、医療法に基づき都道府県が地域の実情に応じて医療提供体制を整備するために策定する計画である。2008年度から、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の4疾病が重点対象とされてきたが、うつ病や認知症などの精神疾患の患者数が増加し、4疾病のいずれをも上回る規模になったことから、2013年度から精神疾患が追加され5疾病となった。現在は、がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患の5疾病に、救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療(2024年度からは新興感染症発生・まん延時の医療を加えた6事業)と在宅医療を合わせて体制整備が進められている。

  3. ×c.  精神障害は障害者の雇用の促進等の法律の対象とならない。

    障害者雇用促進法は、身体障害者・知的障害者・精神障害者(発達障害を含む)を対象とする。2013年(平成25年)の改正で、雇用の場面での障害者に対する差別の禁止と合理的配慮の提供義務が定められ、さらに精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えることとされた(2018年4月施行)。事業主は一定割合以上の障害者を雇用する義務を負い、精神障害者保健福祉手帳の所持者も雇用率の算定対象となる。したがって精神障害は同法の対象である。

  4. ×d.  精神科の人口当たり入院病床数は他のOECD諸国に比べて少ない。

    わが国の精神病床数は約32万床で、人口当たりの精神科病床数はOECD〈経済協力開発機構〉加盟国のなかで群を抜いて多く、OECD平均の数倍に及ぶ。精神病床の平均在院日数も一般病床に比べて著しく長く(およそ270日前後)、長期入院患者の地域移行が課題とされている。多くの欧米諸国は脱施設化を進めて精神科病床を大幅に削減してきたのに対し、わが国は民間精神科病院を中心に病床が維持されてきたという歴史的背景がある。

  5. ×e.  精神疾患の自立支援医療費の支給は維持治療期になれば中止される。

    自立支援医療(精神通院医療)は、障害者総合支援法に基づき、精神疾患のため通院による継続的な治療を要する人の医療費の自己負担を原則1割に軽減する制度で、所得に応じた月額の負担上限も設けられている。対象には、症状が軽快した後も再発を防ぐために通院・服薬を続けている状態が含まれており、むしろ外来での維持治療は本制度の中心的な対象である。有効期間は1年で、必要があれば更新できる。維持治療期に入ったことを理由に支給が中止されることはない。

わが国の精神保健福祉の流れ

・精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律):入院形態(任意入院、医療保護入院、措置入院、緊急措置入院、応急入院)や精神保健指定医、精神障害者保健福祉手帳などを定める。 ・障害者総合支援法:障害福祉サービスと自立支援医療(更生医療、育成医療、精神通院医療)を定める。 ・「入院医療中心から地域生活中心へ」(2004年の精神保健医療福祉の改革ビジョン)以降、長期入院患者の地域移行が進められ、近年は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が目標とされている。

医療計画の5疾病・6事業+在宅医療

・5疾病:がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患(精神疾患は2013年度から追加) ・6事業:救急医療、災害時医療、新興感染症発生・まん延時の医療(2024年度から追加)、へき地医療、周産期医療、小児医療 ・在宅医療

自殺の統計と対策

・自殺者数は男性が女性の約2倍。 ・1998年から2011年まで年間3万人超、その後減少し近年は2万人前後。 ・若年層(10〜30歳代)では死因の第1位が自殺であり、国際的にみても若年者の自殺が多いことが課題である。 ・自殺対策基本法(2006年)と自殺総合対策大綱に基づき対策が進められている。

障害者雇用促進法

・対象:身体・知的・精神障害者 ・2013年改正:差別禁止、合理的配慮の提供義務、精神障害者の法定雇用率算定への追加(2018年施行) ・法定雇用率は段階的に引き上げられている。

POINT

・医療計画の5疾病:がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患(精神疾患は2013年度から)。 ・自殺者数は男性が女性の約2倍。 ・日本の人口当たり精神病床数はOECD諸国で突出して多く、平均在院日数も長い。 ・障害者雇用促進法は精神障害者も対象(法定雇用率の算定にも含まれる)。 ・自立支援医療(精神通院医療)は維持治療期の通院も対象で、自己負担は原則1割。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。