タバコとお酒が交わる場所―食道に刻まれる「相乗」の発癌リスク
第108回医師国家試験 B問題 第12問
国試問題にチャレンジ
喫煙と飲酒の両方がリスクファクターとなるのはどれか。
- a.胃癌
- b.結腸癌
- c.食道癌
- d.皮膚癌
- e.子宮体癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
喫煙と飲酒の両方が確実な危険因子となり、しかも相乗的にリスクを高める代表が食道扁平上皮癌であり、口腔・咽頭・喉頭癌も同様の関係にあります。とくにALDH2の活性が低い、少量の飲酒で顔が赤くなる人の習慣飲酒は、アセトアルデヒドの蓄積を介して食道癌リスクを大きく高めます。胃癌はHelicobacter pylori・高塩分食・喫煙、大腸癌は飲酒・肥満・加工肉、皮膚癌は紫外線、子宮体癌はエストロゲン曝露が主要因で、子宮頸癌は喫煙と関連するが子宮体癌は関連しない点も押さえておきたいところです。癌ごとの危険因子を整理しておくことは、国試対策だけでなく、問診でのハイリスク者の拾い上げや、禁煙・節酒指導といった予防医療の実践に直結します。
解答・解説
正解はcです
本問は、代表的な癌について生活習慣上のリスクファクター(危険因子)を整理できているかを問う一般問題である。 喫煙と飲酒は、いずれもわが国で予防可能な癌の主要な原因である。喫煙はタバコ煙中の多数の発癌物質を介して、口腔・咽頭・喉頭・肺・食道・胃・膵・膀胱・子宮頸部など全身の多くの臓器の癌リスクを高める。飲酒は、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒド(発癌性をもつ)を介して、口腔・咽頭・喉頭・食道・肝・大腸・乳房などの癌リスクを高める。 両方の要因が「確実」なリスクとして重なるのは、発癌物質に直接さらされる上部消化管・上気道、すなわち口腔・咽頭・喉頭・食道である。とくに食道扁平上皮癌では、喫煙と飲酒が相乗的にリスクを押し上げることがよく知られている。選択肢のなかでこの条件を満たすのは食道癌である。 他の選択肢は、それぞれ主要な危険因子(胃癌ならHelicobacter pylori感染と高塩分食、皮膚癌なら紫外線、子宮体癌ならエストロゲンへの長期曝露など)を思い浮かべて除外すればよい。
選択肢考察
- ×a. 胃癌
胃癌の最大の危険因子はHelicobacter pylori(ピロリ菌)の持続感染であり、ほかに高塩分食・塩蔵食品の摂取が挙げられる。喫煙は胃癌のリスクを高める確実な因子とされ、喫煙者のリスクは非喫煙者の約1.6倍と報告されている。一方、飲酒と胃癌の関連については、多量飲酒でリスクが上がる可能性が指摘される程度で、日本人を対象とした評価では根拠が不十分とされている。したがって「両方がリスクファクター」とはいえない。
- ×b. 結腸癌
結腸癌(大腸癌)では、飲酒は確実なリスク因子であり、ほかに肥満、加工肉・赤肉の多量摂取、運動不足、家族歴などが危険因子として知られる。喫煙も大腸癌リスクをやや高めるとする報告はあるが、その寄与は飲酒や食事・肥満に比べて小さく、日本人での評価も「可能性あり」の段階にとどまる。喫煙と飲酒の双方が確立したリスク因子として相乗的に働く代表例は食道癌であり、本問ではこちらを選ぶべきである。
- ○c. 食道癌
わが国の食道癌の9割以上は扁平上皮癌であり、その主要な危険因子が喫煙と飲酒である。両者が重なるとリスクは相乗的に大きくなる。とくに、アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が遺伝的に低い人(少量の飲酒で顔が赤くなる、いわゆるフラッシャー)が習慣的に飲酒すると、食道粘膜が高濃度のアセトアルデヒドにさらされて発癌リスクが著しく高まる。ほかに熱い飲食物の摂取、野菜・果物の摂取不足も危険因子である。なお食道腺癌は胃食道逆流症(GERD)やBarrett食道、肥満が主な危険因子である。
- ×d. 皮膚癌
皮膚癌(基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫など)の最も重要な危険因子は紫外線曝露である。ほかに放射線、ヒ素、慢性の熱傷瘢痕・慢性潰瘍、色素性乾皮症などの遺伝性疾患、免疫抑制状態が挙げられる。喫煙と有棘細胞癌との関連を示唆する報告はあるものの、飲酒を含めて主要なリスク因子とはいえない。
- ×e. 子宮体癌
子宮体癌(とくにエストロゲン依存性の類内膜癌)は、プロゲステロンの拮抗を受けないエストロゲンへの長期曝露が発生の背景にあり、子宮内膜増殖症を前癌病変とする。危険因子は肥満、未産(妊娠・出産歴が少ない)、早い初経・遅い閉経、糖尿病、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群、エストロゲン単独補充療法、タモキシフェン内服などである。喫煙はむしろ子宮体癌のリスクを低下させる方向の関連が報告されており、飲酒も主要な危険因子ではない。なお、喫煙がリスク因子となるのは子宮頸癌である。
喫煙・飲酒と主な癌
・喫煙が確実なリスク:肺、口腔・咽頭、喉頭、食道、胃、肝、膵、腎盂・尿管、膀胱、子宮頸部など。 ・飲酒が確実なリスク:口腔・咽頭、喉頭、食道、肝、大腸、乳房(女性)など。 ・両者が重なる代表:口腔・咽頭・喉頭・食道(頭頸部と食道の扁平上皮癌)。
飲酒と発癌の機序
エタノールはアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドとなり、さらにALDH2によって酢酸に分解される。日本人を含む東アジア人にはALDH2の活性が低い遺伝子多型をもつ人が多く、飲酒でアセトアルデヒドが蓄積しやすい。アセトアルデヒドはDNA付加体を形成して発癌に関与する。喫煙による発癌物質への曝露が加わると、食道・頭頸部癌のリスクは相乗的に上昇する。
主な癌の代表的危険因子
・胃癌:H. pylori感染、高塩分食、喫煙 ・大腸癌:飲酒、肥満、加工肉・赤肉、運動不足、家族歴 ・食道扁平上皮癌:喫煙、飲酒(ALDH2低活性型)、熱い飲食物 ・食道腺癌:GERD、Barrett食道、肥満 ・皮膚癌:紫外線 ・子宮頸癌:HPV(ヒトパピローマウイルス)感染、喫煙 ・子宮体癌:エストロゲン長期曝露(肥満、未産、遅い閉経など)
POINT
・喫煙と飲酒の両方が確実な危険因子となり、相乗的に働く代表は食道扁平上皮癌(および口腔・咽頭・喉頭癌)。 ・ALDH2低活性の人の飲酒は食道癌リスクを大きく高める。 ・胃癌はH. pylori・塩分・喫煙、皮膚癌は紫外線、子宮体癌はエストロゲン曝露(肥満・未産)。 ・子宮頸癌は喫煙と関連するが、子宮体癌は関連しない。
