尿に混じる胎便が告げるもの―鎖肛の「高さ」を見極めて人工肛門を選ぶ理由
第108回医師国家試験 A問題 第44問
国試問題にチャレンジ
出生直後の男児。在胎39週,2,850 gで出生した。Apgarスコアは8点(1分),10点(5分)。出生前の胎児超音波検査で異常を指摘されたことはない。顔貌は正常。尿中に胎便が認められた。会陰部の写真を別に示す。 まず行うべき治療として適切なのはどれか。

- a.会陰切開
- b.尿道ブジー
- c.膀胱瘻造設
- d.人工肛門造設
- e.一期的根治手術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児で肛門開口部がなければ鎖肛(直腸肛門奇形)を考え、治療方針は直腸盲端の高さと瘻孔の部位で決まります。尿中に胎便が混じる胎便尿は直腸と尿路の瘻孔を意味し、中間位〜高位型を示唆します。この病型ではまず人工肛門(結腸瘻)を造設して腸閉塞と尿路感染を防ぎ、乳児期にPSARPなどの根治手術を行ってから人工肛門を閉鎖する段階的治療が標準で、新生児期の一期的肛門形成は主に会陰皮膚瘻を伴う低位型で選択されます。病型診断には生後12〜24時間以降の倒立位側面X線撮影が用いられ、VACTERL連合をはじめとする合併奇形の検索も欠かせません。「瘻孔の出口から高さを推定し、治療の順序を決める」という考え方は、小児外科の先天奇形全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・在胎39週、2,850gで出生した正期産の男児で、Apgarスコアは1分8点、5分10点と出生時の状態は良好である。 ・会陰部の写真では、本来肛門があるべき位置に開口部が認められない。 ・尿中に胎便が混じっている(胎便尿)。
診断へのプロセス
肛門開口部がないことから、直腸肛門奇形(鎖肛)と診断できる。鎖肛の治療方針は、直腸盲端の高さと瘻孔(直腸と周囲臓器・皮膚をつなぐ異常な通路)の有無・部位で決まるため、病型診断が重要である。 本例では尿に胎便が混じっていることから、直腸と尿路(男児では尿道あるいは膀胱)との間に瘻孔が存在すると判断できる。直腸尿道瘻・直腸膀胱瘻は、直腸盲端が肛門挙筋より上方あるいはその付近で終わる中間位〜高位型の鎖肛にみられる所見である。一方、会陰部の皮膚に瘻孔が開く低位型(会陰皮膚瘻)では胎便が会陰部に出てくるため、尿中に胎便が出ることはない。
設問の考え方
中間位・高位型の鎖肛では、新生児期に一期的に肛門を形成するのは困難であり、まず人工肛門(結腸瘻)を造設して腸閉塞を回避し、便による尿路感染を防ぐ。その後、体が成長して解剖が把握しやすくなった乳児期(生後数か月)に根治手術(肛門形成術)を行い、最後に人工肛門を閉鎖するという段階的手術が標準である。したがって、まず行うべき治療は人工肛門造設である。
選択肢考察
- ×a. 会陰切開
会陰切開は、分娩の際に母体の会陰裂傷を防ぎ胎児の娩出を助ける目的で、母体の会陰に切開を加える産科的処置である。新生児の鎖肛の治療とは無関係である。
- ×b. 尿道ブジー
尿道ブジーは、尿道狭窄に対して金属製の拡張器やカテーテルを挿入して尿道を広げる処置である。本例は尿が出ており尿道狭窄を示す所見はないため、適応がない。
- ×c. 膀胱瘻造設
膀胱瘻造設は、尿道からの排尿ができない場合に下腹部から直接膀胱へ管を留置して尿を体外へ誘導する尿路変更術である。本例では排尿は保たれており、問題は便の出口がないことにあるので、膀胱瘻を作っても腸閉塞は解決しない。
- ○d. 人工肛門造設
胎便尿から直腸と尿路の間に瘻孔がある中間位〜高位型鎖肛と判断される。この病型では新生児期に一期的な肛門形成を行わず、まず結腸に人工肛門を造設する。これにより、腸閉塞を解除し、便が瘻孔を通って尿路へ流れ込むことによる尿路感染を防ぐ。その後、生後数か月で後方矢状切開直腸肛門形成術(PSARP)などの根治手術を行い、最後に人工肛門を閉鎖する。
- ×e. 一期的根治手術
新生児期の一期的な肛門形成術(肛門の切開・移動術など)は、瘻孔が会陰部に開口する低位型鎖肛で選択される治療である。中間位・高位型では、直腸盲端が高い位置にあり、尿路との瘻孔の処理や排便に必要な括約筋群の中心へ直腸を正確に通すことが必要で、手術侵襲が大きい。そのため新生児期の一期的根治手術は行わず、人工肛門造設を先行させる。
鎖肛(直腸肛門奇形)の概要
・出生約5,000人に1人の頻度で、男児にやや多い。 ・直腸盲端の位置により、肛門挙筋(恥骨直腸筋)より上で終わる高位型、その付近の中間位型、下まで達している低位型に分類される。国際的には瘻孔の部位によるKrickenbeck分類(会陰皮膚瘻、直腸尿道瘻、直腸膀胱瘻、前庭瘻、総排泄腔遺残など)も用いられる。 ・男児では高位・中間位型が多く、直腸尿道瘻を伴いやすい。女児では低位型や前庭瘻が多い。
病型診断
・会陰部の観察:会陰部の皮膚瘻や、陰嚢縫線上に胎便を含んだ白い索状物がみられれば低位型を示唆する。 ・胎便尿や尿道からの排ガス:直腸尿道瘻・直腸膀胱瘻の存在を示し、中間位〜高位型を示唆する。 ・倒立位側面X線撮影(invertogram):生後12〜24時間以上経過し腸管内のガスが直腸盲端まで到達してから、患児を逆さにして側面像を撮り、直腸盲端のガス像とPC線(恥骨と尾骨を結ぶ線)などの位置関係から病型を判定する。腹臥位で臀部を挙上した側面撮影(cross-table lateral)でも代用できる。 ・会陰部超音波検査で皮膚から直腸盲端までの距離を測定する方法もある。
治療
・低位型:新生児期に肛門形成術(肛門切開術、会陰式肛門形成術)を行う。 ・中間位・高位型:新生児期に人工肛門造設 → 乳児期に根治手術(PSARPや腹腔鏡補助下肛門形成術)→ 人工肛門閉鎖、の段階的治療。
合併奇形
鎖肛は他の奇形を伴うことが多く、VACTERL連合(Vertebral:脊椎、Anal:鎖肛、Cardiac:心奇形、TracheoEsophageal:気管食道瘻・食道閉鎖、Renal:腎奇形、Limb:四肢奇形)の検索が必要である。特に高位型では腎尿路奇形や仙骨の形成異常を合併しやすく、これらは術後の排便・排尿機能に影響する。
POINT
・肛門開口部がない新生児 → 鎖肛。治療方針は病型(直腸盲端の高さ・瘻孔の部位)で決まる。 ・胎便尿(尿中の胎便)・尿道からの排ガス → 直腸尿路瘻 → 中間位〜高位型。 ・中間位・高位型 → まず人工肛門造設 → 乳児期に根治手術(PSARPなど)→ 人工肛門閉鎖。 ・低位型(会陰皮膚瘻) → 新生児期に肛門形成術。 ・病型診断には倒立位側面X線撮影(生後12〜24時間以降)。 ・VACTERL連合など合併奇形の検索を忘れない。
