鼻を埋め尽くすポリープと鎮痛薬喘息―好酸球性副鼻腔炎に「切る」治療を選ぶ理由
第108回医師国家試験 A問題 第24問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。鼻閉を主訴に来院した。20年前から両側の鼻閉があり,風邪をひくと悪化した。鎮痛薬で気管支喘息を起こしたことがあった。左鼻腔の内視鏡像(A)を別に示す。右鼻腔も同様の所見である。副鼻腔単純CTの水平断像(B)と冠状断像(C)を別に示す。 治療として最も適切なのはどれか。

- a.抗菌薬投与
- b.抗真菌薬投与
- c.拡大上顎全摘出術
- d.鼻内レーザー手術
- e.内視鏡下鼻副鼻腔手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人の両側性多発鼻茸、篩骨洞優位の副鼻腔陰影、NSAIDs過敏喘息の合併がそろえば、好酸球性副鼻腔炎を考えます。好中球性の従来型慢性副鼻腔炎と異なりマクロライド少量長期療法は効きにくく、鼻腔を閉塞する高度の鼻茸と広範な副鼻腔病変には内視鏡下鼻副鼻腔手術で鼻茸を切除し副鼻腔を開放するのが適切です。抗真菌薬は片側性で石灰化様陰影を伴う副鼻腔真菌症、鼻内レーザー手術はアレルギー性鼻炎、上顎全摘出術は悪性腫瘍が対象であり、適応を区別しておく必要があります。好酸球性副鼻腔炎は再発しやすいため、術後もステロイド点鼻や鼻洗浄を継続し、難治例では生物学的製剤を考慮します。副鼻腔炎のタイプを見極めて治療を選ぶ考え方と、NSAIDsの使用に注意する視点は、耳鼻咽喉科に限らず日常診療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・48歳女性、20年来の両側性の鼻閉。かぜ(上気道感染)を契機に悪化する。 ・鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)で気管支喘息発作を起こした既往がある。 ・鼻内視鏡像(A):鼻腔内に表面平滑で半透明〜灰白色のポリープ状腫瘤(鼻茸)が充満し、鼻腔を閉塞している。右側も同様で、両側性である。 ・副鼻腔CT(B:水平断、C:冠状断):両側の上顎洞・篩骨洞に軟部組織濃度の陰影が充満している。骨破壊像は認めない。
診断へのプロセス
長期にわたる両側性の鼻閉と、CTでの両側副鼻腔の陰影から慢性副鼻腔炎と判断できる。さらに、両側性の多発鼻茸、篩骨洞優位の陰影、そしてNSAIDsで喘息が誘発された既往(アスピリン喘息、NSAIDs過敏喘息)という組み合わせは、好酸球性副鼻腔炎の典型像である。好酸球性副鼻腔炎は成人発症の気管支喘息、特にNSAIDs過敏喘息を高率に合併し、鼻茸が再発しやすい難治性の慢性副鼻腔炎である。 鑑別として、片側性であれば副鼻腔真菌症(真菌塊による石灰化様高吸収域)、乳頭腫、悪性腫瘍(骨破壊を伴う)を考えるが、本例は両側性で骨破壊がなく、これらは考えにくい。
設問の考え方
本例は鼻茸が鼻腔を埋め尽くし、上顎洞・篩骨洞にも広範な病変が及んでいる高度例である。薬物療法だけでは鼻腔の通気と副鼻腔の排泄路を回復することは難しく、鼻茸を切除して各副鼻腔を開放し、換気と排泄を改善する内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)が最も適切である。好酸球性副鼻腔炎は術後再発が多いため、手術後もステロイド点鼻薬・鼻洗浄などの局所治療を継続し、必要に応じてステロイドの短期内服や生物学的製剤を用いる。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬投与
細菌感染が主体の急性副鼻腔炎には抗菌薬が用いられ、好中球優位の慢性副鼻腔炎ではマクロライド系抗菌薬の少量長期投与(14員環マクロライドを通常量の半量程度で数か月)が有効である。しかしマクロライド少量長期療法の効果は主に好中球性炎症の抑制によるもので、好酸球性炎症が主体の好酸球性副鼻腔炎ではほとんど効果がない。また本例のような高度の鼻茸を薬物で消失させることはできない。
- ×b. 抗真菌薬投与
副鼻腔真菌症(アスペルギルスなど)は多くが片側性で、CTで真菌塊を示す点状・斑状の高吸収域(石灰化様陰影)を伴う。非浸潤型であっても治療の基本は手術による真菌塊の除去であり、抗真菌薬の全身投与が必要となるのは浸潤型に限られる。本例は両側性で好酸球性副鼻腔炎の像であり、真菌感染を示す根拠はないため、抗真菌薬の適応はない。
- ×c. 拡大上顎全摘出術
上顎全摘出術は上顎洞癌などの悪性腫瘍に対して行う手術で、拡大術式では眼窩内容や頬部の軟部組織なども合併切除する。顔面の変形や機能障害を伴う侵襲の大きな手術である。本例は良性の炎症性疾患で、CTでも骨破壊などの悪性を疑う所見はなく、適応とならない。
- ×d. 鼻内レーザー手術
鼻内レーザー手術は、主にアレルギー性鼻炎の鼻閉に対して下鼻甲介粘膜をレーザーで焼灼・変性させ、粘膜の腫脹を抑える治療である。外来で行える低侵襲な手術だが、効果は下鼻甲介の粘膜に限られ、副鼻腔に広がる病変や多発する鼻茸を処理することはできない。本例の治療としては不十分である。
- ○e. 内視鏡下鼻副鼻腔手術
内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS:endoscopic sinus surgery)は、鼻内から内視鏡を用いて鼻茸を切除し、篩骨洞・上顎洞・前頭洞・蝶形骨洞の隔壁を除去して副鼻腔を単洞化・開放し、換気と排泄路を確保する手術である。顔面に切開を加えず、正常粘膜をできるだけ温存できる。本例は両側の鼻腔が鼻茸で閉塞し、上顎洞・篩骨洞に広範な病変があるため、手術による病変除去と副鼻腔の開放が最も適切である。好酸球性副鼻腔炎は再発しやすいので、術後の局所ステロイドや鼻洗浄による継続管理を組み合わせる。
慢性副鼻腔炎の2つのタイプ
・非好酸球性副鼻腔炎(従来型):好中球が主体の炎症。上顎洞優位の陰影。膿性鼻漏が多い。マクロライド少量長期療法が有効。手術後の経過も比較的良好。 ・好酸球性副鼻腔炎:好酸球が主体の炎症。成人発症、両側性の多発鼻茸、篩骨洞優位の陰影、早期からの嗅覚障害、粘稠なにかわ状の鼻汁を特徴とする。気管支喘息(特にNSAIDs過敏喘息)の合併が多い。マクロライドは効きにくく、ステロイドが有効だが、手術後も再発しやすい。指定難病に含まれる。
好酸球性副鼻腔炎の診断基準(JESREC スコア)
・病側:両側 3点 ・鼻茸あり 2点 ・CTで篩骨洞陰影が上顎洞陰影以上 2点 ・末梢血好酸球:2%超5%以下 4点、5%超10%以下 8点、10%超 10点 合計11点以上で好酸球性副鼻腔炎を疑い、鼻茸組織中の好酸球数(400倍視野で70個以上)で確定する。
NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)
アスピリンなどのシクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害作用をもつNSAIDsの服用で喘息発作や鼻症状が誘発される病態で、アラキドン酸代謝がロイコトリエン産生側に傾くことが原因と考えられている。成人発症喘息に多く、好酸球性副鼻腔炎と鼻茸を高率に伴う。喘息・鼻茸・NSAIDs過敏の3つがそろう病態はaspirin-exacerbated respiratory disease(AERD)とも呼ばれる。本疾患の患者には、COX-2選択性の高い薬剤やアセトアミノフェン(少量)など比較的安全な鎮痛薬を選ぶ。
好酸球性副鼻腔炎の治療
・手術:内視鏡下鼻副鼻腔手術で鼻茸を除去し、副鼻腔を広く開放する。 ・術後管理:ステロイド点鼻、鼻洗浄の継続。増悪時はステロイドの短期内服。 ・生物学的製剤:既存治療で制御困難な鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎には、抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)などが用いられる。 ・合併する喘息のコントロールも重要で、副鼻腔炎の治療により喘息症状が改善することも多い。
鼻・副鼻腔の主な手術と対象疾患
・内視鏡下鼻副鼻腔手術:慢性副鼻腔炎、鼻茸、副鼻腔真菌症、術後性上顎嚢胞など ・下鼻甲介レーザー焼灼術、下鼻甲介粘膜切除術:アレルギー性鼻炎の鼻閉 ・鼻中隔矯正術:鼻中隔弯曲症 ・上顎部分切除・上顎全摘出術:上顎洞癌などの悪性腫瘍
POINT
・両側性の多発鼻茸+篩骨洞優位の陰影+成人発症喘息(NSAIDs過敏)→ 好酸球性副鼻腔炎。 ・好酸球性副鼻腔炎はマクロライド少量長期療法が効きにくく、ステロイドが有効だが再発しやすい。 ・鼻腔を閉塞する高度の鼻茸と広範な副鼻腔病変には内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)を行う。 ・術後もステロイド点鼻・鼻洗浄を継続し、難治例では生物学的製剤(デュピルマブなど)を考慮する。 ・鼻内レーザー手術はアレルギー性鼻炎、上顎全摘出術は悪性腫瘍が対象。
