「糸球体が主役か」で見抜く―ネフローゼ症候群をきたす腎疾患の見分け方
第108回医師国家試験 A問題 第17問
国試問題にチャレンジ
ネフローゼ症候群をきたしやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.アミロイド腎症
- b.腎硬化症
- c.多発性嚢胞腎
- d.膜性腎症
- e.慢性腎盂腎炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ネフローゼ症候群は糸球体の濾過障壁(内皮・基底膜・足細胞)が障害されて大量の蛋白が漏れる病態で、成人では1日3.5g以上の蛋白尿と血清アルブミン3.0g/dL以下が必須条件です。膜性腎症は基底膜上皮下への免疫複合体沈着とspike形成を示し、中高年の一次性ネフローゼの重要な原因で、二次性として悪性腫瘍などの検索が必要です。アミロイド腎症は糸球体へのアミロイド沈着により二次性ネフローゼをきたし、Congo red染色とapple-green複屈折で診断されます。一方、腎硬化症(血管)、多発性嚢胞腎(嚢胞)、慢性腎盂腎炎(尿細管・間質)は病変の主座が糸球体でないため蛋白尿は軽度にとどまります。「病変の主座はどこか」という視点は、腎疾患の尿所見を予測し、感染症や血栓症などの合併症管理につなげる基本となります。
解答・解説
正解はa, dです
ネフローゼ症候群は、糸球体の濾過障壁(毛細血管内皮・糸球体基底膜・足細胞〈ポドサイト〉)が傷害され、大量の蛋白が尿中に漏れ出ることで低蛋白血症(低アルブミン血症)と浮腫をきたす病態である。成人の診断基準(日本)では、①1日3.5g以上の蛋白尿が持続し、②血清アルブミン値3.0g/dL以下(血清総蛋白6.0g/dL以下も参考)の2つが必須条件であり、③浮腫と④脂質異常症(高LDLコレステロール血症)は必須ではない。 したがって、ネフローゼ症候群をきたしやすい疾患とは、糸球体の濾過障壁そのものを強く障害する疾患である。 ・一次性(原発性)糸球体疾患:微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症、膜性増殖性糸球体腎炎 ・二次性疾患:糖尿病性腎症、ループス腎炎、アミロイド腎症など 一方、腎血管の病変(腎硬化症)や、尿細管・間質や嚢胞の病変が主体の疾患(多発性嚢胞腎、慢性腎盂腎炎)では、糸球体の濾過障壁が直接障害されることは少なく、蛋白尿は軽度にとどまる。このように「病変の主座が糸球体かどうか」で選択肢を分けると判断しやすい。
選択肢考察
- ○a. アミロイド腎症
正しい。アミロイド腎症は、異常な線維状蛋白であるアミロイドが腎臓、特に糸球体のメサンギウム領域や基底膜に沈着する病態である。濾過障壁が壊されるため大量の蛋白尿が出て、ネフローゼ症候群をきたしやすい。多発性骨髄腫などに伴う免疫グロブリン軽鎖由来のALアミロイドーシスや、関節リウマチなどの慢性炎症に伴う血清アミロイドA蛋白由来のAAアミロイドーシスが原因となる。腎生検では、Congo red染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下で緑色の複屈折(apple-green birefringence)を示す沈着物が確認される。二次性ネフローゼ症候群の重要な原因疾患である。
- ×b. 腎硬化症
誤り。腎硬化症は長期の高血圧や加齢によって腎内の小葉間動脈から輸入細動脈に動脈硬化が生じ、腎血流が低下して糸球体の虚血性硬化や尿細管萎縮が進む疾患である(良性腎硬化症)。尿所見は乏しいことが特徴で、蛋白尿があっても軽度にとどまり、通常ネフローゼ症候群はきたさない。高齢化に伴い、透析導入の原因疾患として増加している。
- ×c. 多発性嚢胞腎
誤り。常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎(ADPKD)は、PKD1またはPKD2遺伝子の変異により両側の腎に多数の嚢胞ができて腎臓が腫大し、徐々に腎機能が低下する疾患である。高血圧で見つかることが多く、嚢胞内出血による肉眼的血尿や腰背部痛、嚢胞感染による発熱・膿尿などを示す。病変の主体は糸球体ではなく尿細管由来の嚢胞であるため、蛋白尿は軽度であり、ネフローゼ症候群はきたさない。脳動脈瘤や肝嚢胞の合併にも注意が必要である。
- ○d. 膜性腎症
正しい。膜性腎症は、糸球体基底膜の上皮側(足細胞側)に免疫複合体が沈着し、基底膜がびまん性に肥厚する疾患である。中高年の成人に多く、一次性ネフローゼ症候群の原因として頻度が高い。一次性では足細胞表面のホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体が主な原因とされる。二次性としては、悪性腫瘍、B型肝炎などの感染症、全身性エリテマトーデス、薬剤(ブシラミン、金製剤など)が原因となる。光学顕微鏡では基底膜の肥厚がみられ、PAM染色でspike(スパイク)形成、蛍光抗体法でIgGの係蹄壁に沿った顆粒状沈着が認められる。血栓症(特に腎静脈血栓症)を合併しやすい点も重要である。
- ×e. 慢性腎盂腎炎
誤り。慢性腎盂腎炎は、膀胱尿管逆流や尿路の閉塞などを背景に細菌感染をくり返すことで、腎盂・腎杯と尿細管・間質に慢性炎症と瘢痕が生じる疾患である。尿細管機能が障害されるため、尿の濃縮力低下(多尿・夜間尿)がみられ、急性増悪時には膿尿や細菌尿を認める。蛋白尿は尿細管性で軽度にとどまり、ネフローゼ症候群はきたさない。
ネフローゼ症候群の診断基準(成人)
①蛋白尿:3.5g/日以上が持続する(随時尿の尿蛋白/クレアチニン比3.5g/gCr以上も準じる) ②低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dL以下(血清総蛋白6.0g/dL以下も参考) ③浮腫 ④脂質異常症(高LDLコレステロール血症) ①②は必須条件、③④は必須ではない。
一次性ネフローゼ症候群の主な原因疾患と特徴
・微小変化型ネフローゼ症候群:小児に最も多く、若年成人にもみられる。急激に発症し、選択性の高い蛋白尿を示す。光顕では異常に乏しく、電顕で足突起の消失がみられる。ステロイドがよく効くが再発しやすい。 ・膜性腎症:中高年に多い。緩やかに発症する。基底膜上皮下の免疫複合体沈着、spike形成。悪性腫瘍などの二次性の原因を検索する。 ・巣状分節性糸球体硬化症:一部の糸球体の一部分が硬化する。ステロイド抵抗性のことが多く、末期腎不全に進行しやすい。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:低補体血症を伴うことが多く、基底膜の二重化(double contour)がみられる。ネフローゼ症候群と腎炎症候群の所見をあわせもつことがある。
二次性ネフローゼ症候群の主な原因
糖尿病性腎症、ループス腎炎、アミロイド腎症、IgA血管炎、感染症(B型・C型肝炎など)、悪性腫瘍、薬剤など。
ネフローゼ症候群の主な合併症
感染症(免疫グロブリンの喪失)、血栓症(凝固因子の変化と血液濃縮)、脂質異常症、急性腎障害など。
POINT
・ネフローゼ症候群は糸球体の濾過障壁が障害される疾患で起こる。必須条件は蛋白尿3.5g/日以上と血清アルブミン3.0g/dL以下。 ・一次性:微小変化型、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症、膜性増殖性糸球体腎炎。 ・二次性:糖尿病性腎症、ループス腎炎、アミロイド腎症が重要。 ・腎硬化症、多発性嚢胞腎、慢性腎盂腎炎は糸球体以外が病変の主体で、蛋白尿は軽度にとどまる。
