「大きい」か「小さい」か―頭囲の向きで見抜く先天性風疹症候群
第108回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
先天性風疹症候群でみられないのはどれか。
- a.大頭症
- b.白内障
- c.感音難聴
- d.胎児発育不全
- e.動脈管開存症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
先天性風疹症候群は、風疹に免疫のない妊婦が妊娠初期に初感染し、ウイルスが経胎盤的に胎児へ感染して生じる先天異常で、三大症状は先天性心疾患(動脈管開存症が代表)、感音難聴、白内障です。ほかにも胎児発育不全、小頭症、網膜症、小眼球、精神運動発達遅滞、肝脾腫、血小板減少などがみられますが、頭囲は小さくなるのが特徴で、大頭症は該当しません。TORCH症候群では、小頭症の風疹・サイトメガロウイルスに対し、トキソプラズマは水頭症で大頭をきたしうると対比して覚えると整理しやすくなります。風疹ワクチンは生ワクチンで妊娠中は接種できないため、妊娠前の接種や成人男性を含めた抗体検査が予防の基本です。所見の有無だけでなく「向き」まで正確に押さえることは、先天感染の鑑別と妊婦への適切な指導につながります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)は、風疹に対する免疫をもたない妊婦が妊娠中(特に妊娠初期)に初めて風疹ウイルスに感染し、ウイルスが胎盤を通って胎児に感染することで生じる先天異常の総称である。本問は「みられないもの」を一つ選ぶ否定型の問題である。
考え方
風疹ウイルスは胎児の細胞分裂を抑え、血管内皮などを傷害するため、器官形成期(妊娠初期)に感染すると多くの臓器に形成異常が生じ、全身の発育も妨げられる。CRSの三大症状は「先天性心疾患(動脈管開存症が代表)」「感音難聴」「白内障」であり、これに加えて胎児発育不全(低出生体重)、網膜症、小眼球、小頭症、精神運動発達遅滞、肝脾腫、血小板減少性紫斑などがみられる。 頭囲に関しては、脳の発育が障害されるため「小頭症」となるのが特徴であり、「大頭症」はCRSの所見ではない。選択肢の中で頭の大きさの向きが逆になっている大頭症を見抜けるかがポイントである。
選択肢考察
- ○a. 大頭症
CRSでみられないものであり、これが正解である。風疹ウイルスの胎内感染では脳の細胞増殖が障害されるため、頭囲はむしろ小さくなり小頭症を呈することがある。大頭症は水頭症や、先天性代謝異常(ライソゾーム病の一部など)、軟骨無形成症、家族性大頭症などでみられる所見であり、CRSには当てはまらない。
- ×b. 白内障
CRSの三大症状の一つであり、みられる。水晶体の形成期にウイルスが感染して水晶体線維の発達が妨げられるために起こり、両側性のことが多い。出生後も水晶体内にウイルスが長く残ることがある。ほかに眼症状として緑内障、網膜症(色素沈着を伴う、いわゆる塩・胡椒様眼底)、小眼球がみられる。
- ×c. 感音難聴
CRSの三大症状の一つであり、みられる。内耳(蝸牛)の障害による感音難聴で、CRSで最も頻度の高い症状とされる。妊娠20週ころまでの感染でも起こりうるため、心疾患や白内障を伴わず難聴のみを呈する例もある。出生時に気づかれず後から判明することもあるため、聴力の経過観察が重要である。
- ×d. 胎児発育不全
CRSでみられる。ウイルスが胎児の細胞分裂を抑制し、胎盤の血管も傷害することで、胎内での発育が全体的に遅れ、低出生体重児として生まれることが多い。胎児発育不全は風疹に限らず、サイトメガロウイルスやトキソプラズマなど他の先天感染でも共通してみられる所見である。
- ×e. 動脈管開存症
CRSでみられる。先天性心疾患はCRSの三大症状の一つで、そのなかでも動脈管開存症が最も代表的である。ほかに肺動脈弁狭窄・末梢性肺動脈狭窄、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症などを伴うことがある。心奇形は器官形成期である妊娠初期の感染で生じやすい。
先天性風疹症候群の概要
・原因:風疹に免疫のない妊婦の初感染による風疹ウイルスの経胎盤感染。妊婦自身が不顕性感染でも胎児感染は起こりうる。 ・感染時期と発生頻度:妊娠週数が早いほど発生率が高く、症状も重い。妊娠12週までの感染で最も多く、20週を過ぎるとまれになる。心疾患や白内障は妊娠初期(おおむね妊娠3か月以内)の感染で生じやすく、難聴はそれ以降の感染でも生じうる。 ・三大症状:先天性心疾患(動脈管開存症など)、感音難聴、白内障。 ・その他の症状:胎児発育不全・低出生体重、小頭症、精神運動発達遅滞、網膜症、緑内障、小眼球、肝脾腫、黄疸、血小板減少性紫斑(ブルーベリーマフィン様の皮疹)、骨の透亮像など。糖尿病など晩発性の障害が後年に出ることもある。 ・診断:新生児の血清で風疹特異的IgM抗体の検出、咽頭ぬぐい液・尿などからのウイルス遺伝子(PCR)の検出など。IgMは胎盤を通過しないため、新生児でIgMが陽性なら胎内感染を示す。 ・感染管理:CRS児は出生後も長期間(数か月〜1年程度)咽頭や尿からウイルスを排出するため、周囲への感染源となりうる。 ・届出:CRSは感染症法の5類感染症(全数把握)で、診断後7日以内に届け出る。
予防
・妊娠中は生ワクチンである風疹ワクチン(MRワクチン)を接種できない。そのため妊娠前にワクチン接種で免疫を獲得しておくことが最も重要であり、接種後は約2か月間の避妊が推奨される。 ・妊婦健診で風疹HI抗体価を測定し、抗体価が低い妊婦には人混みを避けるなどの注意を促し、出産後早期にワクチン接種を勧める。 ・日本ではかつて中学生女子のみに風疹ワクチンを接種していた時期があり、成人男性に免疫のない人が多い。2012〜2013年の風疹流行に伴いCRSの報告が急増した(2013年は30例を超えた)ことから、成人男性を含めた抗体検査・予防接種の推進が図られている。
他の先天感染との比較(TORCH症候群)
・トキソプラズマ:水頭症、脳内石灰化、網脈絡膜炎 ・サイトメガロウイルス:小頭症、脳室周囲石灰化、感音難聴、肝脾腫、血小板減少 ・風疹:心疾患(動脈管開存症)、感音難聴、白内障 ・単純ヘルペスウイルス:皮膚の水疱、脳炎、全身感染 トキソプラズマ症は大頭(水頭症)をきたしうる点で、小頭症となる風疹・サイトメガロウイルスと対比して覚えるとよい。
POINT
・先天性風疹症候群の三大症状は先天性心疾患(動脈管開存症)、感音難聴、白内障である。 ・そのほか胎児発育不全、小頭症、網膜症、小眼球、精神運動発達遅滞、肝脾腫、血小板減少などがみられる。 ・頭囲は小頭症であり、大頭症ではない(大頭〈水頭症〉はトキソプラズマ症で考える)。 ・妊娠12週までの初感染で発生が多く、20週以降はまれ。 ・風疹ワクチンは生ワクチンで妊娠中は禁忌。妊娠前の接種が予防の基本である。
