StudyMed医師国家試験

「陽性」はまだ「感染」ではない―妊婦のHIVスクリーニング陽性に最初にかける言葉

第120回医師国家試験 A問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第25問

25歳の経産婦(2妊1産)。月経が遅れていることを主訴に来院した。妊娠反応陽性で,妊娠8週と診断した。妊婦健診でHIV抗原・抗体同時スクリーニング検査が陽性であった。2年前に第1子を出産している。  この時点で行う患者への説明で適切なのはどれか。

  1. a.「HIVの確認検査を行いましょう」
  2. b.「妊娠中はHIVの治療は行いません」
  3. c.「今回は中絶することをお勧めします」
  4. d.「第1子のHIV検査をさせてください」
  5. e.「パートナーのHIV検査をさせてください」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊婦健診でHIVのスクリーニング検査が陽性になったとき、この時点で患者さんに何を伝えるべきかという問題だ。着眼点は「スクリーニング検査の陽性が何を意味するか」の一点に尽きる。まず、HIVのスクリーニングに使われる抗原・抗体同時検査がどんな検査か覚えているかな。
医学生医学生
HIVの抗体とp24抗原を同時に測る第4世代の検査ですよね。感染症の講義で、ウインドウ期を短くできると習いました。
ドクタードクター
その通り。そしてスクリーニング検査は見逃しを減らすために感度をきわめて高く設定している。その代わり、一定の割合で偽陽性が出る。妊娠そのものも偽陽性の要因になりうるんだ。
医学生医学生
でも特異度もかなり高いと聞いた気がします。陽性なら高い確率で感染しているのでは?
ドクタードクター
そこが多くの人がつまずくところだね。陽性的中率、つまり陽性者のうち本当に感染している人の割合は、検査の性能だけでなく対象集団の有病率に大きく左右される。日本の妊婦のようにHIV感染者がごく少ない集団では、特異度が高くても偽陽性の数が真の陽性を上回ってしまうんだ。
医学生医学生
公衆衛生の授業で2×2表を書いて計算したのを思い出しました。有病率が低いと陽性的中率がぐっと下がるんでしたね。
ドクタードクター
まさにそれが臨床で生きる場面だ。だからスクリーニング陽性の段階では「判定保留」と考え、感染と診断してはいけない。この時点での適切な説明は「HIVの確認検査を行いましょう」になる。
医学生医学生
確認検査は、ウエスタンブロット法ですか。
ドクタードクター
以前はそうだったけれど、現在の国内の診断ガイドラインでは、イムノクロマト法によるHIV-1/2抗体確認検査と、HIV-1 RNAを測る核酸増幅検査を組み合わせて判定する。感染初期で抗体がまだ陽性化していない時期には、核酸増幅検査だけが陽性になることもあるから、両方行う意味があるんだ。
医学生医学生
では「妊娠中はHIVの治療は行いません」という説明はどうでしょう。胎児への薬の影響を心配する気持ちもわかる気がしますが。
ドクタードクター
これは誤りだ。そもそも感染が確定していないし、確定したなら妊娠中こそ抗レトロウイルス療法、いわゆるARTをできるだけ早く始める。母体のウイルス量を検出限界未満に抑えることが母子感染予防の最大の柱だからね。
医学生医学生
中絶を勧めるのも、感染が確定していない以上は論外ですね。
ドクタードクター
そう。仮に感染が確定しても、妊娠中のART、陣痛発来前の選択的帝王切開、分娩時のジドブジン点滴、新生児への予防投与、人工栄養を組み合わせれば、母子感染率は1%未満まで下げられる。HIV感染は中絶を勧める理由にはならず、妊娠継続は本人の意思で決めることだ。
医学生医学生
第1子やパートナーの検査は、いずれ必要になりそうですが……。
ドクタードクター
いい感覚だけれど、順序が大事なんだ。本人の感染が確定していない段階で家族の検査を持ち出すと、不要な不安や関係の悪化を招きかねない。感染が確定してから、本人の同意と意向を確かめたうえで、第1子への母子感染の可能性やパートナーの検査を検討する。前回妊娠時のスクリーニング結果も参考になるね。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、検査結果の説明のときに指導医の先生がすごく言葉を選んでいたのを思い出しました。
ドクタードクター
HIVはとくに告知の影響が大きいからね。スクリーニング陽性を伝えるときは「感染が確定したわけではなく、偽陽性のことも多い」と添えて、過度な不安を与えないよう配慮することが大切だ。あわせて、妊婦健診の初期検査ではHIVのほか梅毒、B型・C型肝炎、風疹抗体、HTLV-1抗体なども調べることを整理しておこう。
医学生医学生
スクリーニングで拾って確認検査で確定、確定してから治療や家族の話へ、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。検査の位置づけを正しく理解して、説明の順序を間違えないこと。これは産科に限らず、あらゆるスクリーニング検査に通じる基本姿勢だよ。

まとめ

HIV抗原・抗体同時検査は感度を重視したスクリーニング検査であり、有病率がきわめて低い妊婦集団では陽性的中率が低く、陽性者の多くは偽陽性です。そのためスクリーニング陽性の段階では判定保留とし、イムノクロマト法による抗体確認検査とHIV-1核酸増幅検査で感染の有無を確定することが最初の対応となります。感染が確定した場合は妊娠中から速やかにARTを開始し、選択的帝王切開、分娩時・新生児への抗ウイルス薬投与、人工栄養を組み合わせることで母子感染率を1%未満に抑えられるため、中絶を勧める理由にはなりません。第1子やパートナーの検査は本人の感染確定後に、同意を得て進めます。検査の性質と有病率の関係を理解し、患者の不安に配慮した順序で説明することは、あらゆるスクリーニング陽性者への対応の基本です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・25歳、2妊1産の経産婦。妊娠8週と診断され、妊婦健診の初期検査としてHIV抗原・抗体同時スクリーニング検査を受け、陽性となった。 ・2年前に第1子を出産しており、そのときも妊婦健診でHIVスクリーニングを受けている可能性が高い。

考え方

HIV抗原・抗体同時検査(第4世代検査)は、HIV-1/2に対する抗体とHIV-1のp24抗原を同時に測定するスクリーニング検査である。感度をきわめて高く設定しているため、見逃しは少ない反面、一定の割合で偽陽性が生じる。妊娠そのものも偽陽性の要因となりうる。わが国の妊婦のようにHIV感染者の割合(有病率)が非常に低い集団では、検査陽性者のうち本当に感染している人の割合(陽性的中率)は低く、スクリーニング陽性者の大半は偽陽性である。 したがって、スクリーニング陽性の段階ではHIV感染と診断してはならない。本人には「感染が確定したわけではなく、偽陽性のことも多い」ことを伝えて過度な不安を与えないよう配慮しつつ、確認検査を行うことが最初になすべき対応である。治療方針、妊娠継続、家族やパートナーの検査などの話は、確認検査で感染が確定してから進める。

確認検査

現在のわが国の診断ガイドラインでは、スクリーニング陽性例に対し、イムノクロマト法によるHIV-1/2抗体確認検査と、HIV-1 RNAを測定する核酸増幅検査(nucleic acid amplification test:NAAT、RT-PCR法など)を行って判定する。かつて確認検査に用いられたウエスタンブロット法は、現在はイムノクロマト法に置き換えられている。

選択肢考察

  1. ○a.  「HIVの確認検査を行いましょう」

    スクリーニング検査は陽性でも偽陽性の可能性が高く、それだけでは感染と診断できない。まず確認検査(イムノクロマト法による抗体確認検査とHIV-1核酸増幅検査)を行って感染の有無を確定することが、この時点で最も適切な説明である。偽陽性もありうることを併せて伝え、不必要な不安を与えない配慮も必要である。

  2. ×b.  「妊娠中はHIVの治療は行いません」

    HIV感染が確定した妊婦には、母体の治療と母子感染予防の両方の目的で、できるだけ早期に抗レトロウイルス療法(antiretroviral therapy:ART、多剤併用療法)を開始し、分娩まで継続する。妊娠中に血中ウイルス量を検出限界未満に抑えることが母子感染予防の最も重要な柱である。また、現時点では感染自体が確定していない。

  3. ×c.  「今回は中絶することをお勧めします」

    現時点では感染は確定していない。仮に感染が確定しても、妊娠中のART、分娩方法の選択(わが国では陣痛発来前の選択的帝王切開が一般的)、分娩時の抗ウイルス薬投与、新生児への予防投与、人工栄養(母乳を与えない)を組み合わせることで母子感染率は1%未満に低下させられる。HIV感染は人工妊娠中絶を勧める理由にはならず、妊娠継続の判断は本人の意思による。

  4. ×d.  「第1子のHIV検査をさせてください」

    本人の感染が確定していない段階で子どもの検査を求めるのは順序が逆であり、不要な不安を与える。本人の感染が確定した場合には、感染時期によっては第1子への母子感染(胎内・分娩時・母乳を介した感染)の可能性があるため、そのときに第1子の検査を検討する。前回妊娠時の検査結果も参考になる。

  5. ×e.  「パートナーのHIV検査をさせてください」

    パートナーの検査も、本人の感染が確定してから本人の同意と意向を確認したうえで勧めるものである。偽陽性の可能性が高い段階で行えば、不要な不安や関係の悪化を招きかねない。感染が確定した場合には、感染源の把握や二次感染防止の観点からパートナーへの検査の勧奨が重要となる。

HIV検査の流れ

・スクリーニング:HIV抗原・抗体同時検査(第4世代、HIV-1/2抗体とp24抗原を検出)。感度は高いが偽陽性がある。 ・確認検査:HIV-1/2抗体確認検査(イムノクロマト法)とHIV-1 RNA定量(核酸増幅検査)。感染初期で抗体がまだ陽性化していない時期(ウインドウ期)には、核酸増幅検査が陽性で抗体確認検査が陰性・判定保留となることがある。 ・スクリーニング陽性の段階では「判定保留」の扱いとし、確定診断の結果を待ってから告知する。

陽性的中率と有病率

検査の陽性的中率は、同じ感度・特異度の検査でも対象集団の有病率に大きく左右される。有病率が非常に低い妊婦健診のような集団では、特異度が高い検査でも偽陽性が真の陽性を上回る。これがスクリーニング陽性後に必ず確認検査を行う理由である。

HIV母子感染と予防

・感染経路:胎内感染、分娩時の産道での感染、母乳を介した感染。 ・無対策では母子感染率は数十%に達するが、以下の対策で1%未満に低下させることができる。  ①妊娠中からのARTによる母体ウイルス量の抑制  ②陣痛発来前の選択的帝王切開(わが国で一般的)  ③分娩時のジドブジン点滴静注  ④新生児へのジドブジン予防投与  ⑤人工栄養(断乳) ・妊婦健診の初期検査ではHIV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎、風疹抗体、HTLV-1抗体などを調べる。HIVは妊娠初期のスクリーニングで早期に把握することが母子感染予防の出発点となる。

POINT

・HIV抗原・抗体同時検査はスクリーニング検査であり、陽性でも偽陽性が多い(特に有病率の低い妊婦集団)。 ・スクリーニング陽性→まず確認検査(イムノクロマト法による抗体確認検査+HIV-1核酸増幅検査)。ウエスタンブロット法は現在用いられない。 ・感染が確定したら妊娠中もARTを早期に開始する。中絶の適応にはならない。 ・家族・パートナーの検査は本人の感染確定後に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。