妊婦健診で見つかった梅毒―RPRとTPHAの読み方と「届出・早期治療・パートナー」の三本柱
第120回医師国家試験 A問題 第68問
国試問題にチャレンジ
36歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠11週1日,妊婦健康診査のために来院した。特記すべき既往歴や薬剤に対するアレルギーはない。妊娠10週の血液検査で,RPR 16倍(基準1倍未満),TPHA 640倍(基準80倍未満)であった。 適切な対応はどれか。2つ選べ。
- a.保健所へ届け出る。
- b.生物学的偽陽性と判断する。
- c.妊娠13週までに治療を開始する。
- d.パートナーの検査は不要と判断する。
- e.クリンダマイシンの点滴静脈注射を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
梅毒血清反応では、脂質抗原法(RPR)は活動性を、トレポネーマ抗原法(TPHA)は感染の有無を反映し、両者がともに陽性なら活動性梅毒と判断します。生物学的偽陽性はRPR陽性・TPHA陰性のパターンで考えるもので、TPHAが明らかに陽性なら偽陽性とはいえません。梅毒は5類感染症の全数把握対象で7日以内に保健所へ届け出が必要で、無症状例ではRPR16倍以上が届出要件です。妊婦の梅毒は先天梅毒を防ぐため診断後できるだけ早くペニシリン系抗菌薬で治療し、Jarisch-Herxheimer反応に注意しつつ、再感染防止のためパートナーの検査・治療も行います。患者が増え続ける今、検査の読み方と届出・治療・パートナー対応をセットで押さえることが、母子を守る実践的な力になります。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・36歳の初妊婦、妊娠11週(妊娠初期)。妊婦健康診査での受診で、自覚症状の記載はない ・既往歴・薬剤アレルギーなし(ペニシリンアレルギーがなく、薬剤選択に制約がない) ・妊娠初期の血液検査で RPR 16倍、TPHA 640倍
検査結果の解釈
梅毒の血清検査には2系統がある。 ・脂質抗原法(STS:serologic test for syphilis。RPR〈rapid plasma reagin〉法など):カルジオリピンという脂質に対する抗体を測る。病勢(活動性)を反映し、治療で低下するため治療効果判定に用いる。一方、梅毒以外(抗リン脂質抗体症候群、全身性エリテマトーデス、妊娠、他の感染症など)でも陽性になることがあり、これを生物学的偽陽性(biological false positive:BFP)と呼ぶ。 ・トレポネーマ抗原法(TPHA〈Treponema pallidum hemagglutination〉法、TPLA 法など):梅毒トレポネーマそのものの抗原に対する抗体を測る。特異性が高いが、治癒後も長く陽性が続くため、活動性の判定には使えない。 本例は RPR・TPHA がともに陽性で、RPR も 16倍と高い。したがって活動性の梅毒(症状がないため潜伏梅毒)と判断し、梅毒合併妊娠として対応する。
対応の考え方
梅毒トレポネーマは胎盤を通過して胎児に感染し、流産・死産・早産・胎児発育不全や先天梅毒の原因となる。妊婦の梅毒を早期に治療すれば母子感染の大部分を防げるため、診断がついたら直ちにペニシリン系抗菌薬で治療を始める。さらに、感染症法上の届出義務、性感染症としてのパートナーの検査・治療をあわせて考える必要がある。
選択肢考察
- ○a. 保健所へ届け出る。
梅毒は感染症法の5類感染症のうち全数把握対象疾患であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る義務がある。症状のない無症候梅毒も届出の対象で、その場合は脂質抗原法(RPR など)で16倍以上の抗体価があることが要件とされている。本例は RPR 16倍で、この要件を満たす。
- ×b. 生物学的偽陽性と判断する。
生物学的偽陽性は、脂質抗原法(RPR)だけが陽性でトレポネーマ抗原法(TPHA)が陰性となるパターンで考える病態である(ただし感染のごく初期にも同じパターンをとりうる)。本例は TPHA が 640倍と明らかに陽性であり、梅毒トレポネーマへの感染が確認されているため、偽陽性とはいえない。
- ○c. 妊娠13週までに治療を開始する。
梅毒トレポネーマの経胎盤感染は妊娠のどの時期にも起こりうるが、治療開始が遅れるほど胎児感染や先天梅毒のリスクが高くなる。妊娠初期のうちに、できるだけ早く治療を始めることが母子感染予防の基本であり、妊娠11週の本例で13週までに治療を開始するという対応は適切である。治療開始直後には菌体の破壊に伴う発熱・発疹などの Jarisch-Herxheimer 反応が起こることがあり、妊娠中期以降では子宮収縮や胎児心拍異常を誘発しうるので注意して観察する。
- ×d. パートナーの検査は不要と判断する。
梅毒は性行為で感染する性感染症であり、無症状であってもパートナーが感染している可能性は高い。パートナーを検査・治療しなければ、妊婦が治療後に再感染(いわゆるピンポン感染)し、胎児への感染リスクが再び生じる。したがってパートナーの検査は必須である。
- ×e. クリンダマイシンの点滴静脈注射を行う。
梅毒治療の第一選択はペニシリン系抗菌薬であり、妊婦でも同様である。早期梅毒にはベンジルペニシリンベンザチンの筋肉注射(単回投与、後期梅毒や感染時期不明例では週1回・計3回)が推奨され、わが国ではアモキシシリンの内服も用いられる。クリンダマイシンは梅毒に対する有効性が確立しておらず、使用しない。なお、ペニシリンアレルギーのある妊婦では、胎児への効果が確実な薬がペニシリン以外にないため、脱感作を行ったうえでペニシリンを用いることが推奨される。
梅毒血清反応の組み合わせと解釈
・RPR(+)/ TPHA(+):現在活動性の梅毒、または治療後で抗体が低下途中 ・RPR(-)/ TPHA(+):過去の感染(治癒後)、あるいは早期治療後 ・RPR(+)/ TPHA(-):生物学的偽陽性、または感染のごく初期(トレポネーマ抗体の出現が遅れるため) ・RPR(-)/ TPHA(-):非感染(ただし感染直後のウインドウ期は除く)
梅毒の病期
・第1期(感染後約3週):初期硬結、硬性下疳、無痛性の鼠径リンパ節腫脹 ・第2期(感染後約3か月):バラ疹、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛など全身症状 ・潜伏梅毒:症状がなく血清反応のみ陽性 ・晩期(第3・4期):ゴム腫、心血管梅毒(大動脈炎など)、神経梅毒(脊髄癆、進行麻痺)
先天梅毒
・早期先天梅毒:水疱性発疹(梅毒性天疱瘡)、鼻閉(スナッフル)、肝脾腫、骨軟骨炎など ・晩期先天梅毒:Hutchinson 三徴(Hutchinson 歯、実質性角膜炎、内耳性難聴)、鞍鼻など
妊婦健診と梅毒
梅毒血清検査は妊娠初期の妊婦健康診査で全例に行う検査の一つである。近年わが国では梅毒の報告数が急増しており、若年女性・妊婦の感染と先天梅毒の増加が問題となっている。治療後は RPR を定期的に測定し、抗体価の低下(おおむね4分の1以下)を確認して治療効果を判定する。
POINT
・RPR(+)かつ TPHA(+)=活動性梅毒。生物学的偽陽性は RPR(+)/ TPHA(-)で考える ・梅毒は5類感染症・全数把握で、診断後7日以内に保健所へ届出 ・妊婦の梅毒は診断後できるだけ早く治療を開始し、先天梅毒を防ぐ ・治療の第一選択はペニシリン系(ベンジルペニシリンベンザチン筋注、アモキシシリン内服) ・性感染症なのでパートナーの検査・治療も行う
